やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 誤解を恐れずに言うと,インプラント治療は,歯科疾患の治癒を目的としたものではない.さまざまな疾患や外傷で歯や歯周組織の欠損を生じ,口腔機能障害という症状が固定した患者に対し,口腔機能を改善するために行う再建医療である.さらには,歯科補綴治療,すなわちリハビリテーション医療の側面も併せもっている.
 再建医療においては,治療計画がもっとも重要な位置を占める.治療のゴール設定が不十分であれば,治療全体が不確かなものになり,場合によっては不幸な治療結果に直結する.再建治療においては,患者のQOL向上がもっとも望まれるアウトカムであることから,患者の希望,ライフスタイル,経済状況などを十分に考慮しながら治療計画が立案されるべきであろう.最近,このことを,患者主導のインプラント治療という表現がされるようになり,さまざまな新しい治療戦略が用いられるようになってきた.
 最近の多様な治療戦略に対応するため,歯科医師は,これまでになく多くの時間を治療計画に注ぎ込むようになってきている.この治療計画において,われわれは多くの術前診査結果,X線などの画像情報,検査値などを前にして何を考えているのだろうか?
 われわれは,その鍵を握るキーワードとして,一つの言葉を思い浮かべた.それが,本書のタイトルである「インプラントのポジショニング」である.インプラントの治療計画を立案するとき,インプラントの位置取り,埋入方向,深度を考えることで,インプラント体のサイズ選択だけでなく,装着可能な上部構造の選択,即時荷重の可否,グラフトの必要性など,すべてのインプラント治療計画が形をなしてくる.すなわち,柔軟で多様性を認めた適切なポジショニングの判断が,すべての治療計画を支える源になっているのではないかと考えたのである.
 本書は,「ポジショニング」をキーワードにして,最新のインプラント治療戦略を含めた治療計画立案のストラテジーを整理し,再構築して,わかりやすく解説することを試みた.患者中心のインプラント治療計画立案における,新しい切り口のマニュアルとして,あるいは,判断に迷う症例に出会ったときの治療計画立案の相談役として,本書が少しでも役立てば,編者の望外の喜びである.
 2009年6月
 九州歯科大学口腔機能再建学講座口腔再建リハビリテーション学分野
 細川隆司
 東京都千代田区・武田歯科医院
 武田孝之
 序文
第1章 インプラントのポジショニング
 総説 ポジショニングの重要性(武田孝之)
 1. 診断用ワックスアップの重要性と埋入ポジション―技工サイドから見たポジショニングの重要性―(上原芳樹)
 2. CTの有用性と三次元的治療計画―CTデータを使用した治療計画立案および治療の実際―(井汲憲治)
 3. CTの有用性と三次元的治療計画―ポジショニングの誤差への対応―(井汲憲治)
 4. 審美領域におけるポジショニング(荒垣一彦)
 5. 臼歯部におけるポジショニング(前田芳信・和田誠大)
 6. 犬歯を含む連続歯欠損(椎貝達夫)
 7. 上顎前歯部を含む多数歯欠損(白鳥清人)
 8. 術者のポジショニングが手術に与える影響(井上敬介)
第2章 ポジショニングを考える前に考慮すべき重要点
 総説 ポジショニングを考える前に(細川隆司)
 1. インプラント治療を受容できる全身状態―臨床検査の重要性―(矢島安朝)
 2. 支持部となる骨を再考する(松坂賢一)
 3. 骨造成術を再考する(矢島安朝・古谷義隆)
第3章 インプラント埋入時の注意点
 総説 インプラント手術時の注意点(菅井敏郎)
 1. インプラント手術時に際してのリスクファクター(宇野澤秀樹)
 2. 即時負荷・骨造成の注意点(堀内克啓)
第4章 上部構造の作製
 総説 上部構造作製における考え方(細川隆司)
 1. 印象採得,模型作製(澤瀬 隆)
 2. 咬合採得(澤瀬 隆)
 3. アバットメント(松永興昌・佐藤博信)
 4. 上部構造の材質(徳富健太郎・松永興昌・佐藤博信)
 5. 上部構造の形態(松永興昌・佐藤博信)
 6. 試適・セット時の注意点(古谷野 潔・市来利香・松下恭之)
 7. インプラントの咬合(武田孝之)
第5章 術後の注意点
 総説 メインテナンスの流れと注意点(松井孝道)
 1. メインテナンスの実際(松岡恵理子)
 2. インプラント周囲の骨吸収(松井孝道)