やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 山蔭道明
 札幌医科大学医学部麻酔科学講座
 近年,麻酔科学の進歩はめざましく,臨床現場における安全性と快適性の向上に大きく寄与してきました.全身麻酔薬や局所麻酔薬の改良はもちろん,麻酔科医の診療範囲はますます広がり,周術期管理全体の質を高める重要な役割を担っています.特に,超高齢社会が加速する現代では,高齢者や小児といった脆弱な集団に対する麻酔管理が,医療の質と患者アウトカムを左右する大きな要素となってきました.これらの患者に対するきめ細やかな麻酔の適応と管理は,基礎研究と臨床経験に裏づけられた科学的根拠に基づいて進められるべきものであり,今後のさらなる研究と実践の発展が期待されています.
 一方で,周術期における安全管理や業務の効率化を図るうえで,チーム医療の重要性も増しています.看護師,薬剤師,臨床工学技士などとの多職種連携によって,従来は麻酔科医のみが担っていたタスクの一部が共有され,より包括的な患者管理が可能となっています.こうした連携体制の構築は,医師の働き方改革にも資するものであり,医療の持続可能性を高めるうえでも欠かせない要素です.
 さらに,麻酔科学の分野でも,AI(人工知能)やVR(仮想現実)などの最先端技術の導入が進んでおり,モニタリングの精度向上,薬剤投与の最適化,術前評価や教育への応用など,多岐にわたる可能性が示されています.これらの技術は麻酔科医の判断を支援し,より高精度かつ個別化された医療の実現を後押しするものであり,今後の臨床応用が一層期待されます.
 本特集「麻酔科学の進歩―より効果的で安全な全身管理のために」では,新規静脈麻酔薬・局所麻酔薬の開発動向,高齢者や小児に対する麻酔管理の最新知見,周術期せん妄の予防と対策,AIやVRを活用した新技術の展望,多職種連携によるチーム医療の実践など,幅広い話題を網羅しています.
 各分野の第一線で活躍する執筆者による知見が,読者の皆さまの臨床現場における課題解決の一助となり,明日からの診療に新たな視座をもたらすことを願ってやみません.
特集 麻酔科学の進歩─より効果的で安全な全身管理のために
 はじめに(山蔭道明)
 新しい全身麻酔薬/鎮静薬レミマゾラムの特徴と使用上の注意(増井健一)
 新しい局所麻酔薬─より長い鎮痛効果を目指して(小田 裕)
 高齢者における術後せん妄を予防するための周術期管理と手術室運営(新山幸俊)
 小児と高齢者に対する麻酔管理の最近の話題(吉川裕介)
 麻酔科医を支援するAIやVRなどの最新技術(澤 智博)
 自動麻酔(重見研司・松木悠佳)
 周術期管理における多職種医療従事者との連携(川口昌彦)

TOPICS
 糖尿病・内分泌代謝学 下垂体神経内分泌腫瘍(PitNET)とは(福原紀章)
 免疫学 IL-7とγδT17細胞によるグルコース代謝の制御(谷一靖江・生田宏一)

連載
ケースから学ぶ臨床倫理推論(16)
 善行を果たせるか(長尾式子)

イチから学び直す医療統計(8)
 検定:P値とは(木村流星・他)

FORUM
 司法精神医学への招待─精神医学と法律の接点(11) 薬物規制法と地域精神保健福祉的支援─司法と地域を結ぶ架け橋「Voice Bridges Project」の試み(松本俊彦)

 次号の特集予告