やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 中山俊憲
 千葉大学大学院医学研究院免疫発生学
 気管支喘息,アトピー性皮膚炎,鼻炎(花粉症),食物アレルギーなどのアレルギー疾患は,世界的に増加傾向にあり,いまや国民病といわれるほどである.日本人の約4割が鼻炎の罹患歴をもち,現在でも年間1,500人以上の日本人が喘息で死亡している.ステロイド抵抗性の慢性難治性アレルギー疾患はいまだよい治療法がなく,その病態解明と新規治療薬の開発が切望されている.また,食物アレルギーの治療や,造影剤,抗菌薬の治療によって,アナフィラキシーショックが引き起こされる事例が最近報告されているが,このアナフィラキシーショック誘引の科学的な根拠は不明である.
 このようにアレルギー疾患はいまだ解明すべき課題が多く,精力的に研究がなされている.その一方で,さまざまな動物モデルを用いた研究や,患者サンプルを用いた臨床研究を通して,アレルギー疾患の発症や遷延化に関するあらたなメカニズムが,最近つぎつぎと明らかになっている.
 その一例として,アレルギー性炎症を誘導する2型自然リンパ球の同定,病原性Th2細胞の同定,粘膜上皮細胞由来の“上皮サイトカイン”としてのIL-33,TSLP,IL-25の作動機序などがあげられる.とりわけ著者らは,アレルギー性炎症疾患の発症・病態制御に関するあらたな考え方を提唱した(本特集の平原・中山「Tpath2細胞を起点とした慢性気道炎症誘導機構」の稿参照).この考えは,次世代の治療戦略に資すると考えられる.
 近年,さまざまなヒト化抗体を用いた喘息患者に対する大規模臨床試験が行われている.大きな期待を抱かせる結果が報告される一方で,抗体治療の限界と,今後の課題についても明らかになりつつある.
 本特集では,アレルギー研究の最前線の研究成果と今後の展望を,新進気鋭の研究者の方々にご紹介いただいた.この特集が,アレルギー研究を行っている若手研究者や,臨床の場で難治性アレルギー疾患に対する有効な治療法を切望している臨床医の方々の一助になることを祈っている.
 はじめに(中山俊憲)
基礎研究の最前線I:T細胞,自然リンパ球
 1.Tpath2細胞を起点とした慢性気道炎症誘導機構―気道上皮とのクロストーク(平原 潔・中山俊憲)
  ・気道上皮と2型免疫応答
  ・慢性炎症病態形成における気道上皮と記憶型Tpath2細胞の相互作用
  ・炎症局所におけるTpath2細胞の維持
  ・“病原性Th細胞疾患誘導モデル”の提唱
  ・IL-33で誘導される好酸球性気道炎症とステロイド抵抗性
 2.アレルギー病態形成におけるTFH細胞とTH2細胞の関係(久保允人)
  ・2型ヘルパーT細胞(TH2細胞)とアレルギー反応
  ・濾胞性ヘルパーT(TFH)細胞の分化
  ・アレルギー反応におけるTFH細胞とTH2細胞の関係
  ・IgE産生におけるTFH細胞の役割
 3.CD69-Myl9システムによるアレルギー性気道炎症制御とその展望(木村元子・他)
  ・アレルギー性気道炎症反応におけるCD69の役割
  ・CD69機能リガンドとしてのMylの同定
  ・炎症組織におけるMyl9の発現
  ・CD69-Myl9システムによる炎症の誘導と維持
  ・今後の展望
 4.制御性T細胞によるアレルギー反応の制御(村上龍一・堀 昌平)
  ・TregによるTh2反応の制御
  ・Th2反応を選択的に抑制するTregサブセット
  ・pTregによるTh2反応制御
  ・Tregの“リプログラミング”によるアレルギー反応の促進?
  ・ヒトアレルギー疾患におけるTregの抗原特異性の意義
 5.粘膜上皮細胞死による制御性T細胞数の制御(中澤優太・他)
  ・抑制性免疫受容体CD300a
  ・上皮ターンオーバーに伴うアポトーシス細胞と樹状細胞上のCD300aの結合
  ・樹状細胞上のCD300aの役割
 6.アレルギー治療に向けた誘導性制御性T細胞の応用(染谷和江・他)
  ・pTregおよびiTregsの誘導機構
  ・tTregとiTregの差異―DNA脱メチル化
  ・iTregにおける人為的なエピゲノム改変
  ・抗原特異的iTreg細胞の生成
 7.アレルギー病態形成におけるILC2の役割とその抑制機構(籾内義希・茂呂和世)
  ・アレルギー病態形成とILC2
  ・インターフェロン(IFN)およびインターロイキン(IL)-27によるILC2の抑制機構
  ・制御性T細胞によるILC2の抑制機構
 8.寄生虫感染モデルからみえたアレルギー病態形成(下川周子・大野博司)
  ・アレルギー反応における肥満細胞
  ・ILC2とアレルギー
  ・寄生虫感染では2型免疫応答が防御的に働く
  ・寄生虫感染における肥満細胞の機能
  ・寄生虫感染におけるILC2の機能
  ・肥満細胞の獲得免疫以外の機能
  ・肥満細胞の新規機能を発見
基礎研究の最前線II:上皮細胞,炎症細胞など
 9.気管支喘息における気道上皮細胞・樹状細胞による環境因子認識機構(廣瀬晃一・中島裕史)
  ・ダニ抗原
  ・真菌抗原
  ・大気汚染
 10.膜型IgEによるB細胞記憶の形成制御とアレルギー抑制機構(羽生田 圭・北村大介)
  ・免疫応答におけるB細胞記憶の形成
  ・IgE+B細胞の分化特性
  ・膜型IgEの特性
  ・膜型IgEシグナルによるB細胞記憶とIgE産生の制御
 11.最近明らかになったアレルギー炎症病態における好塩基球の多彩な役割(山西吉典・烏山 一)
  ・アナフィラキシーと好塩基球
  ・皮膚におけるアレルギー炎症と好塩基球
  ・気道におけるアレルギー炎症と好塩基球
  ・消化管におけるアレルギー炎症と好塩基球
 12.脂質によるマスト細胞の制御とアレルギー(村上 誠・武富芳隆)
  ・マスト細胞とは
  ・cPLA2αによるマスト細胞のエイコサノイド産生
  ・sPLA2-IIIによるマスト細胞成熟の制御
  ・PAF-AH2によるマスト細胞の応答性の適正化
 13.微細粒子吸入とアレルギー性炎症(黒田悦史・石井 健)
  ・微細粒子のアジュバント効果
  ・微細粒子による肺胞マクロファージの細胞死
  ・微細粒子吸入によるIgEの誘導
  ・微細粒子吸入による肺特異的免疫応答の誘導
  ・微細粒子吸入によるアレルギー性炎症に対する治療戦略
 14.腸内細菌とアレルギー疾患(前田悠一・竹田 潔)
  ・衛生仮説
  ・帝王切開と腸内細菌叢
  ・乳幼児期の腸内細菌叢とアレルギー疾患
  ・抗生物質内服とアレルギー疾患
  ・腸内細菌によるアレルギー制御メカニズム―マウスの知見から
  ・ENPP3と気管支喘息
 15.サーカディアンリズムとアレルギー―とくにマスト細胞活性化を中心として(中尾篤人)
  ・概日時計システム
  ・概日時計によるマスト細胞活性化の時間依存的制御
  ・副腎由来の分泌因子によるマスト細胞の概日時計の同調
 16.アレルギー疾患のゲノム解析(玉利真由美・広田朝光)
  ・GWASで同定された疾患関連領域の機能解析
  ・気管支喘息のゲノム解析
  ・アトピー性皮膚炎の多様な人種の集団における大規模GWASメタ解析
  ・気管支喘息,アレルギー性鼻炎,アトピー性皮膚炎に共通する遺伝要因
  ・小児食物アレルギーのゲノム解析
アレルギー疾患研究,臨床研究
 17.上気道アレルギー疾患における病原性Th2細胞のかかわり(飯沼智久・岡本美孝)
  ・上気道アレルギー疾患の代表的な2疾患
  ・Tpath2細胞とは
  ・アレルギー性鼻炎の発症とTpath2細胞
  ・好酸球性副鼻腔炎の病勢とTpath2細胞
 18.ペリオスチン―アレルギー疾患における新規バイオマーカー(出原賢治)
  ・ペリオスチンの発現
  ・ペリオスチンの機能
  ・アレルギー疾患のバイオマーカーとしてのペリオスチン
 19.アトピー性皮膚炎と皮膚バリア障害(福島彩乃・他)
  ・皮膚バリア障害とアトピー性皮膚炎
  ・その他のアトピー性皮膚炎の機序とバリア障害
 20.アトピー性皮膚炎の抗体治療(江川形平・椛島健治)
  ・アトピー性皮膚炎の病態とサイトカイン
  ・抗IL-/IL-13受容体抗体:デュピルマブ
  ・抗IL-13抗体:トラロキヌマブ,レブリキズマブ
  ・抗IL-31抗体:ネモリズマブ
  ・抗IL-5抗体:メポリズマブ
  ・抗IgE抗体:オマリズマブ
  ・抗IL-/IL-23p40抗体:ウステキヌマブ
  ・抗IL-17抗体:セクキヌマブ
  ・抗IL-22抗体:フェザキヌマブ
  ・抗TSLP抗体:テゼペルマブ
  ・IL-33受容体抗体:CNTO7160
 21.鶏卵アレルギーの発症予防(大矢幸弘)
  ・20世紀の考え方と臨床研究
  ・21世紀の観察研究
  ・鶏卵アレルギーの発症予防に関する介入研究(RCTs)
  ・鶏卵アレルギー予防を成功に導くために
 22.真菌関連喘息とその重症化機序(浅野浩一郎)
  ・アレルゲンとなる原因真菌
  ・一般集団および喘息患者における真菌感作率
  ・真菌感作と喘息の発症・増悪
  ・真菌関連喘息の重症化機序
 23.好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧Churg-Strauss症候群)における治療法の進歩―とくに抗IL-5治療について(谷口正実・濱田祐斗)
  ・EGPAとは
  ・発症経過と発症要因
  ・臨床症状と診断基準
  ・ANCAの陽性率とその意義
  ・病態とバイオマーカー
  ・予後,予後不良因子
  ・標準的治療法はステロイドとシクロホスファミドの併用
  ・追加治療薬

 サイドメモ
  誘導性気管支関連リンパ組織(iBALT)
  ステロイド抵抗性とILC2
  I型(即時型)アレルギー
  Heligmosomoides polygyrus
  気道上皮由来サイトカインを標的にした喘息治療
  好塩基球欠損マウス(Mcpt8DTRマウス)
  マトリセルラー蛋白質
  2型炎症
  アレルギーマーチ(別名:アトピーマーチ)
  TSLP(thymic stromal lymphopoietin)
  Dysbiosis
  IGAスコア
  EASI