やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第3版の序

 本書が世に出てから15年が過ぎた.長いこと,超音波検査・診断を学ぶ人のお役に立ってきたようで,著者としてはありがたいことと感じている.今回第3版改訂を行うことになり,非線形-ハーモニックス,コントラスト造影法(パワーコントラスト,カラーハーモニックス),デジタル,三次元画像など,新しいことについて追加した.さらに症例や資料についても勉強の参考になるように補足しておいた.
 超音波検査・診断は,日常臨床の中でルーチンな検査法あるいは診療技術として定着してきた.いまや,超音波の知識・技術なしでは診療ができないといっても過言ではない.患者は超音波のできない医師に診療されると不利益があるといえる.超音波診断装置のない病院や診療所なんてあるのだろうか,そんなところはないだろうと思う.しかし,便利で使いやすくなったために,基本的な知識がないままで利用する者が多くなり,思わぬところで,とんだ勘違いをすることも見かける.自分の使っている武器がカミソリなのか,ナタなのか,ノコギリなのか知らないで使うようなことがあってはならない.楊枝を作るのにマサカリを使っては木っ端微塵である.直径何メートルもある大木を倒すのにカミソリを使っていては,何年かかっても倒すことはできない.対象に適切な武器を使わなければならないのである.それにはすべて基本を学ぶことである.
 超音波医学がこれまで進歩してきたのは,多くの先人による発見,発明,開発,独創,知識の積み上げなどのおかげである.それらの中で燦然と輝くのは,リアルタイム診断装置の発明とカラードプラ法の発明である.これらは日本から世界に送り出した発明である.誇ってよい業績である.近年のコンピュータ技術の発達は,超音波診断装置をコンピュータそのものにしてしまった.このコンピューテッドソノグラフィの技術は,アメリカにその源がある.この延長線上に装置の小型化があり,今やノートパソコンと同じ大きさ・重さのカラーイメージ付超音波装置が臨床現場で利用されている.当然のことに,診察室や救急車の中で使われることになり,在宅診療のための往診バックの中には聴診器や血圧計などの診察道具と一緒に超音波装置が詰められることになる,そんな時代である.
 2000年4月 著者ら

改訂の序

 「超音波検査入門」を送り出したのが昭和59年12月であったから,すでに4年が経過した.超音波検査を行い,臨床診断に有効に利用していくためには超音波に関する基礎的なことをよく知らなければならないと著者らは考える.基礎知識をきちんと身につけておけば,超音波検査・診断学は半分マスターしたものと考えてもよいと思う.また,基本がしっかりしていれば初めて出会う現象があっても解決できる.さらには新しい研究へも発展できる力となるものと信ずる.
 このような姿勢から,著者らはこれからの超音波検査に従事しようとする研究者に役立ちたいと願って「超音波検査入門」の初版を送り出したのであった.著者らの願いがかなって,多少なりとも若い人達の役に立ったのか,第2版を送る機会が巡ってきた.第2版にあたって加筆さていただいたのはドプラ法に関する項である.ドプラ法の進歩,普及は近年目覚しく,臨床応用も定着してきたように思われる.ドプラ法をよく理解し,応用してゆくならば多くの患者さん達へ貢献することが可能である.そのためにもドプラ法の基礎と問題点あるいは利点,欠点をよく理解していただきたいと念願する.
 常に著者らは,本というものには,それがたとえ医学書であろうとも,個性がなければならないと考えているため,本書も独断的な点も多いように思われるが,基礎知識を重視した本書がこれからの若い研究者の手がかりになれば幸いである.先年,著者らは中国の山東省において超音波診断学の講義を行った際に曲阜の孔子廟を訪ねた.この門前でいただいた小さな論語の中に「攻平異端,欺害也己」,「絵事後素」とあった.「異端を攻むるは,欺れ害のみ」とは奇をてらうよりも正道を歩んで堅実に勉学することが最終的に成功へ通ずる本道であるとの意であろう.また「絵の事は素より後にす」ということの意は絵を画【か】く時の下地づくりは目にみえない仕事であるけれども,しっかりと下地を作っておいてから絵を画かないと立派な絵はできないということである.超音波に限らず勉強は目にみえないところの基礎をしっかりと築くことが本道であり近道である.
 平成元年3月 著者



 1970年代中頃より超音波診断学は急速に進歩をとげた.リアルタイム装置の進歩はすべての病院,診療所における超音波検査を可能にした.現在,超音波診断学を知らずに卒業していく学生はいない.我々は「超音波検査はすべての医師が施行しなければならず,聴打診,触診などの診療法の一つとして,診察室で行うべきである」と考えている.
 超音波検査が非常に多くの情報を持っていることを理解されてくると,検査の依頼が多くなる.総合病院であれば,超音波検査の依頼数は年間10,000件を超えるであろう.ここにいたって,臨床検査技師,看護婦などが超音波検査を行う必要が出てきた.多くの患者の検査を処理していかなければならないが,見おとしがあってはならない.したがって,超音波検査を学ぶ時には,超音波の基本的原理,装置の内容,そして疾病の病態生理について十分な知識をもつ必要がある.医学生,研修医,臨床検査技師,看護婦など,これから超音波検査に従事しようとする人達は,表面的なことだけをまねるのでなく,基本的なことを知ってほしいと思う.
 本書は基本的原理,装置の内容,実例の3つの項に分かれている.基本的なことを理解しやすくするためにアーチファクトをとり上げた.実際に検査時に出現するアーチファクトがなぜ出てくるのかを理解することが大切である.装置はリアルタイムが全盛であるので,主としてリアルタイム装置に力点をおいた.自分の使用している装置の能力を知らずに超音波検査を行っているものが多くなってきており,過大評価に陥ったり過小評価に陥ったりするのをみかける.およそ超音波検査というものは,(1) 装置の能力,(2) 検者の能力,(3) 患者の条件の3つの要素によって左右されるものである.検者の能力や患者の条件がわるい場合に装置がわるいと錯覚している者がある.装置の制約や患者の条件がわるいことなどのために良好な画像が得られない時に,振動子を替えたり,体位を変えたりして良好な画像を抽出する者がいる.すなわち,良好な画像が得られない時には,3つの要素のいずれの要素が劣っているのかを判断し対応しなければならない.
 超音波検査は非観血的な検査であるのが最大の特徴である.患者の条件がわるく,良好な画像が得られないのに,いつまでも長時間にわたって患者に負担を求めるようなことは望ましくない.また逆に,食事をとった後だからといって画一的に検査を先伸しにすることも感心しない.患者の状態に応じて適切なアプローチで対応すべきである.
 本書が医学生,研修医,技師,看護婦などの超音波検査に従事するものの基礎知識の理解に役立つことを願う.
 昭和59年12月 著者
 3版改訂の序
 改訂の序
 序

I 超音波検査の歴史
II 超音波検査の原理
 1.超音波
 2.音速
 3.周波数
 4.波長
 5.連続波とパルス波
  [1]周波数帯域
  [2]パルス繰り返し周波数
  [3]探触子
 6.音場と指向性
 7.減衰
 8.反射と屈折
 9.強度
 10.分解能
 11.干渉
 12.非線形-ハーモニックス
 13.コントラスト(造影法)
  [1]パワーコントラスト法
  [2]カラーハーモニック法
 14.位相
 15.ドプラ効果
  [1]ドプラ効果の原理
  [2]ドプラ効果の応用
  [3]スペクトル分析
  [4]瞬時平均流速
  [5]瞬時平均流量
  [6]パルスドプラ装置
 16.カラードプラ法
  [1]カラードプラ法の原理
  [2]カラードプラの応用
 17.ドプラ心エコー法の問題点
  [1]感度
  [2]アーチファクト
  [3]FFTにおける時間差の問題
  [4]折り返し現象
  [5]サンプリングボリウム
  [6]低周波カットフィルタ
 18.超音波の生体作用
 19.音響組織特性

III 超音波検査装置とシステム
 1.基本構成
  [1]送信から受信まで
  [2]AモードとBモード表示の仕組み
  [3]感度の制御・補正とSTCの機能
  [4]デジタルスキャンコンバータ(DSC)と記憶の仕組み
  [5]画像の性能
  [6]テレビモニタの調整
  [7]輝度特性
  [8]コンピューテッドソノグラフィとデジタル超音波
 2.電子走査装置
  [1]リニア電子走査
  [2]セクタ電子走査
  [3]オフセットセクタ走査
 3.機械走査装置
  [1]リニア機械走査
  [2]アーク機械走査
  [3]セクタ機械走査
  [4]ラジアル機械走査
 4.コンパウンド走査装置
  [1]手動コンパウンド走査
  [2]手動と電子を組み合わせたコンパウンド走査
 5.体腔内超音波法
 6.3次元画像
 7.acoustic quantification(AQ)法,キネティックモード法
 8.記録方法
 9.診断支援,画像診断,画像処理,遠隔医療
 10.インターベンションエコー法

IV 走査技術と基本パターン
  [1]頭部
  [2]眼
  [3]顔,歯科,耳下腺,顎下腺
  [4]甲状腺および頸部リンパ節
  [5]乳腺
  [6]胸部
  [7]心・大血管
  [8]肝臓,胆嚢,膵臓,脾臓
  [9]消化管
  [10]腎臓,副腎,後腹膜リンパ節
  [11]膀胱,前立腺
  [12]腹部血管
  [13]子宮,卵巣
  [14]四肢

V 超音波診断の実際
 1.脳
  症例1 正常の脳エコー
  症例2 出生後1日の新生児の脳エコー
  症例3 出生後1カ月の男児の脳エコー
  症例4 ヘルペス脳炎後の脳エコー
  症例5 脳腫瘍
 2.眼
  症例6 正常眼窩像
  症例7 動眼筋の肥厚
  症例8 動眼筋の著明な肥厚
 3.耳下腺
  症例9 耳下腺腫瘍
 4.甲状腺,頸部
  症例10 正常甲状腺
  症例11 リンパ節腫
  症例12 甲状腺腫
  症例13 慢性甲状腺炎
 5.乳腺
  症例14 乳腺症
  症例15 乳癌
  症例16 嚢胞
  症例17 嚢胞
  症例18 繊維腺腫
  症例19 繊維腺腫(癌)
  症例20 乳癌
  症例21 悪性腫瘍
 6.胸部
  症例22 転移性肺癌
  症例23 肺癌
 7.心臓・大血管
  症例24 心室中隔欠損・心内膜床欠損
  症例25 左房拡大・左室壁肥厚
  症例26 左室拡張症障害・肥大型心筋症
 8.肝臓
  症例27 うっ血肝
  症例28 慢性肝障害
  症例29 転移腫瘍
  症例30 血管腫
  症例31 血管腫
  症例32 胆嚢癌の肝転移
  症例33 大腸癌の肝転移
  症例34 肝癌
  症例35 転移性肝癌
  症例36 閉塞性黄疸
  症例37 胆嚢結石
 9.胆嚢
  症例38 肝内胆管結石
  症例39 総胆管結石
  症例40 閉塞性黄疸
 10.膵臓
  症例41 膵頭部癌
  症例42 膵頭部癌
  症例43 膵嚢胞
 11.脾臓
  症例44 脾腫
 12.消化管
  症例45 胃癌
  症例46 直腸癌
 13.腎臓
  症例47 腎結石
  症例48 慢性腎不全(嚢胞腎)
 14.副腎
  症例49 褐色細胞腫
 15.リンパ節
  症例50 肺癌のリンパ節転位
 16.膀胱
  症例51 膀胱癌
 17.前立腺
  症例52 良性前立腺肥大症
  症例53 前立腺癌
  症例54 前立腺癌
  症例55 前立腺癌
 18.腹部大血管
  症例56 腹部大動脈瘤
  症例57 左腎癌
  症例58 妊娠子宮
 19.産科
  症例59 前置胎盤
 20.婦人科
  症例60 卵巣腫瘍
  症例61 双角子宮
  症例62 低蛋白血症
 21.四肢
  症例63 大腿部血腫

資料編
  資料1 超音波断層法の表示方法(ラベリング)
  資料2 心機能の表示
  資料3 心計測正常値(小児)
  資料4 心計測正常値(成人)
  資料5 CW,HPRFの基本イメージングとその計測法
  資料6 房室弁口面積
  資料7 肝臓の大きさ
  資料8 肝区域
  資料9 肝癌のパターン分類
  資料10 肝腫瘤の超音波診断基準
  資料11 存在部位診断
  資料12 胆嚢の大きさ
  資料13 胆道の位置
  資料14 胆嚢癌のパターン分類
  資料15 脾臓の大きさ(1)
  資料16 脾臓の大きさ(2)
  資料17 児頭大横径ならびに胸郭横径ノルモグラム
  資料18 乳腺疾患のラベリング
  資料19 乳腺腫瘍のパターン分類
  資料20 乳房の超音波診断基準
  資料21 下大静脈径によるcollapsibility index
  資料22 超音波断層像で観察可能なリンパ節
  資料23 卵巣腫瘍のエコーパターン分類
  資料24 正常新生児,乳児の脳室径計測値
  資料25 腎エコーパターン
  資料26 腎超音波断層法の診断基準
  資料27 腎腫瘍の浸潤度判定基準
  資料28 後腹膜リンパ節の判定基準