はじめに
合原一幸
東京大学 特別教授/名誉教授
実世界の諸現象の理解や諸問題の解決を目指して数学的研究を行う数理工学への世の中の関心が,最近日々高まっている.数理工学は目立ちにくいが,さまざまなシステムの解析や最適化,制御,予測などに本質的に重要な役割を果たしているからである.さらに,2024年のノーベル物理学賞を受章したホップフィールド博士とヒントン博士の業績は,筆者の数理工学の恩師で文化勲章の受章者でもある甘利俊一先生の数理工学研究が基盤となったものである 1).
本特集では,「健康と医療を革新する数理工学―数学を医学に活かす!」と題して,健康や医療に関連するさまざまな問題を対象に,数理工学的アプローチが切り拓く地平を展望するとともに,具体的な活用例を紹介することで,その現状と将来を概観する.
数理工学は,太平洋戦争後の混乱のなかで創発した,わが国独自の応用数学分野である.当初は,工学の問題に先端数学を活用して挑むことを目的にはじまったが,学問としての進歩とともに応用を何も工学分野に限る必要はないことに数理工学者たちが気づき,脳,生物,経済・社会などの多様な対象へと研究が広がってきている.筆者は現在,そのような流れのなかで,内閣府/JST(科学技術振興機構)のムーンショット型研究開発制度・目標2(祖父江元プログラムディレクター)のプロジェクトなどを通じて,数理工学の健康や医療への応用に注力している.本特集では,連携して研究している先生方を中心に,数理工学をどのように健康や医療に応用するのか,特に数学の活用法についてご解説いただいた.
ビッグデータの時代におけるデータ駆動モデリング,動的ネットワークバイオマーカーの計算手法,臨床試験デザイン最適化,新しいAI技術であるリザバー計算による健康・医療データ解析,未病の数理工学研究,人流データ分析と介入を考慮した感染症数理モデル,情報統合による疾患数理モデル,エッジAIを実現する超低消費電力計算など,現代社会において極めて重要な科学技術を開拓しつつある数理工学の現状を,健康や医療に関係する多岐な応用例を通じて読者の皆さまに実感していただければ,企画者として望外の喜びである.
末筆ながら,ご多忙な中,すばらしい解説をご執筆いただいた先生方に感謝申し上げる.
文献
1)甘利俊一.めくるめく数理の世界―情報幾何学・人工知能・神経回路網理論.サイエンス社;2024.
合原一幸
東京大学 特別教授/名誉教授
実世界の諸現象の理解や諸問題の解決を目指して数学的研究を行う数理工学への世の中の関心が,最近日々高まっている.数理工学は目立ちにくいが,さまざまなシステムの解析や最適化,制御,予測などに本質的に重要な役割を果たしているからである.さらに,2024年のノーベル物理学賞を受章したホップフィールド博士とヒントン博士の業績は,筆者の数理工学の恩師で文化勲章の受章者でもある甘利俊一先生の数理工学研究が基盤となったものである 1).
本特集では,「健康と医療を革新する数理工学―数学を医学に活かす!」と題して,健康や医療に関連するさまざまな問題を対象に,数理工学的アプローチが切り拓く地平を展望するとともに,具体的な活用例を紹介することで,その現状と将来を概観する.
数理工学は,太平洋戦争後の混乱のなかで創発した,わが国独自の応用数学分野である.当初は,工学の問題に先端数学を活用して挑むことを目的にはじまったが,学問としての進歩とともに応用を何も工学分野に限る必要はないことに数理工学者たちが気づき,脳,生物,経済・社会などの多様な対象へと研究が広がってきている.筆者は現在,そのような流れのなかで,内閣府/JST(科学技術振興機構)のムーンショット型研究開発制度・目標2(祖父江元プログラムディレクター)のプロジェクトなどを通じて,数理工学の健康や医療への応用に注力している.本特集では,連携して研究している先生方を中心に,数理工学をどのように健康や医療に応用するのか,特に数学の活用法についてご解説いただいた.
ビッグデータの時代におけるデータ駆動モデリング,動的ネットワークバイオマーカーの計算手法,臨床試験デザイン最適化,新しいAI技術であるリザバー計算による健康・医療データ解析,未病の数理工学研究,人流データ分析と介入を考慮した感染症数理モデル,情報統合による疾患数理モデル,エッジAIを実現する超低消費電力計算など,現代社会において極めて重要な科学技術を開拓しつつある数理工学の現状を,健康や医療に関係する多岐な応用例を通じて読者の皆さまに実感していただければ,企画者として望外の喜びである.
末筆ながら,ご多忙な中,すばらしい解説をご執筆いただいた先生方に感謝申し上げる.
文献
1)甘利俊一.めくるめく数理の世界―情報幾何学・人工知能・神経回路網理論.サイエンス社;2024.
特集 健康と医療を革新する数理工学─数学を医学に活かす!
はじめに(合原一幸)
非線形ダイナミクスのデータ駆動モデリング(鈴木秀幸)
動的ネットワークバイオマーカーによる未病状態検出手法の概説(竹内知哉)
数理科学に基づく臨床試験デザインの最適化(山本将太朗・岩見真吾)
リザバー計算を用いた健康・医療データのパターン認識(田中剛平)
未病研究と数理工学(奥 牧人)
人流データ分析と,介入を考慮した感染症数理モデル(藤原直哉・Yunhan Du)
情報統合により構築された疾患の数理モデルの紹介(森野佳生)
エッジAIを実現する超低消費電力アナログインメモリ計算機(酒見悠介)
TOPICS
細胞生物学 生きた細胞内での小胞動態の可視化による2種類の小胞融合様式の発見(桝 正幸・小池誠一)
脳神経外科学 放射線壊死:診断と治療の最前線(古瀬元雅)
連載
細胞を用いた再生医療の現状と今後の展望─臨床への展開(24)(最終回)
iPS細胞由来の再生心筋細胞移植による重症心不全治療法の開発(福田恵一)
ケースから学ぶ臨床倫理推論(15)
人工透析の中止(三浦靖彦)
イチから学び直す医療統計(7)
推定:信頼区間とは(長島健悟・他)
FORUM
司法精神医学への招待─精神医学と法律の接点(10) 成年後見制度における精神鑑定の実際と意義(椎名明大)
次号の特集予告
はじめに(合原一幸)
非線形ダイナミクスのデータ駆動モデリング(鈴木秀幸)
動的ネットワークバイオマーカーによる未病状態検出手法の概説(竹内知哉)
数理科学に基づく臨床試験デザインの最適化(山本将太朗・岩見真吾)
リザバー計算を用いた健康・医療データのパターン認識(田中剛平)
未病研究と数理工学(奥 牧人)
人流データ分析と,介入を考慮した感染症数理モデル(藤原直哉・Yunhan Du)
情報統合により構築された疾患の数理モデルの紹介(森野佳生)
エッジAIを実現する超低消費電力アナログインメモリ計算機(酒見悠介)
TOPICS
細胞生物学 生きた細胞内での小胞動態の可視化による2種類の小胞融合様式の発見(桝 正幸・小池誠一)
脳神経外科学 放射線壊死:診断と治療の最前線(古瀬元雅)
連載
細胞を用いた再生医療の現状と今後の展望─臨床への展開(24)(最終回)
iPS細胞由来の再生心筋細胞移植による重症心不全治療法の開発(福田恵一)
ケースから学ぶ臨床倫理推論(15)
人工透析の中止(三浦靖彦)
イチから学び直す医療統計(7)
推定:信頼区間とは(長島健悟・他)
FORUM
司法精神医学への招待─精神医学と法律の接点(10) 成年後見制度における精神鑑定の実際と意義(椎名明大)
次号の特集予告














