はじめに
「全体構造法(JIST法)」というとある種のテクニックと受け取られるかもしれません.しかし本法は,人間の脳にとってもっとも自然で,もっとも効率的な言語構築を探求してきた体系であり,how-toではありません.ですから他の訓練法を全面否定しているものでもありません.本法の技法の一部は一見,従来の方法に似ているものも当然あります.
私たち人間においては,言語の学習は土台から段階的に構築していく…ということが多くの人間科学研究からわかってきています.本法の特徴は,そうした人間科学研究から出発していることです.すなわち,常に一人の人間の言語再学習として,どの段階でどの順番で練習していくかという体系研究のもとで,その技法を用いていくのです.
そのため,本法の言語専門家(主として言語聴覚士:ST)への伝達はできるかぎり紙面に頼らずに講習会で,生なまの臨床場面を考えてもらいながら行ってきました.そういう状況のなか,家族にも理解してもらえるような紹介書を出版してはどうかと声をかけてもらいました.言語専門家に対してさえ真に全体体系を理解してもらうのに時間がかかるのに,そのような本が書けるとは思えず,突拍子もないこととうろたえ何年も経ってしまいました.このたび,なんとか形にできたのは,全国のJIST会員の実績を伴った心強い支援のおかげです.
本書は一般の方々にもわかっていただけるよう,可能な限り専門語を用いないで説明していくという方針で書き始めました.そのため,回りくどい言い方や,言語専門家間では使わない用語なども使わざるをえませんでした.特に導入部分のなかの「話しことばの習得」については,ずいぶんクドクドと書いてしまいました.話しことば,つまり「ことば音」のことを日常語で説明しはじめたら,どうしてもこうなってしまったのです.それでも話しことばの,重要な土台であるリズムやイントネーション(抑揚),情緒,強さなどを包括した用語である「プロソディ」だけは,そのまま専門語で書かせてもらいました.そのつど,リズム,イントネーション(抑揚),情緒,強さ…などと書いていくと,文章全体がわかりにくくなってしまうからです.
可能なかぎりわかりやすくといっても,著者の能力に限界があり説明不足の部分が甚だ多くなりましたが,そこは幸運にも同じJIST臨床家の仲間である世良厚子さんの挿絵に補ってもらえたと感謝しています.さらに日々の臨床業務で多忙にもかかわらず,現場での実感や他領域への試みを書いてくれたJIST臨床家の仲間のおかげです.
全体構造法は,指導者が主体であった従来の言語訓練から,失語症者自らの自発性主体の言語訓練への転換をもとめます.一石を投ずる考え方として本法を,統一しまとめてきました.ここまで一つの体系としてまとまることができたのは,多岐にわたる人間科学分野の研究成果を利用させていただくことができたおかげです.これらご教示を受けた先達研究者の氏名を列記するには紙面がいくらあっても足りなく,参考文献で研究名を示すのも多数すぎて学術書のようになってしまい,本誌の目的に沿いません.主に参考・引用させていただいた先行研究は,『失語症のリハビリテーション―全体構造法のすべて―』(医歯薬出版刊)で確認していただければさいわいです.
上記先行研究者はもちろん,失語症訓練の現状に危機感をもちこの十数年間,変わらずこの臨床研究を支持してくださったC.ロベルジュ先生(上智大学名誉教授),米本恭三先生(東京慈恵会医科大学名誉教授)に,紙面をおかりし心より感謝の意を表します.
また,企画の段階から永い間にわたって終始忍耐強く,本書の成立にお骨折りいただいた医歯薬出版の斎藤和博氏にあらためてお礼申しあげます.
2007年4月
道関京子
「全体構造法(JIST法)」というとある種のテクニックと受け取られるかもしれません.しかし本法は,人間の脳にとってもっとも自然で,もっとも効率的な言語構築を探求してきた体系であり,how-toではありません.ですから他の訓練法を全面否定しているものでもありません.本法の技法の一部は一見,従来の方法に似ているものも当然あります.
私たち人間においては,言語の学習は土台から段階的に構築していく…ということが多くの人間科学研究からわかってきています.本法の特徴は,そうした人間科学研究から出発していることです.すなわち,常に一人の人間の言語再学習として,どの段階でどの順番で練習していくかという体系研究のもとで,その技法を用いていくのです.
そのため,本法の言語専門家(主として言語聴覚士:ST)への伝達はできるかぎり紙面に頼らずに講習会で,生なまの臨床場面を考えてもらいながら行ってきました.そういう状況のなか,家族にも理解してもらえるような紹介書を出版してはどうかと声をかけてもらいました.言語専門家に対してさえ真に全体体系を理解してもらうのに時間がかかるのに,そのような本が書けるとは思えず,突拍子もないこととうろたえ何年も経ってしまいました.このたび,なんとか形にできたのは,全国のJIST会員の実績を伴った心強い支援のおかげです.
本書は一般の方々にもわかっていただけるよう,可能な限り専門語を用いないで説明していくという方針で書き始めました.そのため,回りくどい言い方や,言語専門家間では使わない用語なども使わざるをえませんでした.特に導入部分のなかの「話しことばの習得」については,ずいぶんクドクドと書いてしまいました.話しことば,つまり「ことば音」のことを日常語で説明しはじめたら,どうしてもこうなってしまったのです.それでも話しことばの,重要な土台であるリズムやイントネーション(抑揚),情緒,強さなどを包括した用語である「プロソディ」だけは,そのまま専門語で書かせてもらいました.そのつど,リズム,イントネーション(抑揚),情緒,強さ…などと書いていくと,文章全体がわかりにくくなってしまうからです.
可能なかぎりわかりやすくといっても,著者の能力に限界があり説明不足の部分が甚だ多くなりましたが,そこは幸運にも同じJIST臨床家の仲間である世良厚子さんの挿絵に補ってもらえたと感謝しています.さらに日々の臨床業務で多忙にもかかわらず,現場での実感や他領域への試みを書いてくれたJIST臨床家の仲間のおかげです.
全体構造法は,指導者が主体であった従来の言語訓練から,失語症者自らの自発性主体の言語訓練への転換をもとめます.一石を投ずる考え方として本法を,統一しまとめてきました.ここまで一つの体系としてまとまることができたのは,多岐にわたる人間科学分野の研究成果を利用させていただくことができたおかげです.これらご教示を受けた先達研究者の氏名を列記するには紙面がいくらあっても足りなく,参考文献で研究名を示すのも多数すぎて学術書のようになってしまい,本誌の目的に沿いません.主に参考・引用させていただいた先行研究は,『失語症のリハビリテーション―全体構造法のすべて―』(医歯薬出版刊)で確認していただければさいわいです.
上記先行研究者はもちろん,失語症訓練の現状に危機感をもちこの十数年間,変わらずこの臨床研究を支持してくださったC.ロベルジュ先生(上智大学名誉教授),米本恭三先生(東京慈恵会医科大学名誉教授)に,紙面をおかりし心より感謝の意を表します.
また,企画の段階から永い間にわたって終始忍耐強く,本書の成立にお骨折りいただいた医歯薬出版の斎藤和博氏にあらためてお礼申しあげます.
2007年4月
道関京子
1 失語症治療における全体構造法の考え方(道関京子)
・失語症の本質へのアプローチを避けた訓練法
・徹底的な反省から出発した全体構造法
・全体構造法の基本
・話しことばから始める
・話しことばについて考えてみる
・話しことばとは何かを,波動運動をとらえる形式・構造で考える
・話しことばの習得のスタートは何か
・話しことば波動の何をとらえ構造化するか
・とらえ構造化は,人間の知覚の性質に従って進む
・全体構造法の手段
・STからのメッセージ
先生!お父さんが「枕」って言ったよ(前川ヤス子) 全体構造法と出会って,この仕事を続けることができた(森 綾由美) 全体構造法を知って,出会って(藤川幸子) 最近気づいた大切なこと(不破本純子) ST20年目にして全体構造法に出会う(志賀美代子) 周囲が取り入れていない中,全体構造法を行ってみて(入江美緒) 全体構造法を広めることの難しさ(田鎖泰子) 全体構造法を行うSTとしての意見(成瀬光生)
2 失語症の在宅リハビリの実際(道関京子)
・身体運動
・話しことばの練習
・急性期の訓練
・STからのメッセージ
患者さんから「文字練習はしないの?」という質問を受けました(金山節子) 家族にできること,してもらいたいこと(長谷川和子) 宿題を希望されて(武藤亜希) うれしかったこと,悲しかったこと(矢島真理子) 全体構造法で訓練している施設を選ぶために(藤井加代子)
3 タイプ別に行う訓練の実際(道関京子)
ブローカ失語症の全体構造訓練
・ブローカ失語
・全体構造訓練
ウェルニッケ失語症の全体構造法訓練
・ウェルニッケ失語
・全体構造訓練
・母音の練習
・子音の練習
・特殊な音と普通の音の違いをとらえる練習
・最後に
・STからのメッセージ
失語症になって施行される検査(猪熊邦子) 失語症検査でわかること,わからないこと(鳥居知子) 自分のタイプを知っておくこと(中塚圭子) 施行された検査で「うまくことばが出なかった」と悩まなくていいのです(平 明子) Iさんの訓練回想記
4 全体構造法はこんな言語障害にも有効です
機能性構音障害(五十嵐明美)
・機能性構音障害とは
・訓練時期など
・全体構造法で構音訓練を始めましょう!
・訓練方法の一例を紹介しましょう
口蓋裂構音障害(山本悠子)
・口蓋裂による構音障害
・一般的な訓練法
・全体構造法による訓練法
言語発達遅滞(鈴木和美)
・相手の音声に応える
・ことばのリズム・抑揚の体験
・「聞く力」を育てる課題としての不連続刺激の小児への応用
小児の吃音(西野とし子)
・指導の基本
・訓練の実際
成人の吃音(道関京子)
・成人の吃音者も,流暢に話していた
・「聞く」練習から始める
聴覚障害児の指導(盛由紀子)
・聴覚障害児の話し言葉の特徴
・“言語学外要素”を聞かせることから始める
資料1 全体構造法で言語訓練を行う施設の問い合わせ先
資料2 全体構造法訓練を支援するソフトやシステム機器
参考・引用文献
・失語症の本質へのアプローチを避けた訓練法
・徹底的な反省から出発した全体構造法
・全体構造法の基本
・話しことばから始める
・話しことばについて考えてみる
・話しことばとは何かを,波動運動をとらえる形式・構造で考える
・話しことばの習得のスタートは何か
・話しことば波動の何をとらえ構造化するか
・とらえ構造化は,人間の知覚の性質に従って進む
・全体構造法の手段
・STからのメッセージ
先生!お父さんが「枕」って言ったよ(前川ヤス子) 全体構造法と出会って,この仕事を続けることができた(森 綾由美) 全体構造法を知って,出会って(藤川幸子) 最近気づいた大切なこと(不破本純子) ST20年目にして全体構造法に出会う(志賀美代子) 周囲が取り入れていない中,全体構造法を行ってみて(入江美緒) 全体構造法を広めることの難しさ(田鎖泰子) 全体構造法を行うSTとしての意見(成瀬光生)
2 失語症の在宅リハビリの実際(道関京子)
・身体運動
・話しことばの練習
・急性期の訓練
・STからのメッセージ
患者さんから「文字練習はしないの?」という質問を受けました(金山節子) 家族にできること,してもらいたいこと(長谷川和子) 宿題を希望されて(武藤亜希) うれしかったこと,悲しかったこと(矢島真理子) 全体構造法で訓練している施設を選ぶために(藤井加代子)
3 タイプ別に行う訓練の実際(道関京子)
ブローカ失語症の全体構造訓練
・ブローカ失語
・全体構造訓練
ウェルニッケ失語症の全体構造法訓練
・ウェルニッケ失語
・全体構造訓練
・母音の練習
・子音の練習
・特殊な音と普通の音の違いをとらえる練習
・最後に
・STからのメッセージ
失語症になって施行される検査(猪熊邦子) 失語症検査でわかること,わからないこと(鳥居知子) 自分のタイプを知っておくこと(中塚圭子) 施行された検査で「うまくことばが出なかった」と悩まなくていいのです(平 明子) Iさんの訓練回想記
4 全体構造法はこんな言語障害にも有効です
機能性構音障害(五十嵐明美)
・機能性構音障害とは
・訓練時期など
・全体構造法で構音訓練を始めましょう!
・訓練方法の一例を紹介しましょう
口蓋裂構音障害(山本悠子)
・口蓋裂による構音障害
・一般的な訓練法
・全体構造法による訓練法
言語発達遅滞(鈴木和美)
・相手の音声に応える
・ことばのリズム・抑揚の体験
・「聞く力」を育てる課題としての不連続刺激の小児への応用
小児の吃音(西野とし子)
・指導の基本
・訓練の実際
成人の吃音(道関京子)
・成人の吃音者も,流暢に話していた
・「聞く」練習から始める
聴覚障害児の指導(盛由紀子)
・聴覚障害児の話し言葉の特徴
・“言語学外要素”を聞かせることから始める
資料1 全体構造法で言語訓練を行う施設の問い合わせ先
資料2 全体構造法訓練を支援するソフトやシステム機器
参考・引用文献