やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文―別冊化にあたって
 今西二郎(京都府立医科大学大学院医学研究科感染免疫病態制御学)
 このたび,週刊『医学のあゆみ』での連載企画『五感の生理,病理と臨床』が別冊として刊行されることになった.
 本書の『はじめに』のところで述べているように,視覚,聴覚,嗅覚,味覚,触覚という五感はわれわれが生きていくうえで必要不可欠なものであり,これらの異常が起こると身体や精神機能に大きな影響を与える.
 現代生活において環境が著しく変わり,五感に対する影響も多大なものとなってきている.自然環境が少なくなり,人工的な環境が増えてきていることは間違いない.しかし,人工的環境が自然環境よりかならずしも劣っているとは限らない.
 最近話題となっている感性工学は,視覚,聴覚,嗅覚などの感覚刺激(情報)がいかに生理機能に影響を与えているかを解析し,それを広く医療用,介護用,あるいは日常に使用する機器に応用しようとするものである.まさに,五感をうまく活用させる機器を開発していくことにある.
 このような感性工学の発達により自然を模した人工環境や,自然環境とはまったく切り離れた完全に人工的な環境をデザインし,たとえば人工的リラクセーション誘導空間をつくり上げていくことができる.
 本書で,五感の仕組みや,異常を取り上げ,また五感を利用した治療法など,五感に関する医学を総合的に取り上げて五感の本体に迫れればと期待している.幸い第一線でご活躍中の多くの先生方にご執筆いただくことができ,本書の目的を達することができたと自負している.
 ここに,執筆いただいた諸先生に感謝するとともに,『医学のあゆみ』編集部の諸兄にお礼を申し上げたい.
序文―別冊化にあたって(今西二郎)
はじめに(今西二郎)
 ・体外からの情報は五感を通して
 ・五感の生理
 ・五感の異常
 ・五感を通した癒し効果
第1章 視覚
 1.脳の視覚情報処理(外山敬介)
  ・階層的情報処理
  ・最近のトピックス
 2.色覚異常―遺伝子解析から色バリアフリーまで(山出新一)
  ・色覚のメカニズム
  ・先天色覚異常の分類
  ・先天色覚異常の特性
  ・先天色覚異常の見え方
  ・色覚異常の遺伝と遺伝子
 3.屈折異常とその矯正―屈折矯正手術の進歩(木下 茂・稗田 牧)
  ・屈折異常の種類
 4.IT眼症と VDT症候群(高橋洋子)
  ・IT眼症の要因
  ・IT眼症の対策
  ・適切な作業環境
  ・眼精疲労の眼科的原因
 5.芸術療法(星野良一・森 則夫)
  ・芸術療法の歴史
  ・芸術療法の目的
  ・芸術療法の対象
  ・芸術療法の技法
  ・芸術療法の作用機序
  ・芸術療法の効用と問題点
 6.光療法(亀井雄一・内山 真)
  ・光治療の適応
  ・副作用
  ・治療の方法
  ・治療効果と中止時期
第2章 味覚
 7.味覚の生理―うま味の生理(畝山寿之・鳥居邦夫)
  ・体内栄養素環境と味覚
  ・基本味としてのうま味
  ・うま味受容体の発見
  ・うま味と味覚反射
  ・うま味と内臓感覚
 8.味覚障害と亜鉛欠乏(阪上雅史)
  ・味覚障害患者の動向
  ・味覚障害の症状
  ・味覚障害の原因と亜鉛のかかわり
  ・問診・検査
  ・治療―亜鉛補充療法を中心に
  ・亜鉛と食事
第3章 嗅覚
 9.嗅覚障害(坪田雅仁・他)
  ・嗅覚障害の種類
  ・嗅覚障害患者の特徴
  ・嗅覚障害の検査
  ・嗅覚障害を起こす疾患
  ・嗅覚神経系の役割と嗅覚障害
 10.アロマセラピー(今西二郎)
  ・アロマセラピーとは
  ・アロマセラピーの作用機構
  ・アロマセラピーが応用されている領域
  ・アロマセラピーの方法
  ・アロマセラピーの現状と問題点
  ・統合医療とアロマセラピー
第4章 聴覚
 11.聴覚野における音のスペクトルパターンと時間パターンの弁別学習(工藤雅治)
  ・ヒトの音声とネコの鳴き声のスペクトル
  ・聴覚野ニューロンの音声に対する反応
  ・聴覚野における複雑なスペクトル音の学習
  ・聴覚野の長期増強
  ・音の順序の弁別学習と聴覚野の順序依存性シナプス増強
  ・報酬を手がかりとした音順序弁別学習におけるドパミン系の役割
 12.騒音性難聴(原田康夫)
  ・騒音障害と年齢
  ・中年後は騒音に注意
  ・耳栓の効果
  ・耳鳴り
  ・騒音性急性感音性難聴
  ・騒音性難聴の対策
 13.突発性難聴(小川 郁)
  ・突発性難聴の定義と診断
  ・突発性難聴の予後
  ・突発性難聴の治療
 14.耳鳴治療の現状と問題点(畑中章生・喜多村 健)
  ・耳鳴の診断―自覚的耳鳴と他覚的耳鳴
  ・治療の実際
  ・新しい概念の治療―TRT
 15.音楽療法(村井靖児)
  ・音楽療法とは
  ・音楽療法が行っていること
  ・中枢神経性聴覚障害と音楽療法―失音楽
  ・統合失調症の幻聴の問題
  ・音楽療法の戦略
第5章 感覚―痛覚を含む
 16.痛覚の生理―痛覚と痛み認知(住谷昌彦・真下 節)
  ・痛みの神経機構
  ・痛みのクロスモダリティー(多感覚間相互作用)
 17.疼痛管理(細川豊史)
  ・痛みの分類
  ・急性痛(侵害受容性疼痛)の疼痛管理
  ・痛みの悪循環
  ・関連痛
  ・慢性疼痛
  ・慢性疼痛の治療
  ・ニューロパシックペインの発生と予防
 18.線維筋痛症の鍼灸治療(伊藤和憲・北小路博司)
  ・筋骨格系の痛みとは
  ・線維筋痛症とは
  ・線維筋痛症の治療
  ・鍼灸治療とは
  ・線維筋痛症に対する鍼灸治療の現状
  ・線維筋痛症に対する鍼灸治療の実際
 19.Hand-foot syndrome―抗癌剤によって起こる知覚障害(山崎直也・田口哲也)
  ・Hand-foot syndrome発症の誘因となる薬剤
  ・Hand-foot syndromeの発症機序
  ・おもな症状
  ・Hand-foot syndromeの診断と判定基準
  ・Hand-foot syndromeに対する治療
 20.温熱療法―慢性疼痛に対する温熱療法の効果(増田彰則・鄭 忠和)
  ・慢性疼痛とは
  ・慢性疼痛の治療
  ・あらたな治療法としての温熱療法
  ・慢性疼痛患者に対する温熱療法の効果
  ・温熱療法の今後の展開
 21.脳低温療法の適応と管理上の注意点(木下浩作・丹正勝久)
  ・体温の上昇と低体温治療の必要性
  ・低体温により出血は増大するか
  ・ストレス環境で発生する高血糖と低体温
  ・重症患者の微小元素の減少と低体温の影響
  ・低体温の導入と復温方法
  ・脳低温療法の効果
  ・脳低温療法の今後
 22.冷え症の病態の臨床的解析と対応―冷え症はいかなる病態か,そして治療できるのか(後山尚久)
  ・冷え症という概念とその頻度
  ・冷え症の要因と病態
  ・冷え症の浅部組織血流量,血管抵抗からのとらえ方
  ・冷え症と臨床

・サイドメモ目次
 色覚検査法
 新しいsurface ablation(表面切除)
 モノビジョン
 5基本味
 音のスペクトル
 突発性難聴の診断の手引き(厚生省突発性難聴研究班調査報告書より)
 “感覚“と“知覚”の違い
 注射されるのをみると痛い?
 痛みストレスと免疫抑制
 筋・筋膜疼痛症候群
 Capecitabineによって起こるhand-foot syndrome
 認知行動療法
 レーザー組織血流計の概要と測定原理
 指尖加速度脈波の測定原理