やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の序
 本書の基となったのは,1987年に初版第1刷として発行された『図解鍼灸臨床手技の実際』(医歯薬出版)である.この書は,2003年にMRI画像を加えて改訂し,『図解鍼灸臨床手技マニュアル』として刊行した.
 その後にWHO/WPROによる標準経穴部位の制定,受容体と受容器の関係など新しい事実も判明し,ヘルシンキ宣言(ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則)も2008年WMAソウル総会(韓国)で大幅に修正された.このようにめまぐるしく変化する状況にあって,本書はこれらの要求に応えるべく改訂し,第2版を出版することとなった.
 本書では,WHO/WPROの標準経穴(全経穴)を巻末に配したが,本書に掲載の経穴についてはほとんど変更がなかった.また,本書には最新の鍼灸の内容,重要事項も各章や巻末に配した.これらの鍼灸技術を体得する方々がわかりやすく学べるように図表・写真を多く用いて詳解した.内容的には,鍼灸/医学の修学生のみならず,第一線で活躍されている鍼灸臨床家,鍼灸を志す臨床医家の方々を視野にとらえ,昨今の国内外の安全な鍼灸治療の動向を踏まえて企画・執筆をしている.また,鍼灸師国家試験問題に出題された「はり理論」,「きゅう理論」の鍼灸理論関係の内容についても,漏れなく網羅して詳解している.
 本書により,最新の鍼灸に関する知識を深め,鍼灸技術の錬磨・体得を図り,日々の鍼灸臨床の実践などを通じて,人々の健康の回復や維持に貢献されることを心から願う次第である.
 最後に,経穴のMRI画像について理解・ご協力をいただいた本学の田中忠蔵教授,医療情報学教室の福永雅喜先生,基礎鍼灸医学教室の新原寿志先生,灸に関する多く資料を提供していただいた會澤重勝先生に満腔の感謝を捧げる.
 本書の出版にあたり,著者の意図をご理解いただき,絶大なご支援・ご尽力を賜りました医歯薬出版の竹内大氏やスタッフの方々に厚く感謝を申し上げる.
 2012年2月
 明治国際医療大学名誉教授
 尾崎昭弘
I 鍼灸医療の芽生えと形成
 1 原始医療の芽生え
 2 中国古代科学史にみる初期の鍼灸医学形成
 3 馬王堆,張家山漢墓の発掘医書類にみる経脈,是動病,所生病ならびに灸
 4 『黄帝内経』の成書年代
II 鍼
 1 鍼器具の変遷
 2 古代「九鍼」
  ●鍼
    長さ/形態 用途 変遷
    圓鍼(員鍼,円鍼)
    長さ/形態 用途 変遷
  ●鍼
    長さ/形態 用途 変遷
  鋒鍼
    長さ/形態 用途 変遷
  ハ鍼
    長さ/形態 用途/変遷
  圓利鍼(員利鍼,円利鍼)
    長さ/形態 用途/変遷
  毫鍼
    長さ/形態 用途 変遷
  長鍼
    長さ/形態 用途 変遷
  大鍼
    長さ/形態 用途 変遷
 3 現代の鍼
  現代の鍼の種類
  鍼(毫鍼)の区分
    鍼柄 鍼体
  鍼の材料と成分
    材料 成分
  鍼の長さと太さ
    長さ 太さ
  「鍼管」について
    種類 材質 長さ 太さ
  鍼器具の点検,薬液浸漬・洗浄,滅菌,保存
    点検 温水浸漬・洗浄 滅菌 保存
  鍼器具の消毒,滅菌
    高圧蒸気滅菌器 紫外線殺菌(消毒)器 酸化エチレンガス滅菌器 薬液法
  単回使用毫鍼の製造工程
  製品での医療機器の表示
    医療機器としての鍼灸器具 医療機器の表示
III 鍼の基本手技
 1 現代の刺鍼方式
  種々の鍼入力と生体反応調節
  皮膚の擦過,圧迫,接触,浅刺を行う鍼の基本手技
    小児鍼(接触鍼) 粒鍼
  皮内に浅く刺して留める鍼の基本手技
    皮内鍼の仕方 円皮鍼の仕方
  皮膚または皮膚・筋内に刺入する鍼の基本手技
    灸頭鍼
 2 刺鍼(毫鍼)の基本手技
  管鍼法での挿管の仕方
    両手挿管法 片手挿管法
  管鍼法での穿皮(切皮)の仕方
  刺手
    旋撚術 捻転法 鍼体の挟持
  押手
    鍼のクリーンテクニックと押手
  抜鍼後のアルコール綿花を介した圧迫
  揉撚法
    前揉法 後揉法
  鍼の刺入方向
    直刺 斜刺 横刺
  鍼の刺入深度
  刺鍼練習法
    刺鍼の練習過程
 3 患者・術者の体位
    患者の体位 術者の体位
 4 刺鍼の感覚
    鍼響の必要性 刺鍼の強度と閾 各種の鍼刺激方法による入力の変化と感覚
 5 現行刺鍼手技
    病巣と病態反応の関連
  単刺術
  置鍼術
  旋撚術と回旋術
    旋撚術 回旋術
  雀啄術
  間欠(歇)術
  屋漏術
  随鍼術
  振顫術
  内調術
  示指打法(暁術または暁鍼術)
  副刺激法(気拍術)
  鍼尖転移法(圓鍼術)
  刺鍼転向法(三法術,四傍天,四傍人,四傍地)
  細指術
  散鍼(術)
  管散術
  接触鍼(術)
  乱鍼術
    焼山火と透天涼の手技
 6 刺鍼反応を高める刺激条件とその手技
  患者の精神・情緒的安定
  刺鍼部の皮膚温の調整
  刺鍼反応を高める手技
    催気の手技
    候気の手技
    行気の手技
    循経感伝現象(PSC)
 7 鍼鎮痛の作用仮説
  脊髄後角での鎮痛仮説(ゲートコントロール説に模した新しい鎮痛仮説)
  鍼鎮痛の作用仮説
  鍼,経皮的電気的神経刺激,脊髄後索刺激による鎮痛の作用仮説
 8 鍼治療でみられる事故,有害な事象(過誤,副作用)とその処置
  折鍼
    原因 予防 処置
  気胸
    原因 予防 処置
  抜鍼困難
    原因 予防/処置
  脳貧血
    原因 予防 処置
  外出血と内出血
    原因 予防 処置
  発熱(微熱)と倦怠感
    原因 予防 処置
  皮膚膨隆
  WHOのガイドラインに示される鍼の安全性
    鍼治療の禁忌 重要臓器の傷害
IV 五刺,九刺,十二刺と杉山真伝流18手技
 1 『黄帝内経』に記載される五刺,九刺,十二刺の刺法
  五刺
    半刺の手技 豹文刺の手技 関刺の手技 合谷刺の手技 輸刺の手技
  九刺
    輸刺の手技 遠道刺の手技 経刺の手技 絡刺の手技 分刺の手技 大瀉刺の手技 毛刺の手技
    巨刺の手技 q刺の手技
  十二刺
    偶刺の手技 報刺の手技 ●刺の手技 斉刺の手技 揚刺の手技 直鍼刺の手技 輸刺の手技 短刺の手技 浮刺の手技 陰刺の手技 傍鍼刺の手技 賛刺の手技
 2 杉山真伝流18 手技(術)
    雀啄手術之法 随鍼手術之法 乱鍼手術之法 屋漏手術之法 細指手術之法 四傍天手術之法 四傍人手術之法 四傍地手術之法 三調手術之法 気行手術之法 三法手術之法 圓鍼手術之法 温鍼手術之法 暁(暁鍼)手術之法 内調手術之法 気拍(栢)手術之法 龍頭手術之法 熱行手術之法
  WHO経穴部位国際標準化と新経穴,取穴方法
V 常用穴の刺鍼
 1 上肢の常用穴の刺鍼
  手の常用穴の刺鍼
    合谷の刺鍼の仕方 井穴の刺鍼の仕方 手掌・手背の経穴の刺鍼と局所解剖
  前腕の常用穴の刺鍼
    腕関節部の経穴の刺鍼の仕方 前腕遠位部の経穴の刺鍼の仕方 前腕中央部・近位部の経穴の刺鍼の仕方
  上腕,肩の常用穴の刺鍼
 2 下肢の常用穴の刺鍼
  足の常用穴の刺鍼
    足の経穴部位と主治ならびに局所解剖 足の常用穴の刺鍼の仕方
  下腿の常用穴の刺鍼
    下腿の経穴部位と主治 足三里の刺鍼の仕方 三陰交の刺鍼の仕方 復溜の刺鍼の仕方 地機の刺鍼の仕方 陰陵泉・陽陵泉の刺鍼の仕方 下腿の常用穴の局所解剖と刺鍼の仕方
  膝の常用穴の刺鍼
    膝の常用穴の局所解剖,刺鍼の仕方と主治
  大腿・殿部の常用穴の刺鍼
    大腿前面の常用穴の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 大腿後面の常用穴の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 環跳の局所解剖,刺鍼の仕方と主治
 3 背部の常用穴の刺鍼
  肩甲上部,肩甲部の常用穴の刺鍼
    肩井,天●の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 肩中兪,肩外兪の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 秉風,曲垣の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 天宗の局所解剖,刺鍼の仕方と主治
  肩甲間部(脊柱部の一部を含む)の常用穴の刺鍼
    大椎,陶道,身柱,神道,至陽の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 肺兪,厥陰兪,心兪の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 膏肓の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 神堂の局所解剖,刺鍼の仕方と主治
  肩甲下部(脊柱部の一部を含む)の常用穴の刺鍼
    膈兪の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 肝兪,胆兪,脾兪の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 胃兪,胃倉の局所解剖,刺鍼の仕方と主治
  腰部(脊柱部の一部を含む)の常用穴の刺鍼
    三焦兪,腎兪,志室,命門の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 大腸兪,腰陽関の局所解剖,刺鍼の仕方と主治
  仙骨部の常用穴の刺鍼
    上●,小腸兪の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 次●,膀胱兪の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 中●,下●の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 八●穴の取穴基準と刺鍼の仕方
 4 胸部の常用穴の刺鍼
    中府の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 天突,●中の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 期門,日月の局所解剖,刺鍼の仕方と主治
 5 腹部の常用穴の刺鍼
    巨闕,中●,気海,石門,関元,中極の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 中●,梁門の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 肓兪,天枢,大横,帯脈の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 章門,京門の局所解剖,刺鍼の仕方と主治
 6 頭部,頸部の常用穴の刺鍼
    百会,●会,陽白,頭維の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 頭部の経穴の横刺の仕方 天柱,翳風,風池,完骨の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 頸部の経穴の刺鍼体位と完骨,天柱,風府,風池,●門の刺鍼の仕方 人迎,扶突の局所解剖,刺鍼の仕方と主治
 7 顔面部の常用穴の刺鍼
    魚腰,四白,夾承漿,下関の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 睛明の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 顔面部の常用穴の局所解剖,刺鍼の仕方と主治
 8 奇穴の常用穴の刺鍼
    頭部・顔面部の奇穴の常用穴の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 背部の奇穴の常用穴の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 上肢の奇穴の常用穴の局所解剖,刺鍼の仕方と主治 下肢の奇穴の常用穴の局所解剖,刺鍼の仕方と主治
VI 灸
 1 灸の起源
 2 灸の変遷と伝来
 3 現代の灸
  現代の灸の種類
   有痕灸
  お灸と温度受容体
   皮膚と温度受容体
    TRP受容体 TRPV受容体 TRPM8 受容体(涼冷刺激受容体) TRPA1 受容体(侵害性冷刺激受容体)
  艾(ヨモギ,もぐさ)
   原料
    ヨモギの和名・別名・方言名 成分 薬理作用 臨床活用
   艾の製法
   精製艾の組成と形態
    組成 形態
   精製艾の品質と種類
    品質 種類
   線香
    原料 製法/保管 線香の生産地
VII 灸の基本手技
 1 艾の選び方
 2 有痕灸の基本手技
  有痕灸(透熱灸)の手順
  灸点の取り方
  艾●の作製の仕方(1)―艾のひねり方
    艾のひねり方
  艾●の作製の仕方(2)―艾の取り方と置き方,艾●の大きさ
    艾の取り方 艾の置き方 艾●の大きさ
  艾●の点火の仕方(線香による)
  施灸による熱痛覚の軽減の仕方と艾●燃焼後の灰の処理
    熱痛覚の軽減の仕方 艾●燃焼後の灰の処理
  灸(透熱灸)の刺激量の調節
   艾●
   施灸壮数と灸点部位・灸点数
    壮数 灸点部位 灸点数
   患者
   灸の補瀉
  施灸の練習法
  施灸の体位
    患者の体位 術者の体位
 3 有痕灸による皮膚組織の損傷と回復
  透熱灸による皮膚組織の損傷と回復
  焦灼灸による皮膚組織の損傷と回復
  打膿灸による皮膚組織の損傷と回復
 4 施灸による温度感覚と艾●の燃焼による温度変化
  施灸による温度感覚
  艾●の燃焼による底面皮膚上の温度変化
  施灸による皮下組織温度の変化
 5 無痕灸の手技
  知熱灸
    知熱灸の仕方 施灸上の注意
  温筒灸
    温筒灸の仕方 施灸上の注意
  艾条灸
    艾条灸の仕方 施灸上の注意
  生姜灸
    生姜灸の仕方 施灸上の注意
  大蒜灸
    大蒜灸の仕方 施灸上の注意
  塩(食塩)灸と味 灸
   塩灸
    塩灸の仕方 施灸上の注意
   味噌灸
    味噌灸の仕方 施灸上の注意
  和紙灸と押灸
   和紙灸
    和紙灸の仕方 施灸上の注意
   押灸
    押灸の仕方 施灸上の注意
  薬物灸
   墨灸
   紅灸
   天灸
   漆灸
   水灸
 6 施灸上の注意・過誤・副作用とその処置
  施灸上の注意
  灸痕の化膿
    原因/予防 処置
  灸あたり
    原因 予防 処置
  発熱(微熱)
    原因/予防 処置
  WHOのガイドラインに示される灸の安全性
VIII 鍼灸の安全性と感染防止
 1 安全な施術と法的責任
  あん摩マッサージ指圧師,はり師,きゅう師等に関する法律にみる安全な施術
    器具,手指等の消毒 消毒設備と環境衛生
  医療事故に対する法的責任
    民事上の責任 刑法上の責任 行政上の責任
 2 医療従事者の危険行為とリスク・マネージメント
  医療従事者の危険行為
    エラーと違反
  リスク・マネージメント
    アクシデントとインシデント クリニカルパス
 3 日常臨床における鍼灸医療事故の防止対策
  鍼灸などでの医療事故
  医療事故の連続発生の防止
  日常臨床での医療事故の防止対策
 4 感染の防止に関するWHOのガイドライン(1999)
    感染の防止/WHO
 5 手洗いと手指消毒
  手洗い前の準備と流水による汚れの洗い流し
  石けんによる手洗い
  消毒薬を用いる手洗い(スクラブ法:洗浄法)
  ペーパータオルによる手拭き
  手洗い後の手指消毒と殺菌力の持続効果
 6 ベッドサイドで行う施術野の消毒と手指消毒
 7 手術用手袋(グローブ)などの使用
 8 指が鍼体に直接触れないディスポ用具の活用
 9 安全で清潔な院内環境の保持
 10 滅菌器による鍼具の滅菌と保管
  鍼具の付着物の除去(洗浄)
  滅菌のための包装
  高圧蒸気滅菌
  酸化エチレンガス滅菌
  乾熱滅菌
  滅菌を終えた既滅菌物の分類・保管
 11 鍼具などの廃棄

 付録
  WHO経穴部位国際標準化と新経穴,取穴方法
   WHO/WPROによる骨度法と指幅寸法,標準経穴部位図
   WHO/WPROの新経穴について
   奇穴
  ヘルシンキ宣言(WMA,2008)―ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則
  患者の権利に関する世界医師会(WMA)リスボン宣言
  鍼の基礎教育と安全性に関するガイドライン(WHO,1999)
  世界鍼灸学会連合会倫理コード(WFAS,1987)
  社団法人全日本鍼灸学会倫理綱領(JSAM,2002)
  WHOおよび諸外国の鍼灸医療の禁忌,安全対策

 索引