やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 近年,世界的な人口高齢化に伴い医療費が急増している.諸外国に比べて日本の高齢化の速度は著しく速いゆえ,患者にやさしい低コスト医療の提供が必要不可欠となりつつある.人は加齢とともに体力や免疫機能が低下する一方で,慢性疼痛疾患への罹患率が高くなると思われる.このような慢性疼痛疾患の治療では,物理療法の一つである経皮的神経電気刺激(TENS)療法によって症状が改善される人が多く見られる.TENS療法は非侵襲的で,副作用も少なく,一定の治療効果が挙げられることから徐々に注目されてきている.
 科学技術の進歩によりTENS機器も飛躍的に発展し,より安全,かつより効果的なものが求められつつある.一方,TENS治療効果の科学的究明が進んてきているが,いまだ解明されていないものも多く存在している.今後の究明を待ちたいと思う.このような事情に鑑みて,筆者らが自分自身の知識と経験や,多くの国際的な研究発表の結果を参考にしながらこの本を作成した.TENS治療に携わる多くの臨床家や学生などの有志に情報を提供したい.
 実際のTENS治療においては,同じ疾患であっても,体質,症状の程度などに応じて,電極配置部位,刺激強度,刺激時間などを調節する必要がある.そのためには,TENSの基礎知識や痛みのメカニズム,効果のメカニズムなどをある程度考慮する必要があり,その方が治療効果は上がる.そのような理由から,本書ではTENSに関する基本的な知識も分かるよう努めた.また,代表的な慢性疼痛疾患について,ベッドサイドで本書を利用して基本的な治療が行えるスタイルを目指した.
 そこで,第I部基礎編,第II部臨床編の2部構成としている.第I部第1章は電気刺激療法総論で,電気刺激の基本知識とTENS療法の作用機序を理解するための神経生理学的な基本知識について述べる.第I部第2章は痛みとTENS療法の効果で,痛みの受容器や伝導路などと,TENS療法の,末梢や中枢への効果の機序について述べる.
 第II部第3章は各疼痛疾患症候群における電気治療で,TENS療法に適している40疾患について述べる.多くの方に,臨床現場で活用いただければ幸いである.
 本書の制作にあたって,臨床編のモデルとしてご協力をいただきました本学の学生秋山翔太氏に心からお礼を申し上げます.また,出版にあたってご指導いただきました医歯薬出版の竹内大氏に感謝を申し上げます.
 2011年5月
 明治国際医療大学医学教育研究センター
 中山登稔
 序文
第I部 基礎編
第1章 電気刺激療法総論
 1.物理療法とは
 2.電磁波とは
 3.電気刺激療法の歴史
 4.低周波電気刺激の様式
 5.TENS療法とは
 6.TENS療法における神経細胞の刺激の受容と興奮
  1)神経細胞の構造
  2)神経線維の種類と電気刺激
  3)強さ-時間曲線
  4)神経信号の伝導と伝達
 7.TENS療法における筋収縮の仕組み
 8.TENS療法における筋収縮のエネルギー供給
 9.TENS療法の頻度と筋収縮のパターン
 10.TENS刺激装置
  1)刺激電圧や電流・頻度・波形における人体への作用
  2)低周波TENS装置
  3)低周波持続パルスTENS装置
  4)強TENS装置
 11.一般の常用低周波治療器
  1)マックスカイネMK-130G
  2)ポラリスカイネPO-3
 12.TENS装置の操作
  1)電極の材質
  2)電極ペースト
  3)電極の大きさ
  4)電極の接着部位
 13.TENS療法の副作用
  1)アレルギー性皮膚反応
  2)熱傷
  3)浮腫
  4)皮下内出血
 14.禁忌
  文献
第2章 痛みとTENS療法の効果
 1.痛みとは
 2.痛みの受容器
 3.痛みの伝導路
  痛みの上行路
 4.痛みの分類
  1)皮膚痛覚
  2)深部痛覚
  3)内臓痛覚
 5.痛みの臨床的分類
 6.痛みの生理学的機構
  1)痛みの末梢機構
  2)痛みの中枢内因性機構
  3)痛みの神経液体性機構
 7.TENS療法の効果
  1)局所皮膚血流量の改善
  2)血漿インスリン感度の増強効果
  3)TENS療法における痛みの改善効果
  4)TENS療法における筋萎縮予防と筋力増加効果
  5)TENS療法における脳神経活動への影響
  6)TENS療法における骨折修復の促進
  文献
第II部 臨床編
第3章 TENS療法の実際
 1.緊張型頭痛
 2.偏頭痛
 3.片麻痺
 4.ベル麻痺
 5.顔面痙攣
 6.三叉神経痛
 7.坐骨神経痛
 8.肩痛
 9.上腕骨外側上顆炎(テニス肘)
 10.筋筋膜性腰痛症(ギックリ腰)
 11.気管支喘息
 12.足関節捻挫
 13.肩こり
 14.手根管症候群
 15.術後疼痛
 16.めまい
 17.顎関節症
 18.月経困難症
 19.歯痛
 20.変形性膝関節症
 21.鞭打ち損傷
 22.不眠症
 23.慢性腰痛症
 24.慢性前立腺炎
 25.寝違え
 26.関節リウマチ
 27.帯状疱疹後神経痛
 28.アキレス腱断裂
 29.骨折
 30.糖尿病性神経障害痛
 31.足関節炎
 32.幻肢痛
 33.慢性閉塞性肺疾患
 34.便失禁
 35.過活動膀胱
 36.胃痙攣
 37.筋筋膜痛症候群
 38.脳性麻痺
 39.陣痛・分娩痛
 40.アルツハイマー病

 索引