やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 現在まで運動器の基礎知識として「運動機能検査法(南江堂):2005」,「四肢関節の触診法(医歯薬出版):2007」,「骨・関節の機能解剖(医歯薬出版):2009」を,一方,臨床に関わるものとして「四肢関節のキャスト法(医歯薬出版):2004」,中国古来から伝わる骨折・脱臼の整復術の訳本として帝京大学医学部整形外科教授(当時)松下隆先生とともに著した「骨折徒手整復術(南江堂):2005」,「上肢骨折の保存療法(医歯薬出版):2005」,「運動器疾患のみかたと保存的治療(医歯薬出版):2008」,「実践スポーツ障害のみかた上肢編・下肢編(医歯薬出版):2011」,「骨折・脱臼の保存療法(南江堂):2012」等を出版させていただきました.即ち,運動器疾患の保存療法に焦点を絞って進めてきたのであります.
 個人的には鍼灸師・柔道整復師・理学療法士の立場から総合病院,整形外科病院で勤務,個人開業,さらに医科大学(現:福井大学医学部)での研究,大学での教育・研究を通して保存療法を広く俯瞰できたと思っております.医療が急速に進歩しているわが国においても運動器疾患の基本は保存療法と捉えており,今後もその立場は変わらないと思っております.
 本書はまさに運動器の機能障害に対する“手技療法”を機能解剖学的立場から紹介したものであり,まさに病態評価の可能な方が読まれることを望んでおります.推測された病態から手技に至る臨床直結型の流れを目指したつもりであります.ただし,本書はあくまでも基礎編として書かれたものであり,この先は皆さんが独自に様々な手技を創りあげて頂ければと期待しております.
 ここで2点ばかりご了解いただきたいことがございます.
 1点は,本書で紹介しました手技の中には疫学的データに裏付けされていないものが含まれております.即ち,個人的に経験してきた手技,あるいは機能解剖学的に妥当と考えられる手技,さらに臨床経験から良い結果が得られた手技が含まれております.その理由は,一つの病態に用いられる手技は固定化されたものではなく様々な考え方が可能であること,そして治療結果がデータ化できないこと,客観的評価は極めて困難な作業を伴うことが挙げられます.
 2点目は,手技の詳細を写真や文章で伝えることは不可能であり,皆さんに手技のノウハウがどの程度正確に伝わるかは全く分かりません.願わくば本書に示した“手技”が正しく用いられて治療成績が上がることを希望するのみであります.“手技”の効果については皆さん方がデータを集めてご検討いただければ幸いです.
 最後になりましたが,本書で用いた実技写真の撮影におきまして全面的ご協力を頂きました柔道整復師の斉藤和利氏,東谷孝一氏,堂前泰彦氏,浅田茂信氏,中宮肇氏,斉藤豪氏,ならびに写真のモデルを快く引き受けて頂きました理学療法士の上田翔子さん(吉水整形外科),西端未歩さん(木村病院)に心から感謝申し上げます.また,本書の出版にご協力いただきました医歯薬出版の関係各位に心よりお礼申し上げます.
 竹内義享
総論
 医療の現状
 “手技療法”=徒手による治療手段とは
 手技療法のメリット
 “手技療法”のとらえかた
  関節の基本的動き
  関節へのアプローチ 関節の形状から
  手技におけるROMとMMTの意義
  肩関節における1st,2nd,3rd肢位でのROM・MMTの意義
  手技に直結する評価の必要性
 筋膜の役割
 筋・腱の作用と加齢
触診の技術
 脊柱の触診
  理解を必要とするキーワード 正確な触知とその応用
 仙腸関節の触診
  理解を必要とするキーワード 正確な触知とその応用
 肩関節の触診
  理解を必要とするキーワード 正確な触知とその応用
 肘関節と前腕部の触診
  理解を必要とするキーワード 正確な触知とその応用
 手関節と手部の触診
  理解を必要とするキーワード 正確な触知とその応用
 股関節の触診
  理解を必要とするキーワード 正確な触知とその応用
 膝関節の触診
  理解を必要とするキーワード 正確な触知とその応用
 足関節と足部の触診
  理解を必要とするキーワード 正確な触知とその応用
 肩関節に関わる筋の注意すべき作用
  棘上筋/棘下筋/肩甲下筋/僧帽筋下部線維/広背筋/烏口腕筋/小胸筋/上腕二頭筋長頭腱/
  前鋸筋/肩甲挙筋/三角筋後部線維
 股関節に関わる筋の注意すべき作用
  腸腰筋/大腿四頭筋/縫工筋/薄筋/大腿筋膜張筋/大殿筋/中殿筋/ハムストリングス/
  外旋6筋/内転筋群
 体幹に関わる筋の注意すべき作用
  外腹斜筋/内腹斜筋/腹横筋/腰方形筋/多裂筋/腹直筋
肩関節
 挙上制限の手技1 肩甲上腕関節への介入
 挙上(・外旋)制限の手技2 (特に,関節内圧に原因がある)肩甲下滑液包への介入
 挙上(・外旋)制限の手技3 (特に,関節内圧に原因がある)肩甲下筋短縮へのストレッチ介入
 挙上(・外旋)制限の手技4 胸鎖関節への介入
 挙上(・外旋)制限の手技5 肩鎖関節への介入
 挙上(・外旋)制限の手技6 肩関節前方構成体への介入
 挙上(・外旋)制限の手技7 腋窩腔短縮への介入
 肩甲骨挙上の手技1 (特に,肩甲骨の下方回旋をともなう)肩甲挙筋短縮へのストレッチ介入
 肩甲骨挙上の手技2 (特に,肩甲骨の下方回旋をともなう)僧帽筋(下部線維)筋力低下への介入
 肩甲骨挙上の手技3 (特に,肩甲骨の前傾をともなう)小胸筋短縮へのストレッチ介入
 肩甲骨外方移動の手技1 僧帽筋中部・下部線維の筋力低下への介入
 肩甲骨外方移動の手技2 棘下筋・小円筋短縮へのストレッチ介入
 肩甲骨上方回旋障害の手技1 僧帽筋下部線維の筋力低下への介入
 肩甲骨上方回旋障害の手技2 前鋸筋筋力低下への介入
 肩甲上腕関節での外転障害の手技1 肩峰骨頭間距離(AHI)狭小化への介入
 肩甲上腕関節での外転障害の手技2 肩峰骨頭間距離(AHI)狭小化への自動運動の介入
 肩峰下インピンジメントの手技1 大結節への介入(1)
 肩峰下インピンジメントの手技2 大結節への介入(2)プーリー使用の応用
 肩峰下インピンジメントの手技3 肩甲骨への介入
 肩峰下インピンジメントの手技4 上腕骨頭への介入
 インターナルインピンジメントの手技1 上腕骨頭と前方構成体への介入
 インターナルインピンジメントの手技2 関節後方構成体へのストレッチ介入
 インターナルインピンジメントの手技3 肩甲下筋への介入
 “肘下がり”の手技 広背筋短縮へのストレッチ介入
 斜角筋症候群の手技1 前斜角筋と第1肋椎関節への介入
 斜角筋症候群の手技2 前・中斜角筋への介入
 斜角筋症候群の手技3 後斜角筋と第2肋椎関節への介入
肘関節
 屈曲制限の手技1 腕尺関節への介入(1)
 屈曲制限の手技2 腕尺関節への介入(2)
 伸展制限の手技 腕尺関節への介入
 回内制限の手技 近位・遠位橈尺関節への介入
 回外制限の手技 近位・遠位橈尺関節への介入
 外側上顆炎の手技1 前腕伸筋共同腱すべりへの介入
 外側上顆炎の手技2 橈骨頭への介入
 外側上顆炎の手技3 腕尺関節に対する介入
 外側上顆炎の手技4 前腕伸筋共同腱へのストレッチ介入
 内側上顆炎の手技1 前腕屈筋腱へのすべりの介入
 内側上顆炎の手技2 前腕屈筋共同腱へのストレッチ介入
 内側上顆炎の手技3 腕尺関節への介入
手関節
 背屈制限の手技1 橈骨手根関節への介入
 背屈制限の手技2 手根中央関節への介入
 背屈制限の手技3 遠位橈尺関節への介入
 掌屈制限の手技 橈骨手根関節への介入
 母指の橈側外転制限の手技 第1手根中手関節への介入
 母指の掌側外転制限の手技 第1手根中手関節への介入
 母指(コンパートメントI)の痛みの手技1 (いわゆる,狭窄性腱鞘炎)第1手根中手関節への介入
 母指(コンパートメントI)の痛みの手技2 (いわゆる,狭窄性腱鞘炎)舟状骨への介入
 母指(コンパートメントI)の痛みの手技3 (いわゆる,狭窄性腱鞘炎)長母指外転筋・短母指伸筋への圧迫介入
 母指(コンパートメントI)の痛みの手技4 (いわゆる,狭窄性腱鞘炎)長母指外転筋・短母指伸筋ストレッチの介入
 円回内筋症候群の手技 円回内筋への介入
 手根管症候群の手技1 手根骨への介入
 手根管症候群の手技2 屈筋支帯への介入
 ギヨン管症候群の手技 ギヨン管への介入
 MP関節のロッキングの手技 MP関節副靱帯への介入
 DIP関節へバーデン結節の手技 DIP関節への介入
股関節
 鼠径靱帯の手技 (特に,鼠径靱帯の硬さにともなう)鼠径靱帯への介入
 屈曲制限への手技1 (鼠径部痛をともなう場合も含む)骨頭のすべり障害への介入
 屈曲制限への手技2 (鼠径部痛をともなう場合も含む)骨盤前傾減少への介入
 屈曲制限への手技3 仙腸関節機能異常への介入
 屈曲制限への手技4 (特に,筋短縮にともなう)外旋6筋の短縮への介入
 外転障害への手技1 大腿骨頭すべり障害への介入
 外転障害への手技2 (特に,筋力低下にともなう)中殿筋力低下への介入
膝関節
 屈曲制限への手技1 膝蓋骨への介入
 屈曲制限への手技2 大腿脛骨関節への介入
 屈曲制限への手技3 (特に,膝窩筋短縮をともなう)膝窩筋への介入
 深屈曲制限(屈曲130°〜)への手技1 大腿脛骨関節への介入
 深屈曲制限(屈曲130°〜)への手技2 前方構成体への介入
 伸展制限への手技1 膝蓋骨と膝蓋靱帯への介入
 伸展制限への手技2 大腿脛骨関節への介入
 伸展制限への手技3 (特に,膝窩部の拘縮をともなう)後外側構成体,前内側構成体への介入
 伸展制限への手技4 関節包・靱帯への介入
 伸展制限への手技5 (筋力低下にともなう)大内転筋に筋連結する内側広筋への介入
 伸展制限への手技6 (骨盤の傾き)骨盤―下肢アライメントからの介入
 分裂膝蓋骨への手技 (特に,有痛性分裂膝蓋骨の場合)外側支持機構への介入
 膝蓋下脂肪体炎への手技 膝蓋骨・膝蓋靱帯への介入
 膝窩部痛への手技1 半膜様筋腱への介入
 膝窩部痛への手技2 膝窩筋腱への介入
 膝窩部痛への手技3 (腓腹筋内側頭の短縮にともなう)腓腹筋内側頭への介入
 膝窩部痛への手技4 大腿脛骨関節(前方すべり障害)への介入
 鵞足滑液包炎への手技 (特に,薄筋の短縮にともなう)薄筋への介入
 腸脛靱帯炎の手技1 (特に,腸脛靱帯の短縮にともなう)腸脛靱帯短縮への介入
 腸脛靱帯炎の手技2 (特に,筋連結にともなう)外側広筋・大腿二頭筋への介入
 腸脛靱帯炎の手技3 (特に,アライメント異常にともなう)内反膝と股関節外旋位への介入
 腸脛靱帯炎の手技4 (特に,アライメント異常にともなう)距踵関節と内反膝,足底への介入
 膝関節前方痛(AKP)の手技1 膝蓋骨への介入(1)
 膝関節前方痛(AKP)の手技2 膝蓋骨への介入(2)
 内反膝の手技1 (筋力低下にともなう)内反を助長する筋への介入
 内反膝の手技2 (特に,後外側構成体の短縮にともなう)後外側構成体への介入
 内反膝の手技3 (特に,アライメント異常にともなう)下腿踵骨角への介入
足関節
 背屈障害の手技1 距骨すべり異常への介入
 背屈障害の手技2 下脛腓関節機能異常への介入
 背屈障害の手技3 (特に,底屈筋短縮にともなう)足関節底屈筋・アキレス腱への介入
 背屈障害の手技4 上脛腓関節機能異常への介入
 背屈障害の手技5 (特に,屈筋支帯の短縮にともなう)屈筋支帯機能異常への介入
 捻挫の後遺症の手技1 (特に,筋力低下にともなう)長腓骨筋への介入
 捻挫の後遺症の手技2 距骨機能異常への介入
 捻挫の後遺症の手技3 下脛腓関節機能異常への介入
 扁平足の手技1 距踵関節への介入
 扁平足の手技2 舟状骨への介入
 扁平足の手技3 (特に,筋力低下にともなう)長腓骨筋・後脛骨筋への介入
 外反母趾の手技1 中足骨(CM関節)への介入
 外反母趾の手技2 中足指節間関節(MP)への介入
頸椎
 後頭骨―第1頸椎の手技 後頭骨―第1頸椎横突起間の機能異常への介入
 第1・第2頸椎の手技 第1頸椎横突起―第2頸椎棘突起間の機能異常への介入
 後頭骨―第2頸椎の手技 後頭骨―第2頸椎棘突起間の機能異常への介入
 下部頸椎(第3〜7頸椎)の手技 (特に,椎間関節機能異常)各椎間関節への介入
 第3〜6頸椎・全頸椎の手技 (筋短縮にともなう)前斜角筋(C4〜6),中斜角筋(C2〜7)へのストレッチ介入
 第5〜7頸椎・全頸椎の手技 (筋短縮にともなう)後斜角筋(C5〜7)へのストレッチ介入
 第1〜4頸椎の手技 (筋短縮にともなう)肩甲挙筋への介入
胸椎
 肋椎関節の手技1 (特に,肋骨頭関節,肋横突関節にともなう)上部胸椎への介入
 肋椎関節の手技2 下部胸椎への介入
腰部
 腰痛の手技1 椎間関節への介入(1)
 腰痛の手技2 椎間関節への介入(2)
 腰痛の手技3 骨盤操作による椎間関節への介入
 腰痛の手技4 前縦靱帯短縮(後弯)除去と椎間板への介入
 腰痛の手技5 椎間板内圧除去を目的に生理的前弯確保への介入
 腰痛の手技6 (特に,初期腰椎後弯にともなう)腰痛後弯可動性への介入
 腰痛の手技7 (特に,筋力低下にともなう)多裂筋,内・外腹斜筋,腹横筋力低下への介入
 腰痛の手技8 (特に,体幹側屈筋にともなう)腰方形筋への介入
 腰痛の手技9 (特に,股関節屈筋短縮にともなう)腸腰筋への介入
 腰痛の手技10 (特に,骨盤の傾斜にともなう)骨盤(inflare)への介入
 腰痛の手技11 腰仙関節(腰椎―仙椎間関節)への介入
 腰痛の手技12 (特に,足関節底屈筋の弱化にともなう)足関節底屈筋への介入
仙腸関節
 仙骨への手技1 仙骨前傾(Nutation)への介入
 仙骨への手技2 骨盤前傾と骨盤インフレアへの介入
 仙骨への手技3 仙骨前傾と多裂筋自動運動の介入
 仙骨への手技4 骨盤前傾とSLRの改善への介入
 仙骨への手技5 骨盤後方の梨状筋への介入
 仙骨への手技6 仙骨後傾(counter-Nutation)への介入

 参考資料
 索引