はじめに
家族事例検討の定式化への挑戦-FASC式家族事例検討
全国各地に熱心な家族看護の自主研究会が存在し,その多くは定例的な家族事例の検討を行っている.また,大学を中心にさまざまな家族看護の理論やモデルが紹介され,まさに家族看護の実践事例検討は百花繚乱の様相を呈している.しかし,その中で,カルガリー式家族看護モデルを中心に活動している研究会はそれほど多くない.また,事例検討は現場の実践の反省・評価を目的に行われることが多く,アセスメントの振り返りにはなっても直接的な実践能力養成につながるとは限らない.
本書で紹介する家族事例検討は,当初,理論やモデルの講義からでは理解が難しい現場向けに,家族事例の読み解きを通して,カルガリー式家族看護モデルの要点を学習することを目的に定式化してきたものである.家族事例の読み解きを行う役割をファシリテータと名付けているが,事例検討に向けた模擬事例の準備,家族の読み解き,その場での参加者からの情報の引き出し方,軌道修正,明日からできることへの助言等,ファシリテータが行う実践は,まさに最終的にカルガリー式家族看護モデルの実践力を向上させることに直結するものである.
日本では,すでにさまざまな家族事例検討会の進め方が紹介されているが,本書で紹介する方法は提示されていない.折しも,日本初の家族支援専門看護師が誕生する一方で,家族支援の専門性が問われているなか,カルガリー式家族看護モデルという1つのモデルであっても,上級実践力を確実に身に付けるうえで,領域外の専門職にもわかりやすいトレーニング方法が必要である.本書において,FASC式家族事例検討と命名したのは,他に多くの家族事例検討の方法がある中で,カルガリー式家族看護モデルに代表される家族システム看護をさらに拡大した家族システムケア(Family Systems Care)が中核的理念であることを明示し識別を容易にする目的と,この事例検討のファシリテータ養成を家族システムケア研究会(Family Systems Care-Japan: FASC-J)が将来的に担っていく可能性のためである.本書は,当初前著「実践力を高める家族アセスメントPart I」の一部として執筆する予定であったが,内容が独立したものであり,分量が多くなってしまうことからPart IIとして企画したものである.したがって,カルガリー式家族看護モデルに関する詳細は,前著および「グループワークで学ぶ家族看護論 第2版」を参照していただきたい.本書を通して,より多くの上級実践者が自信を持って技術を展開し,現場の家族ケアが豊かになることを祈っている.
最後に,FASC式の事例検討会の発展に大きく寄与してくださった医療法人ナカノ会の現スタッフおよび元スタッフ,国立病院機構南九州病院のスタッフ,家族システムケア研究会スタッフ,会員諸氏に心から感謝する.また,なかなか進まない執筆を励まし続けてくれた家族,友人そして医歯薬出版関係各位に感謝する.
2011年6月 小林奈美
家族事例検討の定式化への挑戦-FASC式家族事例検討
全国各地に熱心な家族看護の自主研究会が存在し,その多くは定例的な家族事例の検討を行っている.また,大学を中心にさまざまな家族看護の理論やモデルが紹介され,まさに家族看護の実践事例検討は百花繚乱の様相を呈している.しかし,その中で,カルガリー式家族看護モデルを中心に活動している研究会はそれほど多くない.また,事例検討は現場の実践の反省・評価を目的に行われることが多く,アセスメントの振り返りにはなっても直接的な実践能力養成につながるとは限らない.
本書で紹介する家族事例検討は,当初,理論やモデルの講義からでは理解が難しい現場向けに,家族事例の読み解きを通して,カルガリー式家族看護モデルの要点を学習することを目的に定式化してきたものである.家族事例の読み解きを行う役割をファシリテータと名付けているが,事例検討に向けた模擬事例の準備,家族の読み解き,その場での参加者からの情報の引き出し方,軌道修正,明日からできることへの助言等,ファシリテータが行う実践は,まさに最終的にカルガリー式家族看護モデルの実践力を向上させることに直結するものである.
日本では,すでにさまざまな家族事例検討会の進め方が紹介されているが,本書で紹介する方法は提示されていない.折しも,日本初の家族支援専門看護師が誕生する一方で,家族支援の専門性が問われているなか,カルガリー式家族看護モデルという1つのモデルであっても,上級実践力を確実に身に付けるうえで,領域外の専門職にもわかりやすいトレーニング方法が必要である.本書において,FASC式家族事例検討と命名したのは,他に多くの家族事例検討の方法がある中で,カルガリー式家族看護モデルに代表される家族システム看護をさらに拡大した家族システムケア(Family Systems Care)が中核的理念であることを明示し識別を容易にする目的と,この事例検討のファシリテータ養成を家族システムケア研究会(Family Systems Care-Japan: FASC-J)が将来的に担っていく可能性のためである.本書は,当初前著「実践力を高める家族アセスメントPart I」の一部として執筆する予定であったが,内容が独立したものであり,分量が多くなってしまうことからPart IIとして企画したものである.したがって,カルガリー式家族看護モデルに関する詳細は,前著および「グループワークで学ぶ家族看護論 第2版」を参照していただきたい.本書を通して,より多くの上級実践者が自信を持って技術を展開し,現場の家族ケアが豊かになることを祈っている.
最後に,FASC式の事例検討会の発展に大きく寄与してくださった医療法人ナカノ会の現スタッフおよび元スタッフ,国立病院機構南九州病院のスタッフ,家族システムケア研究会スタッフ,会員諸氏に心から感謝する.また,なかなか進まない執筆を励まし続けてくれた家族,友人そして医歯薬出版関係各位に感謝する.
2011年6月 小林奈美
第1章 FASC式家族事例検討の概要
1 家族事例を検討する
1)「ある家族の現象」が看護職にとって「事例」になるとき
2)個人を対象にする事例検討と家族システムを対象にする事例検討の違い
3)家族を読み解く
4)看護と支援を考える
2 成立環境と要件
1)組 織
2)主催者
3)参加者
3 学習機能と効果
1)組織として
2)ファシリテータとして
3)参加者として
コラム1 家族劇作成および模擬事例を用いた学習構造モデル
第2章 FASC式家族事例検討会の進め方
1 目指すゴール
2 事例のまとめ方
事例のまとめ方の例
3 模擬事例の使い方
4 ファシリテータの役割と技術レベル
1)事例検討の視点を提供する
2)場のパワーダイナミクスを調整する
3)情報を引き出す問いかけをする
4)新たに得られた情報によって視点を調整する
5)情報を集約し,視点に沿った助言をする
6)ファシリテータの技術レベル
5 プロセスの特徴と進め方のコツ
1)事例に関わる人(病棟,訪問看護ステーション単位)で定期的に行う場合
2)事例に関わらない人を含む組織(法人,病院,地域単位)の研修として行う場合
コラム2 家族事例検討会のスライド「ああ,お婿さん…」
第3章 ファシリテータとしての技術を磨く
1 ファシリテータに必要な技術
1)カルガリー式家族看護モデルを使って事例を読み解き,学習の焦点を定める
2)研究論文,関連書籍を資料として生かす
3)「困りごと」の本質を見抜く
4)参加者・関係者の振り返りと発言を促す
5)多様なものの見方の可能性を拓く
6)家族内の円環的コミュニケーションパターンを浮かび上がらせる
7)患者/家族と関係者の円環的コミュニケーションパターンを浮かび上がらせる
8)関係者および参加者の発言,指摘の長所を認知し,根拠を持って褒める
9)好ましい変化とそうでない変化の現象の違いを際立たせる
10)関係者(参加者)が明日からすぐにできることは何かを考えることを促し,それを行ったときの変化を推測することを促す
2 FASC式事例検討の展開 ―実例の紹介
事例1 本人のやる気と家族の関わり
検討したい実際の事例
模擬事例の設定(ハナコさんとその家族)
本事例に対する検討会
事例2 夫婦という不思議なつながり
検討したい実際の事例
模擬事例の設定(子どもがいない夫婦と病の関係)
本事例に対する検討会
事例3 母と娘と病の体験
検討したい実際の事例
模擬事例の設定(いろいろな立場の「母」の気持ち)
本事例に対する検討会
第4章 実践事例報告から家族システムケア研究へ
1 事例研究とは?
1)事例研究とは何か
事例検討および事例報告との違い
事例研究は「格」が低いか?
事例研究に取り組む心構え
2)事例研究をデザインする
研究デザイン(Research design)の種類
研究課題と具体的な命題
データと命題を結びつける論理/結果を解釈する基準
分析の単位
3)事例研究における研究のプロセスと留意点
研究課題の設定:一般化を目指すのか,目指さないのか
小さな(プチ)デザインと大きな(グランド)デザイン
事例研究の質を保証する要素
2 実践報告を家族システム看護研究へ発展させるために
1)日常的な実践を報告する
日頃から家族システム看護を意識して実践する
報告の動機
デザインと分析ユニット
家族の情報の整理
実践者側の整理
結果とゴール
うまくいかなかった事例の振り返りを報告する
同意を取る範囲
2)同意書が取れない実践を報告する
模擬事例として報告する
3)研究のために計画された実践を報告する
4)FASC式家族事例検討会の内容を報告する
模擬事例の共有
ファシリテータの発言と参加者の発言
5)教育実践の内容を報告する
索引
1 家族事例を検討する
1)「ある家族の現象」が看護職にとって「事例」になるとき
2)個人を対象にする事例検討と家族システムを対象にする事例検討の違い
3)家族を読み解く
4)看護と支援を考える
2 成立環境と要件
1)組 織
2)主催者
3)参加者
3 学習機能と効果
1)組織として
2)ファシリテータとして
3)参加者として
コラム1 家族劇作成および模擬事例を用いた学習構造モデル
第2章 FASC式家族事例検討会の進め方
1 目指すゴール
2 事例のまとめ方
事例のまとめ方の例
3 模擬事例の使い方
4 ファシリテータの役割と技術レベル
1)事例検討の視点を提供する
2)場のパワーダイナミクスを調整する
3)情報を引き出す問いかけをする
4)新たに得られた情報によって視点を調整する
5)情報を集約し,視点に沿った助言をする
6)ファシリテータの技術レベル
5 プロセスの特徴と進め方のコツ
1)事例に関わる人(病棟,訪問看護ステーション単位)で定期的に行う場合
2)事例に関わらない人を含む組織(法人,病院,地域単位)の研修として行う場合
コラム2 家族事例検討会のスライド「ああ,お婿さん…」
第3章 ファシリテータとしての技術を磨く
1 ファシリテータに必要な技術
1)カルガリー式家族看護モデルを使って事例を読み解き,学習の焦点を定める
2)研究論文,関連書籍を資料として生かす
3)「困りごと」の本質を見抜く
4)参加者・関係者の振り返りと発言を促す
5)多様なものの見方の可能性を拓く
6)家族内の円環的コミュニケーションパターンを浮かび上がらせる
7)患者/家族と関係者の円環的コミュニケーションパターンを浮かび上がらせる
8)関係者および参加者の発言,指摘の長所を認知し,根拠を持って褒める
9)好ましい変化とそうでない変化の現象の違いを際立たせる
10)関係者(参加者)が明日からすぐにできることは何かを考えることを促し,それを行ったときの変化を推測することを促す
2 FASC式事例検討の展開 ―実例の紹介
事例1 本人のやる気と家族の関わり
検討したい実際の事例
模擬事例の設定(ハナコさんとその家族)
本事例に対する検討会
事例2 夫婦という不思議なつながり
検討したい実際の事例
模擬事例の設定(子どもがいない夫婦と病の関係)
本事例に対する検討会
事例3 母と娘と病の体験
検討したい実際の事例
模擬事例の設定(いろいろな立場の「母」の気持ち)
本事例に対する検討会
第4章 実践事例報告から家族システムケア研究へ
1 事例研究とは?
1)事例研究とは何か
事例検討および事例報告との違い
事例研究は「格」が低いか?
事例研究に取り組む心構え
2)事例研究をデザインする
研究デザイン(Research design)の種類
研究課題と具体的な命題
データと命題を結びつける論理/結果を解釈する基準
分析の単位
3)事例研究における研究のプロセスと留意点
研究課題の設定:一般化を目指すのか,目指さないのか
小さな(プチ)デザインと大きな(グランド)デザイン
事例研究の質を保証する要素
2 実践報告を家族システム看護研究へ発展させるために
1)日常的な実践を報告する
日頃から家族システム看護を意識して実践する
報告の動機
デザインと分析ユニット
家族の情報の整理
実践者側の整理
結果とゴール
うまくいかなかった事例の振り返りを報告する
同意を取る範囲
2)同意書が取れない実践を報告する
模擬事例として報告する
3)研究のために計画された実践を報告する
4)FASC式家族事例検討会の内容を報告する
模擬事例の共有
ファシリテータの発言と参加者の発言
5)教育実践の内容を報告する
索引








