やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 「心臓超音波テキスト」に続き「腹部超音波テキスト」を刊行する運びとなった.計画から5年の歳月を要したが,この刊行本2冊は我々技師が,超音波検査を行う上での検査の進め方,操作法を簡潔にまとめ,また何か技術的なことで困った場合に開けば必ず役立つテキストに仕上げることができたのではないかと自負している.本邦で超音波検査が検査室で行われるようになって30数年経つだろうか,当時は水浸法によるBモード断層法が行われていたように記憶する.胆石や腎結石の検出に,また乳腺腫瘤の悪性度の同定に利用されていた.数年後,コンタクトコンパウンドスキャン方式の装置が開発されると即座にそれらが主流となった.従来の機械式スキャンではなく,自らの手でプローブを持ち体表面をなぞるようにスキャンして胆石などを検出する方法である.患者の呼吸調節,スキャン速度,タイミング,機器条件等を上手く調整しないと胆石を捉えることができない,まさにこれぞエコーテクニックの真髄であったが,それらを熟達するのが魅力であった.現在のリアルタイム断層装置で育った方達にとっては,想像を絶する世界であろう.その後,スキャンコンバータ方式の画像蓄積型モニターの出現により,操作・記録がきわめて簡便となり,瞬く間に腹部エコー検査が日本全土の病院に拡がったことを記憶している.
 その当時から,本学会の前進である日本超音波検査技術研究会の創始者,北里大学病院古木量一郎先生はこの分野での先駆者であり,我々技師の指導者であった.古木先生や他の諸先輩方のご努力により超音波検査が技師の手で行えるように関係学会を奔走され,技師が主体である本学会の礎を築かれた.現在では超音波検査が医師から技師の手に委ねられ,超音波検査士としての資格が急速に拡がりをみせたことは周知のことである.
 1974年に本会が発足し,今年でちょうど28年目を迎えようとしている.歳でいえばまさに働き盛りのエネルギッシュな年齢である.本会は今まさに盛会となり,会員数は8000名を越えた.そんな熱き同胞達の声に押され,また支えられながら本書が誕生した.「心臓超音波テキスト」でも申し上げたが,これから腹部エコーを学ばれる会員,あるいはすでに実際に検査を実施されている会員の方たちに少しでも役立ってもらえるように,撮り方・考え方を中心とした事柄をできるだけわかりやすく,またかゆいところに手の届くところまで執筆していただけるように依頼した.新進気鋭の先生方からこの道のオーソリティの先生方まで幅広く選択し,本学会で実施している超音波検査講習会などで講演していただいた内容を,またハンズオンセミナーで実施していただいたテクニックの極意をも記述していただいたつもりである.
 本書が,腹部超音波検査の技術テキストとして会員の皆様方に少しでもお役に立てば幸いである.また,エコー検査が本会とともに,今後さらに発展・普及していくことを執筆者一同,心から願うものである.
 平成14年3月
 書籍編集委員長 増田喜一
 発刊にあたって
 序文
 執筆者一覧

第1章 検査の進め方
I.超音波検査の基本
 1.超音波検査の特徴
 2.超音波検査の習得
   1)超音波検査に必要な知識
   2)腹部超音波検査の習得項目
 3.初心者に目立つ誤り
 4.検査のピットフォール
II.超音波検査の実際
 1.超音波検査の流れ
 2.前処置と検査の準備
 3.検査の体位
 4.呼吸法
 5.探触子の走査法
III.画像の表示法
IV.装置の取り扱い
 1.使用目的に応じた超音波装置の選択
 2.装置の条件設定
V.アーチファクト
   1)多重反射
   2)サイドローブ
   3)鏡像
   4)レンズ効果
   5)断面像の厚み
   6)音響陰影
   7)音響増強
   8)外側陰影

第2章 解剖学
I.腹部全体の解剖
II.各臓器の解剖
 1.胆嚢・胆管の解剖
 2.肝臓の解剖
 3.門脈系の解剖
 4.脾臓の解剖
 5.膵臓の解剖
 6.腎臓の解剖
 7.副腎の解剖
 8.消化管の解剖
   1)食道
   2)胃
   3)小腸
   4)十二指腸
   5)大腸
 9.リンパ節の解剖

第3章 基本走査法
I.各臓器における走査法
 1.肝臓の走査法
   1)心窩部縦走査
   2)左肋骨弓下〜心窩部横走査
   3)右肋骨弓下走査
   4)右肋骨弓下縦走査
   5)右肋間走査
 2.脾臓の走査法
   1)左肋間走査
 3.胆嚢の走査法
   1)右肋骨弓下走査
   2)右季肋部横走査
   3)右季肋部縦走査
   4)右肋間走査
 4.胆管の走査法
   1)右肋間走査〜右季肋部斜走査
   2)右肋骨弓下走査
   3)心窩部横走査
 5.膵臓の走査法
   1)心窩部横〜斜走査
   2)心窩部縦走査
   3)左肋間走査
 6.腎臓の走査法
   1)右肋骨弓下縦走査
   2)右側腹部縦走査
   3)右肋間走査
   4)右肋骨弓下走査
   5)右側腹部横走査
   6)左側腹部縦走査
   7)左肋間走査
   8)左側腹部横走査
   9)左右背側斜走査
II.走査手順
III.消化管の走査法
 1.胃・十二指腸の走査法
   1)胃・十二指腸の走査法
   2)胃脱気水充満法
 2.小腸の走査法
 3.大腸の走査法
 4.虫垂の走査法

第4章 ベッドサイド検査
I.ベッドサイド検査の特徴と制約
 1.特徴
 2.制約
 3.ポータブル装置
 4.装置の電源などの取り扱い
 5.院内感染
 6.探触子の消毒
 7.装置の清拭
II.ベッドサイド検査の進め方
 1.病棟での検査の進め方
 2.救急外来での検査の進め方
 3.穿刺や手術室での検査法
III.患者への対応(接遇)
 1.検査前の注意
 2.患者の意識が明瞭な場合
 3.患者の意識が悪い場合
 4.特殊な場合(穿刺など)

第5章 症状からみた超音波検査
I.急性腹症の超音波検査
 1.急性腹症とは
 2.急性腹症における確認事項
 3.個々の救急疾患
   1)泌尿器科の救急疾患
   2)産婦人科の救急疾患
   3)血管障害による救急疾患
   4)消化管の救急疾患
   5)虫垂炎
   6)その他の急性疾患
II.黄疸の超音波検査
 1.黄疸とは
 2.ビリルビン代謝について
 3.黄疸の原因病態
 4.黄疸の分類
   1)肝前性黄疸(溶血性黄疸)
   2)肝性黄疸(肝細胞障害性黄疸)
   3)肝後性黄疸(閉塞性黄疸)
 5.超音波所見からみた黄疸
   1)胆管拡張がない場合
   2)胆管拡張がある場合
 6.症状からみた黄疸
 7.検査値からみた黄疸
III.血尿の超音波検査
 1.血尿とは
 2.血尿の原因
 3.超音波検査の進め方
   1)腎臓
   2)尿管
   3)膀胱
   4)ドプラ検査
 4.血尿をきたすおもな尿路系悪性腫瘍
 5.血尿をきたす血管性腎病変
IV.症状別の超音波検査と検査項目
 1.疼痛
 2.血圧
 3.浮腫
V.臓器別の超音波検査と検査項目
 1.肝臓
 2.胆嚢,胆管
 3.膵臓
 4.腎臓
 5.その他
   1)消化管の検査
   2)副腎の検査

第6章 ドプラ検査
I.機器操作の実際
 1.画像条件つまみの名称と調節法
 2.画像調節法
   1)Bモード画像で血管と認識できる血流を評価する場合
   2)血管として描出されない細い低流速血流を観察する場合
   3)報告書に添付する写真の条件設定
II.ドプラによる血流計測の要点
 1.さまざまな血流波形
   1)動脈性拍動性血流
   2)静脈性二峰性血流
   3)定常性血流
 2.血流パラメータ
 3.流速波形分析の実際
III.アーチファクト
IV.ドプラ法の活用法
V.ドプラ検査を行う時の注意点

第7章 各臓器における超音波検査の進め方
A.肝臓の超音波検査
I.肝臓の正常像と異常像
   1)大きさ
   2)肝縁
   3)表面
   4)実質エコーレベル
   5)実質エコー密度
   6)実質エコー分布
   7)肝内脈管
   8)肝外所見
   9)腫瘤性肝疾患の存在診断
   10)肝腫瘤の超音波像
II.チェックポイント
III.肝臓におけるドプラ検査のアプローチ
 1.肝内にみられた管腔構造が胆管か血管かを判定する場合
 2.肝内血管性病変(瘤や短絡)を検索する場合
 3.肝腫瘤の血行動態をみる場合
IV.各種疾患
 1.急性肝炎
 2.劇症肝炎
 3.慢性肝炎
 4.アルコール性肝障害
 5.脂肪肝
 6.糖原病
 7.ウィルソン病
 8.肝ヘモクロマトーシス
 9.肝アミロイドーシス
 10.肝ポルフィリア
 11.肝硬変
 12.馬鈴薯肝
 13.うっ血肝
 14.Budd-Chiari症候群
 15.日本住血吸虫症
 16.肝包虫(エキノコックス)症
 17.肝嚢胞
 18.von Meyenburg's complex(biliary microhamartoma)
 19.肝膿瘍
 20.肝血管腫
 21.肝結核腫
 22.肝細胞腺腫
 23.限局性結節性過形成
 24.肝内石灰化
 25.肝損傷
 26.肝細胞癌
 27.胆管細胞癌
 28.転移性肝腫瘍
 29.肝芽腫
B.脾臓の超音波検査
I.脾臓の正常像と異常像
 1.正常像
 2.異常像
II.チェックポイント
III.ドプラ検査のアプローチ
IV.脾疾患診断のポイント
V.各種疾患
 1.脾腫
 2.脾嚢胞
 3.脾血管腫
 4.悪性リンパ腫
 5.転移性脾腫瘍
 6.脾膿瘍
 7.脾リンパ管腫
 8.Gamna-Gandy結節
 9.脾石灰化
 10.脾結核
 11.脾梗塞
 12.脾外傷
C.門脈系の超音波検査
I.門脈系の正常像と異常像
 1.正常像
 2.異常像
II.チェックポイント
III.ドプラ検査のアプローチ
 1.カラードプラ法の特徴
 2.パルスドプラ法の特徴
IV.計測法
 1.Bモード検査の計測
 2.ドプラ検査の計測
V.門脈系疾患診断のポイント
 1.門脈径の超音波診断
 2.側副血行路の超音波診断
 3.門脈内部の超音波診断
VII.各種疾患
 1.門脈圧亢進症
 2.特発性門脈圧亢進症
 3.門脈血栓症
 4.門脈腫瘍塞栓
 5.門脈瘤
 6.その他
   1)肝内門脈肝静脈短絡症(P-V shunt)
   2)肝内動脈門脈短絡症(A-P shunt)
   3)肝内門脈走行異常
D.胆嚢の超音波検査
I.胆嚢の正常像と異常像
 1.正常像
 2.異常像
II.チェックポイント
III.ドプラ検査のアプローチ
 1.胆泥様病変と隆起性病変の鑑別
 2.胆嚢隆起性病変におけるドプラ検査
IV.胆嚢隆起性病変診断のポイント
 1.胆嚢隆起性病変の種類
 2.隆起性病変の鑑別に必要な超音波所見
V.各種疾患
 1.胆嚢結石
 2.急性胆嚢炎
 3.慢性胆嚢炎
 4.胆嚢腺筋腫症
 5.コレステロールポリープ
 6.胆嚢癌
E.胆管の超音波検査
I.胆管の正常像と異常像
 1.正常像
   1)胆管径
   2)胆管の走行
   3)胆管壁
   4)胆管内腔
 2.異常像
   1)拡張
   2)狭窄・閉塞
   3)管腔内異常エコー
   4)走行異常
II.チェックポイント
III.閉塞部位診断のポイント
IV.各種疾患
 1.総胆管結石
 2.肝内結石
 3.胆道気腫
 4.胆管癌
 5.先天性胆管拡張症
 6.原発性硬化性胆管炎
 7.Mirizzi症候群
F.膵臓の超音波検査
I.膵臓の正常像と異常像
 1.正常像
 2.異常像
II.チェックポイント
III.ドプラ検査のアプローチ
 1.腫瘍の質的診断におけるドプラ法
 2.膵周囲血管の観察におけるドプラ法
IV.腫瘍性病変診断のポイント
V.各種疾患
 1.急性膵炎
 2.慢性膵炎
 3.真性嚢胞(単純嚢胞)
 4.仮性嚢胞
 5.漿液性嚢胞腫瘍
 6.粘液性嚢胞腫瘍
 7.膵管内腫瘍
 8.浸潤性膵管癌(管状腺癌)
 9.内分泌腫瘍
 10.solid cystic tumor
 11.腺房細胞腫瘍
 12.転移性膵腫瘍
G.腎臓・副腎の超音波検査
G-I 腎臓
I.腎臓の正常像と異常像
 1.正常像
 2.異常像
II.チェックポイント
 1.異常所見の有無
 2.腎疾患のチェック項目
III.ドプラ検査のアプローチ
 1.計測のポイント
 2.パワードプラ
IV.正常変異
 1.腫瘍との鑑別
 2.腎奇形
   1)重複腎盂尿管
   2)馬蹄腎
V.各種疾患
 1.単純性腎嚢胞
 2.傍腎盂嚢胞
 3.多発性嚢胞腎
 4.海綿腎
 5.水腎症
 6.腎結石
 7.腎細胞癌
 8.腎血管筋脂肪腫
 9.腎盂腫瘍
 10.腎梗塞
 11.急性腎不全
 12.慢性腎不全
 13.移植腎
G-II 副腎
I.副腎の正常像と異常像
 1.正常像
 2.異常像
II.副腎の走査法
III.各種疾患
 1.副腎腺腫
 2.褐色細胞腫
 3.骨髄脂肪腫
 4.副腎皮質癌
 5.転移性副腎腫瘍
H.消化管の超音波検査
I.消化管の正常像と異常像
 1.正常像
   1)胃壁の超音波像
   2)小腸の超音波像
   3)大腸壁の超音波像
   4)虫垂の超音波像
 2.異常像
   1)壁肥厚
   2)内腔の拡張
   3)突出像
   4)特殊像
   5)その他
   6)消化管周囲の異常
II.チェックポイント
 1.消化管疾患の診かたの心得
 2.超音波診断の進め方
III.ドプラ検査のアプローチ
 1.カラー(パワー)ドプラ法による急性虫垂炎の病期推定
 2.クローン病の活動性評価
IV.腫瘍性疾患診断のポイント
V.炎症性疾患診断のポイント
 1.食道,胃・十二指腸
 2.小腸・大腸
VII.各種疾患
 1.食道裂孔ヘルニア
 2.食道癌
 3.消化性潰瘍(胃・十二指腸潰瘍)
 4.急性胃粘膜病変
 5.胃癌
 6.胃リンパ腫
 7.胃粘膜下腫瘍
 8.イレウス
 9.潰瘍性大腸炎
 10.クローン病
 11.腸型ベーチェット病
 12.虚血性大腸炎
 13.大腸憩室周囲炎
 14.感染性腸炎
   1)腸炎ビブリオ腸炎
   2)サルモネラ腸炎
   3)キャンピロバクター腸炎
   4)腸チフス
   5)O-157腸炎
 15.薬剤起因性大腸炎
   1)急性出血性大腸炎
   2)偽膜性大腸炎
   3)MRSA腸炎
 16.急性虫垂炎
 17.大腸癌
 18.腹膜偽粘液腫
 19.小腸リンパ腫
 20.転移性小腸腫瘍
 21.腸重積症
 22.肥厚性幽門部狭窄症

第8章 報告書作成
I.報告書作成の現状と将来
II.報告書の記載内容と作成の流れ
   1)患者属性
   2)依頼部位・目的
   3)所見記載方法
   4)シェーマ記入
   5)経過観察欄
   6)描出能の記載
   7)サインの記載
III.報告書作成時の注意点
   1)所見の記載
   2)表現法(用語)の統一化
   3)計測法,評価基準の統一化
   4)前回所見との対比(超音波検査のシステム化)
IV.報告書・画像の電子化
   1)真正性
   2)見読性
   3)保存性

 索引