やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監訳者の序
 訳者を代表して,本書の刊行までの経緯,対象とする読者,活用への期待,を述べたい.
 原著は,1975 年に刊行されたメイヨー・クリニックの Darley,Aronson,and Brown(1975)の共著である Motor Speech Disorders(柴田貞雄訳:運動性構音障害.医歯薬出版,1982)のいわば続編である.前編が構音障害の分野での記念碑ともいえる一連の研究の成果報告を主体としているのに対して,本編はその後20年間の世界中での臨床と研究の蓄積を Duffy博士が丁寧なレビューにより解説し,知識の進歩(既知)と未知の部分を明らかにしている.わが国でも,音声生理・病理の研究は優れたものが数多く報告され,本書でもその一部が引用されている.
 この蓄積が,次の数十年(未来)の臨床と研究に寄与することを期して,翻訳を試みた.きっかけは,米国留学から戻り臨床に携わっていた中谷謙氏より,構音障害の教科書として本書をすすめられたことである.その評価をいろいろ調べ,是非取り組んでみたいと医歯薬出版の編集担当者にご検討をお願いしたのは2001年の春であった.その後,音声懇話会においての出会い,その後に参画したいという気持ちを表明していただいた方々の協力を仰いで,本書の訳出が2002年に始まった.神経解剖・生理に関しては樋口隆先生に分担訳をお願いした.それから,3 年が過ぎ(監訳者の遅れによって),ようやく本としてのまとまりがついた.
 本書は,元来大学院生と臨床にある音声言語障害の専門家(言語聴覚士)を対象としているが,神経病理の診療に関わり,特にその評価・診断と治療を言語聴覚士に処方する医師(神経内科,脳神経外科,リハビリテーション科,耳鼻咽喉科)にも座右においていただきたい.音声言語の評価・治療を行うことが,言語聴覚士の主要な業務ではあるが,その所見が神経疾患の診断や局在をも明らかにする可能性をもつことは,きわめて重要な部分である(本書の第1章で秘宝 secretと記されている).その治療・マネージメントにおいては,理学療法士・作業療法士も協働で診療にあたることで最大限の効果をあげることが期待できる場合もあり,参照していただきたい.
 本書は,前述の通り,丁寧なレビューを基盤にした専門書である.片手間で読める代物ではないかもしれない.初学者には,まずはじっくり読んでもらいたい.臨床の場で出会った症例を理解するための指南書として使うのもよいだろう.経験の豊富な臨床家にとっても,多くの示唆と診療のヒントを与えるものではないだろうか.研究に取り組むにあたり,そのレビューを活用して,次の一歩を発案し踏み出すこともできそうだ.参考文献として示された原著に直接あたり,さらなる理解を深めることも,大いに勉強になる.
 本書の訳出にあたり,最も貢献したのは各章を分担して,丁寧に原文に忠実に訳出をしていただいた訳者である.訳者の多くは,多忙な臨床業務後の貴重な時間を費やして,本書に取り組んでいただいたこと,誠に頭が下がる思いである.用語に関しては,特に椎名英貴氏には,監訳者の誤りを正していただき,有難く思う.訳語(用語)に関して,脳神経外科の河野寛一先生(潤和会記念病院)には神経病理について,城本修先生(広島県立保健福祉大学)には声の所見について,教えていただいた.監訳者の指導教授 John Michel博士(カンザス大学名誉教授)には声質,特に harshnessの意味と歴史的経緯について丁寧な解説をいただいた.英語の和訳に関しては,宮本義久先生(元長崎大学教授)に多くの教えと激励をいただいた.他にもいろいろな機会に多くを教えて下さった方々に感謝する.
 最後に,医歯薬出版の編集担当者には,長期間にわたり監訳者の後押しや原文に当たり丁寧にその訳出の訂正など,本当に言葉ではいいきれない感謝の思いでいる.
 本書が,運動性構音(発声発語)障害への理解を深め,よりよい診療・ケアの一助となれば幸いである.
 2004年春 苅安 誠


訳出にあたって
 訳文は,原文に忠実な和文を心がけつつも,適切な語順などに配慮して読みやすい日本語を目指した.代名詞が主格に来る場合にも,あいまいさを避けるために主語をなるべく明示するようにした.一文が長い場合には,2〜3 文に分けた.頻出した接続詞 howeverに関しては,逆接のしかし(ながら)ではなく,補足を示すただしを主に用いた.原文に多用されていた associated with〜は,〜に伴う,とした.
 太字・斜体は,基本的に原文を踏襲した.太字は本文中の見出しと図表・囲みの番号指示,斜体は用語を中心に重要事項を示している.重要な用語(主に斜体の部分)については,初出時に原語である英語も併記した.併記する原語および訳語は基本的に単数形にしたが,特別な意味を持つ一部の用語に関しては複数形のまま表記した(構音障害群 dysarthrias,発声発語諸特徴 speech features,内喉頭筋群 intrinsic laryngeal musclesなど).
 索引は,発声発語障害の特徴や類型,その病因(疾患とその局在),神経学的所見を中心に,各章で提示された重要事項を網羅するよう,選択した.なお,原著の索引は参考にとどめ,訳者と監訳者で索引語の抜粋を行った.
 用語は,現行の用法を基本的に踏襲した.本書のなかでも,用語を統一することにより,読者の混乱を避け,同時に正確な内容の理解をはかることを目標とした.用語の用法については,以下を参考とした(いずれも最新版):日本神経学会用語委員会(編)神経学用語集(文光堂),岩崎祐三・田代邦雄(編)臨床神経学用語集(医学書院),文部科学省・関連学会(編)学術用語集:言語学編,心理学編(日本学術振興会),日本医学会(編)医学用語辞典・英和(南山堂),ステッドマン医学用語辞典(メジカルビュー社),最新医学大辞典(医歯薬出版),リハビリテーション医学大辞典(医歯薬出版),医学英和大辞典(南山堂),水島裕(編)今日の治療薬(南江堂),日本音響学会(編)音響用語辞典(コロナ社),平山恵造(編)臨床神経内科学(南山堂),鈴木重忠(監修):言語聴覚療法―臨床マニュアル(協同医書),リハビリテーション医学用語集(日本リハビリテーション医学会),用語(日本音声言語医学会,音声言語医学 31〜32 巻掲載分),音声言語障害(病理)学・神経解剖学・神経内科学関連の書籍等.
 スピーチ speechは,文脈に応じて訳語を使い分けた.広い意味では話しことば(spoken language)や音声言語(speech communication音声言語コミュニケーション,speech pathology音声言語病理学,speech diagnosis音声言語診断),言語(あるいは語音 speech sound),喉頭音源を示す声 voiceに声道(喉頭〜口・鼻)によるフィルターも含めた音声(speech production音声生成),語レベル(音の連続体)以上の音声生成を示す発語(apraxia of speech発語失行症,speech intelligibility発語明瞭度,during speech発語時),その両者を勘案した発声発語(speech features/speech characteristics発声発語諸特徴),とした.一方,言語生成の産物(文レベル)である utteranceは発話とし,音声生成の産物(語レベル)である speech発語と区別した(音声信号 speech signalは語音の連続体である).ただし,speech rateあるいは rate of speechは,生成された音声言語(発話)の速さの指標であり,発話の所要時間から算定するもので,話速度とした.
 本書では,dysarthriaを,構音障害とした.構音障害は,調音(言語音生成の過程,いわゆる発音)の異常を中核とする音声全般(発声発語)の問題であり,本書では神経原性の発声発語障害で神経-筋レベルの発語運動(音声生成)実行段階の問題に限定されている.麻痺性構音障害という用語が使われることもあるが,構音障害の中にはいわゆる筋力低下により運動が制限される麻痺あるいは不全麻痺だけでは説明できない類型(失調性,運動過多性など)もあるため,その使用を避けた.なお,構音障害は,器質性,運動性,機能性,言語(音韻)性,感覚性の病因別下位分類がなされる.その枠組みに従えば,dysarthriaは運動性の構音障害であるが,発語失行症と合わせて motor speech disorders(運動性構音障害)と命名されているので,本書では単に構音障害とした.構語障害という用語もあり,発語(語レベル)の異常を示す点では,言語の問題による構文障害と区別されているが,ここでは現在よく使われている構音障害を採用した.本書において,anarthriaは最重度の構音障害を示す用語(第12章に定義されている)であり,構音不能症とした.これは,従来の失語症関連の文献でみられる重度の発語失行症を意味する失構音と区別した.
 原著のタイトルである motor speech disordersは,本書では運動性構音障害とした.運動障害性構音障害とも記されることがあるが,本書(特に第8章)ではジストニー等の不随意運動を示す用語として運動障害を使っていることもあり,運動障害性を用いなかった.Darley(1978)は,構音障害の鑑別診断において,その原因を次の3つに整理している:感覚障害(聴力低下,口腔の知覚麻痺),生理学的問題(口蓋-咽頭機能不全,神経運動障害,歯の異常,舌の欠陥),学習能力の要因(精神発達遅滞,言語機能の障害,機能的構音障害).ここでは,構音障害の病因別類型として,生理学的問題で,解剖学的異常(器質性)を除くものとして運動性構音障害とした.なお,構音(発声発語)障害 speech disordersに運動性をつけることについては,違和感を持つ学者・臨床家もいる.例えば Diedrich(1982)は,発語 speech過程は元来運動性 motorであり,あえてそれを明記することが適当ではないと指摘している.
 音声生成の諸要素は,発声 phonation,調音 articulation,共鳴 resonance,韻律 prosodyとした.発語のリズムを示す fluencyは流暢性とした.口蓋-咽頭閉鎖 velopharyngeal closureには,よく使われている鼻咽腔閉鎖を一部に併記した.検査は,非言語性 nonverbal/nonspeechと言語性 verbal・音声言語(発声発語)speechの課題に大別されていた.パ・タ・カ反復の diadochokinesisは交互変換運動,パタカ等の運動連結である sequential motion(rate)は連続運動(率)とした.発声発語検査のひとつの柱である oral mechanismsは口腔器官機能検査とした.
 発声発語諸特徴は,これまでの訳書を含む和文文献にも習いつつ,明解な表現を用いた.例えば,pitchは声の高さ,loudnessは声量(声の大きさ),monopitchは単調子(平板な声の高さ),monoloudnessは平板な声の大きさ,hoarsenessは嗄声,strained-strangled qualityは努力性-絞扼性の声質,breath groupは息継ぎ区間,short phraseは短い発語,とした(第3章に表・付録として一覧が掲載されている).deviant speech featuresは常軌を逸した,すなわち臨床的に際立った(異常な)発声発語諸特徴とした.
 反射に関する用語では,gag reflexは咽頭(絞扼)反射,sucking reflexは吸引(吸綴)反射,suckling reflexは吸乳反射,とした.なお,カッコ内に示した用語は従来そして今日もよく使われているので,本書でも一部に併記した.音声課題のひとつである glottal coupは,喉つめ声とした.Aronson(1981,p.182)によると,glottal coupは声帯内転筋群の強度を知るために,患者に鋭い咳をさせたり,母音を鋭い立ち上がり(硬起声)で発声させるものである.
 音声言語障害の重症度 severityを示す用語は,軽度 mild,中等度 moderate,中等〜重度 marked,重度 severeとした.検査課題や所見における,forcedは強制的,effortfulは努力性,とした.本書を通じて出てくる clinicianは,音声言語障害(病理)の専門家を中心に,医師を含むもので,臨床家とした.病態生理を記す部分では,メカニズム mechanismを仕組みあるいは機序とした.問題を表す語として,disorderは障害,disturbanceは崩壊,defectは主に欠損あるいは欠陥(speech defectは発声発語障害あるいは異常と表記したところもある),とした.
 PART IIIの managementはマネージメントとした.治療 treatment,○○療法 therapy,といった個別あるいは一連の取組み effortとともに,指導や患者管理(紹介,追跡 follow-up)も含まれる広い概念を示す用語であり近年の書籍には多用されている.臨床研究における介入 interventionにも近いが,原語の意味を尊重して訳語を付さずにカタカナ表記にとどめた.マネージメントでは,最も大きな枠組みが approachアプローチ,進め方を strategy方略,個別の方法を technique手技・手法,と区別しているようである.1 回の治療は,セッション sessionあるいは治療機会と表現した.リハビリテーションにおける3階層を示す用語は,impairment形態・機能障害,disability能力低下,handicap社会的不利,とした.薬剤(薬物)の名称および市販薬剤名については,和文名があるものは原語とともに併記した.
 適当な訳語がないために,原語をそのまま表記した用語もある.harsh(voice)あるいは harshnessは,声質の異常(嗄声 hoarseness)であるが,主観的な印象(耳障りな声)を示す形容詞である.従来は,喉頭癌患者の声質の記載に用いられ,基本周波数のゆらぎ pitch perturbationあるいはジッタ jitterとの相関が示されている(Michel,1964).今日でも,構音障害例の声の特徴として本書でも踏襲されている.ただし,発声(音声)障害の領域では,聴覚心理的評価として GRBAS尺度が世界的にも定着しており,その中の粗造性 rough(ness)と近似しているが,代わりに用いられることはない.
 <参考文献>
 Darley FL:Articulation disorders.In FL Darley and DC Spriestersbach(eds.),Diagnostic methods in speech pathology(chap.19). Harper & Raw,New York,1978.
 Diedrich WM:Toward an understanding of communicative disorders.NJ Lass,LV McReynolds,F Northern,D Yoder(eds.),Speech,Language,and Hearing:Vol. 2,Pathologies of Speech and Language(pp.425-442). WB Saunders,Philadelphia,1982.
 Michel JF:Vocal fry and harshness.Unpublished doctoral dissertation,The University of Florida,1964.
 (苅安 誠)


翻訳版への序
 原作である本書の英語版の成功はとても満足すべきものであり,それが日本語版として出版され読まれることは私にとって大変名誉なことである.日本語への翻訳は,米国外で運動性構音障害の理解に努めることに貢献する学者,研究者,臨床家にとって,本書が有用な情報源という認識を示すものである.

 この世界が次第に狭くなりつつも,諸文化や国々の対立が日常的に取り上げられるが,我々の近似性はその相違性よりもはるかに大きいことが立証されている.ヒトという種族の一員として,誰もが話すという傑出した能力,それを可能とする神経系を共有している.発語パターンは言語間で著しい違いを示すものの,不幸にも,どの言語も中枢・末梢神経系の傷害による発声発語障害から免れるわけではない.運動性構音障害の内容(疾患,根底にある仕組み,それに伴う徴候と症状,マネージメント)は,言語と文化の障壁を超える共通の言語である.ヒト種族の一員である我々にもたらされる運動性構音障害を理解し,それを教授し,その治療に関わる全ての人達にとって,本書が役に立つことを私は心から願っている.
 2004年春 Joseph R. Duffy Ph. D, BC−NCD

 The success of the original, English version of this book has been very gratifying, and I am honored that it will now be available in the Japanese language. Its translation into Japanese represents recognition of it as a useful source of information to scholars, researchers, and clinicians outside the United States who have made significant contributions to our understanding of motor speech disorders.
 As the world has grown smaller, we are reminded on a daily basis of the conflicts between cultures and countries, yet there continues to be overwhelming evidence that the similarities among us far outweigh the differences. As members of the human family, we all share the amazing capacity for speech, and the nervous system that makes it possible. And, unfortunately, although speech patterns may differ in striking ways across languages, no language is immune to the disorders of speech that can result from damage to the central or peripheral nervous system. The language of motor speech disorders − the diseases, underlying mechanisms, and signs and symptoms associated with them, as well as their management − cross linguistic and cultural barriers. It is my sincere hope that this book is useful to all those seeking to understand, teach about, and manage the motor speech disorders that can affect us as members of the human family.
Joseph R. Duffy, Ph.D, BC−NCD

<原著者の紹介>
 メイヨー・クリニック(ミネソタ州ロチェスター)音声言語病理部長,メイヨー医科大学教授.学術博士 Ph. D(コネチカット大学,音声言語病理学専攻),BC−NCD(神経学的コミュニケーション障害に関する専門的知識の教育と規準を提供するために約 15 年前に設立された米国の学会 The Academy of Neurologic Communication Disorders が行っている継続的自己学習と試験を条件とした認定―現在約 100 名).



はじめに
 この本を,私の両親と Ella Duchaineへ捧げる.
 そして,数多くの方々に,
 ここでは名前を記しませんが,
 貴方は自分のことだとおわかりのはずです.
 そして貴方は私に何を教えたかを知っているはずです.

 To My parents and to Ella Duchaine,
 Many Plans,and Bean.
 You know who you are.
 You know what you mean.

 この脳研究10年の中間地点にきて,神経科学者は脳の構造と機能に関して,既知の事柄を自信をもって開示し,一方ではどのくらい未知の事柄があるかを謙虚に指摘することもできる.同様に,神経学的疾患に悩まされている人達に関わるヘルスケア提供者は,今日のサービスの方がかつてよりも向上したことをわかってはいるが,まだ望むところまでには至っていないこと,を感じている.
 音声言語の神経病理を有する人達の問題を診断しその援助をする臨床家が,知識と臨床サービス(診療)の進歩と不足を感じているのも例外ではない.本書は,音声言語(発声発語)の神経学的基盤,神経系が崩壊した時に発現する発声発語障害,すなわち運動性構音障害がいかに評価・診断され,どのようなマネージメントがなされるのか,について説明する.本書の内容は,我々が理解していると考えている事柄,つまり今日の知識,を反映している.それゆえに,各ページの文中あるいは行間には,滞り(ラクナ・小梗塞)が散見されるであろう.
 本書は,主に音声言語病理学の領域に携わる大学院生,臨床家,研究者を対象としている.ここで取り扱うトピックス(題目)は,関連する領域―神経内科学,神経心理学,リハビリテーション医学―にあって,神経学的疾患の指標ともなる発声発語障害,神経学的疾患の局在,発声発語障害の鑑別診断(音声言語診断)の医学的診断とケアへの価値に関心のある方々にも興味あるところである.
 本書は,次の3部に分割される:(1)発語運動の基礎とその障害,(2)運動性構音障害とその診断,(3)マネージメント,である.このような3部の中では,各章が相互に情報を示しながら,重要な事柄がうまく読者に伝えられることを筆者は願っている.
 PARTI(第1章から第3章)では基礎を呈示する.第1章は,運動性構音障害(構音障害および発語失行症)の基本的定義を提供し,他の発声発語障害との区別について説明する.メイヨー・クリニックの音声言語病理部門の臨床データを総括することで,複合的医療現場における有病率と分布状況の実際を提供する.第1章では,運動性構音障害を研究するための知覚的方法,音響学的方法,生理学的方法のあらましも提供する.最後に,運動性構音障害を特徴付けるアプローチ(取り組み)を検討し,構音障害群を検討する基本的道具ともなる Darley,Aronson,and Brownの分類方法(スキーム)を紹介する.
 第2章では,発語運動の神経学的基盤とその病理を総括する.ここでの焦点は,発声発語にとって重要な構造と機能,運動性構音障害を引き起こすことのある病理,運動性構音障害に伴う身体面と行動面の障害,におかれる.発語運動と神経系の最終共通経路,直接的・間接的活性化経路,制御回路との関係は,後続の各章で取り扱われる運動性構音障害の主要分類の違いを理解する基盤となる.
 第3章は,運動性構音障害の検査について解説する.ここでは,検査の目的を特に鑑別診断と関連付けて示している.臨床検査が詳細に説明され,病歴聴取,非言語性活動における音声生成の諸要素の評価,音声(発声発語)の知覚的分析,発語明瞭度の評価,音響学的・生理学的評価が含まれる.
 PART II(第4章から第15章)では,運動性構音障害を含む発声発語障害とその診断に焦点がおかれる.第4章から第11章までは,構音障害の主要なタイプ(弛緩性麻痺,痙性麻痺,失調性,運動低下性,運動過多性,一側性上位運動ニューロン性,混合性の構音障害が含まれる)と発語失行症を説明する.各章は,はじめに関連する神経学的・神経病理学的基盤を説明し,一般的にあるいは特有に当該の運動性構音障害をきたす状態を総括する.次に,当該の運動性構音障害から準無作為的に選ばれた標本の病因,局在,合併する認知障害,明瞭度が説明される.それから,患者の自覚と訴え,確証となる口腔器官機能検査所見と関連する所見,知覚的に際立った発声発語諸特徴,加えて音響学的・生理学的所見,が記される.各章の末尾には,症例報告が 4〜7 例示され,本文で記された内容の要点を表している.症例報告は,障害の臨床的現実,臨床現場に知識を活用する術(すべ),臨床活動の長所・短所,を提供する.
 第12章では,重度の運動性構音障害,失語症,非失語性の認知・情動障害を反映する神経学的無言症の諸形態を解説する.第13章では,運動性構音障害と近接・遠隔的関係にある神経原性の発声発語障害(後天的神経原性吃音,同語反復症,エコラリア,認知・情動障害,失語症,外国語様アクセント,失プロソディ症)を説明する.第12章と第13章でも,当該障害を代表するような症例をその末尾に提示してある.
 医療分野の音声言語障害臨床における最も難解な診断の問題は,神経病理と精神病理を反映した問題を区別することである.第14章では,後天的心因性発声発語障害を説明した.そこでは,215 症例の検討をもとに,その病因と発声発語特徴を記述した.診断に寄与する病歴聴取と観察の重要な側面も,総括してある.心因性の発声障害と流暢性障害,そして心因性の調音・共鳴・韻律の異常性も頻度は多くはないが,ここで記述する.症例報告では,こういった障害を有する人達が臨床現場でどのように現れるかを示している.
 第15章では,鑑別診断のための一般的指針を提供する.ここでは,第4章から第14章までの鑑別診断にとって大切な内容を統合させまとめてある.それは,構音障害群間,構音障害群と発語失行症,運動性構音障害と失語症,無言症の異なる諸形態,運動性構音障害と他の神経原性発声発語障害,神経原性発声発語障害と心因性発声発語障害との判別を強調している.
 PART IIIは,第16章から第20章にかけて,マネージメント(治療・指導)を説明してある.第16章は,運動性構音障害のマネージメントに関する一般的原則を概観している.そこでは,マネージメントの大まかな目標(ゴール),マネージメントの意思決定に関わる諸要因,医学的治療,補装具的治療,行動面の治療,拡大・代替コミュニケーション,カウンセリング,コミュニケーション支援,を示してある.特に,全ての運動性構音障害に適用できる行動面の治療については,その原理と指針(ガイドライン)をある程度詳細に記している.
 第17章は,構音障害のマネージメントに焦点をあてている.ここでは,話者主体のアプローチについて説明し,その中では呼吸,発声,共鳴,調音,話速度,韻律を向上させるための,医学的,補装具的,行動面の介入が示されている.ここでは,特定のタイプの構音障害に関連するマネージメントも吟味され,構音障害群内での鑑別診断がマネージメントに影響すること,一部のアプローチがある種の構音障害には適しているが他のアプローチは不適切(さらには禁忌)であること,を強調している.この章では,構音障害のタイプや音声生成自体の変化にかかわらず,コミュニケーションの促進のために構音障害の話者あるいはその周囲の聴者が用いるコミュニケーション主体の方略も示されている.
 第18章は,第16章と第17章の形式を踏襲しながら,発語失行症に焦点をあてている.そこでは,構音障害群と発語失行症が数多くのマネージメントの姿勢を共有しているが,両者は根底にある本質的問題が根本的に異なるために,両者のマネージメントは多くの重要な部分で異なる方法をとることを明示している.
 第19章では,第13章で説明された他の神経原性発声発語障害のマネージメントが簡潔に記してある.本書の主要な焦点を保つように,情動,認知,あるいは言語の障害が背景にある可能性も一部にはあるが,神経原性発声発語障害に伴う発声発語諸特徴の治療(あるいは治療の不適切さ)を強調する.
 第20章には,後天的心因性発声発語障害のマネージメントを説明してある.本書の目的からすると脱線する方に向かうが,この章を盛り込んだのは,心因性発声発語障害では劇的かつ早期のマネージメントの成功がよくあり,病因が神経原性か心因性かが不確かな症例の診断には,その貢献が期待されるためである.この章が臨床家の鑑別診断と治療の技能(スキル)に寄与することを切望する.
 本書の推進力は,運動性構音障害の基盤についての既知の事柄と日々の臨床での鑑別診断とマネージメントを統合したいという私の願望から生まれてきた.私は,本書を書き上げる中で多くを学び,それゆえにより賢明にそしてよりよい臨床家となった.一方では,これまで以上に,学ぶべきことがたくさんあることを確信している.私が知らないことの一部は,他の臨床家,科学者,学者の精神や日頃の臨床に見出すことができ,ある部分はまだ答えのないあるいは十分に練られていない疑問である.私は,本書の中で示されている事実,臨床観察,考えが,修練中の臨床家や研究者の学習を支える道具となり,実務についている臨床家や研究者にとっては有用な情報源となり,発声発語障害の理解とそれを有する人達を援助する能力が向上することへの興味の種となることを強く希望する.
 訳注:原著が刊行されたのは1995年である.これは,1990 年代の半ばであり,脳研究(神経科学 neuroscience)が米国の国立衛生研究所 National Institute of Health(NIH)での重点研究分野であったことを示している.この傾向は,世界的であり,わが国でも脳研究については,今日でも重点的に研究費配分がなされている.


謝辞
 本書の刊行にあたって,ここで記し,その寄与に謝意を表したい人達が多くいる.この寄与は,指導,激励,感想,共感,諧謔(ユーモア)の注入,友情といったもので,ある仲間内では精神療法とも呼ばれる.他の人達にとっては,本書の価値を判定することでもある.私自身は,助けてくれた人達にありがとうと言いたい.本書の至らない点は,私自身の責任である.
 数多くの人達が,本書の一部の草稿を読み,それをよくするための意見を述べていただいた.Hugh Morris,Steven Leder,特に Julie Liss と Vicki Hammen には,前半の 10〜11 章分の草稿に意見を下さったことに感謝する.私の同僚である Jack Thomas には,第 6 章と PART IIIマネージメントの大半についての意見に格別の謝意を表す.Richard Dewey には,第 8 章への意見と手助けをしていただいた.第 3 章の評価尺度は,私の同僚である Bob Keith,Jack Thomas,Virginia Scardino,Marita Douglass,Bill McGann,Garry Werven の意見なくしてはできなかった.Arnie Aronson には,第 9 章への意見と一冊を書き上げるにあたっての考え方と重要な情報をどのように読者にうまく伝えるべきかの助言をいただいた.Bob Duffy,Fred Darley,Arnie Aronson には,幾年にもわたって,私の指導にあたっていただき,とても特別な影響を受けた.運動性構音障害について私に身をもって教えてくれた数千もの患者さん,メイヨー・クリニックの神経内科部門の同僚,私の同僚や仲間(臨床失語症学会 Clinical Aphasiology Conference で出会った人達)が,全てこの本を築き上げた.
 Mosby−Year Book の編集スタッフ,特に編集開発担当の Kellie White 氏の支援にも感謝する.解剖イラストを準備していただいた Bob Benassi に多大の感謝を表したい.彼のイラストは,多くの言葉にも匹敵するものであった.ひっきりなしの仕事の真っ只中でも,本書の準備にあたり,その能力,スピード,心意気,忍耐を示した秘書の Jacque Trefz には,あらためて敬意を表す.
 本書は,妻,友人,そして同僚でもある Perry Myers の支援,情熱,忍耐なしでは,始まり,終えることもできなかったであろう.彼女の無形の才覚は,他の誰よりも多くの章に意見と編集上の示唆をくれて,それを読むことを私に強要できることであった.子供達 Matt と Melanie には,週末の不在に理解を示し,熱心に“あの本はどうなったの?”と何べんもたずねてくれたことに,ありがとうをいいたい.
運動性構音障害―基礎・鑑別診断・マネージメント― CONTENTS

 監訳者の序    苅安 誠
 訳出にあたって  苅安 誠
 翻訳版への序   Joseph R.Duffy
 はじめに     Joseph R.Duffy
 謝辞       Joseph R.Duffy

■PARTI 基礎
第1章 運動性構音障害の定義,理解,分類(苅安 誠)
 音声生成の神経学的過程
 音声生成の神経学的崩壊
 基本用語の定義
  構音障害
  発語失行症
  運動性構音障害
 運動性構音障害から識別されうる発声発語障害
  他の神経学的障害
  非神経学的異常
  音声生成の正常範囲内変動
 運動性構音障害の有病率と分布状況
 運動性構音障害の研究および分類の方法
  知覚的方法
  音響学的方法
  生理学的方法
  運動性構音障害の知覚的分析の臨床的意義
 運動性構音障害の分類
  運動性構音障害の特徴付け
  臨床タイプ分類における知覚的方法
 まとめ
第2章 発声発語の神経学的基盤とその病理(樋口 隆)
 肉眼的神経解剖学と主な神経系
  頭蓋(骨)と脊柱
  神経系の主な解剖学的レベル
  髄膜による被いと関連する空間
  脳室系(脳脊髄液系)
  血管系
  内臓系
  意識系
  感覚系
  運動系
 神経系の主要な構成要素
  ニューロン
  神経,神経路,伝導路
  支持細胞
  構成要素の病理的反応
 臨床病理学的な関連事項
  神経系疾患の局在と経過の決定
  広義の病因分類
 発語運動系
  最終共通経路―基本的構造と機能
  最終共通経路と発声発語
   三叉神経〔第V脳神経〕
   顔面神経〔第VII脳神経〕
   舌咽神経(第IX脳神経)
   迷走神経(第X脳神経)
   副神経(第XI脳神経)
   舌下神経(第XII脳神経)
   脊髄神経
  直接的活性化経路と発声発語
  間接的活性化経路と発声発語
  制御回路
  大脳基底核制御回路と発声発語
  小脳制御回路と発声発語
 概念―プログラム化段階と発語
  概念化
  空間的-時間的企画(言語学的企画)
  運動企画(発語プログラム化)
  実行
  フィードバック
 まとめ
第3章 運動性構音障害の検査(白垣 潤・柴田亜矢子・永野真美・苅安 誠)
 発声発語検査の目的
  記述と問題発見
  診断の可能性の確立
  診断の確定
  局在と疾患診断への含意の確立
  重症度の特定
 検査の一般的な指針
  病歴
  際立った諸特徴
  確証となる徴候
  所見の統合
 発声発語検査
  病歴
  非言語性活動時の口腔器官機能検査
  発声発語特徴の知覚的評価
  発語明瞭度の評価
  音響学的・生理学的測定
 まとめ

■PARTII 障害とその診断
第4章 弛緩性麻痺構音障害(井口光開・苅安 誠)
 弛緩性麻痺の臨床特徴
  筋力低下
  筋緊張低下と反射減退
  萎縮
  線維束性収縮と線維性収縮
  継続使用に伴う進行性の筋力低下
 病因
  頻出する専門用語の一部
  関連する諸疾患とその状態
 音声言語病理
  臨床現場における病因の分布状況
  患者の自覚と訴え
  三叉神経(第V脳神経)損傷
  顔面神経(第VII脳神経)損傷
  舌咽神経(第IX脳神経)損傷
  迷走神経(第X脳神経)損傷
  副神経(第XI脳神経)損傷
  舌下神経(第XII脳神経)損傷
  脊髄神経損傷
  多重脳神経損傷
  弛緩性麻痺構音障害における脳神経損傷の分布状況
  際立った発声発語諸側面のクラスター
 症例
 まとめ
第5章 痙性麻痺構音障害(椎名英貴)
 直接および間接的活性化経路の解剖と基本的機能
 上位運動ニューロンの損傷と痙性麻痺の臨床的特徴
 痙性麻痺と痙性麻痺構音障害との関係
 病因
  血管障害
  炎症性疾患
  変性疾患
 音声言語病理
  臨床における病因,損傷部位,重症度の分布状況
  患者の自覚と訴え
  臨床所見
  音響学的・生理学的所見
 症例
 まとめ
第6章 失調性構音障害(村上敦子)
 小脳制御回路の解剖と基本的機能
 小脳内の発声発語の機能局在
 小脳損傷と失調の臨床的特徴
 病因
  変性疾患
  血管性障害
  新生物(腫瘍)
  外傷
  中毒性-代謝性疾患
  その他
 音声言語病理
  臨床現場における病因,損傷,重症度の分布状況
  患者の自覚と訴え
  臨床所見
  音響学的・生理学的所見
 症例
 まとめ
第7章 運動低下性構音障害(柴本 勇・苅安 誠)
 大脳基底核制御回路の解剖と基本的機能
 運動低下性構音障害に伴う大脳基底核制御回路障害の臨床特徴
 病因
  変性疾患
  血管障害
  中毒性-代謝性の状態
  外傷
  感染
  その他
 音声言語病理
  臨床現場における病因,損傷部位,重症度の分布状況
  患者の自覚と訴え
  臨床所見
  音響学的・生理学的所見
 症例
 まとめ
第8章 運動過多性構音障害(苅安 誠)
 大脳基底核制御回路の解剖と基本的機能
 運動過多性構音障害に伴う大脳基底核制御回路障害の臨床特徴
  ジスキネジア
  ミオクローヌス
  チック
  舞踏運動
  バリズム
  アテトーゼ
  ジストニー
  攣縮(スパズム)
  振戦
 病因
  変性疾患
  中毒性-代謝性の状態
  血管障害
  感染過程
  新生物
  その他
 音声言語病理
  臨床現場における病因,損傷部位,重症度の分布状況
  患者の自覚と訴え
  舞踏病
  ジストニー
  アテトーゼ
  痙攣性斜頸(頸椎ジストニー)
  口蓋-咽頭-喉頭ミオクローヌス
  動作性ミオクローヌス
  チック-ジルドラ・トゥレット症候群
  器質性音声振戦
  痙攣性発声障害(痙性麻痺音声障害)
 症例
 まとめ
第9章 一側性上位運動ニューロン性構音障害(菱沼令子)
 上位運動ニューロン系の解剖と基本的機能
 一側性上位運動ニューロン損傷の臨床特徴
 病因
 音声言語病理
  臨床現場における病因,損傷部位,重症度の分布状況
  患者の自覚と訴え
  臨床所見
  音響学的・生理学的所見
 症例
 まとめ
第10章 混合性構音障害(菱沼令子)
 病因
  変性疾患
  中毒性-代謝性疾患
  血管障害
  外傷
  腫瘍
  感染症
 音声言語病理
  臨床現場における病因,タイプ,重症度の分布状況
  運動ニューロン疾患:筋萎縮性側索硬化症
  多発性硬化症
  フリードライヒ運動失調症
  進行性核上性麻痺
  シャイ・ドレーガー症候群
  オリーブ橋小脳萎縮症
  ウィルソン病
 症例
 まとめ
第11章 発語失行症(大平芳則)
 発語運動プログラム化の解剖と基本的機能
 発語失行症患者の非言語性,非口腔運動性,非言語学的特徴
 病因
 音声言語病理
  用語と理論
  臨床現場における病因,損傷部位,関連する障害の分布状況
  患者の自覚と訴え
  臨床所見
  音響学的・生理学的所見
 症例
 まとめ
第12章 神経原性無言症(中谷 謙)
 運動性構音障害と無言症
  構音不能症
  閉じ込め症候群
  両側弁蓋症候群
  小脳性無言症
  発語失行症と無言症
 失語症と無言症
 無言症を伴う非失語性の認知・情動障害
  覚醒障害
  大脳皮質諸機能のびまん性障害(遺残性植物状態,失外套状態,覚醒昏睡)
  無動性無言症(前頭葉-辺縁系病理)
 特定の病因による神経原性無言症
  交連切断術後の無言症
  発語停止
 症例
 まとめ
第13章 その他の神経原性発声発語障害(勝木 準)
 両側性,びまん性,あるいは多病巣性の中枢神経系損傷に伴うその他の発声発語障害
  後天性神経原性非流暢性・吃音様行動(神経原性吃音)
  同語反復症
  エコラリア(反響言語)
  認知および情動の障害
 左半球損傷に伴うその他の発声発語障害
  失語症―言語に関連する発声発語障害
  外国語様アクセント
 右半球損傷に伴うその他の発声発語障害―失プロソディ症
  韻律産生の評価
  右半球損傷患者の発声発語特徴
  関連する臨床的特徴と裏付けデータ
  解剖学的関連
  問題の本質
 症例
 まとめ
第14章 後天的心因性発声発語障害(中山剛志・苅安 誠)
 病因
  うつ病
  統合失調症(精神分裂病)
  ストレスとストレス反応
  転換性障害
  身体化障害
  意図的な障害
 音声言語病理
  臨床現場での心因性発声発語障害のタイプの分布状況
  検査
  特異的な精神医学的状態に伴う発声発語の特徴
  心因性発声障害
  成人で発症する心因性吃様非流暢性(心因性吃音)
  心因性発声発語障害の他の諸症候
  心因性無言症
 症例
 まとめ
第15章 鑑別診断(椎名英貴・苅安 誠)
 鑑別診断の一般的指針
 構音障害群間の鑑別
  解剖学的局在と血管支配
  病因
  口腔器官機能検査の所見
  発声発語諸特徴
 構音障害と発語失行症の鑑別
  解剖学的局在と血管支配
  病因
  口腔器官機能検査の所見
  発声発語諸特徴
 運動性構音障害と失語症の鑑別
  構音障害対失語症
  発語失行症対失語症
 神経原性無言症の諸形態の鑑別
  構音不能症
  発語失行症
  失語症
  認知-情動障害
 運動性構音障害と他の神経原性発声発語障害との鑑別
  神経原性吃音
  同語反復症
  反響言語
  認知-情動障害(無為)
  失プロソディ症
 神経原性と心因性の発声発語障害の鑑別
  うつ病(抑うつ状態)
  統合失調症(精神分裂病)
  転換性障害と生活上のストレスへの反応
 症例
 まとめ

■PARTIII マネージメント
第16章 運動性構音障害のマネージメント:一般的原則(中谷 謙)
 マネージメントの諸問題と意思決定
  マネージメントの領域
  マネージメントの目標(ゴール)
  マネージメントの意思決定に影響する諸要因
  治療の焦点
  治療の期間とその終了
 マネージメントのための諸アプローチ
  医学的介入
  補装具を用いたマネージメント
  行動面のマネージメント
  拡大・代替コミュニケーション
  カウンセリングと支援
 行動面のマネージメントの原則と指針
  マネージメントは早期に開始する
  医学的診断と音声言語診断はマネージメントに関連する
  ベースライン・データは目標(ゴール)設定と変化の測定のために必要である
  生理的支持の増強はしばしば治療の初期の焦点となる
  代償には音声生成の意識化が必要である
  運動学習の原理はマネージメントに反映させる
  治療機会(セッション)の構成
  治療効果
 まとめ
第17章 構音障害のマネージメント(藤原百合)
 話者主体の治療アプローチ
  呼吸
  発声―医学的治療
  発声―補装具を用いた治療
  発声―行動面のマネージメント
  共鳴
  調音
  話速度
  韻律と発語の自然さ
 構音障害のタイプに応じた話者主体の治療アプローチ
  弛緩性麻痺構音障害
  痙性麻痺構音障害
  失調性構音障害
  運動低下性構音障害
  運動過多性構音障害
  一側性上位運動ニューロン性構音障害
 コミュニケーション主体の治療アプローチ
  話者の方略
  聴者の方略
  相互作用の方略
 まとめ
第18章 発語失行症のマネージメント(濱村真理)
 マネージメントの概要
  マネージメントの領域と目標(ゴール)
  マネージメントの意思決定に影響する諸要因
  治療の焦点,期間,終了
 マネージメント・アプローチ
  医学的介入
  補装具を用いたマネージメントと拡大・代替コミュニケーション
  行動面のマネージメント
 行動面のマネージメントの原則と指針
  ベースライン・データ
  生理的支持
  運動学習の諸原理
 行動面のマネージメント・アプローチ
  発語失行症の治療のための 8 段階連続法
  口腔筋-調音標的の再編成への補助
  メロディ抑揚療法
  多重入力音韻療法
  非意図的発話の随意的制御
  その他のアプローチと手技
  治療効果
 まとめ
第19章 他の神経原性発声発語障害のマネージメント(濱村真理)
 神経原性吃音
  医学的マネージメント
  行動面のマネージメント
 同語反復症
 エコラリア(反響言語)
 認知障害と情動障害
 失語症
 外国語様アクセント
 失プロソディ症
 まとめ
第20章 後天的心因性発声発語障害のマネージメント(浮田弘美)
 一般的原則と指針
  心因性発声発語障害を有する患者の多くは音声言語臨床家により効果的に治療される
  回復の見通し(予後)は通常良好である
  症状とその説明に取り組まなければならない
  問題が器質性であるという患者の信念に取り組まなければならない
  治療は診断期間内に試行されるべきである
  患者に対しての臨床家の態度やふるまいは非常に重要である
  将来について議論しなければならない
  対症療法が成功した時,通常その説明を受けて患者は治療を離れなければならない
  誰もが援助を受けたいと思っているわけではなく,助けられる段階にいるのではなく,また,救われるわけでもない
 一般的な治療手技
  評価とマネージメントの流れ
  心理社会的経歴
  器質説についての信念の言明
  対症療法
  問題の本質とその改善の検討
  将来の検討
 特定の心因性発声発語障害への対症療法
  心因性発声障害
  心因性吃音
  その他の心因性発声発語障害
 まとめ

 和文索引
 欧文索引