やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 歯科診療で最も頻度の高い保存診療の内容のエッセンスを理解しやすい形でまとめることは,なかなかむずかしい作業である.初版では,できるだけこの目標に近づけるための努力をしたが,その後も折に触れて小修正を行ってきた.今回,歯科衛生士教本の改訂にあたり,全教本について教科内容の質的向上とページ数の削減という方針が打ち出され,大幅な検討が行われた教科も存在する.しかし,保存修復学・歯内療法学の教本に関しては,すでに前回,このような趣旨を骨子とする編集が行われ,歯学生に対する教育の現場で使用されている保存修復学や歯内療法学の教科書に比べ,かなり高度の内容を簡略にまとめる努力を行ってきた.したがって,内容を短縮するには,よりいっそうの努力が必要であったが,ほぼ一割の短縮を,しかも内容的には,より充実したものへとかえることができたと思う.
 最近の保存修復学や歯内療法学では,消毒の概念の徹底や,特殊感染症の患者に対する取り扱いなど,従前とは異なった配慮も必要な時代になってきた.残念ながら,このことについては,この教本では十分な対応策が示されていない.したがって,その点については,教授する側で適切な教示をお願いしたい.
 保存修復学,歯内療法学,歯周治療学は,歯の治療にあたって一体をなす教科である.したがって,三教科は別々に教授される場合が多いが,教授する側も,教わる側も,その相互関連に目を配りながら学習することが大切である.
 本書は保存修復学と歯内療法学について1冊にまとめられているので,参照しながら学習するのに比較的便利である.対照となる疾患や診査法については,二教科にまたがる内容を比較的豊富に記載している.齲蝕と歯髄疾患と歯周疾患との関連を考えた対応は,臨床の現場ではしばしば必要となる場面に遭遇するはずである.
 なお,保存的処置の前後には,咬合状態の診査やそれに対する選択削合を要求される場合がある.この点に関しては,本書では,その方法の一部が記載されているにすぎない.紙数の関係でやむをえないことではあるが,これまた,最近ますます重要視されるようになってきている.したがって,歯科補綴学や歯周治療学の教本を参考にして,咬頭の異常接触の意味やそれに対する処置法を理解することも必要であろう.
 今回の改訂では,治療法の進歩に伴う材料や処置法について一部修正した.時代の移り変わりとともに利用頻度が少なくなってきたものは短縮し,新しい考え方については,理解しやすいように要約してとりあげた.
 さらに本文中にはとりあげなかった知識を補う意味で,新たにコーヒーブレイクという小欄を設けた.ここでは,現在ではやや旧聞に属すると思われるものと,これから本格的に登場すると予想されるものなどをとりあげ,知識の整理ができるようにした.
 用語解説は,初心者の学習に便利なようにつけ加えた.いずれにしても,読者からの要望をくんで,旧版を修正ないし追加を試みた内容である.
 なお,本書の執筆にあたっては,次のように分担した.I編1章,2章,II編1章〜5章は石川と平井,6章,7章は勝山,前田,III編1章〜4章は斎藤,目澤,5章〜7章,8章のIは戸田,IIは斎藤,目澤が担当した.
 1995年10月 著者一同
I編 総 論
1章 歯の保存療法の種類/3
 I 歯の保存療法と歯科保存学……3
 II 対象となる疾患……4
  1.歯の硬組織の疾患および発育異常……4
  2.歯髄および根尖歯周組織の疾患……4
  3.歯周疾患……8
  4.歯科疾患罹患の状況……9
2章 口腔診査(歯および歯周組織)/10
 I 基礎知識と前準備……10
  1.歯式について……11
  2.歯面の表示法……13
  3.歯面清掃……14
  4.口腔診査の基本セット……14
 II 問 診……15
 III 現症の診査……16
  1.視 診……16
  2.触 診……16
  3.打 診……16
  4.動揺度の診査……17
  5.温度診……17
  6.嗅 診……18
  7.電気診……18
  8.X線診査……19
  9.模型診査……19
  10.根管内容物の診査……21
  11.プラーク診査……21
  12.その他……21

II編 保存修復学
1章 保存修復学の意味と概要/25
 I はじめに……25
  1.硬組織疾患ないし発育異常の種類と処置法……25
 II 保存修復の適応症と禁忌症……27
  1.適応症……27
  2.禁忌症……27
 III 齲蝕の病態と形成形態……28
  1.齲蝕症……28
  2.齲蝕(齲窩)の分類と名称……28
  3.齲蝕の好発部位および歯種……29
  4.窩洞の分類と名称……29
  5.支台歯形態……37
 IV 処置ステップの流れと概要……39
  1.診療のステップ……39
  2.前準備処置……40
  3.切削・形成法……42
  4.歯髄保護……53
  5.欠損修復とその種類……53
2章 アマルガム修復/56
 I アマルガム修復とは……56
 II 歯科用アマルガムの組成と種類……57
  1.合金の組成……57
  2.アマルガム合金の種類……57
  3.銀アマルガムの硬化機序……59
 III アマルガム修復の特徴……59
  1.長 所……59
  2.短 所……59
 IV アマルガム修復の適応症……59
 V 水銀の取り扱い……60
 VI アマルガム修復の手順……60
  1.ラバーダム防湿……60
  2.窩洞形成……62
  3.歯髄保護……62
  4.隔壁調製……62
  5.計量・練和……62
  6.填塞・形成……66
  7.咬合調整……71
  8.仕上げ・研磨……71
3章 コンポジットレジン修復/72
 I コンポジットレジン修復とは……72
 II コンポジットレジンの開発の経過……73
 III コンポジットレジンの組成と種類……74
  1.コンポジットレジンの成分……74
  2.コンポジットレジンの種類……77
 IV コンポジットレジンの特徴……78
  1.術式上の特徴と付属品……78
  2.コンポジットレジン修復の長所,短所……78
 V コンポジットレジン修復の適応症……79
  1.適応窩洞……79
  2.窩洞の特徴……79
 VI コンポジットレジン修復の手順……81
  1.ラバーダム防湿……81
  2.歯間分離……81
  3.窩洞形成……83
  4.窩洞清掃……83
  5.歯髄保護……83
  6.色合わせ……83
  7.隔壁の調製(試適と装着)……83
  8.窩縁の酸処理……86
  9.ボンディング材の塗布……86
  10.コンポジットレジンの填塞・成形……87
  11.隔壁の除去……87
  12.隣接面余剰部の除去……87
  13.セパレーターおよびラバーダムの撤去……87
  14.唇面・舌面余剰部の除去および咬合調整……87
  15.仕上げ・研磨……87
4章 セメント修復/88
 I セメント修復とは……88
 II セメント修復の種類と用途……88
 III グラスアイオノマーセメント修復……89
  1.グラスアイオノマーセメントの組成と硬化機序……89
  2.グラスアイオノマーセメント修復の特徴……90
  3.グラスアイオノマーセメント修復の適応症……91
  4.グラスアイオノマーセメント修復の手順……91
 IV その他の修復用セメント……96
  1.暫間修復用セメント……96
 V 合着,裏層用セメント……98
  1.リン酸亜鉛セメント……98
  2.接着性レジンセメント……98
 VI 裏層用セメント〔間接歯髄覆罩(間接覆髄)〕……100
5章 ラミネートベニア修復/101
 I ラミネートベニア修復法とは……101
 II ラミネートベニア修復法の種類……101
  1.コンポジットレジン直接法……101
  2.レジンラミネートベニア法……101
  3.ポーセレンラミネートベニア法……102
 III ラミネートベニア修復の適応症と禁忌症……102
  1.適応症……102
  2.禁忌症……102
 IV ラミネートベニア修復の特徴……102
 V ポーセレンラミネートベニア修復法の手順……103
6章 鋳造修復/108
 I 鋳造修復とは……108
  1.鋳造修復法のあらまし……108
  2.インレー用金属の種類……109
  3.技工作業の知識……111
 II 鋳造修復の特徴……120
  1.直接金修復との比較……120
  2.アマルガム修復との比較……121
 III 鋳造修復の適応症と禁忌症……121
  1.適応症……121
  2.禁忌症……122
 IV 鋳造修復の手順……122
  1.直接法……122
  2.間接法……122
7章 その他の修復法/133
 I ポーセレンインレー修復……133
  1.ポーセレンインレー修復とは……133
  2.ポーセレンインレー修復の特徴……133
  3.陶材の組成と種類……134
  4.ポーセレンインレー修復の適応症……134
  5.ポーセレンインレーの製作過程……134
 II レジンインレー修復……136

III編 歯内療法学
1章 歯内療法学の概要/141
 I 歯内療法学とは……141
 II 歯の痛み……142
  1.象牙質に由来する痛み……143
  2.歯髄に由来する痛み……144
  3.歯周組織に由来する痛み……145
 III 歯髄・根尖性歯周組織疾患の症状と診断……146
  1.歯髄疾患……146
  2.根尖性歯周組織疾患……151
 IV 歯髄・根尖性歯周組織疾患の処置方針……156
  1.歯髄疾患の処置方針……156
  2.根尖性歯周組織疾患(根尖性歯周炎)の処置方針……156
  3.根尖性歯周組織疾患(根尖性歯周炎)の治療法の概要……157
2章 歯科衛生士と歯内療法/161
 I 患者の症状に対する理解……162
  1.歯内療法領域の疾患……162
  2.主訴の正確な把握……162
  3.違和感に対する理解……163
  4.疼痛に対する理解……163
  5.腫脹に対する理解……163
  6.排膿に対する理解……164
  7.開口障害に対する理解……164
  8.急性炎と慢性炎のちがい……164
  9.歯髄炎と歯根膜炎のちがい……165
 II 処置内容に対する理解……165
 III 治療後の患者管理……166
  1.予後と経過……166
  2.投 薬……166
3章 歯髄の保存療法/168
 I 歯髄鎮静療法……168
  1.歯髄の保存を前提とする歯髄鎮静療法……169
  2.歯髄除去を前提とする歯髄鎮静療法……170
  3.歯髄鎮静剤……171
 II 歯髄覆罩(覆髄)……172
  1.間接歯髄覆罩法(間接覆髄法)……172
  2.直接歯髄覆罩法(直接覆髄法)……173
  3.歯髄覆罩剤(覆髄剤)……175
  4.暫間的間接歯髄覆罩法(暫間的間接覆髄法)(IPC法)……176
4章 歯髄の除去療法/178
 I 歯髄切断法(断髄法)……179
  1.生活歯髄切断法(生活断髄法)……179
  2.失活歯髄切断法(失活断髄法,除活断髄法)……182
 II 抜髄・根管充填法……185
  1.麻酔抜髄法……185
  2.失活抜髄法……196
5章 根管治療・根管充填/197
 I 根管治療(感染根管治療)の基本概念……197
 II 根管治療の術式……198
  1.X線写真の準備……198
  2.器具,材料および薬剤の準備……198
  3.ラバーダム防湿法……200
  4.髄室の開拡……201
  5.根管口の漏斗状拡大……202
  6.根管長の測定……203
  7.根管の拡大・形成……203
  8.根管消毒……207
  9.仮 封……209
 III 根管充填……211
  1.根管充填の目的……211
  2.根管充填の時期……211
  3.根管充填材(剤)の所要性質……211
  4.根管充填材(剤)の種類……212
  5.根管充填用器具……213
  6.根管充填法……214
6章 外科的歯内療法/223
 I 切開・排膿法……224
 II 穿孔法……224
 III 根尖掻爬法(Apico-curettage)……224
 IV 根尖切除法(Apico-ectomy)……225
 V 歯根切断法(Root resection)……226
 VI 歯根分離法(Root separation)……227
 VII 歯牙分割一部保存法(Hemisection)……227
 VIII 脱臼および脱落歯の処置……228
  1.脱臼の処置……228
  2.脱落歯の処置……228
 IX 歯内骨内インプラント……229
7章 歯内療法における偶発症/230
  1.治療用器具の根管内破折……230
  2.根管治療時の根管の穿孔……231
  3.皮下気腫……233
  4.器具の誤飲(嚥下)・吸引……234
8章 歯内療法に使われる薬剤・器材/235
 I 薬 剤……236
 II 器 材……243

参考図書……247
用語解説……248
さくいん……251