やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 久米春喜
 東京大学大学院医学系研究科泌尿器外科学分野
 数年前までは,ロボット支援手術について話しても,まったく知らないと答える患者さんやご家族がほとんどであった.しかし,最近では患者や家族の方からロボット支援手術を申し出ることも多くなった.それだけロボット支援手術の知名度が上がったのだと思う.
 著者は2011 年にアメリカに短期留学をし,ロボット支援手術という“ものすごい手術”を目の当たりにした.当時すでにアメリカの前立腺癌手術の7〜8 割はロボット支援下で行われていたと記憶している.それまでは断片的なビデオしか見たことはなく,最初から最後までというのははじめてであった.
 アメリカで見たロボット支援手術は出血が少なく,視野がよく,操作性もすぐれていた.前立腺摘除術では,解剖に則って正確で,きれいな手術を行っていた.また尿道吻合も容易に行っていた.ロボット支援手術の優位性は火を見るよりも明らかであった.大きな衝撃であった.
 その後,日本で前立腺摘除,腎部分切除のロボット支援手術が保険収載され,一気に広まった.前立腺癌では癌の切除断端の陽性率が劇的に減り,尿禁制も早期に改善した.腎癌では阻血時間が短縮し,術後の腎機能低下が最小限に抑えられた.このことを日本の多くの泌尿器科医が実感した.
 これらに引き続き,2018 年4 月に多くの手術でロボット支援手術が保険収載された.今後は泌尿器科だけでなく,ほかの診療科でもロボット支援手術が浸透していくものと考えられる.ゆくゆくは日本の手術を大きく変えるであろう.
 そこで,本特集では各分野から21 名のエキスパートの先生に執筆をお願いし,その分野についてわかりやすい解説をいただいた.本特集がロボット支援手術に関わっている方々や,これから関わろうとする方々の役に少しでも立てれば幸いである.
 はじめに(久米春喜)
総論
1.ロボット支援手術の歴史と現状
 (塩田真己・江藤正俊)
 ・手術用ロボットの開発
 ・わが国での手術支援ロボットの臨床応用
2.臨床ビッグデータからみるロボット支援手術
 (杉原 亨)
 ・医療ビッグデータ
 ・ロボット支援手術の登場による前立腺癌治療の激変
 ・周術期アウトカムの評価
 ・手術支援ロボットの登場による地域の患者の移動
3.ロボット支援手術新規導入の注意点,医師・メディカルスタッフ教育
 (藤村哲也)
 ・RARP新規導入の際の注意点
 ・手術スタッフ教育
各論
4.根治的前立腺全摘除術―手術適応と概要
 (森實修一・武中 篤)
 ・根治的前立腺全摘除術(RP)の手術適応
 ・骨盤内解剖
 ・手術のアプローチ方法
 ・RPの具体的な手術手順
 ・リンパ節郭清
5.RALPの治療成績,合併症など―LRP,ORPとの比較
 (山口 剛・福原 浩)
 ・RALP普及の背景
 ・腫瘍制御
 ・周術期成績
 ・合併症
 ・術後QOL
6.ロボット支援前立腺全摘除術―機能温存のための術式の工夫
 (小島祥敬)
 ・術後尿禁制の原因
 ・術後尿禁制に影響する因子
 ・尿禁制保持のための術式の工夫
7.ロボット支援腎部分切除術の適応と手術手順
 (田邉一成)
 ・ロボット支援腎部分切除術の適応
 ・ロボット支援腎部分切除術の手術手技
 ・腎がんの手術成績
8.ロボット支援腎部分切除術における手術ナビゲーションシステムの有用性
 (三宅秀明・本山大輔)
 ・手術ナビゲーションシステムとは?
 ・ロボット支援腎部分切除術(RAPN)における手術ナビゲーションシステムの必要性
 ・RAPNにおける手術ナビゲーションシステムの実際
 ・RAPNに際し手術ナビゲーションシステムが有用であった症例
 ・RAPNにおける手術ナビゲーションシステムの将来展望
9.筋層浸潤膀胱癌に対するロボット支援根治的膀胱全摘除術+腔内回腸導管―腔内尿路変向術のメリット
 (白木良一)
 ・ロボット支援根治的膀胱全摘除術(RARC)の適応と術前準備
 ・RARCの手術手順
 ・RARCの治療成績
 ・今後の展望
10.ロボット支援根治的膀胱全摘除術・体腔内回腸新膀胱造設術―最新の低侵襲膀胱全摘除術
 (大山 力)
 ・ロボット支援根治的膀胱全摘除術(RARC)の低侵襲性
 ・体腔内新膀胱造設術
 ・体腔内U字回腸新膀胱造設術
11.縦隔腫瘍に対するロボット支援手術
 (中村廣繁・春木朋広)
 ・ロボット支援手術の手術適応
 ・手術方法
 ・安全な導入と普及のために
 ・縦隔腫瘍に対するロボット支援手術の課題と展望
12.ロボット支援肺悪性腫瘍手術の実際
 (須田 隆)
 ・ロボット支援肺癌手術の準備
 ・ロボット支援肺葉切除手技
 ・ロボット支援手術時の出血時の対応
 ・肺癌に対するロボット支援手術の現状と将来
13.食道悪性腫瘍に対するロボット支援手術
 (瀬戸泰之)
 ・適応,手術手順
 ・他術式との違い―最近の文献から
 ・導入にあたって―learning curve
 ・非胸腔アプローチ食道癌根治術
 ・今後の課題
14.da Vinciを用いた僧帽弁形成術の現在点
 (藤田知之)
 ・ロボット支援下手術の適応と禁忌
 ・セットアップ
 ・手術手技の実際
 ・手術手技の実際
 ・安全な導入のために
15.胃癌に対するロボット支援胃切除術
 (細田 桂・山下継史)
 ・ロボット支援胃切除術の手順
 ・幽門側胃切除D1+郭清BillrothI法再建
 ・胃全摘D1+郭清RY再建
 ・従来型手術との比較
 ・安全な導入のために
16.ロボット支援噴門側胃切除,“観音開き法”食道残胃吻合
 (後藤 愛・宇山一朗)
 ・当科での噴門側胃切除術の適応と,再建法の選択
 ・ロボット支援手術の特徴
 ・手術手順
 ・郭清
 ・再建―“観音開き法”食道残胃吻合
17.胃癌に対するロボット支援胃全摘術
 (牛丸裕貴・他)
 ・体位とポート配置
 ・郭清手技
 ・ロボット支援胃全摘術の有用性
 ・安全な導入に向けて
18.ロボット支援直腸切除・切断術
 (塩見明生)
 ・手術準備
 ・手術操作
19.子宮頸癌,子宮体癌に対するロボット支援手術
 (西 洋孝)
 ・手術の種類
 ・ロボット支援広汎子宮全摘術の手技手順
 ・ロボット支援傍大動脈リンパ節郭清術の手技手順
 ・子宮体癌に対するロボット支援手術,腹腔鏡下手術および開腹手術の比較
 ・子宮頸癌に対するロボット支援広汎子宮全摘術と開腹手術の比較
20.咽喉頭癌に対する経口的ロボット支援手術
 (大森孝一・楯谷一郎)
 ・咽喉頭癌に対する経口的ロボット支援手術の発展
 ・中咽頭癌手術
 ・下咽頭癌手術
 ・喉頭癌手術
 ・従来の治療との比較
 ・ロボット支援手術の特徴
 ・課題と展望
21.ロボット支援肝切除
 (川原敏靖・古川博之)
 ・ロボット支援肝切除の発展
 ・ロボット支援肝切除の手術適応
 ・国内外の手術成績
 ・当院での試み

 サイドメモ
  Trifecta
  Table Motion
  da Vinci Xiの利点
  FireFly TM
  尿路変向術の選択
  ロボット支援手術のリスクマネージメント
  超音波切開凝固装置
  子宮頸癌に対する低侵襲手術(MIS)
  CUSAの基礎知識と原理