やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文-その人らしくその家で
 日本はいまだかつてない超高齢社会を迎えています.医療費の増加,介護費の増加は病院を中心とした医療から,治療と検査以外は在宅へと転換を迫られています.とくにその終末期の看取りを在宅において行うことを推進し,また施設やグループホームといった自宅に代わる場所でも行うことを認めたのが2006年4月の診療報酬の改定でした.その改定の是非については議論のあるところだと思います.しかしそれらの施策は別にしても,家は,人それぞれの生き方を尊重し,その人らしく本来の姿で過ごすことができる最良の療養場所であると思います.
 私たちは横浜市北部に位置する都筑区において1995年に医師会を設立し,1996年2月に訪問看護ステーションを開設しました.在宅診療に熱心な医師と訪問看護師による二人三脚から,ホームヘルパー,ケアマネジャーを加え,24時間365日の在宅ケアをチームで進めてきました.その間にも,診療報酬の改定により,在院日数の短縮が加速され,在宅療養患者さんの様相は大きく変化してきました.ターミナルケアの増加,医療管理を必要とする重度療養者の増加,弱体化した家庭等々,常に私たちにスキルアップを迫っています.
 本書は,在宅療養支援診療所として登録し活動している医師,または在宅医療に興味があってやってみようとお考えの医師,また,在宅療養支援診療所の医師と連携をとっていきたいと願う訪問看護ステーションの看護師やケアマネジャーの皆さんに読んでいただきたいと願っています.
 編集に当たっては多くの先生方に執筆をお願いしました.その結果,内容的にはきれいにまとまった形にはなっていません.しかし,その分それぞれの先生方の熱い想いがあふれるものとなりました.地域の中で,病院で,患者さんと真摯に向き合う姿が浮かび上がってきます.在宅医療には,いろいろな形があってよいと思います.こうでなくてはならないということはありません.自分の家で自分らしく暮らしたい,自分らしく家族に囲まれて最後の時を過ごしたい,そう願うすべての人を支える医療でありたいと願っています.
 本書を読まれた方が,「さらにがんばっていこう」または「自分もやってみよう」と思っていただけることを切に願っています.
 2007年4月 13年目の新たな一歩に
 斉木クリニック院長 斉木和夫
 横浜市都筑医療センター在宅事業部 松田栄子
 序文−その人らしくその家で(斉木和夫・松田栄子)
I 在宅療養支援診療所とは
 1.在宅療養への流れ(斉木和夫)
  在宅医療の変遷
  在宅医療の内容
  訪問看護
  24時間連携体制加算
  在宅療養支援診療所
 2.在宅療養支援診療所とは何か(岡田孝弘)
  在宅医たちの往診スタイル
  在宅医の種類と対応する患者の状態
  在宅療養を希望する患者の状態
  在宅療養の適応条件
  在宅療養支援診療所とは
  訪問看護ステーションとの連携
  各サービス事業所との連携
  病院との連携
  患者に渡す説明文,書式
  在宅療養を始める前に家族との面談
  在宅医療の今後
  届出の方法
  これから在宅療養支援診療所にしようと思う医師へ
II 在宅療養のネットワーク
 1.連携のとり方
  ・病院
   (1)病院と在宅療養支援診療所の関係(根本 洋)
     【事例1】
    初診からインフォームドコンセント(IC)までの流れ
     勉強会発足以前の対応/勉強会発足以後の対応/【事例2】/【事例3】
    治療開始からがん性腹膜炎までの流れ
     勉強会発足以前の対応/勉強会発足以後の対応/【事例4】
    死を看取る
     勉強会発足以前の対応/勉強会発足以後の対応/【事例5】/【事例6】
   (2)医療ソーシャルワーカーの役割(遠山越子)
    医療ソーシャルワーカーとは
    今,急性期の病院では
    病院におけるソーシャルワーカーの守備範囲とは
    退院支援の流れ
    おわりに
   (3)在宅療養支援診療所と病院との連携で必要なこと(佐々木 治)
    在宅療養支援診療所は病院とどう連携していきたいか
    在宅療養支援診療所から病院に望むこと
    在宅療養にとって使いやすい器材,薬品の規格の標準化
  ・訪問看護ステーション
   (1)訪問看護ステーションが在宅療養支援診療所に期待していることと連携のとり方(吉井涼子)
    訪問看護ステーションからみた在宅療養支援診療所の現状と問題点
    訪問看護ステーションが在宅療養支援診療所に期待していること
   (2)在宅療養支援診療所が訪問看護ステーションに期待することと連携のとり方(矢野孝子)
    在宅療養とは
    在宅療養を必要とする患者とその介護者
    訪問診療の実際
    在宅療養支援診療所と患者とその家族との関係
    在宅療養介護者の心構え
    在宅支援診療医が考える在宅療養患者の心理状態
    在宅支援診療医と訪問看護ステーションとの関係
    連携の実際
     【事例】
    まとめ
  ・ケアマネジャー
   (1)在宅療養支援診療所とケアマネジャーとの連携のとり方(岡田孝弘)
    ケアマネジャーに対する情報提供書
    ケアカンファレンスに代わるもの
    ケアマネジャーとの連携のとり方の実際
     医師に好かれないケアマネジャー/医師が好む連絡方法とは
    ケアマネジャーに期待すること
   (2)ケアマネジャーが期待する在宅療養支援診療所との連携のとり方(遠藤美和子)
    在宅医に期待すること
     壁のない関係作り/情報の共有化/ケアマネジャーへの理解
    在宅医との連携方法
     連携方法/連携時の注意点
    さまざまな場面での連携の実際
    利用者・家族の在宅をともに支えるために
 2.地域での在宅療養ネットワーク-在宅療養支援診療所のネットワークの実際といくつかの例(松田栄子)
  介護保険でのサービスを中心とした高齢者の場合
   要支援1,要支援2と認定された場合/要介護1〜5と認定された場合
  がんのターミナルケアの場合
  小児の場合
   乳児で初めての在宅療育の場合/在宅療育の中で状況の変化から支援が必要になった場合/小児の在宅療育ネットワークでの留意点
III ターミナルケアと在宅での看取り
 1.ターミナルケアと在宅での看取り(矢野孝子)
  ターミナルケアとは何か
  在宅で看るターミナルとは
  末期がんとは
  在宅ターミナルケアの実際
   末期がん患者の場合/【事例1】/慢性呼吸不全患者の場合/【事例2】/脳血管性疾患患者の場合/【事例3】
  ターミナルケアによくみられる合併症
  患者本人のQOLとより満足できる在宅生活の支援
   在宅ターミナル患者の心理状態/ターミナルを看取る家族の思い/安心・安全な在宅支援とは/患者のQOLとは
 2.緩和ケア病棟との連携(中村明央)
  昭和大学横浜市北部病院の緩和医療に対する考え
  緩和ケア面談
  緩和ケア病棟の入院基準
  面談の現状
  緩和ケア病棟から在宅へ
   【事例1】/【事例2】
  緩和ケア病棟との連携
 3.看護師と在宅医,病院主治医,緩和ケア病棟との連携(吉井涼子)
  患者退院に際する訪問看護開始までの過程と連携
   往診医との連携/病院主治医との連携
  在宅診療中における連携
   往診医との連携/病院主治医との連携
  緩和ケア病棟との連携
  理想のターミナルケアのあり方とその取り組み
IV 在宅療養支援診療所医師と患者・家族との関係の作り方(小林雅子)
 患者の病気を理解する
  【事例1】
 人として理解する
  【事例2】
 病気をともに考える
  【事例3】
 信頼と相互関係を築く
  【事例4】
 実際の関係作りに大切なこと
 おわりに
V 連携の実際
  事例提供診療所のプロフィール
 (1)脳梗塞後遺症(斉木和夫)
   【事例】/導入期/介護保険開始時期/安定期/現在
 (2)要介護5-寝たきり,胃瘻のケース(大野勝之)
   【事例】/経過
 (3)慢性呼吸不全(斉木和夫)
   【事例】/第1期 介護保険利用開始まで/第2期 肺気腫末期の状態/まとめ
 (4)多系統変性症(小林雅子)
   【事例】/導入期/慢性進行期/再入院後/終末期/主治医の一言
 (5)小児(時枝啓介)
   【事例1】/具体的連携
  小児在宅医療の特徴について
   【事例2】/具体的連携
  病診連携に対して
  診診連携に対して
 (6)末期がん(小川憲章)
   【事例】/経過および連携/在宅緩和治療のための要点
 (7)ALS(佐々木 治)
   【事例1】/【事例2】/【事例3】/【事例4】/まとめ
 (8)ターミナルケア-変則的な対応をしたケース(岡田孝弘)
   【事例1】/【事例2】/まとめ
VI 在宅医療の今後の展望(斉木和夫)
 終末期の医療
 療養病床再編(削減)の影響
 医療,看護,介護の連携と介護の質のレベルアップ
資料
 在宅医療における保険点数算定方法(岡田孝弘)
  在宅医療の保険点数の基本的構成
   在宅患者診療・指導管理料について/在宅療養指導管理料について/在宅療養指導管理材料加算について/投薬料・検査料・処置料について/特定保険医療材料について/在宅療養支援診療所の場合/診療報酬明細書の例