やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 園生雅弘
 帝京大学医療技術学部視能矯正学科,同医学部脳神経内科
 “機能性神経障害(functional neurological disorder:FND)“とは,かつて“ヒステリー”とよばれた疾患である.医学用語としてのヒステリーが,一般人が思い浮かべる“ヒステリー”と異なることは医師には周知のことである.そのひとつの原点といえるFreudの精神分析は,今日の精神科においては流行らなくなったと聞く.筆者がFNDに関わりはじめて接した本領域専門の精神科医から聞いた印象的な言葉が2つある(いずれもここ10年以内の話である).「ヒステリーってほとんどいないよね.皆詐病でしょう?」「ヒステリーは精神科で見なくなったと思っていたら,みんな脳神経内科にかかっていたのか!」
 この2つはまさにFNDの近年の状況を象徴する言葉だったのだと,最近勉強して知った.そう,“ヒステリー患者”は絶え間なく脳神経内科にかかっていたが,脳神経内科医も精神疾患と思っているので真面目に対処も治療も考えることなく,ただ持て余すだけであった.
 しかし21世紀に入って,この状況に脳神経内科のほうから革命的変化が起こり,今も進行中である.その変革とは,FNDはcommon diseaseで老若男女問わず罹患しうるという疫学面,“機能性”を中核に置く用語面,陽性徴候による診断(これ自体はBabinskiが最初に主張したものであるが),さまざまな病型や合併病態についての認識など多岐にわたるが,特に治療面での進歩が顕著であることが特筆される.これは脳神経内科医による説明,リハビリテーションが現状二本柱であるが,心理・精神科的対処も含めた集学的治療の今後の発展が望まれる.また,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症としてのlong COVIDやCOVID-19ワクチンの副反応が注目されているが,それらのなかに多数のFNDが紛れている状況についても現場の経験をもとに論じていただく.
 伝統ある本誌でFNDが取り上げられるのはひとつの節目であって,感慨深い.脳神経内科医・精神科医のみならず,多くの診療科の医師にFND診療・研究の最新動向を知っていただければ幸いである.
特集 機能性神経障害(FND;ヒステリー)診療の近年の革命的変化─COVID-19の影響も踏まえて
 はじめに(園生雅弘)
 FNDの歴史と近年の革命的変化(園生雅弘)
 機能性筋力低下(園生雅弘)
 機能性不随意運動(下畑享良)
 心因性非てんかん発作─脳神経内科医・精神科医のための実践的アプローチ(斉藤聡志・谷口 豪)
 新型コロナウイルス感染症後遷延症状およびCOVID-19ワクチン接種とFND(大平雅之・尾昌樹)
 FNDと神経生理(神林隆道・園生雅弘)
 脳神経内科医によるFNDの治療(渡辺宏久)
 FNDのリハビリテーション(角田 亘)

TOPICS
 神経精神医学 脳卒中後うつ病とアパシー(下田健吾)
 放射線医学 高輝度放射光の医学・医療分野への応用(高橋正光)

連載
細胞を用いた再生医療の現状と今後の展望─臨床への展開(18)
 角膜再生医療の最先端(大家義則・西田幸二)

ケースから学ぶ臨床倫理推論(9)
 モラルディストレス:医療現場における倫理的苦悩(永井真理子)

イチから学び直す医療統計
 はじめに─医学研究に統計学は必要?(佐藤泰憲)

イチから学び直す医療統計(1)
 医学研究データの特徴とまとめ方(長島健悟・他)

FORUM
 司法精神医学への招待─精神医学と法律の接点(4) 裁判員制度における精神科医の役割(村松太郎)

 次号の特集予告