やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 『理学療法評価学』というタイトルがついている本の多くは,バイタルサインに始まり,筋力検査法,感覚検査法および協調運動検査の内容に終始しているように感じます.一方,臨床実習で求められる「理学療法評価」とは,医療面接やカルテから得られた情報収集に始まり,患者の希望や主訴などの内容から生活機能に影響を及ぼす情報をとりまとめ,実際の動作を観察することで患者の動作能力を見積もり,検査結果を検証しながら問題点を導いていくセラピストの系統的な論理的思考となります.
 養成校の学生および新人セラピストの多くは,情報収集,検査測定および動作観察で得られたデータを断片的に把握するにとどまり,患者の活動制限と機能障害を結び付ける臨床推論の一連の流れを習得することが難しくなっていると感じます.
 本書の第1章では評価過程の導入として障害状況を確認することから始まりますが,それぞれの日常生活活動と機能的活動(基本動作)・機能とのつながりを理解することを助ける内容を解説しています.そして第3章の評価過程では,情報収集から統合と解釈までの一連の流れ,つまり,活動制限の原因となっている機能障害を同定するまでの思考過程を解説しています.
 さらに担当患者を受けもった際には,将来的に生じるであろう症状や徴候を想定して理学療法評価を進めていかなければなりません.臓器連関という言葉があるように,ある臓器が悪ければ将来的に起こり得る多臓器不全があります.第2章では各臓器の機能不全におけるリスクマネジメントとして,全身状態を把握するための医学的情報収集の項目と解釈を解説しています.第4〜6章では各臓器の機能不全患者の具体的な統合と解釈について,臨床実習で指導者が学生に指導するように,情報収集の項目とその意味や,画像解読のポイント,患者の動作をみるポイント,検査結果の解釈,治療場面での工夫とリスクなどを解説しています.
 本書は臨床実習に向けて,丁寧にわかりやすくイラストを用いて可視化した参考書といえると思います.
 臨床実習等で何かと苦労する理学療法評価ですが,本書は,あなたが必死で収集した検査結果や情報などを基に「ココが問題点ですよ」と優しく導いてくれることでしょう!
 監修・編集にあたりできるだけ読みやすさを心がけましたが,もし不適切な用語がありましたらご教授いただければ幸いです.最後に,ご多忙のところ監修・編著者からのさまざまなお願いにご協力いただいた著者の先生方,出版の労をいとわずにご尽力くださった医歯薬出版編集担当者に深謝いたします.
 2018年2月
 監修 上杉雅之
 編著 西守 隆
第1章 日常生活活動の評価ポイント
 1 食事動作
 2 整容動作
 3 更衣動作
 4 トイレ動作
 5 入浴動作
第2章 各臓器不全で生じる病態理解とリスクマネジメント
 1 システムレビュー(System review or Review of system)
 2 心不全
 3 呼吸不全
 4 糖尿病
 5 腎不全
 6 肝不全
 7 がん
 8 低栄養
 9 脳血管障害に関する画像所見
第3章 評価過程
 1 情報収集と医療面接
 2 情報の整理(改善すべき基本動作の選定)
 3 動作観察と動作分析
 4 検査測定
 5 統合と解釈
 6 問題点の抽出と目標設定
 7 治療プログラムの立案
第4章 臨床における運動器疾患の評価─統合と解釈─
 1 大腿骨頸部骨折
 2 下腿骨折
 3 膝半月板損傷
 4 アキレス腱断裂(手術適応例)
 5 変形性股関節症
 6 変形性膝関節症
 7 関節リウマチ
 8 胸椎黄色靱帯骨化症
第5章 臨床における神経疾患の評価─統合と解釈─
 1 脳血管障害(急性期)
 2 脳血管障害(回復期)
 3 運動失調症
 4 パーキンソン病
第6章 臨床における内部疾患の評価─統合と解釈─
 1 心不全
 2 呼吸不全
 3 腎不全
 4 糖尿病
 5 低栄養