やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 高齢社会の到来による高齢障害者の増加,社会習慣の変化に伴う生活習慣病の増加,あるいは医療技術の進歩などにより,従来は救命できなかった傷害や疾病が後遺症を残して生命を維持できるようになるなど,リハビリテーション(以下リハ)の対象となる障害をもった患者の数はますます増加傾向にある.急性期一般病院の患者の多くがリハ対象疾患となり,救急救命センターからリハが開始されるようになってきている.そのため,プライマリーケアと並行して,あるいはリハ治療そのものがプライマリーケアのなかに位置付けられる時代となっている.
 従来の一般治療が終わってから後療法として始まるリハから,まずリハを考える“リハ前置主義”の時代を迎え,昨今では一般の医師はもちろんのこと,看護師などリハ以外のコメディカルスタッフにおいても基本的なリハの知識,および技術を備えることが求められるようになってきている.
 1996年にリハ科が正式に標榜科として旧厚生省に認められ,以来医療機関におけるリハの役割が明確になってきた.また,前述の高齢社会などリハに対するニーズも増大してきており,医療のみならず保健,福祉の領域全般にも徐々にリハの考え方が浸透してきた.また,様々なメディアを通じてリハを知る機会も増加傾向にある.
 このようにリハの知識,技術を求める気運は高まっており,それらの要求に答えるべく,幅広い内容で深い知識を供給できる教科書はすでに幾つか出版され,それにより系統的な知識,技術の習得が可能となっている.
 それら既存の教科書と比べて本書の特徴は,日常診療に必要でかつ十分な知識・技術のみが凝縮され,手軽に白衣のポケットに入れられ,常時持ち運びができるサイズのものになっていることである.本書は,リハ科を標榜する医師やレジデントを主な読者対象としているが,リハ対象疾患の直接の主治医になる他科の医師や,リハ関連のコメディカルスタッフの要求にも十分応えられる内容をもっている.また,臨床場面で必須の知識が随時確認でき,患者さんの見方,治療技術の習得にも役立つものになっている.多くの疾患は内科的,あるいは外科的治療と並行してリハとチームを組んで治療を行うことで,より効率的で質の高い医療の提供が可能となる.また早期からの集中的なリハにより,入院期間の短縮や退院時のADLの向上につながるものとなり,わが国が今後進むであろう医療制度改革の要望にも叶うものとなっている.
 本書は,マニュアルという目的のために厳選された知識のみを収載することを心がけた.そのため,一般の教科書にある幅広い内容を網羅するものにはなっていない.リハ医学・医療の知識をさらに広げたい方には,巻末にある種々の参考図書で補っていただければ幸いである.
 2003年5月
 監 修
 石田 暉 宮野佐年
総論
 1 リハビリテーションとは
 2 リハビリテーションの流れ
 3 チーム医療におけるリハ医の役割
 4 カンファレンスにおけるリハ医の役割
 5 チーム医療における各専門職の役割
 6 リハビリテーション共通用語

基本技術
■評価
 1 リハ診察の仕方
 2 関節可動域測定と徒手筋力検査
 3 電気生理
 4 画像診断
 5 運動負荷テスト
 6 ADLの評価
 7 歩行の評価
 8 嚥下障害の評価
 9 失語症の評価
 10 排尿障害の評価
 11 障害者心理の評価
■治療
 12 理学療法
 13 作業療法
 14 言語療法
 15 嚥下訓練
 16 モーターポイントブロック
 17 補装具療法
 18 心理的アプローチ

疾患別リハビリテーション
 1 脳血管障害
 2 頭部外傷
 3 高次脳機能障害・痴呆
 4 脊髄損傷
 5 二分脊椎
 6 パーキンソン病
 7 脊髄小脳変性症
 8 多発性硬化症
 9 筋萎縮性側索硬化症
 10 ギランバレー症候群
 11 末梢神経損傷
 12 多発性筋炎
 13 筋ジストロフィー
 14 脳性麻痺
 15 慢性閉塞性肺疾患
 16 心疾患
 17 生活習慣病(糖尿病,高血圧,高脂血症)
 18 悪性腫瘍
 19 末梢循環障害
 20 関節リウマチ
 21 骨粗鬆症
 22 肩関節周囲炎・腱板断裂
 23 腰痛
 24 変形性股関節症
 25 変形性膝関節症
 26 慢性疼痛
 27 熱傷
 28 褥瘡
 29 廃用症候群
 30 切断

社会復帰・在宅支援
 1 退院時指導
 2 介護保険の利用の仕方
 3 社会資源の利用の仕方

各書類の書き方
 1 身体障害者診断書・意見書
 2 主治医意見書
 3 リハビリテーション総合実施計画書
 4 退院サマリーの必要項目
 5 他院への紹介状の必要項目

資料
 1 関節可動域表示ならびに測定法
 2 Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)
 3 Japan Coma Scale(JCS)
 4 Brunnstrom Stage
 5 Modified Ashworth Scale
 6 股関節機能判定基準
 7 変形性膝関節症治療成績判定基準
 8 義肢装具のチェックポイント
 9 車椅子のチェックポイント
 10 リハ関連診療報酬

 推薦図書
 索引