はじめに
真下知士
東京大学医科学研究所実験動物研究施設先進動物ゲノム研究分野
近年,ゲノム編集技術はめざましい進歩を遂げ,基礎研究から疾患モデルの作製,創薬,さらには遺伝子治療に至るまで,幅広い分野でその可能性を示している.特に,CRISPRCas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeats-CRISPR-associated protein 9)をはじめとする技術革新により,従来の手法では実現が困難だった精密かつ効率的な遺伝子改変が可能となり,“次世代の医療”として多くの期待が寄せられている.この技術は遺伝子疾患の理解を深化させるだけでなく,治療法の実用化をもたらす大きな推進力となっている.
ゲノム編集分野における技術的な進歩は,新たなモダリティの創出を促し,基礎研究および臨床研究の加速に大きく貢献している.塩基編集技術や次世代型プライムエディター,CRISPR関連トランスポゾン技術など,DNAを切断せずに遺伝子を改変する新しいアプローチの登場により,ゲノム編集の安全性が飛躍的に向上した.これにより,ゲノム編集医療の可能性はさらに広がりつつある.
疾患モデルの開発においては,遺伝子改変動物の迅速な作製技術が医療研究の重要な基盤を形成している.CRISPR-Cas9やi-GONAD(improved genome-editing via oviductal nucleic acids delivery)法を活用した遺伝子改変マウスやラットに加え,大型動物モデルとしての疾患モデルブタやヒト疾患モデルマーモセットなど,多様なモデル動物が研究に活用されている.これらのモデルは,創薬研究や治療法開発を支える不可欠な要素である.
一方で,ゲノム編集技術の進化がもたらす社会的・倫理的課題についての議論も欠かせない.ヒトゲノム編集に関する倫理的側面や法的課題,社会実装に向けた合意形成の重要性,さらには技術の安全性評価と品質管理の確立といったテーマは,技術の実用化を推進するうえで解決すべき重要な課題である.
本特集では,ゲノム編集分野の最前線で活躍する研究者による最新の成果を取り上げている.基礎技術の革新,疾患モデルの作製と応用,創薬研究,さらには医療現場での臨床応用まで,多角的な視点からゲノム編集の可能性を掘り下げている.日本は,基礎研究と応用の両面で国際的に注目される実績を持ち,その高い研究力と独自のアプローチがゲノム編集分野の発展を支えている.本特集が,ゲノム編集技術の現状をより深く理解し,未来の医療や科学研究への応用を考える一助となれば幸いである.最後に,本特集の執筆者の皆さまならびに編集部の皆さまに,心より感謝申し上げる.
真下知士
東京大学医科学研究所実験動物研究施設先進動物ゲノム研究分野
近年,ゲノム編集技術はめざましい進歩を遂げ,基礎研究から疾患モデルの作製,創薬,さらには遺伝子治療に至るまで,幅広い分野でその可能性を示している.特に,CRISPRCas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeats-CRISPR-associated protein 9)をはじめとする技術革新により,従来の手法では実現が困難だった精密かつ効率的な遺伝子改変が可能となり,“次世代の医療”として多くの期待が寄せられている.この技術は遺伝子疾患の理解を深化させるだけでなく,治療法の実用化をもたらす大きな推進力となっている.
ゲノム編集分野における技術的な進歩は,新たなモダリティの創出を促し,基礎研究および臨床研究の加速に大きく貢献している.塩基編集技術や次世代型プライムエディター,CRISPR関連トランスポゾン技術など,DNAを切断せずに遺伝子を改変する新しいアプローチの登場により,ゲノム編集の安全性が飛躍的に向上した.これにより,ゲノム編集医療の可能性はさらに広がりつつある.
疾患モデルの開発においては,遺伝子改変動物の迅速な作製技術が医療研究の重要な基盤を形成している.CRISPR-Cas9やi-GONAD(improved genome-editing via oviductal nucleic acids delivery)法を活用した遺伝子改変マウスやラットに加え,大型動物モデルとしての疾患モデルブタやヒト疾患モデルマーモセットなど,多様なモデル動物が研究に活用されている.これらのモデルは,創薬研究や治療法開発を支える不可欠な要素である.
一方で,ゲノム編集技術の進化がもたらす社会的・倫理的課題についての議論も欠かせない.ヒトゲノム編集に関する倫理的側面や法的課題,社会実装に向けた合意形成の重要性,さらには技術の安全性評価と品質管理の確立といったテーマは,技術の実用化を推進するうえで解決すべき重要な課題である.
本特集では,ゲノム編集分野の最前線で活躍する研究者による最新の成果を取り上げている.基礎技術の革新,疾患モデルの作製と応用,創薬研究,さらには医療現場での臨床応用まで,多角的な視点からゲノム編集の可能性を掘り下げている.日本は,基礎研究と応用の両面で国際的に注目される実績を持ち,その高い研究力と独自のアプローチがゲノム編集分野の発展を支えている.本特集が,ゲノム編集技術の現状をより深く理解し,未来の医療や科学研究への応用を考える一助となれば幸いである.最後に,本特集の執筆者の皆さまならびに編集部の皆さまに,心より感謝申し上げる.
はじめに(真下知士)
ゲノム編集モダリティ
純国産ゲノム編集ツール“Zinc Finger-ND1”の開発(片山翔太・山本 卓)
次世代型プライムエディターの設計・開発(主藤裕太郎・濡木 理)
塩基編集技術の発展と遺伝子治療への応用(米村洋而・西田敬二)
タイプI CRISPR-Cas3ゲノム編集機構とその活用(吉見一人・真下知士)
CRISPR随伴トランスポゾン(CAST)によるプログラム可能なDNA挿入技術の開発(齋藤 諒)
CRISPR-Cas9の祖先タンパク質IscBの構造解析と分子改変(山田崇太・他)
ゲノム編集細胞研究
CRISPRスクリーニング法を用いたがん治療の新規標的探索(遊佐宏介)
生体内ゲノム編集技術“HITI法”のupdate(鈴木啓一郎)
ヒトゲノム情報を応用したiPS細胞のゲノム編集研究(家弓紗矢香・他)
転写調節プラットフォームの開発と応用(宇吹俊一郎・他)
疾患モデル動物研究
CRISPR-Cas9システムを用いた遺伝子改変マウスの作製(江森千紘・伊川正人)
i-GONAD法で広がる遺伝子改変動物作製の現状と展望(大塚正人・佐藤正宏)
CRISPRを利用した時期・組織特異的遺伝子変異マウスの作出(三上夏輝・水野聖哉)
iPS細胞を用いたヒト疾患モデルマーモセット作製(岸本恵子・佐々木えりか)
ゲノム編集治療
Ex vivoゲノム編集治療時代の幕開け─現状と課題(パン イギュ・堀田秋津)
複数のニックにより誘導するゲノム編集(富田亜希子・中田慎一郎)
染色体挿入型ウイルスベクターによる発がんとその機序(内山 徹)
血友病に対する遺伝子治療とゲノム編集治療(佐藤孝弘・大森 司)
Ex vivo,in vivoゲノム編集治療法開発の動向(石田紗恵子)
安全性評価や倫理的課題
ゲノム編集治療に係る目的外変異の予測・評価の手法と考え方(山下拓真・他)
ゲノム編集技術とその医療応用の特許動向─拡大を続ける海外アカデミアによる特許支配と国産技術の利用(橋本一憲)
次号の特集予告
サイドメモ
(塩基)編集ウィンドウ
分離インテイン
Tn7様トランスポゾン
人工のCAST?
ポジティブセレクション
細胞周期に依存したDSB修復機構
Cre-LoxPシステム
マイクロインジェクション法
用語解説〔ノックイン(KI)Creドライバーマウス,G0マウス,piggyBacトランスポゾンシステム〕
“ゲノム編集”とは
ゲノム編集法の略称
相同性指向修復(HDR)と相同組換え(HR)
臨床試験
In silico解析に用いられる塩基配列検索ツール
ゲノム編集モダリティ
純国産ゲノム編集ツール“Zinc Finger-ND1”の開発(片山翔太・山本 卓)
次世代型プライムエディターの設計・開発(主藤裕太郎・濡木 理)
塩基編集技術の発展と遺伝子治療への応用(米村洋而・西田敬二)
タイプI CRISPR-Cas3ゲノム編集機構とその活用(吉見一人・真下知士)
CRISPR随伴トランスポゾン(CAST)によるプログラム可能なDNA挿入技術の開発(齋藤 諒)
CRISPR-Cas9の祖先タンパク質IscBの構造解析と分子改変(山田崇太・他)
ゲノム編集細胞研究
CRISPRスクリーニング法を用いたがん治療の新規標的探索(遊佐宏介)
生体内ゲノム編集技術“HITI法”のupdate(鈴木啓一郎)
ヒトゲノム情報を応用したiPS細胞のゲノム編集研究(家弓紗矢香・他)
転写調節プラットフォームの開発と応用(宇吹俊一郎・他)
疾患モデル動物研究
CRISPR-Cas9システムを用いた遺伝子改変マウスの作製(江森千紘・伊川正人)
i-GONAD法で広がる遺伝子改変動物作製の現状と展望(大塚正人・佐藤正宏)
CRISPRを利用した時期・組織特異的遺伝子変異マウスの作出(三上夏輝・水野聖哉)
iPS細胞を用いたヒト疾患モデルマーモセット作製(岸本恵子・佐々木えりか)
ゲノム編集治療
Ex vivoゲノム編集治療時代の幕開け─現状と課題(パン イギュ・堀田秋津)
複数のニックにより誘導するゲノム編集(富田亜希子・中田慎一郎)
染色体挿入型ウイルスベクターによる発がんとその機序(内山 徹)
血友病に対する遺伝子治療とゲノム編集治療(佐藤孝弘・大森 司)
Ex vivo,in vivoゲノム編集治療法開発の動向(石田紗恵子)
安全性評価や倫理的課題
ゲノム編集治療に係る目的外変異の予測・評価の手法と考え方(山下拓真・他)
ゲノム編集技術とその医療応用の特許動向─拡大を続ける海外アカデミアによる特許支配と国産技術の利用(橋本一憲)
次号の特集予告
サイドメモ
(塩基)編集ウィンドウ
分離インテイン
Tn7様トランスポゾン
人工のCAST?
ポジティブセレクション
細胞周期に依存したDSB修復機構
Cre-LoxPシステム
マイクロインジェクション法
用語解説〔ノックイン(KI)Creドライバーマウス,G0マウス,piggyBacトランスポゾンシステム〕
“ゲノム編集”とは
ゲノム編集法の略称
相同性指向修復(HDR)と相同組換え(HR)
臨床試験
In silico解析に用いられる塩基配列検索ツール














