やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 地方分権の推進とともに,地域の特性に応じた保健事業の実施が求められるようになり,地域保健活動の担当者には,施策化能力および活動評価の能力向上が求められています.施策化および評価のためには,保健福祉の専門家として,その対象となる地域の的確なアセスメントを行うことが基盤となります.健康課題の把握と確定,計画立案,評価までの一貫した地域看護アセスメントのガイドがあれば,地域の実態を把握することが容易になり,評価の視点を明確にすることが可能です.
 地域保健活動は医学モデルのもとで,母子保健および疾病予防を重点的に行われてきた経緯があり,自治体単位のデータは,医学的・身体生物学的な母子保健のデータや感染症に関するデータ,死因分析のデータについては蓄積されています.しかし,生活モデルにおいて重要視されている生活に関するデータ,つまり,心理社会的データや健康行動に関するデータは系統的に蓄積されているとはいえない状況にあります.地域保健活動の最終目的は人々のQOLを高めることであり,地域の人々の多様な生活を支援するためには,生活モデルに基づく実践的な地域看護アセスメントの用具が必要です.
 そこで,私たちは日本で地域の看護活動において活用できるアセスメントのガイドを作成しようと,海外でのNANDA(北米看護診断)やNIC(看護介入分類),NOC(看護成果分類),ICNP(R)(看護実践国際分類),ICF(国際生活機能分類)などの成果を参考に取り組んできました.このたび,多くの保健師の皆様のご協力により,地域保健福祉活動を前提にした地域の看護アセスメントのガイドを作成いたしました.
 本地域看護アセスメントガイドの特徴は,保健福祉計画立案や保健福祉事業計画及びその評価に活用できるように,1)地域看護に携わる保健師/看護師にわかりやすい表現であること,2)系統的に地域の健康課題を捉えられることを念頭においています.
 また,地域看護アセスメントガイドの内容は,1)保健師としての地域看護アセスメントの視点と枠組みの明確化,2)中期計画立案のための健康課題の視点の明確化,3)地域看護アセスメントの具体的な指標の例示,4)健康課題の関連要因(背景と対処力,影響)の明確化を図りました.
 地域での公衆衛生看護や在宅看護の判断枠組みの妥当性を高めていくために,これからも検討が必要な課題はたくさんあります.また,地域看護としてのデータの収集や分析方法の開発も重要な課題です.このガイドがより実践的で使いやすいものになるよう,実践の場で日常活動にご利用いただき,ご意見をいただければありがたく存じます.
 なお,本ガイドは平成14〜16年度の文部科学省科学研究費補助金を受けて行った研究の成果です.研究にご協力いただいた方々に心から感謝申し上げます.
 2007年6月 編者
I 基本編:「地域看護アセスメントガイド」とは
1 地域看護活動の目的とアセスメントガイドの必要性(佐伯和子)
 ・地域看護活動における地域とは
 ・地域看護活動の目的
  活動の目的 健康課題と行政課題
 ・地域を対象とする看護アセスメントの場面
  保健福祉計画の策定 事業の見直し 保健師の直感で問題と思う事象に出会ったとき
 ・地域看護アセスメントガイドの有効な活用
  保健福祉計画を策定するとき 担当地域を系統的にアセスメントしたいとき 現在実施している事業の見直しをしたいとき 保健師の直感で問題と思う事象に出会ったとき 明らかになった健康課題の原因や健康課題を解決するための対処力を考えたいとき 対策を検討したいとき 健康や生活の実態を質的または量的なデータとして明らかにしておく必要性
2 地域看護アセスメントの過程(佐伯和子)
 ・アセスメント過程の概要
 ・対象となる地域および集団の特定
  国・都道府県・市町村・地区の関連を考える アセスメントの対象となる地域を明確にする アセスメントの対象となる集団を明確にする
 ・対象地域の基本構造(人口集団とサブシステム)のアセスメント
  概要を把握する 地域に住んでいる人々の特性を把握する 対象となる地域の環境特性を把握する
   <コラム コミュニティ・アズ・パートナーモデル>
 ・人々の健康状態,生活様態を把握し,健康課題を抽出する
  健康と生活の実態の5領域 健康課題の種類
 ・健康課題を決定し,健康課題の構造化(原因,対処力,影響)を考える
  なぜその課題が起きているのか背景や原因を考える その課題を解決するために不足しているまたは活用できる資源や対処力を考える 健康課題が地域に及ぼす影響を予測する
 ・健康課題の優先性の判断
 ・アセスメントから対策の検討
  健康課題から対策を検討したいとき 関連要因の所在を対策に生かしたいとき
3 データ収集と判断(佐伯和子)
 ・社会調査や疫学的手法による量的データ
  量的データの特性 データ源 データ収集方法 データの分析と読み取り
 ・質的データ
  質的データの特性 データ源 方法
 ・収集したデータを判断する
  量的な判断 質的な判断 総合的判断
 ・倫理的配慮
  疫学研究に関する倫理指針 看護研究における倫理指針 個人情報保護とOECD8原則 地域看護アセスメントにおけるデータ収集と取り扱い
4 アセスメントモデルと領域別のアセスメント項目と指標
 ・アセスメント項目全体の構成(佐伯和子)
  アセスメントガイドの枠組み 健康と生活の5領域と大項目,中項目一覧 健康課題の視点(中項目)のモデル図 大項目と中項目の定義(高齢者を例として)
 ・地域の全体的な健康のアセスメント
 ・領域別のアセスメント
  (1)高齢者を中心としたアセスメント項目,指標・モデル図
   生物身体的領域(織田初江) 心理的領域(塚田久恵) 社会的領域(大野昌美) 行動的領域(大野昌美) スピリチュアル(霊的)領域(塚田久恵)
  (2)母子のアセスメント項目,指標・モデル図(加藤欣子)
   生物身体的領域 心理的領域 社会的領域 行動的領域 スピリチュアル(霊的)領域
  (3)成人のアセスメント項目,指標・モデル図(和泉比佐子)
   生物身体的領域 心理的領域 社会的領域 行動的領域 スピリチュアル(霊的)領域
II 実践編:地域看護アセスメントと評価の実際
1 母子保健活動(虐待)の実践例(上田 泉)
 (1)地域の概要
 (2)保健師の問題意識
 (3)アセスメントデータ収集とその見方
 (4)健康課題の特定と分析
 (5)健康課題への対策
 (6)評価計画
2 成人保健活動(生活習慣病予防)の実践例(和泉比佐子)
 (1)地域の概要
 (2)保健師の問題意識
 (3)アセスメントデータ収集とその見方
 (4)健康課題の特定と分析
 (5)健康課題への対策
 (6)評価計画
3 高齢者保健活動(介護予防)の実践例(河原田まり子)
 (1)地域の概要
 (2)保健師の問題意識
 (3)アセスメントデータ収集とその見方
 (4)健康課題の特定と分析
 (5)健康課題への対策
 (6)評価計画
4 高齢者保健活動(認知症高齢者の介護者支援)の実践例――都市近郊P町における「認知症高齢者の介護家族の会」の設立(工藤禎子)
 (1)地域の概要
 (2)保健師の問題意識
 (3)アセスメントデータ収集とその見方
 (4)健康課題の特定と分析
 (5)健康課題への対策
 (6)評価計画