はじめに
中山俊憲 中島裕史
千葉大学大学院医学研究院免疫発生学1,同遺伝子制御学2
免疫学の研究成果が医療に応用されたよい例として,現在脚光を浴びている抗体治療薬がある.モノクローナル抗体は1975年に開発され,その業績でKohlerとMilsteinがノーベル賞を受賞したことをまだ鮮明にご記憶されている方も多いと思う.“単一の特異性”という免疫学独特の特質を具備したモノクローナル抗体は,その後,数十年の間にほとんどすべての生命科学や医学領域の研究に用いられ,その進歩に大きく貢献した.現在では何万,何十万というモノクローナル抗体が作製され,市販されている.
一方,治療応用という点では1980年代初頭にマウスのモノクローナル抗体を用いた“ミサイル療法”が癌を標的として試みられ注目を浴びたが,期待に反し,十分な治療効果をあげることができなかった.マウスの抗体をヒトに投与すると異物であるため排除されてしまうことが,その原因のひとつである.しかし,1986年にWinterらによって完全ヒト型抗体が作製され,さらにその後,遺伝子工学の進歩により完全ヒト型抗体が比較的容易に大量生産できるようになり,状況は一変した.現在では癌,関節リウマチ,炎症性腸疾患,アレルギー疾患をはじめとする多くの難治性疾患の治療に抗体療法が臨床応用され,その高い有効性により治療のパラダイムシフトがもたらされた.原理的にはあらゆる免疫関連炎症疾患に治療効果を示す可能性をもっており,開発段階のものを含めると非常に多くの有望な抗体があり,今後,つぎつぎと臨床の場に提供されると思われる.
今回の特集では基礎研究から抗体療法の開発まで,日本において一貫して研究を推進された,大阪大学の岸本忠三先生に特別寄稿を賜った.“日本の免疫学の象徴”ともいえる岸本先生の40年間の研究や医学研究に対する思いについてご執筆いただいた.とくに若い医師,医学や生命科学の研究者の方には,ぜひ,お読みいただきたいと願っている.また,千葉大学大学院医学研究院の中島裕史教授と相談して,わが国の数多くの専門家の方にお願いし,それぞれの分野での最新の情報をおまとめいただいた.この特集が長くお手元に残る1冊とならんことを祈念する.(中山俊憲 企画者を代表して)
中山俊憲 中島裕史
千葉大学大学院医学研究院免疫発生学1,同遺伝子制御学2
免疫学の研究成果が医療に応用されたよい例として,現在脚光を浴びている抗体治療薬がある.モノクローナル抗体は1975年に開発され,その業績でKohlerとMilsteinがノーベル賞を受賞したことをまだ鮮明にご記憶されている方も多いと思う.“単一の特異性”という免疫学独特の特質を具備したモノクローナル抗体は,その後,数十年の間にほとんどすべての生命科学や医学領域の研究に用いられ,その進歩に大きく貢献した.現在では何万,何十万というモノクローナル抗体が作製され,市販されている.
一方,治療応用という点では1980年代初頭にマウスのモノクローナル抗体を用いた“ミサイル療法”が癌を標的として試みられ注目を浴びたが,期待に反し,十分な治療効果をあげることができなかった.マウスの抗体をヒトに投与すると異物であるため排除されてしまうことが,その原因のひとつである.しかし,1986年にWinterらによって完全ヒト型抗体が作製され,さらにその後,遺伝子工学の進歩により完全ヒト型抗体が比較的容易に大量生産できるようになり,状況は一変した.現在では癌,関節リウマチ,炎症性腸疾患,アレルギー疾患をはじめとする多くの難治性疾患の治療に抗体療法が臨床応用され,その高い有効性により治療のパラダイムシフトがもたらされた.原理的にはあらゆる免疫関連炎症疾患に治療効果を示す可能性をもっており,開発段階のものを含めると非常に多くの有望な抗体があり,今後,つぎつぎと臨床の場に提供されると思われる.
今回の特集では基礎研究から抗体療法の開発まで,日本において一貫して研究を推進された,大阪大学の岸本忠三先生に特別寄稿を賜った.“日本の免疫学の象徴”ともいえる岸本先生の40年間の研究や医学研究に対する思いについてご執筆いただいた.とくに若い医師,医学や生命科学の研究者の方には,ぜひ,お読みいただきたいと願っている.また,千葉大学大学院医学研究院の中島裕史教授と相談して,わが国の数多くの専門家の方にお願いし,それぞれの分野での最新の情報をおまとめいただいた.この特集が長くお手元に残る1冊とならんことを祈念する.(中山俊憲 企画者を代表して)
はじめに(中山俊憲・中島裕史)
特別寄稿
1.IL-6の基礎研究から抗体療法の開発へ(岸本忠三)
・IL-6とその多様な機能の発見
・IL-6と疾患
・IL-6受容体に対する抗体(トシリズマブ)の作製
・トシリズマブと自己免疫疾患
・抗IL-6R抗体の作用機構
抗体治療の基礎
2.抗体療法の基礎―概論:抗体療法の種類と特徴(住田孝之)
・抗体療法の概論
・抗体療法の種類
・抗体療法の作用機序
・抗体製剤の標的分子と適応症
3.抗体医薬品の現状と開発の動向―第二世代の抗体創薬の成功に向けて(土屋政幸)
・アメリカにおける承認の状況
・わが国における承認の状況
・開発の動向
・抗体創薬の特徴
・市場動向
4.抗体療法の改良―抗体の機能改変技術(山野和也・磯田裕也)
・抗体の構造
・抗体医薬の作用機序
・エフェクター活性の改良
・抗体の血中動態の改良
・薬剤融合による薬効増強
・その他の抗体機能改変技術
5.抗体療法の副作用対策(萩山裕之・針谷正祥)
・RAに対する生物学的製剤の副作用
・感染症
・間質性肺炎
・心機能障害
・投与時反応
・投与部位反応
臨床:リウマチ性疾患に対する抗体治療
6.関節リウマチに対するTNF-α標的治療(山中 寿)
・抗TNF製剤についての臨床研究
・抗TNF製剤の有効性
・抗TNF製剤の安全性
・RAに対する抗TNF製剤の使用に関するガイドライン
7.【改訂】関節リウマチに対するトシリズマブ療法―IL-6受容体標的治療の開発コンセプトから最新治療実績まで(村上美帆・西本憲弘)
・トシリズマブ(TCZ)の国内臨床試験
・トシリズマブ(TCZ)の海外第III相臨床試験
・国内臨床試験のメタアナリシス
・関節破壊の進行度の予測とTCZの効果
・日常診療における有効性と安全性
8.抗体を中心としたT細胞を標的とする生物学的製剤(山本一彦)
・T細胞の細胞表面分子を標的とした治療
・副刺激分子を標的とした治療
・制御性T細胞に対する抗体療法の間接効果
・T細胞の副刺激を阻害する生物学的製剤:CTLA-4-Ig(アバタセプト)
9.関節リウマチに対するB細胞標的治療(田中良哉)
・RAの病態形成におけるB細胞
・B細胞除去療法
・B細胞共刺激分子標的治療
10.関節リウマチに対する生物学的製剤の有効性はどこまで予測可能か―課題と今後の可能性(亀田秀人・竹内 勤)
・有効性に関与する要因
・TNF阻害製剤の有効性予測
・その他の生物学的製剤の有効性予測
11.全身性エリテマトーデスに対する抗体治療―分子標的治療開発の道のりと現状(保田晋助・小池隆夫)
・B細胞を標的とした抗体療法
・T細胞および共刺激分子を標的とした抗体療法
・サイトカインを標的とした抗体療法
12.血管炎症候群に対する抗体療法(永渕裕子・尾崎承一)
・ANCA関連血管炎に対するリツキシマブ療法
・クリオグロブリン血症に対するリツキシマブ療法
・TNF-α阻害療法
・トシリズマブ療法
・メポリズマブ療法
13.高安動脈炎に対する抗体療法(玉井慎美・川上 純)
・高安動脈炎の疫学と臨床的特徴
・病態
・疾患活動性の評価
・従来の治療法
・生物学的製剤による治療法
14.難治性若年性特発性関節炎(JIA)に対する新規治療―抗体療法と受容体療法(武井修治)
・適応と選択
・抗TNF療法
・抗IL-6療法
・抗IL-1療法
・T細胞標的療法
臨床:その他の疾患に対する抗体治療
15.気管支喘息に対する抗体治療(中島裕史)
・アレルギー性気道炎症の誘導機構
・IgEを標的にした喘息治療の現状
・Th2サイトカインを標的とした喘息治療の現状
・Th17サイトカインを標的とした喘息治療の可能性
・上皮細胞由来サイトカインを標的とした喘息治療の可能性
16.皮膚疾患に対する抗体療法(小宮根真弓・大槻マミ太郎)
・乾癬治療における抗体療法の変遷
・抗TNF-α抗体製剤
・IL-p40抗体製剤
・IL-17抗体製剤
17.血液疾患に対する抗体療法(畠 清彦)
・Rituximab(RituxanR)
・次世代のCD20抗体医薬
・T細胞性リンパ腫
・白血病に対する抗体医薬
・多発性骨髄腫に対する抗体医薬
18.炎症性腸疾患に対する抗体療法の発展と課題(三好 潤・日比紀文)
・わが国における炎症性腸疾患の現状
・炎症性腸疾患の病因と病態
・炎症性腸疾患治療におけるインフリキシマブ
・炎症性腸疾患治療におけるアダリムマブ
・炎症性腸疾患における抗TNF-α抗体療法の注意点
・抗TNF-α抗体療法の臨床現場における課題
19.自己炎症性疾患に対する抗体療法(佐藤貴史・神戸直智)
・自己炎症性疾患
・クライオピリン関連周期性症候群(CAPS)とは
・IL-1シグナル
・IL-1をターゲットとした生物製剤
・他の自己炎症性疾患と抗IL-1療法
20.骨粗鬆症に対する抗体療法(根岸-古賀貴子・高柳 広)
・骨代謝
・骨吸収抑制を主眼とした治療戦略
・骨形成促進を主眼とした治療戦略
21.神経疾患に対する抗体療法―アルツハイマー病における免疫療法(玉岡 晃)
・Alzheimer病(AD)とAβ
・ADのワクチン療法(能動免疫療法)
・ADの抗体療法(受動免疫)
・免疫療法の作用機序
・抗体療法の利点と欠点
22.固形癌に対する抗体療法(秋山聖子・石岡千加史)
・トラスツズマブ
・ベバシズマブ
・セツキシマブ
・パニツムマブ
・固形癌に対する抗体療法の副作用
・固形癌に対する抗体療法の課題
●サイドメモ目次
・抗体医薬としてのアイソタイプおよびサブクラス
・予後不良因子
・進行性多巣性白質脳症(PML)とは
・寛解導入・維持
・MIM(Mendelian Inheritance in Man)
・トランスジェニック(Tg)マウスによるADモデル動物
・ミモトープ
・プライマリ・エンドポイント
・HER2陽性
・第III相臨床試験
特別寄稿
1.IL-6の基礎研究から抗体療法の開発へ(岸本忠三)
・IL-6とその多様な機能の発見
・IL-6と疾患
・IL-6受容体に対する抗体(トシリズマブ)の作製
・トシリズマブと自己免疫疾患
・抗IL-6R抗体の作用機構
抗体治療の基礎
2.抗体療法の基礎―概論:抗体療法の種類と特徴(住田孝之)
・抗体療法の概論
・抗体療法の種類
・抗体療法の作用機序
・抗体製剤の標的分子と適応症
3.抗体医薬品の現状と開発の動向―第二世代の抗体創薬の成功に向けて(土屋政幸)
・アメリカにおける承認の状況
・わが国における承認の状況
・開発の動向
・抗体創薬の特徴
・市場動向
4.抗体療法の改良―抗体の機能改変技術(山野和也・磯田裕也)
・抗体の構造
・抗体医薬の作用機序
・エフェクター活性の改良
・抗体の血中動態の改良
・薬剤融合による薬効増強
・その他の抗体機能改変技術
5.抗体療法の副作用対策(萩山裕之・針谷正祥)
・RAに対する生物学的製剤の副作用
・感染症
・間質性肺炎
・心機能障害
・投与時反応
・投与部位反応
臨床:リウマチ性疾患に対する抗体治療
6.関節リウマチに対するTNF-α標的治療(山中 寿)
・抗TNF製剤についての臨床研究
・抗TNF製剤の有効性
・抗TNF製剤の安全性
・RAに対する抗TNF製剤の使用に関するガイドライン
7.【改訂】関節リウマチに対するトシリズマブ療法―IL-6受容体標的治療の開発コンセプトから最新治療実績まで(村上美帆・西本憲弘)
・トシリズマブ(TCZ)の国内臨床試験
・トシリズマブ(TCZ)の海外第III相臨床試験
・国内臨床試験のメタアナリシス
・関節破壊の進行度の予測とTCZの効果
・日常診療における有効性と安全性
8.抗体を中心としたT細胞を標的とする生物学的製剤(山本一彦)
・T細胞の細胞表面分子を標的とした治療
・副刺激分子を標的とした治療
・制御性T細胞に対する抗体療法の間接効果
・T細胞の副刺激を阻害する生物学的製剤:CTLA-4-Ig(アバタセプト)
9.関節リウマチに対するB細胞標的治療(田中良哉)
・RAの病態形成におけるB細胞
・B細胞除去療法
・B細胞共刺激分子標的治療
10.関節リウマチに対する生物学的製剤の有効性はどこまで予測可能か―課題と今後の可能性(亀田秀人・竹内 勤)
・有効性に関与する要因
・TNF阻害製剤の有効性予測
・その他の生物学的製剤の有効性予測
11.全身性エリテマトーデスに対する抗体治療―分子標的治療開発の道のりと現状(保田晋助・小池隆夫)
・B細胞を標的とした抗体療法
・T細胞および共刺激分子を標的とした抗体療法
・サイトカインを標的とした抗体療法
12.血管炎症候群に対する抗体療法(永渕裕子・尾崎承一)
・ANCA関連血管炎に対するリツキシマブ療法
・クリオグロブリン血症に対するリツキシマブ療法
・TNF-α阻害療法
・トシリズマブ療法
・メポリズマブ療法
13.高安動脈炎に対する抗体療法(玉井慎美・川上 純)
・高安動脈炎の疫学と臨床的特徴
・病態
・疾患活動性の評価
・従来の治療法
・生物学的製剤による治療法
14.難治性若年性特発性関節炎(JIA)に対する新規治療―抗体療法と受容体療法(武井修治)
・適応と選択
・抗TNF療法
・抗IL-6療法
・抗IL-1療法
・T細胞標的療法
臨床:その他の疾患に対する抗体治療
15.気管支喘息に対する抗体治療(中島裕史)
・アレルギー性気道炎症の誘導機構
・IgEを標的にした喘息治療の現状
・Th2サイトカインを標的とした喘息治療の現状
・Th17サイトカインを標的とした喘息治療の可能性
・上皮細胞由来サイトカインを標的とした喘息治療の可能性
16.皮膚疾患に対する抗体療法(小宮根真弓・大槻マミ太郎)
・乾癬治療における抗体療法の変遷
・抗TNF-α抗体製剤
・IL-p40抗体製剤
・IL-17抗体製剤
17.血液疾患に対する抗体療法(畠 清彦)
・Rituximab(RituxanR)
・次世代のCD20抗体医薬
・T細胞性リンパ腫
・白血病に対する抗体医薬
・多発性骨髄腫に対する抗体医薬
18.炎症性腸疾患に対する抗体療法の発展と課題(三好 潤・日比紀文)
・わが国における炎症性腸疾患の現状
・炎症性腸疾患の病因と病態
・炎症性腸疾患治療におけるインフリキシマブ
・炎症性腸疾患治療におけるアダリムマブ
・炎症性腸疾患における抗TNF-α抗体療法の注意点
・抗TNF-α抗体療法の臨床現場における課題
19.自己炎症性疾患に対する抗体療法(佐藤貴史・神戸直智)
・自己炎症性疾患
・クライオピリン関連周期性症候群(CAPS)とは
・IL-1シグナル
・IL-1をターゲットとした生物製剤
・他の自己炎症性疾患と抗IL-1療法
20.骨粗鬆症に対する抗体療法(根岸-古賀貴子・高柳 広)
・骨代謝
・骨吸収抑制を主眼とした治療戦略
・骨形成促進を主眼とした治療戦略
21.神経疾患に対する抗体療法―アルツハイマー病における免疫療法(玉岡 晃)
・Alzheimer病(AD)とAβ
・ADのワクチン療法(能動免疫療法)
・ADの抗体療法(受動免疫)
・免疫療法の作用機序
・抗体療法の利点と欠点
22.固形癌に対する抗体療法(秋山聖子・石岡千加史)
・トラスツズマブ
・ベバシズマブ
・セツキシマブ
・パニツムマブ
・固形癌に対する抗体療法の副作用
・固形癌に対する抗体療法の課題
●サイドメモ目次
・抗体医薬としてのアイソタイプおよびサブクラス
・予後不良因子
・進行性多巣性白質脳症(PML)とは
・寛解導入・維持
・MIM(Mendelian Inheritance in Man)
・トランスジェニック(Tg)マウスによるADモデル動物
・ミモトープ
・プライマリ・エンドポイント
・HER2陽性
・第III相臨床試験