やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 近年,感染症の変貌と脅威が強調されている.1997年にWHOが警鐘を鳴らした新興・再興感染症は,新たに登場あるいは再び増加したさまざまな領域の感染症に波及することになった.
 2001年には米国を主に炭疽菌によるバイオテロの事件が勃発した.2003年にはSARSが世界中を震撼させ,また最近では鳥インフルエンザの大流行に備えて世界中で感染防御の体制がとられている.このような情勢のなかで,微生物の病原性を再度整理し,適切な対策を講じることが必要となってきた.
 従来,微生物の危険性を表す言葉としてバイオハザード(biohazard)が使われてきたが,バイオハザードを防止する対策として登場したのがバイオセーフティ(biosafety)の概念である.バイオセーフティは一般的には病原体の取り扱いの際に発生する実験室内感染の防止を図ることが根底となっており,微生物がいかなるbiosafety level(BSL)に属するかは病原体取り扱いのうえではきわめて重要なことと認識されてきた.しかしながら,バイオセーフティ(biosafety)についてまとめられた書籍はほとんどなかった.
 今回,本書を編集,刊行するにあたり,岐阜大学・江崎孝行教授に多大なるご尽力,ご助言を頂戴した.
 どのような目次立てにし,読者対象をどこに置くかについては,江崎教授および医歯薬出版編集部と協議し,内容は,「総論」としてバイオセーフティ分類(江崎孝行先生)および病原微生物取り扱いガイドライン(江崎孝行先生・大楠清文先生),標準予防策とバイオセーフティ(矢野久子先生),「各論」としては,実験室のバイオセーフティ(杉山和良先生),微生物検査室のバイオセーフティ(小栗豊子先生),一般検査室のバイオセーフティ(矢野邦夫先生),発熱外来のバイオセーフティ(江崎孝行先生)を取り上げ,「付表」に一目で調べられる病原微生物の一覧表を,「付録」に法規制に伴う必要書類の雛形を収載し,実践書としての体裁を整えた.各項の執筆者はいずれも斯界の第一人者である.また読者対象としては,微生物検査および感染症の診断・治療に携わるすべての医療職を対象とした.すなわち,医師・看護師・臨床検査技師・薬剤師・研究者などである.
 今回,この『必携 バイオセーフティ指針』を上梓できることは,きわめて時宜を得たものであり,その内容については読者諸氏の期待に十分に添うものであると自負している.本書が微生物検査や研究に携わる方がたの座右の書となることを期待するものである.
 なお,本書の発刊について多大なご尽力を賜った執筆者各位,ならびに編集・出版にご協力いただいた医歯薬出版編集部に心より感謝の意を捧げる.
 2010年11月晩秋
 編者 岡田 淳
 序文
 略語一覧表
第I章 序論
 バイオハザードとバイオセーフティ
第II章 総論
 1 病原微生物のバイオセーフティ分類
  1.病原微生物のバイオセーフティ
  2.「感染症法」に特定された病原体の取り扱いに関連する規制
  3.「カルタヘナ法」に基づく病原体の取り扱い規制
  4.生物兵器に利用される可能性のある微生物の輸出規制
  5.動物・植物病原体の監視と輸出・輸入規制
 2 WHOおよびCDCの病原微生物取り扱いガイドライン
   (1)リスク評価の情報
   (2)検体の情報が乏しい試料の扱い
   (3)バイオセーフティと組換えDNA技術
   (4)生物学的発現系のバイオセーフティ面からの考察
   (5)発現ベクターのバイオセーフティ面からの考察
   (6)遺伝子導入用ウイルスベクター
   (7)遺伝子改変およびノックアウト動物
   (8)遺伝子改変植物
   (9)遺伝子改変生物のリスク評価
   (10)挿入遺伝子(遺伝子供与生物)に起因するハザード
   (11)遺伝子受容生物・宿主に関するハザード
   (12)既存の病原性の特性の変化に起因するハザード
   (13)そのほかの考慮
 3 標準予防策とバイオセーフティ
   (1)医療現場で感染予防のために実践すべき標準予防策
   (2)実験室で感染予防のために実践すべきバイオセーフティ
第III章 各論
 1 実験室のバイオセーフティ
  1.「感染症法」に伴う実験室の作業環境と義務規定
   (1)バイオセーフティレベル(BSL)の考え方
   (2)施設の位置,構造および設備の技術上の基準(法第56条の24関係)
   (3)感染症発生予防規程
   (4)安全キャビネット(BSC)
   (5)安全キャビネット(BSC)の使い方
   (6)安全キャビネット(BSC)の管理
   (7)安全キャビネット(BSC)の保守・点検
  2.「感染症法」に伴う病原体の保管に関する法律と義務規定
   (1)特定病原体等の所持に関する規定
   (2)病原体等の保管等の技術上の基準一覧(法第56条の25関係)
   (3)病原体保管とバイオセキュリティ
   (4)WHOの『実験施設バイオセキュリティガイダンス』
  3.「感染症法」に伴う病原体の保存・分譲・輸送に関する法律と義務規定
   (1)譲渡し等についての義務規定
   (2)保管についての義務規定
   (3)特定病原体等の運搬の基準(省令第31条の36)
   (4)特定病原体等の運搬に係る容器等に関する基準(平成19年告示第209号)
   (5)届出対象病原体の運搬の届出等に関する規則(国家公安委員会規則第5号)
   (6)『特定病原体等の安全運搬マニュアル』(厚生労働省健康局結核感染症課)
  4.「感染症法」の特定病原体以外の病原体の取り扱い
   (1)国立感染症研究所(感染研)におけるバイオリスクマネジメント
   (2)バイオセーフティ委員会(バイオリスク管理委員会)
   (3)安全監視委員会
   (4)実験室管理者
   (5)教育訓練(感染研におけるバイオリスク管理講習)
 2 微生物検査室のバイオセーフティ
  1.「感染症法」に伴う臨床検体の取り扱い環境
   (1)微生物のバイオセーフティレベル(BSL)の理解
   (2)検査室設備の整備
   (3)微生物検査担当者の教育・技術トレーニングと検査室内ルール
  2.「感染症法」の特定病原体の保有・分譲・輸送
   (1)病原体の所持・分譲・輸送
   (2)法律上の義務・罰則
  3.「感染症法」の特定病原体以外の病原体の保有・分譲・輸送
  4.微生物の他施設への輸送について
   (1)輸送物質の分類
 3 一般検査室のバイオセーフティ
  1.採血業務と針刺し
   (1)曝露予防
   (2)曝露後対応
  2.生理機能検査
   (1)呼吸機能検査機器の対応
   (2)結核対策
   (3)HBV対策
 4 発熱外来のバイオセーフティ
  1.緊急時の対策
  2.外来待合室の安全管理
  3.診察室の安全管理

 付表
  1 病原細菌のBSL分類
  2 ヒト病原性ウイルスのBSL分類
  3 カビ・原虫・医動物病原体と「感染症法」
  4 指定微生物株保存機関から譲受けができない輸入検疫有害菌の種類
  5 動物のABSL(ヒトのBSL分類と異なる部分のみ記載)
  6 「感染症法」除外株リスト
 付録 「感染症法」・「カルタヘナ法」の規制に伴う必要な書類
  <別表>
   病原体等安全管理区域運営基準(例) 記帳事項に関する一覧 病原体等菌株台帳(作成例) 病原体等保管使用記録簿(作成例) 実験室入退室記録簿(作成例) 特定病原体等の取り扱いに必要な教育訓練 災害時の対応内容
  <別紙様式>
   BSL2,3実験室承認申請書 BSL2,3実験室使用終了届 BSL2,3病原体等取扱届 BSL2,3病原体等移動(受入)届 BSL2,3病原体等廃棄届 特定病原体等取扱申請書 特定病原体等分与(譲渡)申請書 特定病原体等滅菌・廃棄届 国際バイオハザード標識

 索引