はじめに
畠 清彦
国際医療福祉大学三田病院血液内科,同悪性リンパ腫・血液腫瘍センター
2000年に2つの抗体医薬が日本で承認,発売されて,抗がん剤治療は大きく進歩した.B細胞性リンパ腫に対するCD20抗体医薬rituximabと,Her2陽性乳がんに対するtrastuzumbである.これらの薬剤は奏効率20%の向上,無増悪生存期間の延長,QOLの向上,全生存率20%の向上などの著明な改善をもたらした.続いて転移性大腸がんにおいて,5-FU/LVというフッ化ピリミジンを中心とした従来の治療では奏効率20%,PFS6カ月間であったのが,bevacizumab併用による治療の奏効率は50%以上となって生存期間も3年間がみえてきた.さらにcetuximabやpanitumumabなどのEGFRに対する抗体医薬も上乗せ効果が著明となった.その後,場合によるものの,固形癌ではアジュバント療法も使用されるようになり,乳がんの限定した状況では,いずれ手術は積極的には必要ではなくなるかもしれなくなってきている.
さらに抗体医薬は改良を続けて,構造的にはキメラ抗体からヒト化抗体,完全ヒト化抗体へ,抗体によっては糖鎖を工学的に安定なものに改良したCCR4抗体医薬であるmogalizumomabのように,これまでまったく治療法のなかった疾患に対して効果の見込まれる抗体医薬が日本から開発された.またantibody drug conjugateといって,抗体医薬に抗がん剤を結合させたものも応用されている.まずCD33抗体にcalicheamicinという微小管阻害剤を結合させたgemtuzumab ozogamicin,CD30抗体医薬にMMAEを結合させたbrentuximab vedotin,Her2抗体に結合させたtrastuzumab emansine,CD22抗体医薬inotuzumab ozogamicin,がある.すでに放射性同位元素をつけたものも開発されており,使用されている.
また骨髄腫における抗体医薬としては,CS1に対する抗体医薬elotuzumab,CD38に対するdaratumumabが承認された.これによって,慢性骨髄性白血病で得られた分子生物学的寛解が,この抗体医薬の併用で骨髄腫においてももたらされようとしている.
さらに,免疫チェックポイント阻害剤の抗体医薬は,作用機序の点から画期的なものである.IpilimumabはCTLA4抗体医薬でメラノーマに対して,さらにnivolumabはPD-1に対する抗体医薬で,メラノーマから肺がん,Hodgkinリンパ腫,腎がん,胃がん,頭頸部がん,Merckel腫瘍など多くの適応拡大が続いている.さらにpembrolizumabも承認されてきており,すでに併用療法の試験も行われている.
さらに,CART療法という,T細胞にCD3,CD19といった抗原を遺伝子導入して,活性化したT細胞を戻す治療法も開発され,注目されているが,この際のcytokine releasesyndromeを抑制するのは,IL-6,TNFなどに対する抗体医薬である.このように,抗体医薬は広く使用されて,有害事象への対策にも使用され,管理体制も整いつつある.
本特集では,今後もさらに発展していく領域のトピックスに触れていただく執筆者を選ばさせていただき,企画した.
畠 清彦
国際医療福祉大学三田病院血液内科,同悪性リンパ腫・血液腫瘍センター
2000年に2つの抗体医薬が日本で承認,発売されて,抗がん剤治療は大きく進歩した.B細胞性リンパ腫に対するCD20抗体医薬rituximabと,Her2陽性乳がんに対するtrastuzumbである.これらの薬剤は奏効率20%の向上,無増悪生存期間の延長,QOLの向上,全生存率20%の向上などの著明な改善をもたらした.続いて転移性大腸がんにおいて,5-FU/LVというフッ化ピリミジンを中心とした従来の治療では奏効率20%,PFS6カ月間であったのが,bevacizumab併用による治療の奏効率は50%以上となって生存期間も3年間がみえてきた.さらにcetuximabやpanitumumabなどのEGFRに対する抗体医薬も上乗せ効果が著明となった.その後,場合によるものの,固形癌ではアジュバント療法も使用されるようになり,乳がんの限定した状況では,いずれ手術は積極的には必要ではなくなるかもしれなくなってきている.
さらに抗体医薬は改良を続けて,構造的にはキメラ抗体からヒト化抗体,完全ヒト化抗体へ,抗体によっては糖鎖を工学的に安定なものに改良したCCR4抗体医薬であるmogalizumomabのように,これまでまったく治療法のなかった疾患に対して効果の見込まれる抗体医薬が日本から開発された.またantibody drug conjugateといって,抗体医薬に抗がん剤を結合させたものも応用されている.まずCD33抗体にcalicheamicinという微小管阻害剤を結合させたgemtuzumab ozogamicin,CD30抗体医薬にMMAEを結合させたbrentuximab vedotin,Her2抗体に結合させたtrastuzumab emansine,CD22抗体医薬inotuzumab ozogamicin,がある.すでに放射性同位元素をつけたものも開発されており,使用されている.
また骨髄腫における抗体医薬としては,CS1に対する抗体医薬elotuzumab,CD38に対するdaratumumabが承認された.これによって,慢性骨髄性白血病で得られた分子生物学的寛解が,この抗体医薬の併用で骨髄腫においてももたらされようとしている.
さらに,免疫チェックポイント阻害剤の抗体医薬は,作用機序の点から画期的なものである.IpilimumabはCTLA4抗体医薬でメラノーマに対して,さらにnivolumabはPD-1に対する抗体医薬で,メラノーマから肺がん,Hodgkinリンパ腫,腎がん,胃がん,頭頸部がん,Merckel腫瘍など多くの適応拡大が続いている.さらにpembrolizumabも承認されてきており,すでに併用療法の試験も行われている.
さらに,CART療法という,T細胞にCD3,CD19といった抗原を遺伝子導入して,活性化したT細胞を戻す治療法も開発され,注目されているが,この際のcytokine releasesyndromeを抑制するのは,IL-6,TNFなどに対する抗体医薬である.このように,抗体医薬は広く使用されて,有害事象への対策にも使用され,管理体制も整いつつある.
本特集では,今後もさらに発展していく領域のトピックスに触れていただく執筆者を選ばさせていただき,企画した.
はじめに(畠 清彦)
総論
1.抗体医薬の効果と支える機序―シグナル伝達抑制から免疫チェックポイント阻害まで(三嶋雄二)
・シグナル伝達経路阻害
・抗体特有のエフェクター効果による機序
・放射免疫複合放射免疫複合体/ADC
・がん免疫を高める機序
2.CTC(circulating tumor cell)―分子標的治療薬における臨床応用(松阪 諭)
・抗体医薬の作用機序
・血中循環腫瘍細胞(CTC)の有用性
・液性診断(liquid biopsy)の現状
各論
3.抗CD20抗体医薬―Rituximab,obinutuzumab(岡本晃直・冨田章裕)
・オビヌツズマブの特徴
・濾胞性リンパ腫(FL)に対するオビヌツズマブ併用化学療法とリツキシマブ併用化学療法の第III相試験(GALLIUM試験)
・リツキシマブ不応の低悪性度B細胞リンパ腫に対するオビヌツズマブとベンダムスチン併用+オビヌツズマブ維持療法とベンダムスチン単剤療法の第III相試験(GADOLIN試験)
・未治療DLBCLに対するリツキシマブ-CHOP療法とオビヌツズマブ-CHOP療法の第III相試験(GOYA試験)
4.抗CD22抗体医薬―Inotuzumab ozogamicin(安藤 潔)
・前臨床研究
・B細胞非Hodgkinリンパ腫(B-NHL)に対するInOの臨床開発
・急性リンパ性白血病(ALL)に対するInOの臨床開発
・今後の展望
5.抗CD33抗体医薬―Gemtuzumab ozogamicinの有用性(牛島洋子・清井 仁)
・Gemtuzumab ozogamicin(GO)の作用機序
・GOの臨床試験
・GOの有効性に関連する因子
・APLにおける臨床試験
6.多発性骨髄腫に対する抗CD38抗体医薬―Daratumumab,isatuximab(石田禎夫)
・CD38抗原
・抗CD38抗体の作用機序
・抗CD38抗体単剤での臨床試験の成績
・抗CD38抗体と他剤との併用療法
・Daratumumabを使用する場合の注意事項
7.抗HER2抗体医薬―TrastuzumabとADC(澤木正孝)
・トラスツズマブエムタンシン(T-DM1)
・DS8201
8.抗VEGF抗体薬の実際(岡村直香・辻 靖)
・VEGFとは
・Bevacizumab(BEV)併用化学療法
・Ramucirumab(RAM)併用化学療法
・有害事象
・抗VEGF抗体薬と免疫チェックポイント阻害薬との併用
9.抗EGFR抗体薬―Cetuximab,panitumumab(川添彬人・設楽紘平)
・Cetuximab,panitumumab
・抗EGFR抗体薬のバイオマーカー
10.Aggrus/podoplaninを標的とした抗体医薬の開発(藤田直也)
・がん転移の分子機構
・血小板によるがん転移促進
・血小板凝集を標的にした抗Aggrus/podoplanin中和抗体の創製
11.抗CD30抗体薬物複合体(ADC)―Brentuximab vedotin(伊豆津宏二)
・Brentuximab vedotin(BV)の特徴
・古典的Hodgkinリンパ腫(HL)に対するBVの役割
・未分化大細胞型リンパ腫に対するBVの役割
・その他の病型に対するBVの役割
・BV耐性の機序
12.免疫チェックポイント阻害剤―Ipilimumab,nivolumab,pembrolizumab(榎田智弘・田原 信)
・抗CTLA-4抗体:Ipilimumab ・ICIs使用時の治療効果判定
・抗PD-1抗体:Nivolumab,Pembrolizumab ・ICIsのバイオマーカー
・抗CTLA-4抗体と抗PD-1抗体の併用 ・がん免疫療法の開発動向
・免疫チェックポイント阻害剤(ICIs)の有害事象
13.BiTE抗体―Blinatumomab(丸山 大)
・Bispecific T-cell engager(BiTE)抗体
・再発・治療抵抗性B-ALLに対する臨床開発
14.骨転移に作用する抗体医薬―Denosumabを中心に(三嶋裕子)
・がんの骨転移とシグナル伝達 ・Denosumabの有害事象
・RANKL抗体,denosumabと各がん種での使用 ・今後の新規抗体医薬の展開
副作用
15.抗体療法後のB型肝炎ウイルス再活性化のリスクとその対策(楠本 茂)
・がん抗体療法を施行する前にHBV再活性化リスクを評価することの重要性
・HBV再活性化の臨床経過とそのリスク
・がん抗体療法におけるHBV再活性化対策のポイント
・HBs抗原陽性例に対するHBV再活性化対策―核酸アナログの予防投与
・HBV既往感染例におけるHBV再活性化対策―HBV-DNAモニタリングによるpreemptive antiviral therapy
16.がん抗体医薬による心血管毒性の診断と治療(岡 亨・向井幹夫)
・がん抗体医薬による心血管毒性とその分子機序
・がん抗体医薬による高血圧・心機能障害の診断と治療
・心機能低下の診断と治療
トピック
17.抗体医薬の医療技術評価(HTA)(池田俊也)
・費用対効果の分析手法
・カナダ技術評価局(CADTH)における抗体医薬の経済評価
18.感染症に対する抗体医薬―BezlotoxumabによるClostridium difficile感染症再発予防(吉田順一・三鴨廣繁)
・C.difficile感染症(CDI)の背景 ・抗体医薬bezlotoxumabなどの臨床試験
・著者のCDI報告 ・CDI治療の課題
・CDIのガイドライン
サイドメモ
肝中心静脈閉塞症(VOD)・類洞閉塞症候群(SOS)
CLEC-2を標的とした抗体医薬の開発可能性
Blinatumomabの耐性機序
ラジウム223(Ra-223)
B型肝炎に対する抗ウイルス薬(核酸アナログ)投与中および投与終了後のHBV-DNAモニタリング
感染症と抗体医薬
ClostridioidesまたはC.difficile感染症(CDI)
総論
1.抗体医薬の効果と支える機序―シグナル伝達抑制から免疫チェックポイント阻害まで(三嶋雄二)
・シグナル伝達経路阻害
・抗体特有のエフェクター効果による機序
・放射免疫複合放射免疫複合体/ADC
・がん免疫を高める機序
2.CTC(circulating tumor cell)―分子標的治療薬における臨床応用(松阪 諭)
・抗体医薬の作用機序
・血中循環腫瘍細胞(CTC)の有用性
・液性診断(liquid biopsy)の現状
各論
3.抗CD20抗体医薬―Rituximab,obinutuzumab(岡本晃直・冨田章裕)
・オビヌツズマブの特徴
・濾胞性リンパ腫(FL)に対するオビヌツズマブ併用化学療法とリツキシマブ併用化学療法の第III相試験(GALLIUM試験)
・リツキシマブ不応の低悪性度B細胞リンパ腫に対するオビヌツズマブとベンダムスチン併用+オビヌツズマブ維持療法とベンダムスチン単剤療法の第III相試験(GADOLIN試験)
・未治療DLBCLに対するリツキシマブ-CHOP療法とオビヌツズマブ-CHOP療法の第III相試験(GOYA試験)
4.抗CD22抗体医薬―Inotuzumab ozogamicin(安藤 潔)
・前臨床研究
・B細胞非Hodgkinリンパ腫(B-NHL)に対するInOの臨床開発
・急性リンパ性白血病(ALL)に対するInOの臨床開発
・今後の展望
5.抗CD33抗体医薬―Gemtuzumab ozogamicinの有用性(牛島洋子・清井 仁)
・Gemtuzumab ozogamicin(GO)の作用機序
・GOの臨床試験
・GOの有効性に関連する因子
・APLにおける臨床試験
6.多発性骨髄腫に対する抗CD38抗体医薬―Daratumumab,isatuximab(石田禎夫)
・CD38抗原
・抗CD38抗体の作用機序
・抗CD38抗体単剤での臨床試験の成績
・抗CD38抗体と他剤との併用療法
・Daratumumabを使用する場合の注意事項
7.抗HER2抗体医薬―TrastuzumabとADC(澤木正孝)
・トラスツズマブエムタンシン(T-DM1)
・DS8201
8.抗VEGF抗体薬の実際(岡村直香・辻 靖)
・VEGFとは
・Bevacizumab(BEV)併用化学療法
・Ramucirumab(RAM)併用化学療法
・有害事象
・抗VEGF抗体薬と免疫チェックポイント阻害薬との併用
9.抗EGFR抗体薬―Cetuximab,panitumumab(川添彬人・設楽紘平)
・Cetuximab,panitumumab
・抗EGFR抗体薬のバイオマーカー
10.Aggrus/podoplaninを標的とした抗体医薬の開発(藤田直也)
・がん転移の分子機構
・血小板によるがん転移促進
・血小板凝集を標的にした抗Aggrus/podoplanin中和抗体の創製
11.抗CD30抗体薬物複合体(ADC)―Brentuximab vedotin(伊豆津宏二)
・Brentuximab vedotin(BV)の特徴
・古典的Hodgkinリンパ腫(HL)に対するBVの役割
・未分化大細胞型リンパ腫に対するBVの役割
・その他の病型に対するBVの役割
・BV耐性の機序
12.免疫チェックポイント阻害剤―Ipilimumab,nivolumab,pembrolizumab(榎田智弘・田原 信)
・抗CTLA-4抗体:Ipilimumab ・ICIs使用時の治療効果判定
・抗PD-1抗体:Nivolumab,Pembrolizumab ・ICIsのバイオマーカー
・抗CTLA-4抗体と抗PD-1抗体の併用 ・がん免疫療法の開発動向
・免疫チェックポイント阻害剤(ICIs)の有害事象
13.BiTE抗体―Blinatumomab(丸山 大)
・Bispecific T-cell engager(BiTE)抗体
・再発・治療抵抗性B-ALLに対する臨床開発
14.骨転移に作用する抗体医薬―Denosumabを中心に(三嶋裕子)
・がんの骨転移とシグナル伝達 ・Denosumabの有害事象
・RANKL抗体,denosumabと各がん種での使用 ・今後の新規抗体医薬の展開
副作用
15.抗体療法後のB型肝炎ウイルス再活性化のリスクとその対策(楠本 茂)
・がん抗体療法を施行する前にHBV再活性化リスクを評価することの重要性
・HBV再活性化の臨床経過とそのリスク
・がん抗体療法におけるHBV再活性化対策のポイント
・HBs抗原陽性例に対するHBV再活性化対策―核酸アナログの予防投与
・HBV既往感染例におけるHBV再活性化対策―HBV-DNAモニタリングによるpreemptive antiviral therapy
16.がん抗体医薬による心血管毒性の診断と治療(岡 亨・向井幹夫)
・がん抗体医薬による心血管毒性とその分子機序
・がん抗体医薬による高血圧・心機能障害の診断と治療
・心機能低下の診断と治療
トピック
17.抗体医薬の医療技術評価(HTA)(池田俊也)
・費用対効果の分析手法
・カナダ技術評価局(CADTH)における抗体医薬の経済評価
18.感染症に対する抗体医薬―BezlotoxumabによるClostridium difficile感染症再発予防(吉田順一・三鴨廣繁)
・C.difficile感染症(CDI)の背景 ・抗体医薬bezlotoxumabなどの臨床試験
・著者のCDI報告 ・CDI治療の課題
・CDIのガイドライン
サイドメモ
肝中心静脈閉塞症(VOD)・類洞閉塞症候群(SOS)
CLEC-2を標的とした抗体医薬の開発可能性
Blinatumomabの耐性機序
ラジウム223(Ra-223)
B型肝炎に対する抗ウイルス薬(核酸アナログ)投与中および投与終了後のHBV-DNAモニタリング
感染症と抗体医薬
ClostridioidesまたはC.difficile感染症(CDI)