はじめに
辻 一郎
東北大学名誉教授,同医学系研究科公衆衛生学客員教授,厚生労働省健康日本21(第三次)推進専門委員会委員長
国の健康づくり施策「健康日本21(第三次)」が2024年4月にスタートした.これは,健康寿命の延伸を実現するために生活習慣や疾病などの数値目標を定め,その達成に向けて行政・各種団体と国民が健康づくり運動を展開するものである.
この間,一部の生活習慣が悪化し,健康意識の多様化(無関心層の増加)や健康格差の拡大も顕在化した.それに対して,健康日本21(第三次)は“誰一人取り残さない健康づくり”を掲げて,性差や年齢,ライフコースを踏まえた健康づくり,自然に健康になれる社会環境の構築,そして多様な主体による健康づくりを展開する.
実際に,健康づくりを担う主体はこれまで以上に広がっている.たとえば,健康日本21(第三次)の目標には経済産業省や国土交通省の施策も盛り込まれるなど,他省庁も健康づくりを担い始めた.健康経営に注力する企業も多い.食品製造業,外食産業,情報技術産業,生命保険会社など,さまざまな企業が健康づくりとのコラボを始めている.まさに健康づくりを起点に世の中が動き始めている.
にもかかわらず,予防医学と臨床医学との溝は依然として埋まっていない.これは,予防は行政機関,治療は医療機関という制度上の壁に由来する面もあろう.しかし,この体制は時代遅れと言わざるをえず,医療現場はすでに変わっている.たとえば高血圧や糖尿病の治療では,疾病の重度化,合併症の発生を予防することが目的のひとつであり,患者への生活指導・健康教育も欠かせない.今や予防と治療は不可分なのである.
本特集では,健康日本21(第三次)の策定に関わった専門家が担当領域を解説したうえで,医療者にどのようなアクションを期待するか,そのメッセージを伝える.健康づくり・予防の視点を入れてこそ,医療の効果は高まる.医療者の参加を得てこそ,健康づくりは国民全体に浸透する.本特集が,健康づくりと医療との協働を促す契機となることを願うものである.
辻 一郎
東北大学名誉教授,同医学系研究科公衆衛生学客員教授,厚生労働省健康日本21(第三次)推進専門委員会委員長
国の健康づくり施策「健康日本21(第三次)」が2024年4月にスタートした.これは,健康寿命の延伸を実現するために生活習慣や疾病などの数値目標を定め,その達成に向けて行政・各種団体と国民が健康づくり運動を展開するものである.
この間,一部の生活習慣が悪化し,健康意識の多様化(無関心層の増加)や健康格差の拡大も顕在化した.それに対して,健康日本21(第三次)は“誰一人取り残さない健康づくり”を掲げて,性差や年齢,ライフコースを踏まえた健康づくり,自然に健康になれる社会環境の構築,そして多様な主体による健康づくりを展開する.
実際に,健康づくりを担う主体はこれまで以上に広がっている.たとえば,健康日本21(第三次)の目標には経済産業省や国土交通省の施策も盛り込まれるなど,他省庁も健康づくりを担い始めた.健康経営に注力する企業も多い.食品製造業,外食産業,情報技術産業,生命保険会社など,さまざまな企業が健康づくりとのコラボを始めている.まさに健康づくりを起点に世の中が動き始めている.
にもかかわらず,予防医学と臨床医学との溝は依然として埋まっていない.これは,予防は行政機関,治療は医療機関という制度上の壁に由来する面もあろう.しかし,この体制は時代遅れと言わざるをえず,医療現場はすでに変わっている.たとえば高血圧や糖尿病の治療では,疾病の重度化,合併症の発生を予防することが目的のひとつであり,患者への生活指導・健康教育も欠かせない.今や予防と治療は不可分なのである.
本特集では,健康日本21(第三次)の策定に関わった専門家が担当領域を解説したうえで,医療者にどのようなアクションを期待するか,そのメッセージを伝える.健康づくり・予防の視点を入れてこそ,医療の効果は高まる.医療者の参加を得てこそ,健康づくりは国民全体に浸透する.本特集が,健康づくりと医療との協働を促す契機となることを願うものである.
特集 健康日本21(第三次)の健康づくり戦略─医療者へのメッセージ
はじめに(辻 一郎)
循環器病(岡村智教)
糖尿病─予防と治療の切れ目ない対策で健康寿命延伸を目指す(津下一代)
健康日本21(第三次)におけるがん領域の健康づくり戦略─医療者へのメッセージ(若尾文彦)
たばこ対策(中村正和)
健康日本21(第三次)と健康的な食事・食環境(中村美詠子・他)
健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023─概要とポイント(澤田 亨)
こころの健康─心理的苦痛の軽減を通して健康寿命の延伸を目指す(西 大輔)
睡眠・休養(尾崎章子)
ライフコースアプローチを踏まえた健康づくり(山縣然太朗)
高齢者の健康─5つの健康課題と社会的つながり(河口謙二郎・近藤克則)
TOPICS
移植・人工臓器 人工赤血球がひらく移植臓器保存の技術革新(松野直徒・他)
免疫学 B細胞受容体によるカルシウムシグナルが制御する胚中心B細胞ポジティブセレクション(矢田裕太郎・馬場義裕)
連載
自己指向性免疫学の新展開─生体防御における自己認識の功罪(25)
ショウジョウバエ腫瘍モデルから紐解く自然免疫によるがん制御(榎本将人)
細胞を用いた再生医療の現状と今後の展望─臨床への展開(11)
培養自家骨膜細胞を用いた顎骨再生医療の臨床実用化における課題と取り組み(永田昌毅)
ケースから学ぶ臨床倫理推論(2)
高齢者虐待(医療ネグレクト)(楠瀬まゆみ)
FORUM
戦争と医学・医療(13) 731部隊に所属した医学研究者の論文分析による戦争犯罪の検証(莇 也寸志)
次号の特集予告
はじめに(辻 一郎)
循環器病(岡村智教)
糖尿病─予防と治療の切れ目ない対策で健康寿命延伸を目指す(津下一代)
健康日本21(第三次)におけるがん領域の健康づくり戦略─医療者へのメッセージ(若尾文彦)
たばこ対策(中村正和)
健康日本21(第三次)と健康的な食事・食環境(中村美詠子・他)
健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023─概要とポイント(澤田 亨)
こころの健康─心理的苦痛の軽減を通して健康寿命の延伸を目指す(西 大輔)
睡眠・休養(尾崎章子)
ライフコースアプローチを踏まえた健康づくり(山縣然太朗)
高齢者の健康─5つの健康課題と社会的つながり(河口謙二郎・近藤克則)
TOPICS
移植・人工臓器 人工赤血球がひらく移植臓器保存の技術革新(松野直徒・他)
免疫学 B細胞受容体によるカルシウムシグナルが制御する胚中心B細胞ポジティブセレクション(矢田裕太郎・馬場義裕)
連載
自己指向性免疫学の新展開─生体防御における自己認識の功罪(25)
ショウジョウバエ腫瘍モデルから紐解く自然免疫によるがん制御(榎本将人)
細胞を用いた再生医療の現状と今後の展望─臨床への展開(11)
培養自家骨膜細胞を用いた顎骨再生医療の臨床実用化における課題と取り組み(永田昌毅)
ケースから学ぶ臨床倫理推論(2)
高齢者虐待(医療ネグレクト)(楠瀬まゆみ)
FORUM
戦争と医学・医療(13) 731部隊に所属した医学研究者の論文分析による戦争犯罪の検証(莇 也寸志)
次号の特集予告














