序文
本書は,臨床化学の分野に新しく配属された新人の方や,日常ルーチン検査でこの分野に携わっていない方を対象に,実用的な入門書として執筆いたしました.
近年,臨床化学分野は自動化が著しく進歩したために,検体を分析装置で測定さえすれば信頼のおけるデータを得ることができると誤解している臨床検査技師の方々が増えてきたように思います.しかし,臨床検査におけるすべての分野で同じことがいえますが,いかに高性能な機械化が進んだとしても,検査精度を含めた信頼のできるデータを得るためには学問的な知識と経験が必要となります.
比喩的な話になりますが,最近の旅客機のハイテク化には目を見張るものがあります.自動操縦を含めてコンピュータが機体を管理して,より安全な運行が可能なシステムが導入されてきていると聞いています.では,このようなハイテク機ではパイロットの方々の能力は関係ないのでしょうか.知識や経験とは無関係に誰でも安全に操縦することができるのでしょうか.当然,答えは否であり,皆が認めるところであると思います.ではなぜ,臨床化学分野では,自動化が進むと分析装置に依存してしまう現象になるかという疑問が生まれます.これは,臨床化学分野が広範囲にわたった知識が必要なため取っ付きにくく,学問的な教科書はあるが実務に適した本が少ないことが原因の一つではないかと思います.実際に著者の周りにいる若いスタッフから,臨床化学の実務を学びたいので良い本を紹介してほしいと相談されましたが,経験のないスタッフに紹介できる本は見当たりませんでした.これが本書の出版に至った経緯です.
本書の構成は「1.自動分析装置」「2.精度保証」「3.測定体系」「4.測定原理」「5.遺伝子検査」「6.事例集」としています.臨床化学分野では,測定に使用される分析装置の特徴(機器特性)を理解して使用しなければなりません.また,市場にはそれぞれの項目で複数の測定原理が存在しています.これらを組み合わせて測定体系を基本として日常の検査を行っていかなければなりません.そして,測定されたデータを医療の現場で意義のあるものにするためには,精度保証が重要となります.実際の現場では,些細なことから難易度の高いものまで様々な事例が生じ,これらに対して的確で速やかな対応が求められます.そこで,経験の少ない方々のために,実際に起こった事例を一部ではありますが事例集として掲載しました.遺伝子検査については臨床検査の各分野に関係しており,今後急速に進歩していく検査だと考えられます.そこで遺伝子検査の入門的な内容を紹介しています.また,本書では,memoやcolumnなどの欄で要点や補足説明を行っています.第4 章では,初心者の方を対象として,実際の現場で役立つ知識を「わかばさんへアドバイス」として盛り込みました.
このように本書では,基本的なことをできるだけ簡単に説明し,実際に起こりうる現象について例をあげて解説しています.したがって,専門的な部分についてもっと詳しく勉強したい方は他の書籍をご利用下さい.また,情報提供という形で参考資料として主な生化学自動分析装置なども掲載していますのでお役立て下さい.これを機会に,少しでも多くの方々が臨床化学の分野に興味をもっていただければ幸いです.
最後に情報提供していただいたメーカーの方々,そして出版にあたりご協力いただいた医歯薬出版には深く感謝申し上げます.
2014 年12月
著者代表 志保裕行
本書は,臨床化学の分野に新しく配属された新人の方や,日常ルーチン検査でこの分野に携わっていない方を対象に,実用的な入門書として執筆いたしました.
近年,臨床化学分野は自動化が著しく進歩したために,検体を分析装置で測定さえすれば信頼のおけるデータを得ることができると誤解している臨床検査技師の方々が増えてきたように思います.しかし,臨床検査におけるすべての分野で同じことがいえますが,いかに高性能な機械化が進んだとしても,検査精度を含めた信頼のできるデータを得るためには学問的な知識と経験が必要となります.
比喩的な話になりますが,最近の旅客機のハイテク化には目を見張るものがあります.自動操縦を含めてコンピュータが機体を管理して,より安全な運行が可能なシステムが導入されてきていると聞いています.では,このようなハイテク機ではパイロットの方々の能力は関係ないのでしょうか.知識や経験とは無関係に誰でも安全に操縦することができるのでしょうか.当然,答えは否であり,皆が認めるところであると思います.ではなぜ,臨床化学分野では,自動化が進むと分析装置に依存してしまう現象になるかという疑問が生まれます.これは,臨床化学分野が広範囲にわたった知識が必要なため取っ付きにくく,学問的な教科書はあるが実務に適した本が少ないことが原因の一つではないかと思います.実際に著者の周りにいる若いスタッフから,臨床化学の実務を学びたいので良い本を紹介してほしいと相談されましたが,経験のないスタッフに紹介できる本は見当たりませんでした.これが本書の出版に至った経緯です.
本書の構成は「1.自動分析装置」「2.精度保証」「3.測定体系」「4.測定原理」「5.遺伝子検査」「6.事例集」としています.臨床化学分野では,測定に使用される分析装置の特徴(機器特性)を理解して使用しなければなりません.また,市場にはそれぞれの項目で複数の測定原理が存在しています.これらを組み合わせて測定体系を基本として日常の検査を行っていかなければなりません.そして,測定されたデータを医療の現場で意義のあるものにするためには,精度保証が重要となります.実際の現場では,些細なことから難易度の高いものまで様々な事例が生じ,これらに対して的確で速やかな対応が求められます.そこで,経験の少ない方々のために,実際に起こった事例を一部ではありますが事例集として掲載しました.遺伝子検査については臨床検査の各分野に関係しており,今後急速に進歩していく検査だと考えられます.そこで遺伝子検査の入門的な内容を紹介しています.また,本書では,memoやcolumnなどの欄で要点や補足説明を行っています.第4 章では,初心者の方を対象として,実際の現場で役立つ知識を「わかばさんへアドバイス」として盛り込みました.
このように本書では,基本的なことをできるだけ簡単に説明し,実際に起こりうる現象について例をあげて解説しています.したがって,専門的な部分についてもっと詳しく勉強したい方は他の書籍をご利用下さい.また,情報提供という形で参考資料として主な生化学自動分析装置なども掲載していますのでお役立て下さい.これを機会に,少しでも多くの方々が臨床化学の分野に興味をもっていただければ幸いです.
最後に情報提供していただいたメーカーの方々,そして出版にあたりご協力いただいた医歯薬出版には深く感謝申し上げます.
2014 年12月
著者代表 志保裕行
序文
第1章 自動分析装置
1.異常値への対応
2.基本的な確認事項
3.不良データの要因
4.検体に依存する異常反応
1)免疫化学測定における非特異反応
2)異常ヘモグロビン
(1)HbF%が高い場合:HbA1c値の再計算方法 (2)検体の遠心分離の影響
(3)HbA1c低値検体の留意点 (4)HbA1c高値検体の留意点
3)血糖の秘密
COLUMN 食生活の変化とインスリンの関係
COLUMN 臨床化学自動分析装置の進歩
第2章 精度保証
1.測定誤差
1)精密さ(precision)
2)正確さ(trueness)
3)誤差の許容限界
(1)Tonksの許容誤差範囲 (2)北村の許容誤差範囲
4)精度管理
(1)内部精度管理 (2)外部精度管理
(3)管理試料を用いる精度管理 (4)管理試料を用いない精度管理
統計学小話
COLUMN 不確かさの概念
第3章 測定体系
1.精確性の伝達
2.検量方法
1)多点検量線の概略
2)スプライン関数
3.検出限界
1)2SD法
2)希釈法
3)P.P. 法(precision profile法)
4.単位
1)酵素活性単位
2)SI単位
3)SI接頭語
4)ギリシャ語アルファベット
第4章 測定原理
1.蛋白関連
総蛋白
アルブミン
2.血糖関連
グルコース
ヘモグロビンA1c
グリコアルブミン
1,5-アンヒドログルシトール
3.酵素
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ
アラニンアミノトランスフェラーゼ
乳酸脱水素酵素
コリンエステラーゼ
γ-グルタミルトランスフェラーゼ
アルカリホスファターゼ
ロイシンアミノペプチダーゼ
アミラーゼ
P型アミラーゼ
クレアチンキナーゼ
CK-MB
4.脂質
総コレステロール
中性脂肪
HDL-コレステロール
LDL-コレステロール
リン脂質
遊離脂肪酸
5.非蛋白窒素化合物
尿素窒素
クレアチニン
尿酸
アンモニア
6.電解質
ナトリウム
カリウム
クロール
血清浸透圧
カルシウム
無機リン
マグネシウム
血清鉄
鉄結合能
7.その他
総ビリルビン,直接ビリルビン
8.免疫化学
COLUMN 臨床検査の結果解釈と判断基準について
第5章 遺伝子検査
1.遺伝子検査とは
1)病原体遺伝子検査
2)ヒト体細胞遺伝子検査
3)ヒト遺伝子学的検査
2.遺伝子とは
3.遺伝子を調べる方法
1)遺伝子を増やす
2)見えるようにする
(1)電気泳動法 (2)リアルタイムPCR法
(3)DNAシークエンス法 (4)FISH法
4.検査上の注意点
1)検査前の注意点
2)検査時の注意点
(1)病原体遺伝子検査 (2)ヒト体細胞遺伝子検査
(3)ヒト遺伝子学的検査
3)検査後の注意点
COLUMN k-rasとEGFR
第6章 事例集
1.「不思議な」データ
2.臨床化学Q&A
3.データ不良の事例
参考資料
主な生化学自動分析装置 主な免疫化学測定装置 主な検体分注装置 主な血糖,HbA1c測定装置 遺伝子析装置 参考文献 協力企業一覧
索引
第1章 自動分析装置
1.異常値への対応
2.基本的な確認事項
3.不良データの要因
4.検体に依存する異常反応
1)免疫化学測定における非特異反応
2)異常ヘモグロビン
(1)HbF%が高い場合:HbA1c値の再計算方法 (2)検体の遠心分離の影響
(3)HbA1c低値検体の留意点 (4)HbA1c高値検体の留意点
3)血糖の秘密
COLUMN 食生活の変化とインスリンの関係
COLUMN 臨床化学自動分析装置の進歩
第2章 精度保証
1.測定誤差
1)精密さ(precision)
2)正確さ(trueness)
3)誤差の許容限界
(1)Tonksの許容誤差範囲 (2)北村の許容誤差範囲
4)精度管理
(1)内部精度管理 (2)外部精度管理
(3)管理試料を用いる精度管理 (4)管理試料を用いない精度管理
統計学小話
COLUMN 不確かさの概念
第3章 測定体系
1.精確性の伝達
2.検量方法
1)多点検量線の概略
2)スプライン関数
3.検出限界
1)2SD法
2)希釈法
3)P.P. 法(precision profile法)
4.単位
1)酵素活性単位
2)SI単位
3)SI接頭語
4)ギリシャ語アルファベット
第4章 測定原理
1.蛋白関連
総蛋白
アルブミン
2.血糖関連
グルコース
ヘモグロビンA1c
グリコアルブミン
1,5-アンヒドログルシトール
3.酵素
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ
アラニンアミノトランスフェラーゼ
乳酸脱水素酵素
コリンエステラーゼ
γ-グルタミルトランスフェラーゼ
アルカリホスファターゼ
ロイシンアミノペプチダーゼ
アミラーゼ
P型アミラーゼ
クレアチンキナーゼ
CK-MB
4.脂質
総コレステロール
中性脂肪
HDL-コレステロール
LDL-コレステロール
リン脂質
遊離脂肪酸
5.非蛋白窒素化合物
尿素窒素
クレアチニン
尿酸
アンモニア
6.電解質
ナトリウム
カリウム
クロール
血清浸透圧
カルシウム
無機リン
マグネシウム
血清鉄
鉄結合能
7.その他
総ビリルビン,直接ビリルビン
8.免疫化学
COLUMN 臨床検査の結果解釈と判断基準について
第5章 遺伝子検査
1.遺伝子検査とは
1)病原体遺伝子検査
2)ヒト体細胞遺伝子検査
3)ヒト遺伝子学的検査
2.遺伝子とは
3.遺伝子を調べる方法
1)遺伝子を増やす
2)見えるようにする
(1)電気泳動法 (2)リアルタイムPCR法
(3)DNAシークエンス法 (4)FISH法
4.検査上の注意点
1)検査前の注意点
2)検査時の注意点
(1)病原体遺伝子検査 (2)ヒト体細胞遺伝子検査
(3)ヒト遺伝子学的検査
3)検査後の注意点
COLUMN k-rasとEGFR
第6章 事例集
1.「不思議な」データ
2.臨床化学Q&A
3.データ不良の事例
参考資料
主な生化学自動分析装置 主な免疫化学測定装置 主な検体分注装置 主な血糖,HbA1c測定装置 遺伝子析装置 参考文献 協力企業一覧
索引