やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 胎児エコーは周産期管理を行ううえで必要不可欠な検査法として確立されており,2003年に日本超音波医学会から「日本人胎児の計測法と超音波計測値の基準値」が公示された.また,2006年には先天性心疾患における出生前胎児診断の重要性により,日本胎児心臓病研究会から「胎児心エコーガイドライン」が公示され,2010年には胎児心エコー検査が保険収載となった.
 産婦人科領域の超音波検査は,従来,外来診察室で医師が診療業務の一環として行ってきた.しかし,近年の産科医師不足により,医師の業務軽減のために検査技師が行う施設が増えてきている.また,超音波診断装置の発達とともに胎児の観察項目が緻密化され,医師の診療業務の一環として胎児エコーは困難な検査になりつつあるのも否定できない.今後はエコーを専門とする超音波検査士の活躍が期待される分野でもあるが,学習する機会が少なく,良き参考書に巡り会うことも困難との声をよく耳にする.
 本別冊はこれらのことをふまえて,胎児エコーをこれから始める初学者の入門書を目指すにとどまらず,胎児心エコー等の精密検査を行っている方々にも,いつも手元に置いて検査していただけるように意図して企画されたものであり,執筆に関しては,現在,第一線で活躍されている先生方にできるだけ多くの写真を掲載していただけるようにお願いした.
 本別冊は,まずは「基礎知識」として解剖と妊娠に焦点を当て,検査時に知っておきたい事項を概説していただいた.続いて,実際に検査する手技に沿って超音波検査士の方々に走査手順やチェックポイント,要注意点,陥りやすいピットフォールなどを解説していただいた.写真を多く掲載することにより,わかりやすく視覚的学習が行えるようにしている.また胎児心臓に関しては,通常のBモード画面(2D)と4D技術を利用した胎児心エコーのスクリーニング方法(STIC)の両面から解説をお願いしている.最後には羊水穿刺法の解説も盛り込んでいる.
 超音波診断装置や診断法の発達は日進月歩であり,数年後にはまったく異なる診断法が発表される可能性もあるが,現時点では要点をまとめた最善の一冊になったと考えている.残念ながら頁数には限りがあるため,本別冊のみですべてを理解するわけにはいかないが,少しでも読者の勉学の参考になれば幸いであり,胎児エコーが今後さらに技師に普及・発展・進化していくことを編集者一同,心から願っている.
 2012年4月
 編集代表 岩崎昭宏
      梨 昇
 序(岩崎昭宏・梨 昇)
1 胎児エコーに必要な解剖の知識(中井祐一郎・張 良実・福家信二・下屋浩一郎・岩永直子)
  はじめに〜経腹超音波断層法による女性内性器評価の意義と限界
  1.経腹超音波法による女性内性器評価に必要な解剖学的知識
  2.経腹超音波法による内性器の描出
  3.妊娠時特有の内性器の病的所見
  おわりに
2 知っておきたい妊娠の知識(関谷隆夫・木下孝一・西澤春紀・宇田川康博)
  1.正常妊娠
  2.異常妊娠
3 胎児計測―計測のコツと注意点―(芳野奈美・吉田英美・大川朋子)
  1.胎児計測の基本
  2.胎児体重の推定法と発育の評価
  3.羊水量の計測
  4.多胎妊娠
  5.胎児計測の注意点とコツ
4 胎児奇形
 (1)頭部,頸部,胸部(丸山憲一)
  1.頭部,頸部,胸部で超音波スクリーニングにて注意すべき疾患
  2.頭部疾患
  3.頸部疾患
  4.胸部疾患
 (2)腹部,脊椎,四肢,染色体異常(木下博之)
  1.腹部疾患
  2.脊椎疾患
  3.四肢疾患
  4.染色体異常
  5.注意すべきポイント
5 胎児心臓
 (1)2D(辻村久美子)
  1.胎児期における心臓スクリーニング検査の重要性
  2.胎児の心臓をクリアな画像で観察するために
  3.胎児心臓スクリーニングの実際
  4.さらなるステップアップを目指して
  5.胎児心臓スクリーニングの特性を理解する
 (2)STIC(Spatio-Temporal Image Correlation)(小蛛@彩・森本識子・山西智未)
  1.STICとは
  2.STICを用いた胎児心臓スクリーニング法
  3.代表的な先天性心疾患
6 臍帯動脈・中大脳動脈ドプラ法(小谷よしみ)
  1.臍帯動脈血流
  2.中大脳動脈
  3.UA,MCAの血流を考える
  4.補足
7 胎児付属物の評価と合併症(清水安子・池ノ谷千鶴・苅谷有紀・山田真弓)
  1.羊水
  2.臍帯
  3.胎盤
  4.妊娠に合併した病態
  5.頸管無力症
付 羊水穿刺法(中井祐一郎・張 良実・福家信二・下屋浩一郎・岩永直子)
  はじめに〜羊水穿刺の意義
  羊水穿刺法の実際
  目的からみた羊水穿刺
  おわりに
付 日本超音波医学会による各計測値における基準値