やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 リハビリテーション栄養に関する8冊目の書籍を,医歯薬出版株式会社から出版させていただくことになりました.今回は認知症をテーマにしました.高齢社会のリハビリテーションでは,介護予防や摂食嚥下障害の対応が重要です.要介護状態や摂食嚥下障害の原因疾患として最も重要なのは,脳卒中,認知症,サルコペニア(運動器疾患,神経筋疾患,低栄養,廃用症候群を含む広義)です.脳卒中とサルコペニアのリハビリテーション栄養に関しては,先行書籍でかなり紹介してきました.一方,認知症に関しては,「リハビリテーション栄養ハンドブック」と「サルコペニアの摂食・嚥下障害」で3〜5ページ紹介したのみでした.そのため,認知症のリハビリテーション栄養に関するエビデンスが少ない状況であることを承知のうえで今回,企画しました.
 認知症に対しては,薬物療法とケアが治療の中核です.認知症をリハビリテーションや栄養療法で治すことは困難です.一方,認知症を予防することや進行を遅らせるエビデンスは,徐々に蓄積されています.実際,2014年の診療報酬改定で,認知症患者リハビリテーション料が新設されました.「認知症だからリハビリテーションできなくても仕方ない」「認知症だから拒食や低栄養は仕方ない」という時代ではありません.しかし現在,認知症のリハビリテーション栄養のエビデンスが,臨床現場で認識,活用されているとはいえない状況です.
 認知症が主疾患だけでなく,脳卒中,大腿骨近位部骨折,慢性心不全,慢性呼吸不全,がんなどの併存疾患として認知症を合併する患者も増えています.特に後者の場合,主疾患のリハビリテーション栄養は十分に考慮しても,認知症のリハビリテーション栄養に対する考慮は不十分となりがちです.併存疾患としての認知症対応にも活用してほしいと考えています.
 今回,認知症の診断と治療,認知症のリハビリテーション栄養,主な認知症疾患のリハビリテーション栄養,施設別のリハビリテーション栄養について,リハビリテーション栄養の専門家に執筆依頼しました.認知症の専門家による認知症の先行書籍は多数ありますので,あえて認知症の専門家には執筆依頼しませんでした.大変お忙しい中,執筆してくださった皆様に深謝いたします.執筆に難渋された方も少なくないと感じます.
 日本リハビリテーション栄養研究会(https://sites.google.com/site/rehabnutrition/)の会員数は,2014年11月時点で4000人となりました.今後は健康,機能,活動だけでなく,参加,個人因子,環境因子を考慮したリハビリテーション栄養をより重視するつもりです.リハビリテーション栄養に関心のある方はぜひご入会ください.
 最後に医歯薬出版株式会社の小口真司さんには,今回も企画,執筆,編集などで大変お世話になりました.心より御礼申し上げます.
 2015年1月
 若林秀隆
第1章 認知症の診断と治療
 1.認知症総論
  定義 疫学 原因疾患
 2.認知症の症状
  はじめに 認知症の中核症状 認知症の行動・心理症状(BPSD)
  認知症とせん妄・うつ状態との鑑別
 3.認知症の診断
  はじめに 認知症の早期診断の必要性 認知症診断の流れ 問診
  診察 診断の実際 診断の告知,診断の確定が困難なときは
 4.認知症の薬物療法
  はじめに アルツハイマー型認知症治療薬 BPSDに対する薬物療法
  認知症の薬物治療とリハビリテーション栄養
 5.認知症の人のケア
  はじめに 「認知症の人のケア」の目指すところ 「認知症を生きる人」のこころ
  認知症の人のケア 認知症の人を支える介護家族に対するケア
  認知症の人や介護家族を支える援助者へのケア 認知症の人の食のケア おわりに
第2章 認知症のリハビリテーション栄養
 1.認知症のリハビリテーション栄養総論
  リハビリテーション栄養とは 認知症のリハビリテーション栄養評価
  認知症のリハビリテーション栄養のゴール設定 認知症の栄養管理のエビデンス
  認知症のリハビリテーションのエビデンス 認知症のリハビリテーション栄養ケアプラン
 2.認知症予防と軽度認知障害のリハビリテーション栄養
  はじめに 認知症予防と栄養素および食品 認知症発症予防と運動
  軽度認知障害のリハビリテーション栄養 おわりに
 3.認知症と低栄養,および微量栄養素欠乏
  はじめに 認知症患者における低栄養 認知症と微量栄養素欠乏 おわりに
 4.認知機能低下とサルコペニア
  はじめに サルコペニアとは 認知機能低下とサルコペニアの関連についてのエビデンス
  認知機能低下とサルコペニア肥満 認知機能低下とフレイル
  高齢リハ入院患者の認知機能とサルコペニアの関連
  認知機能低下とサルコペニアに対するアプローチ おわりに
 5.認知症の栄養療法
  はじめに エネルギー必要量 認知症における行動因子
  ストレス因子とストレス係数 経口栄養剤 栄養投与ルート
 6.認知症の作業療法
  作業療法とは 認知症作業療法のエビデンス 認知症に対する作業療法の実際
 7.認知症の理学療法
  認知症の理学療法・運動療法 認知症の理学療法・運動療法のエビデンス
  認知症の理学療法・運動療法の実際 認知症の生活機能障害と理学療法 認知症予防と運動
 8.認知症の摂食嚥下リハビリテーション
  認知症の摂食嚥下障害 認知症の各タイプの摂食嚥下障害の特徴 認知症の摂食嚥下障害への対応
  摂食嚥下リハビリテーション 食事体位や嚥下方法,食物の調整
 9.認知症のオーラルケアマネジメント
  はじめに 認知症の口腔機能障害 認知症のオーラルケアマネジメントの必要性
  口腔のアセスメント 口腔ケアを受け入れた一症例
  認知症のオーラルケアマネジメントに関するエビデンスの現状
 10.BPSDのリハビリテーション栄養
  BPSDの基本的対応 BPSDへの対応のエビデンス BPSDに対するリハビリテーション栄養
 11.排泄障害のリハビリテーション栄養
  排泄とは 排便障害と認知症 便秘―認知症で問題となりやすい排便障害
  便失禁の原因について 排尿障害と認知症
  認知症の排泄障害に対するリハビリテーション栄養 おわりに
 12.認知症の音楽療法
  音楽療法とは 音楽療法の分類 音楽療法のメソッド 認知症に対する音楽療法の効果
  音楽療法士 おわりに
 13.認知症終末期のリハビリテーション栄養
  はじめに 認知症の病期分類 認知症終末期におけるリハビリテーション栄養138 臨床倫理と法
第3章 主な認知症疾患のリハビリテーション栄養
 1.アルツハイマー型認知症
  アルツハイマー型認知症とは アルツハイマー型認知症の疫学 アルツハイマー型認知症の診断基準
  アルツハイマー型認知症の治療 リハビリテーション栄養のエビデンス
  ステージ別のリハビリテーション栄養 ユマニチュードとリハビリテーション栄養
 2.血管性認知症
  血管性認知症とは 症状 リハビリテーション栄養のエビデンス
  ステージ別(CDR)のリハビリテーション栄養 疫学
 3.Lewy小体型認知症
  Levy小体型認知症とは 疫学 診断基準 リハビリテーション栄養のエビデンス
  ステージ別のリハビリテーション栄養 症例提示 おわりに
第4章 施設別の認知症のリハビリテーション栄養
 1.急性期・回復期病院での認知症のリハビリテーション栄養
  認知症患者での摂食嚥下障害 認知症に対する栄養療法 認知症に対するリハビリテーション
  急性期・回復期病院における認知症リハビリテーション栄養の実際 症例提示 おわりに
 2.療養型病院・施設での認知症のリハビリテーション栄養
  認知症患者の現状 札幌西円山病院の概要と取り組みの現状 症例提示
 3.在宅での認知症のリハビリテーション栄養
  リハビリテーション栄養における在宅の認知症患者のポイント 症例提示 おわりに

 索引