やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 私は,1998年に順天堂大学医学部に助教授として赴任し,すでに25年の歳月が流れました.順天堂大学は「健康総合大学」であり,医学・医療,スポーツ健康科学,看護学の面で社会に大きく貢献してきたと思っています.これまで,多くの素晴らしい先輩・同僚・後輩・仲間たちに恵まれ,自分なりに全力投球してきました.なかでも,お二人の素晴らしい尊敬すべき先輩に出会いました.小川秀興先生(学校法人 順天堂理事長,公益財団法人 医学教育振興財団理事長)には,いつも“栄養とスポーツ”,“スポーツを科学する姿勢”(スポトロジー)についてお教えいただき,たいへん感謝いたしております.また,澤木啓祐先生(順天堂大学特任・名誉教授,日本陸上競技学会会長)は,長距離界のアスリートとして大活躍されたばかりでなく,箱根駅伝の指導者としても活躍され,素晴らしい後継者を何人も育成されました.このお二人のご指導・ご支援もあり,本書「スマート栄養管理術123─栄養とスポーツの管理が重要であるこれだけの理由─」を上梓いたしました.
 1992年,国連高齢者問題世界会議では,世界栄養宣言として「栄養的に適切で安全な食物を摂取することは,一人ひとりの権利である」ことが採択され,“高齢者や障害がある人も含めてすべての人が,その人なりに健康でしかも生活の質(QOL:qualityof life)を高める方向へ向かって生きることができる”ことが述べられています.「食」は,私たちの健康にとってかけがえのないものであり,心身に豊かさを与えてくれます.しかし,現代の生活は不規則で,ゆとりのない食生活が目立ちます.食生活の乱れは成人のみならず小児にも波及し,メタボリックシンドロームや生活習慣病の原因となっています.
 しかし一方では,未熟児や高齢者,寝たきり老人,癌がんなどの終末期医療,手術後等における低栄養も大きな社会問題の1つです.また,個人の味覚は10歳頃くらいまでに決まってしまいますから,小さい頃からの「食育」の重要性が叫ばれています.したがって,医師のオーダーのもと管理栄養士,薬剤師,看護師等が連携して行う栄養管理(食事療法)は,疾病予防と各疾患の非薬物治療の中核をなすものであり,たいへん重要です.
 一方,スポーツの重要性も叫ばれ,ウォーキングや水泳,水中散歩などの有酸素運動が勧められ,各学会から毎日継続して行うことの効果が示されています.最近では,「和食」がもたらす持久力に注目し,食事を通じてアスリートをサポートするインストラクター養成の動きがみられます.しかし,どのような種類の運動をどの程度行えばよいのか,明確なエビデンスが得られていないのも現状です.しかも,疾病の重症度によっては,過度の運動は各疾患の病態をさらに悪化させるため禁忌とされることがあります.
 本書では,総論として「栄養管理」について概説したうえで,これまで国内外で発表されているエビデンスを大いに取り入れ,また経験を踏まえて栄養管理をアスリート,健康者,未病者,有病者に分け,順天堂大学の仲間たちを中心に各専門の方々にご執筆いただきました.また,トピックスとして「NSTとは?」,「チーム医療における医師・管理栄養士・調理師・配膳/下膳係の役割とは?」,「アライメント(姿勢)の重要性とは?」を取り上げました.お忙しいなか,ご執筆賜りました皆様に心から厚く御礼申し上げます.
 本書の内容や不備な点や過不足について,忌憚のないご意見をいただければ幸いです.最後に,本書の出版に際しご尽力いただきました遠山邦男氏をはじめ,医歯薬出版株式会社の皆様に深謝いたします.
 2014年 新春 神田川のほとりにて
 富野 康日己
 はじめに
 編者・執筆者一覧
第1章 栄養管理
 1 栄養管理はなぜ必要なのか?(富野康日己)
 2 理想体重・平均体重・BMI・Rohrer指数は何を意味するのか?(富野康日己)
 3 バランスのとれた理想的な食事とは?(市 育代)
 4 三大栄養素とは?(市 育代)
 5 ビタミンとは?(合田朋仁)
 6 ミネラルとは?(合田朋仁)
 7 食物繊維(ダイエタリーファイバー)の必要性は?(合田朋仁)
 8 どうなると肥満といわれるのか?(濱田千江子)
 9 どうなるとヤセといわれるのか?(濱田千江子)
 10 食習慣(過食)と肥満の関係は?(濱田千江子)
 11 メタボリックシンドロームとは?(堀越 哲)
 12 食習慣(節食・少食)とヤセの関係とは?(堀越 哲)
 13 小児の生活習慣病が増えているわけとは?(北村知宏・清水俊明)
 14 妊婦のヤセと小児生活習慣病の関連とは?(齋藤知見・竹田 省)
 15 妊娠中・授乳中の栄養管理とは?(齋藤知見・竹田 省)
 16 乳児・幼児・子どもの栄養管理とは?(北村知宏・清水俊明)
 17 食育の必要性とは?(堀越 哲)
第2章 スポーツ栄養管理
 1 アスリートの栄養管理の原則とは?(小清水孝子)
 2 有酸素運動(水泳/サイクリング/マラソン・駅伝等)とは?(鯉川なつえ)
 3 無酸素運動とは?(鯉川なつえ)
 4 有酸素運動を主とする持久系競技に取り組むアスリートの食事とは?(村田浩子・田口素子)
 5 無酸素運動を主とする競技に取り組むアスリートの食事とは?(村田浩子・田口素子)
 6 競技スポーツ試合後の栄養管理とは?(殖田友子)
 7 一般成人における健康増進のための適切な運動と栄養管理とは?(村田浩子・田口素子)
第3章 健康者と未病者の栄養管理
 1 健康とは?(富野康日己)
 2 未病(境界型疾患)とは?(富野康日己)
 3 喫煙,飲酒,運動などの生活習慣の是正はどうするのか?(堀越 哲)
 4 未病と思われる人の基本的な食事のあり方とは?(富野康日己・増田 稔)
 5 朝食を摂ることの重要性とは?(来栖 厚)
 6 かぜ対策の食事は?発熱時の食事とは?(牧田寿美子)
 7 胃腸を守る食事とは? 下痢・嘔吐時の食事とは?(牧田寿美子)
 8 目の健康に役立つ食事とは?(村上 晶・橋コ江)
 9 肌の健康に役立つ食事とは?(長谷川敏男・池田志斈・橋コ江)
 10 花粉症予防の食事とは?(三輪正人・池田勝久・岩岡愛美)
 11 がんを発症しやすい食品とは? がん予防に役立つ食品とは?(堀越 哲・増田 稔)
 12 メンタルヘルスのためになる食事とは?(石田眞弓・新井平伊)
 13 疲労回復できる食事とは?(石田眞弓・新井平伊)
 14 サプリメントの効果的な利用法とは?(鈴木良雄)
 15 「特定保健用食品」は何に有効か?(鈴木良雄)
第4章 有病者の栄養管理
 1 糖尿病―成人(1型・2型)(豊田雅夫・藤井穂波)
 2 糖尿病―小児(須藤ゆう・新島新一・橋コ江)
 [腎臓病]
  3 急性糸球体腎炎(大澤 勲・増田 稔)
  4 慢性糸球体腎炎(鈴木 仁・増田 稔)
  5 糖尿病性腎症(船曳和彦・篠宮真理)
  6 ネフローゼ症候群(鈴木祐介・増田 稔)
  7 急性腎不全(井尾浩章・増田 稔)
  8 慢性腎不全(清水芳男・増田 稔)
 9 高血圧症(富野康日己・増田 稔)
 10 脂質異常症(大村千恵・小林喜代惠)
 11 心血管疾患・動脈硬化症(横山美帆・代田浩之・波多江千恵)
 12 高尿酸血症・痛風(金子希代子)
 [肝臓病]
  13 急性肝炎(平野克治・市田隆文・渡辺真理子)
  14 慢性肝炎(平野克治・市田隆文・渡辺真理子)
  15 肝硬変(平野克治・市田隆文・渡辺真理子)
 16 低栄養(未熟児)(東海林宏道・清水俊明)
 17 低栄養(老衰)(木所昭夫・植田雄希)
 18 消化器疾患術後(杉本起一・坂本一博・渡邉威仁)
 19 嚥下障害(波田野 琢・服部信孝・有村芳子)
 20 がん患者(木所昭夫)
第5章 トピックス
 1 NSTとは?(金 成彌・清水俊明)
 2 チーム医療における医師・管理栄養士・調理師・配膳/下膳係の役割とは?(堀越 哲・有村芳子)
 3 アライメント(姿勢)の重要性とは?(山田美紀)

 付表 院内約束食事箋 食事基準(特別食)(順天堂医院)
 索引