やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 橋孝喜
 東京大学医学部附属病院輸血部
 輸血医療は,出血量の多い外科手術あるいは白血病などの血液疾患治療などの際に必要不可欠な補充療法である.血液成分を補充することにより,期待される臨床的な効果はほぼ100%得られるが,同種血(赤血球,血小板や血漿)を輸血する場合,臓器移植と同様,ウイルス感染症の伝播や免疫学的な副作用などの危険性が内在する.献血者の感染症スクリーニング検査の改良・進歩などにより輸血用血液の安全性は著明に向上しているが,総体としての輸血医療にはなお改善すべき課題がある.すなわち,ABO型不適合輸血などの輸血過誤防止が十分といいがたいこと,そして血漿成分の使用量が多く,アルブミン製剤の約40%を輸入に依存していることなどである.特に後者の血漿成分の相対的な不足の問題は,少子高齢化によりますます深刻になりつつある.
 上記問題を解決する方策として,頻回献血者をさらに増加させること,中高生への献血教育などの啓発を骨子とする“献血構造改革“により現在の献血血液量を今後も確保していくことが重要であるが,それ以上に,臨床的に必要な病態に限って貴重な血液を最小限に使用する真の意味の適正な輸血医療の推進が不可欠である.2003年に施行された血液法は,医療関係者の責務として“安全かつ適正な輸血療法”の実践を規定し,2005年改訂の“輸血療法の実施に関する指針“および“血液製剤の使用指針”は輸血実施管理体制,適応基準を明示し,さらに,“安全かつ適正な輸血療法“を推進するincentiveとして“輸血管理料”が2006年に保険収載された.
 また,待機手術症例に対する貯血式自己血輸血が究極の適正な輸血医療として期待されており,安全かつ適切な自己血輸血の実施管理体制を普及していくことは緊急課題となっている.さらには,補充療法という従来の輸血医療の範疇を超え,原病に対する積極的治療効果を意図する細胞治療が注目されており,その基盤となる安全・確実なcell processingシステムの確立も肝要なテーマである.
 本別冊では献血システム,輸血医療,自己血輸血,細胞治療にかかわるcell processingについて,現状と課題を要約した内容となるよう企画した.各臨床領域の第一線で活躍されている本誌読者にとって,輸血医療・細胞療法の基本事項を再確認する機会になれば幸いである.
 はじめに(橋孝喜)
輸血医療の今後の展望
 1.輸血医療と各臨床領域との連携(大戸 斉)
  ・輸血医療の性格
  ・WHO,政府,赤十字社との連携
  ・各臨床医学会との連携構築
  ・臨床検査技師会との連携
  ・輸血関連看護師の教育と研修
献血供給体制の変革と輸血副作用の現状と対策
 2.日本赤十字社血液センターの集約化の意義と課題(佐藤 研・中島一格)
  ・検査,製造施設の集約
  ・需給管理とは
  ・需給管理における現状の問題点
  ・集約はどのように行われるのか
  ・集約に伴う課題
 3.血液センターへの輸血副作用報告―非溶血性輸血副作用と輸血感染症の情報の実態(佐竹正博)
  ・溶血性副作用
  ・発熱反応
  ・蕁麻疹
  ・アナフィラキシー
  ・輸血関連急性肺障害(TRALI),輸血関連循環過負荷(TACO)
  ・輸血関連移植片対宿主病(TR-GVHD)
  ・その他
  ・輸血感染症
 4.受血者を輸血感染症から守る医療機関の体制―輸血前検体保存と輸血前後感染症検査(紀野修一)
  ・受血者の健康を守る輸血医療体制整備
  ・アンケート調査からみた医療機関の実態
  ・輸血感染症遡及体制の今後の対応
 5.輸血療法の有害事象の検索:ヘモビジランス―その現状と将来(浜口 功)
  ・ヘモビジランス(輸血の安全監視体制)とは
  ・各国のヘモビジランス
  ・日本のヘモビジランス
  ・日本のヘモビジランスの改善点
  ・日本の“ヘモビジランス”将来構想
 6.輸血関連急性肺障害(TRALI)の病態解明と対策(岡崎 仁)
  ・TRALIの発症機序
  ・TRALI対策とその効果
各領域・病態における輸血療法
 7.癌化学療法時の輸血療法(牧野茂義)
  ・腫瘍性貧血および血小板減少
  ・輸血療法
  ・虎の門病院における癌化学療法時の輸血実施症例
  ・エリスロポエチン製剤の臨床応用
 8.肝切除時の輸血療法の要点―安全な肝切除と輸血の適正使用の両立をめざして(長谷川 潔・國土典宏)
  ・肝切除における輸血療法の現状
  ・肝切除後肝不全の危険因子
  ・肝切除における自己血漿貯血法
 9.心臓血管外科手術における輸血療法(宮田茂樹)
  ・赤血球製剤の輸血基準
  ・新鮮凍結血漿(FFP),クリオプレシピテート,濃縮フィブリノゲン製剤の輸血基準
  ・濃厚血小板製剤の使用基準
  ・大量出血に関する早期からの血小板製剤・血漿製剤投与の有効性
  ・遺伝子組換え活性型第VII因子製剤
 10.大量出血時の病態と輸血療法―フィブリノゲン濃縮製剤投与の有用性(松純樹)
  ・大量出血の病態生理
  ・大量出血に対する輸血療法
  ・輸血療法の実際
  ・大量出血時の輸血療法にあたっての考慮すべき点
輸血医療の現状─適応基準と適正化方策
 11.輸血実施管理体制―輸血療法に関する全国アンケート調査(田中朝志)
  ・アンケート調査概要
  ・輸血管理体制
  ・輸血療法委員会
  ・輸血管理でのコンピュータ利用
  ・輸血検査体制
  ・副作用報告体制
  ・適正使用体制
  ・輸血療法の実績(輸血管理料の算定状況も含めて)
  ・自己血採血体制
 12.新鮮凍結血漿の適応基準(松本雅則)
  ・FFPの使用目的
  ・血液製剤の使用指針によるFFPの適応
  ・使用指針以外の適応
 13.予防的血小板輸血の適応基準―最新のエビデンス(半田 誠)
  ・血小板用量
  ・血小板輸血トリガー値
  ・予防的投与と治療的投与
 14.輸血療法委員会による適正な輸血療法の推進―患者に質の高い輸血医療を提供するために(上條亜紀)
  ・施設内における輸血療法委員会活動
  ・地域輸血療法委員会の活動
 15.合同輸血療法委員会の意義と課題―相互比較による輸血療法適正化をめざして(稲葉頌一)
  ・輸血療法適正化に対する国の方針
  ・適正な輸血療法とは
  ・福岡県における合同輸血療法委員会の経験
  ・各血液成分使用の現状
  ・病院輸血療法委員会の役割
  ・単独の輸血療法委員会の限界
  ・神奈川県における合同輸血療法委員会の経験と成果
  ・県の支援の必要性
  ・全国における合同輸血療法委員会の状況
  ・全国的な発展
 16.輸血用血液の廃棄削減―社会の財産としての血液(松ア浩史)
  ・血液センターでの血液管理と廃棄率
  ・医療機関の血液管理と廃棄
貯血式自己血輸血の要点
 17.クリニカルパスに基づいた安全で適正な自己血輸血の実践(佐川公矯)
  ・自己血輸血の利点と欠点
  ・貯血式自己血輸血の全体像の時系列による理解
  ・医師,看護師,臨床検査技師の共同作業による安全で適正な自己血輸血
 18.自己血外来(津野寛和・橋孝喜)
  ・同種血輸血の安全性
  ・自己血輸血の安全性
  ・自己血外来構想
  ・残された課題および対策
 19.【改訂】学会認定・自己血輸血看護師制度(脇本信博)
  ・看護師採血の必然性と正当性
  ・看護師採血の実態と自己血輸血看護師制度の必要性
  ・学会認定・自己血輸血看護師制度の設立
細胞治療のためのcell processingの要点
 20.末梢血幹細胞採取の現状と課題―学会指針の改訂と非血縁者間末梢血幹細胞移植の開始に際して(田野崎隆二)
  ・PBSC採取の方法およびガイドライン
  ・非血縁者間末梢血幹細胞移植(UR-PBSCT)の導入
  ・採取の体制
  ・課題
 21.院内における血液細胞処理のための指針の概要(室井一男)
  ・“指針”を支える概念
  ・“指針”の概要
  ・“指針”の内容

 ・サイドメモ目次
  学会認定・(臨床)輸血看護師
  保管検体
  遡及調査とは
  好中球プライミング
  エリスロポエチン製剤
  止血系におけるフィブリノゲンの役割とその病態
  大量出血に対する活性化リコンビナント第VII因子(rVIIa)の意義
  FFP-LR(fresh frozen plasma-leukocyte reduced)
  クリオプレチピテート
  ADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondine type 1 motifs 13)
  貧血と血小板機能異常
  標準作業手順書