やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の序
 昭和62年2月に「義肢装具士法」が成立し,義肢装具士の教育にとって切断者のリハビリテーションおよび義肢の製作技術に関する教科書が必要であるとの考えから,日本義肢装具学会の監修のもとに,1988年6月に『義肢学』を発刊した.この『義肢学』がこれまで義肢装具士の教育のみならず,義肢装具関係の専門職にとって大きな役割を果たしてきたことに改めて感謝申し上げたい.
 しかし,この発刊から22年を経過した現在,義肢をめぐる研究開発の進歩は著しく,新しい知見に対応する必要性に迫られている.切断術後のケア,術直後義肢装着法,上肢・下肢切断者に対する作業療法士,理学療法士の参加によるチームアプローチの発展,電動義手の導入,大腿,下腿義足の適合技術の進歩,ソフトライナーの開発と適応,膝・足継ぎ手などの開発など,数多くの進歩が見られている.一方,義肢装具士の教科書を目的に出発した『義肢学』では,近年の製作技術の進歩に対応できず,義肢製作分野でのより詳しい知見なり情報が必要となった.
 そこで今回,田澤英二氏と相談し,従来の『義肢学』を,医師,義肢装具士,看護師,理学療法士,作業療法士,ソーシャルワーカーなど,切断のリハビリテーションに関わる多職種の専門職を対象にした『義肢学』第2版として,切断者のリハビリテーション,義肢の種類,部品など基本的な知識をまとめることとした.そして,義肢装具の製作の詳細については,義肢装具士教育の基礎となる断端の観察,採寸・採型,モデル修正,ソケット作製,アライメントなど,義肢製作の実技分野を『義肢学』から抜き出し,義肢装具士を対象とした『義肢製作マニュアル』として,田澤英二氏に就筆いただき,同時に出版することとした.
 『義肢学』の改訂に当たっては,最初に就筆された先生方に加筆・就筆いただくのが本来のありかたである.しかし,22年を経過し,中にはお亡くなりになられたり,ご病気にかかられている方もあり,すべての方に加筆をお願いすることは不可能であった.一方,最近における義肢の進歩は著しい.日本義肢装具学会の監修をいただいているので,最新の情報を専門職の方々にお届けする義務がある.そこで,それぞれの分野でご活躍の方々にそれぞれの専門の立場から新たに就筆をお願いした.具体的には,切断者の悩みである「幻肢(痛)」をライフワークとされた大塚哲也氏に,「我が国の切断者の疫学調査結果」を30年間にわたり兵庫県で追及されている小嶋功氏に,「切断術後の断端ケア」を実践されている陳隆明氏に,「装着訓練」をインテリジェント義足の装着訓練に精通されている長倉裕二氏に,「義足の部品」を日本義肢装具士協会会長の栗山明彦氏に,「上肢の運動学」を義手の装着訓練に詳しい古川宏氏と森田千晶氏に,そして独自の筋電義手の装着システムと訓練をつくられた陳隆明氏に「筋電義手の装着訓練」について就筆していただいた.
 この『義肢学』第2版が,切断と義肢に関わる専門職にとって,その基本を学ぶ上でお役に立てば幸いである.
 2010年3月
 澤村誠志

第1版の序
 昭和62年5月に,長年にわたって義肢装具の支給サービスの改善に取り組んできた我々にとって,待望の「義肢装具士法」の成立が実現した.昭和47年にはじめて厚生省に要望書を提出してから,15年を経過したわけであるが,厚生省をはじめ,関係機関の方々に深く御礼申し上げたい.
 これを受けて,すでに義肢装具の製作適合に携わってきた人々を対象として,昭和63年7月,8月に全国7地区で104時間の経過措置のための講習会が開催され,いよいよ10月には第1回の国家試験が行われる.この講習会および国家試験の実施に対して,まず必要なのは教本の作成である.このため日本整形外科学会,日本リビハリテーション医学会,日本義肢協会,日本義肢装具技術者協会の代表者で構成された義肢装具士身分制度推進協議会では,義肢学・装具学の教本の作成について企画を重ね,幸いにも医歯薬出版株式会社のご協力を得て,ようやく本書の刊行にいたったものである.
 わが国で,義肢の製作適合についての成書は,故飯田卯之吉氏の力作「義肢装具製作教程」があるが,必ずしも医学サイド,生体力学などを網羅したものではないし,すでに絶版となっているので本書にかかる期待は大きい.編者として,本書の目的,内容を次のように考え各執筆者にお願いした.
 (1)義肢装具士にとって必要な,切断者のリハビリテーションから義肢の製作技術の詳細まで記述している.医師,セラピストにとっても,このように製作技術の詳細にふれた成書は,本質的な理解への近道になろうかと思われる.
 (2)紙面の制限もあったが,なるべく理解しやすいように図,表を多用した.
 (3)用語は,「福祉関連機器用語(義肢・装具部門)JIS T 0101-1986」によった.
 本書の刊行にあたっては,各執筆者の方々に多くの注文をお願いしたために,多大の御迷惑をおかけしたことをおわび申し上げたい.とくに,田沢英二氏をはじめとする国立身体障害者リハビリテーション学院のスタッフの方々の昼夜兼行にわたる御努力に深く御礼申し上げたい.しかしながら,お陰様で本書はわが国では他に類をみない充実した内容の力作となったと自画自賛している.本書が今後,義肢装具士のみならず,医師,セラピストなど多くの人々にとって少しでもお役に立つことができれば編者として望外の幸せである.
 1988年6月
 澤村誠志
 第2版の序
 第1版の序
I.義肢の概念と分類
 1.義肢とは
 2.義肢の分類
  1) 処方時期による分類
   (1)術直後義肢
   (2)訓練用仮義足
   (3)本義肢
  2) 機能面からの分類
   (1)作業用義肢
   (2)常用義肢
  3) 義手の分類
   (1)作業用義手
   (2)能動義手
   (3)装飾用義手
  4) 義肢の構造による分類
   (1)殻構造義肢
   (2)骨格構造義肢
 3.切断レベルと義肢の組み合わせ
  1) 切断・離断レベルと義肢の種類
   (1)上肢切断レベルと義肢の種類
   (2)下肢切断レベルと義肢の種類
  2) 切断・離断レベルとソケットデザインの関連
   (1)上肢切断・離断レベルとソケットデザインの関連
   (2)下肢切断・離断レベルとソケットデザインの関連
  3) 大腿義足ソケットおよび懸垂装置のチャート
  4) 下腿義足ソケットおよび懸垂装置のチャート
 4.最近の傾向
  1) 下腿義足ソケットデザイン
   (1)シリコーンライナーの歴史
   (2)各ライナーの材質と特徴
   (3)ライナーの材質とメーカー
   (4)ライナーの問題点
   (5)ウレタン製軟性ソケット
  2) 大腿義足ソケット
   (1)骨格構造部品
   (2)足継手および足部
   (3)膝継手
   (4)CAD-CAM
   (5)発展途上国義肢デザイン
   (6)加圧(陰圧)式採型(下腿義足ソケット)
   (7)大腿義足ソケットの形状
   (8)ソケットの接触
   (9)ソケットによる懸垂方法
   (10)ベルト,継手による懸垂
   (11)シリコーンライナー
  3) 下腿義足
   (1)支持方式
   (2)ソケットインターフェイス
   (3)懸垂装置
II.四肢切断のリハビリテーション
 1.総論
  1) 四肢切断の疫学的動向
   (1)切断者数
   (2)男女比
   (3)切断時の平均年齢
   (4)切断部位
   (5)切断原因
  2) 切断者のリハビリテーション
   (1)医学的リハビリテーション
   (2)心理的リハビリテーション
   (3)社会的リハビリテーション
   (4)職業的リハビリテーション
  3) 切断義肢クリニックの機能とそのあり方
   (1)切断義肢クリニックの機能
   (2)切断義肢クリニックのあり方
 2.切断の合併症(幻肢,幻肢痛を含む)
III.下肢切断と義足
 1.下肢切断の原因となる疾患
  1) 末梢循環障害
   (1)閉塞性動脈硬化症
   (2)閉塞性血栓性血管炎(バージャー病)
   (3)その他
  2) 糖尿病
  3) 悪性腫瘍
  4) 外傷および後遺症
  5) その他
 2.切断の原因疾患の最近の動向
 3.下肢切断・離断の部位(名称)と計測
  1) 下肢切断部位の名称
  2) 下肢切断部位を記述,測定するための基本となる部位
   (1)股レベル
   (2)膝内側関節裂隙
   (3)断端末レベル
   (4)床レベル
   (5)断端末の細くなるレベル
   (6)最小周径レベル
   (7)大腿顆部レベル
   (8)最も遠位部の周径測定レベル
   (9)足部切断のときのみに用いるもの
  3) 関節の評価
  4) 下肢切断部位の記載要項
 4.下肢切断術
  1) 下肢切断部位の選択
   (1)一般的原則
   (2)特殊な原因疾患による切断部位の選択
  2) 切断手技の一般的原則
   (1)皮膚の処理
   (2)血管の処理
   (3)神経の処理
   (4)骨の処理
   (5)筋肉の処理
  3) 下肢切断と機能的特徴
   (1)足根骨部切断
   (2)サイム切断
   (3)下腿切断
   (4)膝関節離断
   (5)大腿切断
   (6)股関節離断
   (7)骨盤部での切断
 5.切断術後の断端ケア
  1) 断端ケアとは
  2) 断端ケアの今後の主たる対象
  3) 断端ケアの動向(過去〜現在,そして今後)
  4) 断端ケアの実際
   (1)soft dressing法
   (2)rigid dressing法
   (3)シリコーンライナーを用いた方法
 6.術直後義肢
  1) 手術前の準備
  2) 手術室での準備
  3) 術直後義足の装着テクニック
  4) シリコーンライナー
  5) 術直後義足の第二段階の簡易ソケット(仮義足ソケット作製前の準備段階)
  6) 術後義足装着法のスケジュール
 7.義足の装着訓練
  1) 義足装着前練習
   (1)義足装着前練習の目的
   (2)切断者の評価
   (3)断端包帯法
   (4)義足装着前練習の方法
  2) 義足装着練習
   (1)義足装着練習前に用意するもの
   (2)切断者が用意するもの
   (3)片側下肢切断者の練習
   (4)一般的な社会生活に適応するための義足歩行練習
IV.義足
 1.足根中足義足
  1) 足根中足義足の種類と構造
   (1)足袋式
   (2)下腿式(在来型)
   (3)ノースウェスタン大学式
   (4)Shoe-horn typeの義足
   (5)スリッパ式
   (6)コスメチック塩化ビニル樹脂製(装飾用)
   (7)その他(靴への処置)
 2.下腿義足
  1) 下腿義足のソケットの概念
  2) PTBソケット
  3) PTSソケット
  4) KBMソケット
  5) TSBソケット
   (1)下腿義足の変遷
  6) TSB・ライナー装着・サクション懸垂下腿義足の原理
   (1)下腿サクションソケットを作り出すためのメカニズム
   (2)トリムライン
   (3)下腿ライナー吸着式ソケット採型における吸引ポンプの使用方法
   (4)吸引機補助サクションシステム
   (5)ボリュームマネージメントツール
   (6)ボリュームマネージメント
 3.サイム義足
  1) ソケットデザインの選択
  2) サイム義足の分類
   (1)無窓全面接触式(一重ソケット,二重ソケット)
   (2)内側有窓式(VAPC式)
   (3)後方有窓式(ノースウェスタン式),後方開き式(カナダ式)
   (4)在来式(コンベンショナル式)
   (5)シリコーンキャップ式
  3) サイム用足部
 4.大腿義足
  1) 吸着式大腿義足四辺形ソケットの概念
   (1)体重支持
   (2)吸着式ソケットによる自己懸垂
   (3)断端の収納
   (4)力の伝達
  2) 大腿義足に関する筋の解剖
   (1)おもに股関節の屈曲に関与する筋(屈曲筋群)
   (2)おもに股関節の伸展に関与する筋(伸展筋群)
   (3)おもに股関節の外転に関与する筋(外転筋群)
   (4)おもに股関筋の内転に関与する筋(内転筋群)
   (5)おもに股関節の外旋に関与する筋(外旋6筋)
   (6)大腿の切断レべルにおける断面
  3) 大腿義足と歩行時の重心移動の関連
   (1)歩行時におけるソケットと断端の関連
  4) 大腿義足の安定性
   (1)側方の安定性
   (2)膝折れの制御と前後の安定性
  5) 四辺形ソケットの理論
   (1)四辺形ソケットの各壁の特徴
  6) 吸着式ソケット
  7) 全面接触ソケット
  8) 坐骨収納ソケット
   (1)骨のアライメント
   (2)IRCソケットの原理
   (3)製作上でのポイント
 5.膝義足
  1) 膝義足ソケットデザインとその強度
  2) 膝義足ソケットデザイン選択の基本
  3) シリコーンとフレーム構造吸着式膝義足ソケット
 6.股義足
  1) ソケット
   (1)股関節離断,片側骨盤切除のソケットデザインとその力学
   (2)ソケットの構造
   (3)ソケットデザインの種類
   (4)断端とソケットのコントロール
  2) 股義足の振り出しの原理
  3) 股義足の歩行のメカニズム
   (1)踵接地
   (2)立脚中期
   (3)踵離れ
   (4)遊脚相加速期
   (5)遊脚相減速期
 7.義足の部品の概念と機能
  1)足継手および足部
   (1)足部の機能
   (2)足部の構造
   (3)足部の分類
   (4)その他の機能
  2)膝継手
   (1)膝継手の変遷
   (2)膝継手に求められる機能
   (3)遊脚相制御
   (4)立脚相制御
   (5)電子制御による膝継手
  3)股継手
   (1)股継手の種類と構造
   (2)股継手の設定位置
  4)アライメント調整機構
   (1)アライメント調整機構の機能
   (2)殻構造義足用のアライメント調整機構
   (3)骨格構造義足用のアライメント調整機構
  5)その他
   (1)ターンテーブル
   (2)トルクアブソーバー
   (3)懸垂装置
   (4)ライナー
V.上肢切断と義手
 上肢の運動学とバイオメカニクス
  1.肩甲帯と肩
   1) 肩甲帯の動きと役割
   2) 肩関節の動きと役割
   3) 肩甲帯と肩のバイオメカニクス
    (1)肩外転筋の筋力
    (2)肩甲帯の筋力
  2.肘関節
   1) 肘関節の動きと役割
   2) 肘関節のバイオメカニクス
  3.前腕
   1) 前腕の回外・回内の動きと役割
   2) 前腕切断と回外・回内の機能
  4.手関節
   1) 手関節の動きと役割
 義手
  1.上肢切断レベルとそれに対応する義手の「名称」
   1) 肩義手
   2) 上腕義手
    (1)吸着式上腕ソケット
    (2)オープンショルダーソケット
   3) 肘義手
   4) 前腕義手
    (1)ミュンスター型顆上部支持式自己懸垂型前腕ソケット
    (2)ノースウェスタン型顆上部支持式自己懸垂型前腕ソケット
   5) 手義手
   6) 手部義手
   7) 手指義手
  2.義手の機能による分類=「型式」
   1) 装飾用義手
   2) 作業用義手
   3) 能動義手
    (1)能動(式)手先具
    (2)肘継手
    (3)肩継手・手継手
    (4)制御装置(コントロールシステム)
   4) 電動(式)義手
    (1)電動ハンド
    (2)電動義手の制御方式
    (3)電動フック
   5) ハンド型手先具とフック型手先具
  3.手先具交換式義手システム
  4.ハイブリッド式義手
  5.その他の義手
  6.義手の部品と構成
   1) 義手の部品
    (1)手先具
    (2)手継手
    (3)肘継手
    (4)ハーネスおよびコントロールケーブルシステム
   2) 肩義手
   3) 手義手の各種デザイン
   4) チェックアウト
  7.上肢切断者のリハビリテーション
   1) 伝統的な上肢切断後のケアのあり方
   2) 切断術直後義肢装着法
    (1)生理学的切断手技
    (2)術直後仮義足装着
    (3)早期歩行訓練開始
    (4)切断術直後義肢装着法の問題点
   3) 切断術後早期義手装着法
   4) 義手の処方
   5) 上肢切断者のリハビリテーションにおけるチームアプローチ
  8.義手の装着訓練
   1) リハビリテーションの観点からみた義手および義手装着訓練の必要性
   2) 義手装着前訓練
   3) 義手装着訓練
    (1)前腕義手「片側切断の場合」
    (2)前腕義手「両側切断の場合」
    (3)上腕義手・肩義手「片側切断の場合」
    (4)上腕義手・肩義手「両側切断の場合」
   4) 義手のチェックアウト
   5) 仮義手訓練と義手パーツの工夫
   6) 電動(筋電)義手の訓練
  9.前腕筋電義手
   1) 筋電制御
   2) 筋線維
   3) 電極
    (1)サイズ
    (2)形状および材質
    (3)皮膚の処理
    (4)その他
    (5)アンプ
    (6)まとめ
   4) コントロールシステム
    (1)3state
    (2)筋電義手のコントロールのタイプ
   5) 上肢の機能解剖
   6) 部品,コンポーネント
  10.筋電義手の装着システムと訓練
   1) 筋電義手の普及状況
   2) 筋電義手の適応の判断
   3) 筋電義手装着訓練システムの実際
    (1)医学的評価
    (2)筋電義手についてのオリエンテーション
    (3)筋電信号検出と分離の評価
    (4)筋電信号発生,分離訓練
    (5)訓練用筋電義手の作製と適合評価
    (6)筋電義手の基本操作訓練
    (7)応用動作(両手動作)訓練
    (8)日常生活動作訓練
    (9)在宅や職場での評価
    (10)追跡調査
   4) 筋電義手継続使用希望者に対するアフターケアー
 付録.障害者自立支援法による補装具の制度
  1) 補装具の定義
  2) 費用の負担割合
  3) 費用の支払
  4) 自己負担金
  5) 種類・価格・部品,基準外の製作・修理
  6) 差額自己負担
  7) 支給される数
  8) 耐用年数
  9) 他法優先
  10) 消費税の扱い