やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 訓練は,専門家が目標を設定し,定めた期間内に,それに到達するために行なうものです.体操は,ラジオ体操にみられるように,だれでも,自分のペースに合わせ,健康のために行なう運動です.定めた期間内にそれに到達しなければならないといったことはありません.
 この本では,体操を行なう対象を,第1に「虚弱高齢者」においてあります.「虚弱高齢者」のはっきりした定義はまだありませんが,だれもが何となくイメージしている状態像があります.「病気ではないが元気とはいえない.はっきりした障害は無いけれども,動作が危なっかしい」といったところでしょうか.
 第2には,肩や膝などいろいろの運動器官に慢性の痛みのある人たちです.このような人たちのための体操はいろいろあります.それはそれで意味がありますが,解剖学,運動学,また治療学的にみて,基本をしっかりおさえたものはそれほど多くはありません.医学専門書では一般読者には不向きですし,民謡など音楽にあわせた体操は,それなりに楽しく効果もあるでしょうが,運動の基本的な目標がおさえられていません.人により好き嫌いやテンポが合わないこともあります.まず大切なことは,それがどういう意味をもった運動なのかを理解することです.そんなことは医療者に任せておけば,となると,それは訓練になってしまいがちです.
 この本は,運動器官の一部に慢性的な不調がある場合にはその改善に役立ち,わるくしない,治療の助けにもなる,またそうならないように日ごろから注意する.その理屈を知って効果的に行なうための運動・体操の指導者用のテキストブックです.
 イラストは,それぞれのポーズを写真にとり,小野澤篤人さんにわかりやすく,また力強い線で描いていただきました.大変な作業でした.イラストをよくみて,どこにポイントがあるかを勉強し,一般の人たちに指導してください.少し勉強を重ねれば,一般の人たちにも役立つかもしれません.

 平成15年10月 大田仁史
目でみる介護予防いきいきヘルスいっぱつ体操 
 もくじ

I.まず,はじめに
 1.守るも攻めるもこの一線
 2.終末期リハビリテーションの考えかたと手法
 3.介護予防の考えかた
 4.関節可動域(ROM;Range of Motion)について
 5.徒手筋力テスト(MMT;Manual Muscle Test)について
 6.中枢性の運動麻痺と末梢性の運動麻痺について
 7.体力について

II.基本的関節可動域の運動
 1.頸椎(首)の運動
 2.肩関節-肩甲骨の運動
 3.肘関節の運動
 4.前腕の運動
 5.手関節の運動
 6.手指関節の運動
 7.下肢の運動
 8.股関節の運動
 9.膝関節の運動
 10.足関節の運動

III.運動によって関節はどう動くか
 1.首まわし運動
 2.肩から上肢の体操
 3.股関節と足首の運動
 4.股・膝の屈曲

IV.介護予防に大切な運動・体操
 1.嚥下に関する運動・体操
 2.肩の痛み予防の運動・体操
 3.体幹の運動・体操
 4.腰痛予防の運動・体操
 5.ストレッチ
 6.膝痛予防の運動・体操
 7.ボケ予防の運動・体操
 8.失禁予防の運動・体操
 9.転倒予防の運動・体操
 10.腹筋強化の運動・体操
 11.脳卒中の姿勢
 12.ドクターひとしのお楽しみ体操

 ビール飲みバストアップ 振り袖予防
 大根抜き体操 顔面筋の運動 肥満チェック
 足握手 お迎え体操 蛙の股開き
 なやましポーズ 腹式呼吸

V.介護予防に大切な筋と筋群の強化
 1.腸腰筋の強化
 2.腰方形筋,側腹筋の強化
 3.左前脛骨筋群,大腿四頭筋,反対側大腿筋膜張筋,腹筋の強化
 4.前腕伸筋の強化
 5.大胸筋の強化(バストアップ)
 6.三頭筋の強化(振り袖予防)
 7.股関節内転筋群の強化
 8.中殿筋と大腿筋膜張筋,前脛骨筋群の強化
 9.前腕屈筋群の強化,握力の強化,三角筋の強化
 10.上腕二頭筋,三頭筋の強化

 イラストレーション:小野澤篤人 表紙・レイアウト:杉山光章 (M's)