やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 物を見るとき,遠く離れてその物の存在する空間をも含めて見ることにより,その物の実態の存在価値や存在理由などが認識でき,理解できる.また,その物の実態を見極めるためには,より接近して細部まで見ることにより,その実態の構成要素や集合方法などを知ることができる.このように,物を見て,それを総合的に認識し理解するためには,近視眼的な,言い換えればミクロ的な視点と,複眼による鳥瞰図的・マクロ的な視座が必要ではないだろうか.
 本書は,2009年に刊行された『FUNDAMENTALS of Esthetic Dental Technology─審美歯科技工の原理原則』の続編である.同書では,序論から始まり,形態,色彩,機能,情報伝達の各項目において「歯科審美とは形態および色彩と機能が回復されたときに初めて達成される」ことを共通の道標としたうえで「審美歯科技工の原理原則」が述べられており,いわばマクロ的な視座に立った書であった.
 本書は,それを踏まえた審美的な補綴物製作を行うにあたって最もその影響が強く現れる上顎6前歯のフィールドにおいて,その形態と色彩を掘り下げたミクロ的な視点での考察が述べられている.
 本書の前半となる第1章では,上顎前歯部における形態および形態修正の基本が,また第2章では色相,彩度,明度の概念ごとに,歯冠補綴における色彩の基本が示される.これらの論文をまず一読することにより,上顎前歯部における形態と色彩再現の基本が理解できる.そして後半となる第3章ではQ&A形式を採って,作業用模型の製作,咬合器に対する考えと手法,さらに現実的な目的を持った1歯1歯の形態修正,歯肉形態と歯冠形態の関連,自然な歯列感を変える形態修正,口蓋側面と下顎運動(中間運動)との関連性など,Questionとして提示されるそれぞれの課題を臨床に即していかにクリアしていくかということについて,同一材料を使用してAnswerしていく大変ユニークな内容となっている.すなわち,前半に示される基本を押さえたうえで後半を読み進めていくことで,求められる審美的な補綴物をいかに形作っていくかが理解できるのである.その具体的な術式は人工歯を用いて解説されているが,それらの“原理原則”を理解し,それを踏まえた形態再現が可能になれば,使用する材料が異なっても,どのような症例においても応用できる.このことは,特に若い歯科技工士の読者にはぜひとも理解し,また大いに活用していただきたい.
 本書では,上掲の既刊別冊とは異なり,日本歯科審美学会認定士(歯科技工士部門)ではない方,そして一般に“若手”と称される歯科技工士にも論文の執筆をお願いした.普段から持っている自身の考えや技術を広く社会に提示(発表)することには責任も伴うが,それは何よりも自身の知識の再確認,あるいは再勉強になる.その意味でも,今後も学術誌上での発表を期待するとともに,本書を手に取られた若い読者諸氏のさらなる活躍を切望する次第である.
 先達の業績という礎を乗り越えて,一人ひとりが新たなる知見や技術の進歩に資することにより,学術や学際の向上が達成できると編者らは考える次第である.
 2011年 盛夏
 ラボラトリー・オブ・プリンシピア 齊木好太郎
 カロス 増田長次郎
 oral design彩雲 小田中康裕
 五十嵐歯科医院 内藤孝雄
 序
第1章 形態
 1.上顎6前歯の基本形態
 2.上顎6前歯の形態修正
第2章 色彩
 1.色相・彩度・明度
第3章 前歯部歯冠修復の臨床応用へのQ&A
 Remarks凡例――本章のねらいと共通する使用材料,条件について
 Q1-(1).院内ラボにおける作業用模型製作の方法とは?
 Q1-(2).外注ラボにおける作業用模型製作の方法とは?
 Q2.咬合器装着の考え方と手法とは?
 Q3.歯冠幅径を細く見せるための形態修正の方法とは?
 Q4.歯冠幅径を広く見せるための形態修正の方法とは?
 Q5.表面性状の違いによる質感(補綴物の見え方)の変化とは?
 Q6.スクエア型からテーパー型に変化させる形態修正とは?
 Q7.スクエア型からオベイド型に変化させる形態修正とは?
 Q8.歯肉形態の違いによって歯冠形態はどう変化するのか?
 Q9.切縁形態の違いによって歯冠形態はどう変化するのか?
 Q10.形態修正で,歯冠を短くして前突感をなくすには?
 Q11.形態修正で,歯軸を変更させるには?
 Q12.歯冠幅径を細く見せる色彩の使い方とは?
 Q13.歯冠幅径を広く見せる色彩の使い方とは?
 Q14.歯列に凹凸感(立体感)を出す色彩の使い方とは?
 Q15.歯肉色の違いによって歯冠色の見え方はどう変化するか?
 Q16.翼状捻転歯を正常排列に変更させる上顎補綴の方法は?
 Q17.下顎前歯の唇舌位置が異なる上顎補綴症例に対応するには?
 Q18.上顎前歯の中間運動の与え方とは?

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