やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 「支台歯形成」という作業は歯冠修復治療を行ううえで必要不可欠な工程であり,われわれ歯科医師にとっては臨床上ごく当たり前の作業として日々行われている.しかしながらこの作業に対して適切なコンセプトを持ち合わせているか否かは,修復治療の結果を大きく左右するものである.修復治療を成功に導くためには,最終修復物がどのような形態となるのかを予測し,修復物の材質的問題,口腔内に存続させるための方法(合着あるいは接着)が何であるか,さらには歯周組織との調和を考えたうえで支台歯形態,歯質削除量,フィニッシュラインの設定位置を決定する必要がある.
 これまでも支台歯形成に焦点を絞った成書は数多く紹介されている.その中でセラモメタルレストレーションが登場すると同時に紹介された構造力学的,審美的観点に重点を置いて解説された理論は今なお主流をなす考えとなっている.さらに1990年代に入り紹介されたdentogingival complexの概念により,これまでの構造力学的理論に加え生物学的背景を考慮に入れた支台歯形成のコンセプトが世界的潮流となっている.さらに近年においてはマイクロスコープを取り入れた支台歯形成の手法等,数多くの観点から支台歯形成というものが捉えられてきている.昨今オールセラミッククラウンが一般臨床に広く普及し,特に審美領域における適応が広まってきている.オールセラミッククラウンはその材質的特性のみがメタルと置き換わったという位置付けだけではなく,製作方法においてもCAD/CAMもしくはプレスという手法により臨床に取り入れられていることがポイントとなる.支台歯と接する面がメタルからセラミックコーピングになり,鋳造からミリングもしくはプレッシング,合着から接着性レジンセメントへの移行等の多くの臨床的変化が現在の修復治療には起きていることを理解しなければならない.
 今回このように変遷してきている修復治療に対し,支台歯形成自体のコンセプトもまた再考する必要性があるのではないかと考えるに至った.本別冊は,オールセラミッククラウンが一般化された現代の歯冠修復治療において,支台歯形成自体の歴史的変遷を理解することから始まり,文献的考察から見た形成コンセプト,基本形態の整理,歯周組織を考慮に入れた生物学的配慮,さらにはより臨床的観点から見た診査・診断,診断用ワックスアップの重要性,実際の臨床において発生する様々な問題の対処法に至るまでの整理,解説することを目的としている.本書がオールセラミックスによる歯冠修復治療を行う際の一助となれば幸いである.
 2010年6月
 札幌市・千葉歯科クリニック 千葉豊和
 日本大学歯学部歯科補綴学教室III講座 小峰 太
 序文
 OpeningGraph(山ア長郎)
Part1 支台歯形成を再考する
 対談(千葉豊和・小峰 太)
  Chapter1 支台歯形成に求められる要件
  Chapter2 支台歯形成の変遷
  Chapter3 オールセラミックスの支台歯形成
Part2 支台歯形成の形態的要件
 総論―支台歯形成に必要な要件―(中村隆志・宮前守寛)
 最終補綴物と支台歯形成の関係(末瀬一彦)
 支台歯形成の基本形態(千葉豊和)
Part3 歯周組織と調和した支台歯形成
 歯周組織と支台歯形成(松本邦夫)
Part4 ラボコミュニケーション
 前歯部審美修復治療における支台歯形成(千葉豊和・吉野光亮)
 Tooth Preparation Design―コミュニケーションツール・プレパレーションガイド―(Naoki Hayashi)
Part5 支台歯形成の前準備
 診断用ワックスアップの重要性(松尾幸一)
 支台歯形成の前に(殿塚量平)
 築造のための形成(高井基普)
Part6 支台歯形成の実際
 使用するバーの選択(吉田康二)
 Column 使用しているバー
 歯肉縁下形成の勘所(日高豊彦)
 歯髄を保護する形成(千葉加名代)
 CAD/CAMにおけるプレパレーションの注意点(植松厚夫)
 拡大下での支台歯形成(松本和久)
 オールセラミックレストレーションにおける形成量の確認(加部聡一)
 CAD/CAMオールセラミッククラウンの支台歯形成における仕上げ研磨(市岡千春)
Part7 Clinical Case
 PFMとオールセラミッククラウンの支台歯形成の違い(青島徹児)
 重度変色歯根に対してオールセラミック修復を行った症例(大谷一紀)
 ジルコニアフレームオールセラミッククラウンの臨床(原元信貴)
 ブリッジの支台歯形成(土屋賢司)