はじめに
柳田素子
京都大学大学院医学研究科腎臓内科学
腎臓は,排泄機能を担う臓器であると同時に,重要な代謝臓器でもあります.膨大な溶質の再吸収や分泌は,多種多様なトランスポーターの精緻な制御によって成り立っており,これらの活動には多大なエネルギーが必要とされます.そのため,エネルギー代謝の破綻は腎疾患の発症や進展に深く関与していると考えられています.
本特集では,腎臓における代謝制御機構に焦点をあて,各分野で最前線の研究を展開されている先生方にご執筆いただきました.
当科の山本,高橋は,ATPイメージングマウスを用いた研究を通じて,急性腎障害から慢性腎臓病への進行において,近位尿細管や糸球体ポドサイトのATP代謝の早期回復が鍵となることを示唆しました.
菊池先生,蘇原先生には,種を超えて高度に保存されている細胞内エネルギーセンサー,AMP活性化プロテインキナーゼ(AMP-activated protein kinase:AMPK)が腎機能の維持に果たす役割について詳述いただき,AMPKの活性化が腎疾患に対する有望な治療標的となる可能性を提示していただきました.
長谷川先生,田蒔先生,脇野先生は,ATPの補酵素であるNAD(nicotinamide adenine dinucleotide)に注目し,腎疾患におけるその機能と意義について,豊富なデータをもとに,バイオマーカーや治療標的としての可能性をご解説くださいました.
久米先生には,従来ネガティブに捉えられていたケトン体に関して,そのエネルギー源としての再評価を論じ,糖尿病関連腎臓病を含むさまざまな腎疾患における腎保護効果についてご提示いただきました.
坂下先生,稲城先生は,小胞体(endoplasmic reticulum:ER)とミトコンドリアの接触構造であるMAM(mitochondria-associated ER membrane)が,カルシウム輸送,脂質代謝,ミトコンドリア機能の調節において果たす重要な役割に注目し,MAMを制御する分子の発現異常が多様な腎疾患の進行に関与することを解説いただいています.
今澤先生は,近年の遺伝子解析の進展により理解が深まってきたミトコンドリア腎症について,特徴的な病理所見の把握と早期診断の重要性に加え,今後期待される治療戦略についてもご紹介しています.
山本毅士先生,松井先生,猪阪先生は,オートファジーの適切な活性が,加齢や肥満に伴う腎疾患の進行抑制において重要であることを明らかにし,SGLT2阻害薬やEPA(eicosapentaenoic acid)などによる介入の可能性に言及されました.また,新たな疾患概念として,“肥満関連近位尿細管症(obesity-related proximal tubulopathy:ORT)”を提唱されています.
このように,腎臓と代謝に関する研究は極めて多彩であり,その背景には,近年の研究技術の進歩,新規薬剤の開発,そして新たな疾患概念の導入があります.本特集が,本領域におけるさらなる共同研究や発展の一助となれば幸いです.
柳田素子
京都大学大学院医学研究科腎臓内科学
腎臓は,排泄機能を担う臓器であると同時に,重要な代謝臓器でもあります.膨大な溶質の再吸収や分泌は,多種多様なトランスポーターの精緻な制御によって成り立っており,これらの活動には多大なエネルギーが必要とされます.そのため,エネルギー代謝の破綻は腎疾患の発症や進展に深く関与していると考えられています.
本特集では,腎臓における代謝制御機構に焦点をあて,各分野で最前線の研究を展開されている先生方にご執筆いただきました.
当科の山本,高橋は,ATPイメージングマウスを用いた研究を通じて,急性腎障害から慢性腎臓病への進行において,近位尿細管や糸球体ポドサイトのATP代謝の早期回復が鍵となることを示唆しました.
菊池先生,蘇原先生には,種を超えて高度に保存されている細胞内エネルギーセンサー,AMP活性化プロテインキナーゼ(AMP-activated protein kinase:AMPK)が腎機能の維持に果たす役割について詳述いただき,AMPKの活性化が腎疾患に対する有望な治療標的となる可能性を提示していただきました.
長谷川先生,田蒔先生,脇野先生は,ATPの補酵素であるNAD(nicotinamide adenine dinucleotide)に注目し,腎疾患におけるその機能と意義について,豊富なデータをもとに,バイオマーカーや治療標的としての可能性をご解説くださいました.
久米先生には,従来ネガティブに捉えられていたケトン体に関して,そのエネルギー源としての再評価を論じ,糖尿病関連腎臓病を含むさまざまな腎疾患における腎保護効果についてご提示いただきました.
坂下先生,稲城先生は,小胞体(endoplasmic reticulum:ER)とミトコンドリアの接触構造であるMAM(mitochondria-associated ER membrane)が,カルシウム輸送,脂質代謝,ミトコンドリア機能の調節において果たす重要な役割に注目し,MAMを制御する分子の発現異常が多様な腎疾患の進行に関与することを解説いただいています.
今澤先生は,近年の遺伝子解析の進展により理解が深まってきたミトコンドリア腎症について,特徴的な病理所見の把握と早期診断の重要性に加え,今後期待される治療戦略についてもご紹介しています.
山本毅士先生,松井先生,猪阪先生は,オートファジーの適切な活性が,加齢や肥満に伴う腎疾患の進行抑制において重要であることを明らかにし,SGLT2阻害薬やEPA(eicosapentaenoic acid)などによる介入の可能性に言及されました.また,新たな疾患概念として,“肥満関連近位尿細管症(obesity-related proximal tubulopathy:ORT)”を提唱されています.
このように,腎臓と代謝に関する研究は極めて多彩であり,その背景には,近年の研究技術の進歩,新規薬剤の開発,そして新たな疾患概念の導入があります.本特集が,本領域におけるさらなる共同研究や発展の一助となれば幸いです.
特集 エネルギー代謝異常と腎疾患
はじめに(柳田素子)
AMPKと腎臓病(菊池寛昭・蘇原映誠)
NAD前駆体NMNによる腎疾患の共生治療という新概念(長谷川一宏・他)
ケトン体代謝と腎臓(久米真司)
腎代謝ストレス応答とミトコンドリア-小胞体連関(坂下 碧・稲城玲子)
ミトコンドリア腎症(今澤俊之)
オートファジーの停滞─加齢と肥満に共通する腎疾患進展メカニズム(山本毅士・他)
生体腎ATPイメージングから迫るAKI to CKD progressionのメカニズム解明(山本伸也・他)
TOPICS
循環器内科学 順遺伝学的手法により樹立した新規遺伝性不整脈マウスの分子学的解明(岡部雄太・村越伸行)
消化器内科学 肝疾患とスクレロスチン(吉川恭子・他)
連載
ケースから学ぶ臨床倫理推論(17)
LGBTQ患者への対応(新井奈々)
イチから学び直す医療統計(9)
分散分析(長島健悟・他)
FORUM
司法精神医学への招待─精神医学と法律の接点(12) 道路交通法と精神障害(赤崎安昭)
次号の特集予告
はじめに(柳田素子)
AMPKと腎臓病(菊池寛昭・蘇原映誠)
NAD前駆体NMNによる腎疾患の共生治療という新概念(長谷川一宏・他)
ケトン体代謝と腎臓(久米真司)
腎代謝ストレス応答とミトコンドリア-小胞体連関(坂下 碧・稲城玲子)
ミトコンドリア腎症(今澤俊之)
オートファジーの停滞─加齢と肥満に共通する腎疾患進展メカニズム(山本毅士・他)
生体腎ATPイメージングから迫るAKI to CKD progressionのメカニズム解明(山本伸也・他)
TOPICS
循環器内科学 順遺伝学的手法により樹立した新規遺伝性不整脈マウスの分子学的解明(岡部雄太・村越伸行)
消化器内科学 肝疾患とスクレロスチン(吉川恭子・他)
連載
ケースから学ぶ臨床倫理推論(17)
LGBTQ患者への対応(新井奈々)
イチから学び直す医療統計(9)
分散分析(長島健悟・他)
FORUM
司法精神医学への招待─精神医学と法律の接点(12) 道路交通法と精神障害(赤崎安昭)
次号の特集予告














