やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 畠 清彦
 癌研有明病院化学療法科,血液腫瘍科,外来治療センター
 376のがん拠点病院が指定されてから,5大がんの治療は全国で均一のレベルで受けられるようになったという.しかし,現実に調査結果をみてみると,まだ十分ではないところもあるようだ.そこで十分ではないところに向けて,よくできている施設から工夫しているところをアピールしていただき,役立ててもらって,レベルに差のある現状を改善できたらよいと考え,本書の企画となった.この発行直後に開催される第8回日本臨床腫瘍学会学術集会(2010年3月18日〜19日)でもテーマとしてとりあげて,シンポジウムをさせていただく.
 工夫は,いろいろな立場から考えられる.たとえば,施設内でのあらたな職種の雇用による効率化,カンファレンスや外部へのアピール,研修会,コメディカルスタッフへの教育,クリニカルパスの作成,連携施設との協調などが考えられる.このような各施設で優れているところを十分に示していただき,全国的に協力してことにあたれば,単なる名前だけの指定ではなく,患者への利益につながるものとなる.実際,腫瘍内科医・放射線療法のレベル向上,緩和ケアの普及や施設自体のモチベーションの向上など,多施設間の協力によってすでに具体的に改善されている例もある.本書では,とくに優れている施設から現状と工夫を示していただいている.
 たとえば,新規薬剤の導入にあたってはチームを組み,発売4カ月前から医師,看護師,薬剤師が新薬の処方や有害事象への対応,患者への説明なども統一した方法で行えるように整備して,承認発売まで準備していく.このようにするとチーム力が高まるし,多くの臓器にわたって生じる有害事象があるときには,とくに利点が発揮される.これはすぐにでも,どの施設でも導入できる.また,薬剤師による服薬指導,抗癌剤のdose intensity,durationの前歴監査,看護師による抗癌剤や造影剤の点滴確保と投与は重要な点で,しばらくは医師不足が続くこの領域で,ぜひ導入すべきことである.本書を参考にしていただき,最終的には患者のためになることを期待している.
 はじめに(畠 清彦)
座談会
 がん拠点病院における地域連携をいかに進めるか?(畠 清彦×河本和幸×金澤旭宣×澤木正孝)
第1章 東京都におけるがん診療連携拠点病院
1.がん・感染症センター都立駒込病院における取組み(坂巻 壽)
 ・都道府県がん診療連携拠点病院としての取組み
 ・東京都がん診療連携拠点病院としての取組みと課題
 ・がん診療連携拠点病院としての診療上の取組み
2.癌研有明病院における取組み(山下 孝)
 ・有明への移転
 ・チーム医療,キャンサーボード,解放医局
 ・生存率の向上―禁煙,職員の検診受診率向上,健診センターの充実
 ・医療連携―医療圏,医療支援,均てん化
 ・緩和医療―ホスピス
 ・がん登録―病院の登録,医局の登録
 ・研修
 ・5大がんにクリニカルパス―乳癌
 ・BSC―経営の改善
 ・英文論文賞創設
 ・放射線治療の充実
 ・ボランティア活動
 ・アジアにおけるリーダーをめざして
3.NTT東日本関東病院における取組み(石原照夫・小澤桂子)
 ・当院のがん診療の実態
 ・当院のがん診療体制
 ・がん相談支援室
 ・レジメン小委員会
 ・クリティカルパス
 ・緩和ケアの提供体制
 ・院内がん登録
4.日本赤十字社医療センターにおけるがん拠点病院としての取組み―新病院に向けた拠点病院としての整備強化(田中 勲)
 ・新病院に向けて救急対応の体制,がん拠点病院としての整備
 ・がんの予防と早期発見
 ・診療の流れ:外来,入院
 ・標準的治療,集学的治療
 ・カンファレンス実施状況:5大がんについて
 ・緩和ケア
 ・総合医療相談(がん相談)
 ・病診,病病連携
 ・がん登録
5.東京大学医学部附属病院における集学的がん診療(宮川 清)
 ・キャンサーボード
 ・キャンサーボード・カンファランス
 ・キャンサーボードによる支援体制
 ・がん専門医療人育成のための大学院教育
 ・先端的がん医療を推進するための研究支援
6.日本医科大学付属病院における取組み(内田英二)
 ・がん診療体制運営委員会およびオンコロジーボードの設置
 ・がん診療センターの設置
 ・緩和ケアチームおよび緩和ケア科の設置
 ・輸液療法室の活動および化学療法科の設置
 ・がん相談支援センター
 ・がん診療センター外来の設置
 ・がん診療センター病棟の設置
 ・院内がん登録の推進
 ・院内教育活動
 ・病診連携,医療連携
 ・検診活動
 ・行政との連携
7.がん患者のトータル・ケアをめざして―聖路加国際病院における取組み(堀之内秀仁・細谷亮太)
 ・聖路加国際病院のがん診療に対する考え方
 ・聖路加国際病院でのがん診療
 ・がん診療のサポート体制
 ・がん診療連携拠点病院としての取組み
8.外来化学療法室から緩和病棟,地域医療機関までのスムーズな連携をめざして―東京女子医科大学がんセンターの試み(林 和彦・他)
 ・東京女子医科大学がんセンターのめざすがん医療
 ・電子カルテの有用性
 ・化学療法における医師とコメディカルの業務内容
 ・レジメン審査
 ・緩和病棟と地域連携
9.帝京大学医学部附属病院帝京がんセンターの場合―がんの総合内科医(community oncologists)の養成をめざして(江口研二)
 ・帝京がんセンター
 ・地域連携の試み
 ・腫瘍内科の診療
 ・腫瘍内科の教育カリキュラム
 ・がんの総合内科医を養成するプラン
10.東京医科大学八王子医療センターにおける取組み―大学病院分院でのがん診療連携拠点病院(岩瀬 理)
 ・東京医科大学八王子医療センターの位置づけ
 ・当センターにおける外来化学療法センターの変遷
 ・レジメン登録制度
 ・新規薬剤導入の体制
 ・有害事象・救急対応の体制
 ・抗がん剤適正使用ガイドライン
 ・緩和ケアの状況
11.杏林大学医学部付属病院がんセンターの現状と取組み(古瀬純司)
 ・がんセンターの組織・基本方針
 ・化学療法の診療体制
 ・救急診療体制
 ・緩和ケア
 ・がん相談支援室・患者指導
 ・Cancer Boardの役割
 ・地域連携ネットワーク
第2章 各地域における活動の実際
12.大阪赤十字病院における化学療法の標準化への取組み―複雑化する大腸癌化学療法への当院での対応(金澤旭宣)
 ・外来通院治療センターの現況
 ・レジメンの統一
 ・有害事象の対応・救急対応の体制と教育
 ・緩和ケアや副作用対策としての他科との連携の状況
 ・補助化学療法と地域連携パス
13.倉敷中央病院における地域がん診療連携拠点病院としての取組み―とくに地域連携について(河本和幸・小笠原敬三)
 ・倉敷中央病院の概要
 ・地域連携に関する取組みと実績
 ・考察
14.鹿児島市医師会病院における医療連携への挑戦―癌研有明病院と連携した地域ネットワークの構築(大迫政彦・田畑峯雄)
 ・当院の現況
 ・地域連携とネットワーク
 ・考察
15.大阪府立成人病センターにおけるがん拠点病院としての取組み(屋木敏也)
 ・施設の紹介
 ・診療の流れ
 ・認証レジメンの統一
 ・新規薬剤導入の体制
 ・有害事象対策の体制
 ・カンファレンス実施状況
 ・標準化した手順書の有無
 ・緩和ケアの状況
 ・地域連携ネットワークの構築
 ・患者指導
 ・スタッフ教育・研修
 ・当院の特徴
 ・臨床腫瘍科の取組み
16.福井県立病院におけるがん拠点病院としての取組み―地方の急性期病院での取組み(羽場利博)
 ・がん医療センターの設置
 ・院内がん登録
 ・がん化学療法オーダリングシステム
 ・患者の参加
 ・がんに対する相談・情報提供
17.金沢赤十字病院の取組み―がん診療連携拠点病院と地域中核病院(西村元一)
 ・石川県におけるがん治療
 ・当院の化学療法室
 ・化学療法における病病連携(当院の場合)
 ・当院の化学療法室の新しい試み
 ・今後の展望
18.新潟県立新発田病院におけるがん診療委員会を中心とした取組み(関 義信)
 ・当院の紹介と診療圏
 ・当院のがん診療体制
 ・化学療法標準化委員会からがん診療委員会へ
 ・地域がん診療拠点病院としての新発田病院
 ・がん診療委員会
 ・外来化学療法部門
 ・がん支援相談窓口
 ・今後の展望
19.地方急性期総合病院における外来化学療法室の現状―徳島赤十字病院の取組み(組橋由記・石倉久嗣)
 ・抗がん剤適正使用委員会
 ・当院の外来化学療法室
 ・有害事象・救急対応の体制
 ・緩和ケア
 ・医療相談支援センター
20.静岡県立静岡がんセンターにおける取組み―自己管理力向上をめざして:栄養士の立場から(稲野利美)
 ・がん患者や家族の悩みや負担の現状
 ・栄養士としての役割
 ・当院の試み

 ・サイドメモ目次
  Quality Indicator(QI)とは
  地域連携パス