やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 「リハビリテーション看護研究」は,これまで,リハビリテーション看護を研究・実践する皆様とともにリハビリテーション看護にとって欠くべからざる視点を取りあげ,最新の知識と看護実践を紹介しながら,根拠に基づくリハビリテーション看護研究や看護実践を考えてきました.1号から7号までの視点としては,リハビリテーション看護の現状と展望,身体的・心理的評価,チームアプローチの理論と実際,セルフケアの考え方と活用,地域生活を支えるリハビリテーション看護の役割,そして家族支援の方法とどれも,専門性あるリハビリテーション看護の確立に向けて重要なものです.
 今回の第8号では,まず,リハビリテーション看護の分野で重要ですが取り組みはこれからである「セクシュアリティ」を取りあげました.性の問題は個々人の特性やプライバシーと関係するため,介入が難しい領域です.とりわけ身体障害が伴うと複雑・困難です.筆者はリハビリテーション看護の授業で,頸髄損傷(C5レベルの損傷)ながらも在宅で奥さんや子どもさんの協力も得られて前向きな生活を送っている30代後半の男性に講義をお願いしています.指に装具をつけスライドプレゼンテーションを駆使しての講義の中で,その方が「タブーな話だが」と前置きして「受傷後勃起はできるが射精はできない,自分はそれで悩んでいる」と80人の学生の前に投げかけました.さらに,このような障害をもつと勃起はどんなとき起きるかなどを話してくれました.その率直な言動から,学生たちは真摯に受け止め,性の問題が人間にとっていかに大切かを改めて考えたという反応が多くありました.
 セクシュアリティとは人間の性を生物学的側面(生殖性)だけでなく,精神,社会,文化的な側面からも包括的・全体的に捉え,人間同士のきずなや愛情の表現,快楽性といった特質をもち,「生」そのものであるとした概念(看護学事典)とされています.第一の柱の「リハビリテーション看護における性の問題」では,このようなセクシュアリティを多様な局面からとりあげました.前述のような,障害者の立場からのセクシュアリティについても述べていただきました.「国内外の動き」も合わせて,障害のある方の性の問題と看護を考えていくうえで,役立つ,読み応えある特集であると考えています.
 次に,回復期リハビリテーション病棟が制度化され3年経ちました.リハスタッフが病棟専従となったなかで,看護師はどのような働きをしているのでしょうか.より専門性が発揮できているのでしょうか.そのような観点から,実践研究では「回復期リハビリテーション病棟における看護師のエンパワメント」について取りあげました.エンパワメントについて理解を深め,多くの先駆的な実践例を提示しながらリハビリテーション看護師の影響力や役割について改めて考え,今後もこの病棟がますます増えるなかで,さらによりよいリハビリテーション看護の方向を探求したいと考えます.
 本号をもって本シリーズは現行の形での刊行は一区切りとなります.今後も専門性あるリハビリテーション看護がさらに発展していくためにも,この分野の優れた看護ケアを埋もれさせないで,記述し,研究的関心をもって発表し,蓄積していくことが大切なのではないかと考えます.お互いにより一層研鑽しましょう. 2003年7月 編者
1 リハビリテーション看護と性の問題
 1 ヒューマン・セクシュアリティに看護師はどのようにかかわるか(野々村典子)
    筆者の考える「セクシュアリティ」とは/ セクシュアリティはどのように捉えられているか/リハビリテーション看護でのセクシュアリティとは
 2 性(セクシュアリティ)に関する看護の動向と傾向―文献からみた障害と性の看護に焦点をあてて(益田早苗)
    はじめに/ 看護と性(セクシュアリティ)/ 看護文献の動向と傾向/障害者と性の看護に関連したその他の文献の動向/ セクシュアルヘルスにおける世界的動向/障害と性の看護における今後の課題
 3 セクシュアリティの問題をかかえる脊髄損傷者へのかかわりの方法と実践(宮内康子)
    はじめに/ 脊損者の不安の受け止めと看護介入の時期/脊損者の性機能障害への援助の実際/ おわりに
 4 セクシュアリティに問題のある患者の評価(高坂哲)
    はじめに/ 男性の性機能障害/ 疾患別性機能障害と対処/ 女性の性機能障害/性機能に問題のある患者へのかかわり方
 5 障害者のセクシュアリティについて―脊髄損傷者の立場から(尾関仁紫)
    はじめに/ 社会復帰への経過/ 急性期から回復期/デリケートな問題/医療現場に望むこと―情報・相談の場の提供
    view
 6 脊髄損傷者の妊娠・出産(道木恭子)
    脊髄損傷女性の性機能障害/ 脊髄損傷者の妊娠・出産に関する医学的背景/脊髄損傷者の妊娠期における身体的状況/ 脊髄損傷者の出産について/医療従事者に対する意見/ まとめ
 Column 看護学生が直面した性的会話のとまどいとそれから(泉キヨ子)
2 リハビリテーション看護実践研究―回復期リハ病棟における看護師のエンパワメント
 1 看護の中にエンパワメントをみる(半田幸代)
    はじめに/ エンパワメントとは/ エンパワメントの意味/「主体化のプロセス」より/他領域で使用されている「エンパワメント」/リハビリテーションのある小さな橋を渡って―habilisとの共生
 2 回復期リハビリテーション病棟運営における看護師のエンパワメント―今,回復期リハ病棟看護師に求められるもの(黎明郷リハビリテーション病院)(和島早苗)
    はじめに/ 当回復期リハ病棟の状況と評価/ 回復期リハ病棟での看護師の課題と役割/チームの中での看護師の役割/ 回復期リハ病棟での看護の役割/リハ看護師の専門性についての私見的考察
 3 チームアプローチの中での看護師の影響力―ADL向上後も落ち込みを見せた2事例への援助過程を通して(長崎北病院)(松尾理佳子,山口多恵,福江まさ江,西山久美子)
    はじめに/ 看護の援助過程/2事例からの考察 ―リハチーム内での協働と看護師の独自のかかわり/チームアプローチの中での看護師の影響力とは
 4 ケースカンファレンスでの看護師の影響力―達人ナースと新人ナース(茨城県立医療大学付属病院)(丸山みつ)
    回復期リハビリテーション病棟における看護の役割/ ケースカンファレンス/カンファレンスでの影響力 ―達人ナースと新人ナース/ 事例紹介/ まとめ
 5 リハビリテーション総合実施計画推進における看護師の役割(高橋玖美子)
    はじめに/ リハ総合実施計画導入による問題点/ リハ総合実施計画推進がもたらした効果/リハ総合実施計画推進における看護師の役割/ おわりに
3 リハビリテーション看護の国内外の動き
   1 Sexually Issues/Management and Nursing Care for the Patient with Disabilities(Betty R.Clark/杉若裕子訳)
    Introduction to Sexuality Concepts/Specific Sexual Interventions Related to Rehabilitation Diagnoses/Other Physical Issues Related to Sexuality/ Psychosocial Issues of Sexuality

トピックス
 途上国でみた障害者の生きる力(大西真由美)

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