やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 中村哲也
 獨協学園姫路先端医療研究センター長,特定非営利活動法人日本レーザー医学会前理事長・顧問
 1960年にMaimanは,ルビーの結晶にキセノンのフラッシュランプ光をあててエネルギーを高めることによって,単色性,高輝度性,指向性,集中性などの優れた特性を持つ赤色光を発振させることに成功した 1).この光はLight Amplification by Stimulated Emission of Radiation(誘導放出による光の増幅)によるものとして,その頭文字からLASER(以下,レーザー)と名づけられた.1967年に日本ではじめてルビーレーザーによる皮膚がん治療を行った故渥美和彦は,医用レーザー研究会を発足させ,1979年に日本レーザー医学会(以下,当学会)を設立した.
 当学会は,レーザーに関する医学,生物学および工学における研究と技術の向上のため,医学と医療の発展および学術交流を図り,社会に貢献することを目的としている.そのため日本の学会で唯一,レーザーに関する安全教育講習を行っているのが特徴である.当学会が認定するレーザー専門医は,基本領域学会(内科,外科,産婦人科,泌尿器科,眼科,耳鼻咽喉科,皮膚科,形成外科,麻酔科,整形外科,脳神経外科)の専門医を取得した臨床系会員が安全教育講習会を受講し,専門医試験に合格することを必要条件にしている.つまりレーザー専門医は,臨床系基本領域学会の専門医がレーザーに関する十分な知識(レーザーとその生体作用,治療の原理,臨床現場における正しい管理法と使用法など)を持ち,より精度の高い安全なレーザー医療を提供できる臨床医である.
 レーザー専門医は,厚生労働省が認める医療に関する広告が可能となった医師等の専門性に関する資格名のひとつである.現在,レーザー医療に携わっている先生方には,ぜひレーザー専門医の取得を目指していただきたい.
 今回は,日本におけるレーザー医学の知られざる現状とその新展開について,各領域のエキスパートの先生方に解説をお願いし,2025年時点におけるレーザー医学の最前線を浮き彫りにすることを目的として企画した.本特集が,レーザー医学に興味を持つ学生や基礎医学研究者および臨床医の一助になれば幸いである.

 文献
 1)Maiman TH.Stimulated optical radiation in ruby.Nature 1960;187:493-4.
特集 レーザー医学の最前線─知られざる現状とその新展開
 はじめに(中村哲也)
 レーザー医療の安全対策─日本レーザー医学会安全教育委員会の取組を中心として(中島章夫)
 レーザー専門医の現状と今後の展望(大城貴史)
 皮膚科,形成外科領域のレーザー治療(河野太郎)
 低出力レーザーによる痛みの治療(濱口眞輔)
 悪性脳腫瘍に対する光線力学的療法(秋元治朗)
 消化管領域における光線力学診断と光線力学療法(山崎剛明・矢野友規)
 がんの近赤外光線免疫療法(小林久隆)

TOPICS
 輸血学 iPS細胞技術を活用したユニバーサル血小板製剤の開発と社会実装(浅見麻乃)
 認知神経科学 霊長類の柔軟な意思決定を支える神経回路(佐々木 亮・伊佐 正)

連載
細胞を用いた再生医療の現状と今後の展望─臨床への展開(20)
 心不全に対する再生医療の現状と展望(宮川 繁)

ケースから学ぶ臨床倫理推論(11)
 親による定期接種のワクチン拒否(福原里恵)

イチから学び直す医療統計(3)
 交絡とその制御方法(長島健悟・他)

FORUM
 司法精神医学への招待─精神医学と法律の接点(6) 医療観察法における入院処遇(竹田康二)

 次号の特集予告