やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 リハビリテーションは,脳血管疾患,運動器疾患,心臓大血管,呼吸器疾患と4つの分野に大別されてからリハビリテーションの技術も種々の専門分野別に発展し,今後もさらに発展していこうとしている.これは診療報酬別に分類されたものであるが,このことによってリハビリテーションは技術的にも学問的にもますます高度に専門分化していくことになると思われる.
 4つの分野のうち運動器リハビリテーションの中心となる疾患は整形外科疾患であり,理学療法士の専門分野の一つとして確立されてきている.現在,医療現場で実施される運動器リハビリテーションは入院患者を中心として行われ,移動能力や日常生活動作の早期回復に重点がおかれている.そのなかでも,とくに手術後のリハビリテーションは,現代整形外科治療になくてはならないものとして確立されている.
 整形外科治療には保存療法と手術療法があり,保存療法の一つとして理学療法が古くから行われているが,とくに外来整形外科疾患に対しては重要な治療方法である.
 本書は運動連鎖に注目し,四肢・体幹全体のalignmentを改善することで治療する理学療法技術について書かれている.整形外科疾患のなかでも変形性関節症・変形性脊椎症・肩関節周囲炎などの退性疾患への治療について書いたものである.これらの疾患は,外来受診率が高く,通院によって治療されることが多い.また,高齢化社会であるわが国では骨粗鬆症とともに増加傾向にあり,病期が進行していくと日常生活に重大な支障をもたらすものである.骨粗鬆症は,運動器の支持器である骨格が脆弱化し破壊されていくもので,結果的には死亡率の高い疾病である.これらの疾患により四肢・体幹が不整なalignmentに変化し進行していくと,運動器不安定症をきたし日常生活での自立が不可能となっていく.
 相対する関節面の適合が完全に一致している状態の骨と骨の位置関係にある関節では,荷重負荷や伸長ストレスなどの外力が局所に集中せず分散するため,痛みなどの異常感覚は出現しないものである.このような骨と骨の位置関係に四肢のalignmentを改善し維持できれば,日常生活に支障をきたすことは少なくなる.四肢のalignmentは体幹の支持機能に影響されるため,四肢・体幹全体の良好なalignmentを形成する必要がある.このような考え方で行われる運動療法の技術は,機能解剖学を礎として運動連鎖に注目し,これを応用する技術である.このような技術をすでに臨床で用いて医療に貢献し,本書の執筆に協力していただいた足と歩きの研究所の入谷誠先生,文京学院大学の福井勉先生,柿崎藤泰先生,広島国際大学の木藤伸宏先生をはじめとする諸先生方と医歯薬出版各位に深甚の謝意を表する.
 2010年4月
 小関博久
 序(小関博久)
第1章 変形性関節症
 1.関節の機能解剖総論(小関博久)
  関節の機能
  分類
   不動関節 可動関節
  基本構造
   関節軟骨 関節包 滑膜 靱帯 線維軟骨(関節円板)
  関節の種類
  関節運動
   二関節筋と単関節筋 OKCとCKC
 2.変形性関節症総論(小関博久)
  変形性関節症(骨関節症)
  分類
   一次性(原発性)関節症 二次性(続発性)関節症
  疫学
   アスポリン
  症状
  X線所見
  好発部位
  治療(一般的な治療)
   化学療法 理学療法 観血療法 今後の治療
 3.変形性関節症各論
  変形性股関節症(小関博久,財前知典)
   股関節の機能解剖 変形性股関節症の病態 変形性股関節症の評価 理学療法による変形性股関節症の治療
  変形性膝関節症(小関博久,木藤伸宏)
   膝関節の機能解剖 変形性膝関節症の病態 変形性膝関節症の評価と治療
  変形性足関節症(小関博久,入谷 誠)
   足関節と足の機能解剖 変形性足関節症の病態 変形性足関節症の評価と治療
  変形性肘関節症と変形性指関節症(小関博久,財前知典)
   肘関節の機能解剖 手と指の機能解剖 変形性肘関節症と変形性指関節症の病態 変形性肘関節症と変形性指関節症の評価と治療
第2章 変形性脊椎症
 1.変形性頸椎症(上田泰久)
  頸椎の機能解剖
  変形性頸椎症の病態
   病態 疫学(原因) 症状 画像所見
  変形性頸椎症の評価
   病態の把握 姿勢の評価 動作の評価
  変形性頸椎症の治療
   左右の椎間関節の関節面を整える 胸腰筋膜の左右差を整える 胸郭の正中化を促す 頭部と胸郭の軸を感覚的に統合する 他部位との運動連鎖を考慮する
  変形性頸椎症の合併症
   頸椎症性神経根症 頸椎症性脊髄症
 2.変形性胸椎症(柿崎藤泰)
  胸椎・胸郭の機能解剖
   骨 関節・靱帯 胸郭の運動 呼吸 胸郭の機能に影響を与える軟部組織
  変形性胸椎症の病態
  変形性胸椎症の胸郭症状の病態とその評価
   胸郭前方部の病態観察 胸郭背側面の病態観察
  理学療法による治療
 3.変形性腰椎症
  腰椎の機能解剖(小関博久)
   腰仙部の形状 腰椎の運動 腰椎の構成 腰椎の動力筋 腰椎の安定筋 仙腸関節の運動
  変形性腰椎症の病態(小関博久)
   病因 原因 症状 X線所見 合併症
  腰痛の評価(福井 勉)
   疼痛評価 姿勢評価 動作の評価 その他の観察部位 基本動作評価
  腰痛の治療(福井 勉)
   股関節可動性の拡大 体幹の安定性
  変形性腰椎症に対する治療(関口 剛)
   腹横筋エクササイズもしくは腹圧上昇エクササイズ 端座位体幹保持エクササイズ
第3章 肩関節周囲炎
 1.肩関節の機能解剖(小関博久)
  肩甲骨の形態
  肩関節の種類
   肩甲上腕関節 肩峰上腕関節 胸鎖関節 肩甲胸郭関節 肩鎖関節
  肩関節の可動域
  肩甲上腕関節の構成体
   上腕骨頭 臼蓋,関節窩 関節唇 関節包 靱帯
  肩甲上腕関節の筋
   上腕二頭筋 回旋筋 三角筋 大胸筋 広背筋 大円筋 烏口腕筋
  ゼロポジション
  肩峰上腕関節(第2肩関節)
  胸鎖関節
  肩甲胸郭関節
   肩甲上腕リズム
  肩甲胸郭関節の運動筋
   前鋸筋 僧帽筋 肩甲挙筋 菱形筋 小胸筋 鎖骨下筋
  肩鎖関節
  外側四辺形間隙(外側腋窩隙)
 2.肩関節周囲炎の病態(財前知典)
  概念
  病態による分類
   上腕二頭筋長頭腱炎 肩峰下滑液包炎 肩関節腱板炎 石灰沈着性腱板炎 いわゆる五十肩 烏口突起炎 肩関節拘縮
 3.肩関節周囲炎の評価と治療(財前知典)
  理学療法評価
   疼痛部位の評価 肩関節機能評価 モビライゼーションやマッサージを用いた評価 姿勢・alignment評価 動作分析
  理学療法による治療
   肩関節回旋筋に対するアプローチ 肩甲胸郭関節に対するアプローチ 体幹に対するアプローチ 肘関節・前腕に対するアプローチ 肩甲上腕関節周囲筋に対するダイレクトストレッチ
第4章 骨粗鬆症
 1.骨代謝の基礎(小関光美)
  骨の成分と代謝
  ホルモン
   副甲状腺ホルモン カルシトニン エストロゲン
  1α,25ジヒドロキシビタミンD3
 2.骨粗鬆症の病態・原因・症状(小関博久)
  病態
  原因
   原発性(一次性)骨粗鬆症 続発性(二次性)骨粗鬆症
  症状
   X線所見 血液検査 骨代謝マーカー値 合併症
 3.骨粗鬆症の治療(田中 亮,平山哲郎)
  化学療法
  理学療法
   骨粗鬆症の進行と合併症に対する理学療法の展開 骨粗鬆症患者にみられる姿勢・運動の評価と動作分析 骨粗鬆症の進行と合併症に対する運動療法のアプローチと体幹装具療法
第5章 運動器不安定症(関口 剛)
 1.定義
 2.概念
 3.診断
 4.機能評価基準
 5.評価と治療
  加齢に伴う身体機能の変化
   運動器の老化 姿勢の変化 バランスの変化 歩行の変化
  転倒メカニズム
  運動器不安定症の障害構造のとらえかた
  理学療法評価
   全身的な評価 ロコモーターユニットの評価 パッセンジャーユニットの評価 歩行評価 バランス評価
  理学療法アプローチ
   ロコモーターユニットへのアプローチ パッセンジャーユニットへのアプローチ 杖 杖処方 歩行器

 索引