やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 石津智子
 筑波大学医学医療系循環器内科
 循環器内科医のなかには,「先天性心疾患は難しそうで苦手.できれば避けて通りたい」と感じている方が少なくありません.一方で,どこか惹かれるものを感じ,「学んでみたい」「携わってみたい」と思われる方も確実にいらっしゃいます.
 しかし,医師の好みにかかわらず,循環器内科が診るべき成人先天性心疾患の症例数は,小児の症例数をすでに上回っています.今後20年のうちに,より重症かつ複雑な先天性心疾患を持つ患者が成人し,50代までの人口の約1%が先天性心疾患を抱える時代が到来すると予測されています.
 こうした時代に向け,特に若手の循環器内科医の皆さまには,先天性心疾患を基礎から学んでいただきたいと願っています.また,循環器内科医だけでなく,一般内科医やかかりつけ医の先生方にも,この分野の診療により深く関わっていただければと考えております.
 先天性心疾患の多くは完治が難しく,生涯にわたる医療的サポートが必要です.症状がみられない時期であっても,定期的な経過観察により適切な治療のタイミングを逃さないことが極めて重要です.そのため,専門医と循環器内科医,さらには一般内科医やかかりつけ医が連携して患者を支える体制の構築が求められます.
 特にかかりつけ医の先生方には,専門医からの共同診療の依頼にご対応いただくだけでなく,地域での患者の早期発見にもお力添えいただきたいと思っております.というのも,日本では“フォローアップからの脱落(loss of follow-up)”が大きな問題となっているからです.通院中断の理由はさまざまですが,過去に「治癒したから,もう病院に来なくてよい」と説明されたケースも少なくありません.しかし,現在の医学的な見解では,そうした判断は誤りであったとされています.とりわけ,ファロー四徴症などにおいては,通院中断が深刻な合併症を引き起こすことが明らかとなっており,その重要性をご理解いただくためにも,本特集がお役に立てるものと確信しております.
 本特集は,2025年3月に発行された日本循環器学会のガイドライン作成メンバーを中心に,この分野を牽引するエキスパートの方々にご執筆いただきました.基礎的な知識から最新の診断・治療法まで,幅広い内容をわかりやすく解説しています.
 ぜひ多くの先生方に手にとっていただき,ともに先天性心疾患診療の未来を支えていただければ幸いです.
 はじめに(石津智子)
軽症(単純)先天性心疾患の診断・治療
 心房中隔欠損(ASD),卵円孔開存(PFO)の診断と治療(橋本 剛)
 心室中隔欠損症成人例の経過観察で注意すべきポイント(川松直人)
 ガイドラインに学ぶ成人期動脈管開存の診断・治療・管理(金澤英明)
中等症先天性心疾患の診断・治療
 ファロー四徴(山村健一郎)
 エブスタイン病(椎名由美)
 房室中隔欠損症(杜 徳尚)
 先天性冠動脈異常(塚本泰正)
 マルファン症候群(今井 靖)
 大動脈縮窄(長谷川早紀・中埜信太郎)
重症(複雑)先天性心疾患の診断・治療
 修正大血管転位症─成人期における治療と管理(狩野実希)
 完全大血管転位(動脈スイッチ術後)(藤井隆成)
 フォンタン循環:フォンタン手術後に確立される循環動態(森 有希・大内秀雄)
 フォンタン関連肝疾患(犬塚 亮)
成人先天性心疾患特有の諸問題
 心不全治療(石北綾子・坂本一郎)
 不整脈治療(宮ア 文)
 ACHDに合併する肺高血圧症の診断と治療(常盤洋之・相馬 桂)
 成人先天性心疾患の主な外科治療と先天性心疾患における心臓移植(笠原真悟)
 女性特有の配慮事項─月経,避妊,妊娠・分娩(神谷千津子)
 先天性心疾患を合併する染色体異常(前田 潤)
 社会的問題・成人移行支援に関する改訂事項と臨床実践のポイント(落合亮太)

 次号の特集予告

 サイドメモ
  手術適応検討時の肺血管抵抗と肺血管抵抗/体血管抵抗比(Rp/Rs)
  感染性心内膜炎とsilent PDAの治療適応
  ファロー四徴術後の感染性心内膜炎
  Ebsteinを何とよぶのが正しいのか?
  三尖弁異形成・低形成との相違
  右房圧が上昇したエブスタイン病
  区分診断
  解剖学的右室の特徴
  大規模臨床試験
  アイゼンメンジャー症候群の概念
  臓器移植に関する愛媛宣言(日本成人先天性心疾患学会,2023年1月)
  妊娠中の検査のタイミング
  22q11.2欠失症候群の遺伝的・環境的要因