やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 渡部直史
 大阪大学大学院医学系研究科放射線医学
 セラノスティクス(Theranostics)は,therapyとdiagnosticsを融合した造語であり,がんを標的とした画像診断と治療を一貫して実施する新たなコンセプトの領域である.核医学領域では,PET(positron emission tomography)と呼ばれる画像診断で標的分子の発現を確認した後に,標識核種をポジトロン放出核種からα線またはβ線放出核種に切り替えることで,全身の病変に対して標的アイソトープ治療(核医学治療)を行う流れとなっている.通常の放射線治療(外照射)が局所治療であるのに対して,核医学治療は抗がん剤のように多発転移に対する治療として実施可能である.近年,世界で新たなPET画像診断薬,核医学治療薬が次々に登場しており,日本国内でも保険収載されるなど,実臨床への導入も進みつつある.
 特にPSMA(prostate specific membrane antigen;前立腺特異的膜抗原)を標的としたセラノスティクスは世界で爆発的な広がりをみせ,前立腺がんの診療に大きな変革をもたらした.また,がん関連線維芽細胞を標的としたFAPI(fibroblast activation protein inhibitor)によるPETイメージングも注目されており,従来のFDG(fluorodeoxyglucose)-PETを上回る診断能を有していることが数多く報告され,核医学治療への展開も期待されている.このように,核医学を取り巻く環境はここ10年間で大きく変化し,また,さらに発展していこうとしているのが現状である.
 今回,セラノスティクスの現状について,同分野に馴染みのない先生や医学生に理解を深めていただきたく,本特集を企画するに至った.セラノスティクスの原理,核種によるプローブの標識製造,新たに実施されるようになったルタテラ・ライアット治療に加えて,PSMA・FAPIによる最新のセラノスティクス,線量評価に関して,エキスパートの先生方にわかりやすく解説していただいた.ぜひ本分野に興味を持っていただけることを大いに期待したい.
特集 セラノスティクス─PET画像診断から核医学治療へ
 はじめに(渡部直史)
 具体例からみるセラノスティクスの原理と課題(平田健司)
 PET診断薬の院内製造の現状(志水陽一)
 神経内分泌腫瘍に対するルタテラ治療(伊藤公輝)
 褐色細胞腫・パラガングリオーマに対するライアット治療(松村武史・他)
 前立腺癌に対するPSMA標的治療(堀田昌利)
 FAP(線維芽細胞活性化タンパク質)標的PETからセラノスティクスへの挑戦(森 ゆり子)
 核医学セラノスティクスにおけるdosimetry(右近直之)
 おわりに(渡部直史)

TOPICS
 細胞生物学 下垂体バソプレシンが生み出す頑強な概日時計─時差ボケ改善を目指して(山口賀章)
 産科学・婦人科学 フソバクテリウム細菌感染は子宮内膜症の発症を誘導する(鈴木美穂・他)

連載
臨床医のための微生物学講座(25)
 ヒトプリオン(中垣岳大)

緩和医療のアップデート(20)
 アドバンス・ケア・プランニング─わが国における望ましいACPとは?(森 雅紀)

自己指向性免疫学の新展開─生体防御における自己認識の功罪(12)
 細胞内核酸センサー経路の異常活性化を起因とする自己炎症性疾患(佐々木 泉・改正恒康)

FORUM
 戦争と医学・医療(1) はじめに(横山 隆)
 イスラエルによるパレスチナ・ガザへの軍事侵攻と健康破壊の実態(猫塚義夫)

 次号の特集予告