はじめに
吉田達哉
国立がん研究センター中央病院呼吸器内科,同先端医療科,臨床開発推進部門トランスレーショナルリサーチ推進部トランスレーショナルリサーチ推進室
近年,抗PD-1(programmed cell death 1)抗体,抗PD-L1(programmed cell deathligand 1)抗体,抗CTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4)抗体などの免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)の登場により,がん患者の予後は飛躍的に改善してきた.しかし,ICIはすべてのがん患者に効果を示すわけではなく,効果を示さないがん患者の予後は依然として厳しく,新たな治療法の開発が待ち望まれていた.
T-cell engagerは,従来のICIとは異なるメカニズムによってT細胞を活性化させ,がん細胞を標的として攻撃する,新たながん免疫療法のひとつとして急速に注目を集めてきている.造血器腫瘍であるB細胞性急性リンパ性白血病において,CD19とCD3を標的とした二重特異性T細胞誘導抗体であるブリナツモマブが良好な治療成績を示し,すでに承認され,実臨床では使用可能となっている.また,肺がん,特に小細胞肺がんでは,デルタ様リガンド3(delta-like protein 3:DLL3)とCD3を標的とした二重特異性T細胞誘導抗体のtarlatamabが,長期間の奏効など有望な抗腫瘍効果を示すことが報告され,ICIに次ぐ新規がん免疫療法として承認が待たれている.また,他の造血器腫瘍や固形腫瘍でも,新規のT-cell engagerの臨床開発が盛んとなってきている.一方で,サイトカイン放出症候群や免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(immune effector cell-associated neurotoxicity syndrome:ICANS)といった神経毒性など,従来の薬物療法やICIではこれまで経験してこなかったような特徴的な副作用を認めるため,T-cell engagerの臨床応用では新たな副作用対策を行っていくことが重要となると考えられる.
本特集では,こうしたT-cell engagerの治療開発の展開を踏まえて,新規がん治療薬の開発に携わっておられる各領域の専門家の方々に,各がん腫でのT-cell engagerの治療開発の現状,副作用管理,今後の方向性について解説していただいた.本特集が,がん治療に携わる方々のがん薬物療法の最新の知見の理解の一助となれば幸いである.
吉田達哉
国立がん研究センター中央病院呼吸器内科,同先端医療科,臨床開発推進部門トランスレーショナルリサーチ推進部トランスレーショナルリサーチ推進室
近年,抗PD-1(programmed cell death 1)抗体,抗PD-L1(programmed cell deathligand 1)抗体,抗CTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4)抗体などの免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)の登場により,がん患者の予後は飛躍的に改善してきた.しかし,ICIはすべてのがん患者に効果を示すわけではなく,効果を示さないがん患者の予後は依然として厳しく,新たな治療法の開発が待ち望まれていた.
T-cell engagerは,従来のICIとは異なるメカニズムによってT細胞を活性化させ,がん細胞を標的として攻撃する,新たながん免疫療法のひとつとして急速に注目を集めてきている.造血器腫瘍であるB細胞性急性リンパ性白血病において,CD19とCD3を標的とした二重特異性T細胞誘導抗体であるブリナツモマブが良好な治療成績を示し,すでに承認され,実臨床では使用可能となっている.また,肺がん,特に小細胞肺がんでは,デルタ様リガンド3(delta-like protein 3:DLL3)とCD3を標的とした二重特異性T細胞誘導抗体のtarlatamabが,長期間の奏効など有望な抗腫瘍効果を示すことが報告され,ICIに次ぐ新規がん免疫療法として承認が待たれている.また,他の造血器腫瘍や固形腫瘍でも,新規のT-cell engagerの臨床開発が盛んとなってきている.一方で,サイトカイン放出症候群や免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(immune effector cell-associated neurotoxicity syndrome:ICANS)といった神経毒性など,従来の薬物療法やICIではこれまで経験してこなかったような特徴的な副作用を認めるため,T-cell engagerの臨床応用では新たな副作用対策を行っていくことが重要となると考えられる.
本特集では,こうしたT-cell engagerの治療開発の展開を踏まえて,新規がん治療薬の開発に携わっておられる各領域の専門家の方々に,各がん腫でのT-cell engagerの治療開発の現状,副作用管理,今後の方向性について解説していただいた.本特集が,がん治療に携わる方々のがん薬物療法の最新の知見の理解の一助となれば幸いである.
特集 新規がん免疫療法としてのT-cell engagerの進歩と可能性
はじめに(吉田達哉)
T-cell engagerの作用機序および耐性機序(野村幸太郎・熊谷尚悟)
造血器腫瘍(白血病・悪性リンパ腫)に対するT-cell engagerの位置づけ(大地哲朗・棟方 理)
多発性骨髄腫治療における二重特異性抗体(飯田真介)
肺がん(特に小細胞肺がん)におけるT-cell engagerの可能性(赤松弘朗)
固形腫瘍におけるT-cell engagerの開発状況(佐藤 潤)
T-cell engagerに特徴的な副作用および毒性マネジメント(湯田淳一朗)
次世代T-cell engagerの可能性および開発の方向性(北野滋久)
TOPICS
免疫学 RelA変異によるインターフェロノパチー(森谷邦彦)
生化学・分子生物学 月面重力下におけるマウス下肢骨格筋の質的変化と量的変化(林 卓杜・他)
連載
臨床医のための微生物学講座(20)
リステリア菌とリステリア症(篠原 浩)
緩和医療のアップデート(15)
がん患者における泌尿器症状の緩和ケア:エビデンスアップデート(河原貴史)
自己指向性免疫学の新展開─生体防御における自己認識の功罪(7)
腸内細菌を自己として認識するγδT17細胞による宿主-腸内細菌共生関係構築(橋大輔)
FORUM
死を看取る─死因究明の場にて(21) 死因究明の実践(4)(大澤資樹)
次号の特集予告
はじめに(吉田達哉)
T-cell engagerの作用機序および耐性機序(野村幸太郎・熊谷尚悟)
造血器腫瘍(白血病・悪性リンパ腫)に対するT-cell engagerの位置づけ(大地哲朗・棟方 理)
多発性骨髄腫治療における二重特異性抗体(飯田真介)
肺がん(特に小細胞肺がん)におけるT-cell engagerの可能性(赤松弘朗)
固形腫瘍におけるT-cell engagerの開発状況(佐藤 潤)
T-cell engagerに特徴的な副作用および毒性マネジメント(湯田淳一朗)
次世代T-cell engagerの可能性および開発の方向性(北野滋久)
TOPICS
免疫学 RelA変異によるインターフェロノパチー(森谷邦彦)
生化学・分子生物学 月面重力下におけるマウス下肢骨格筋の質的変化と量的変化(林 卓杜・他)
連載
臨床医のための微生物学講座(20)
リステリア菌とリステリア症(篠原 浩)
緩和医療のアップデート(15)
がん患者における泌尿器症状の緩和ケア:エビデンスアップデート(河原貴史)
自己指向性免疫学の新展開─生体防御における自己認識の功罪(7)
腸内細菌を自己として認識するγδT17細胞による宿主-腸内細菌共生関係構築(橋大輔)
FORUM
死を看取る─死因究明の場にて(21) 死因究明の実践(4)(大澤資樹)
次号の特集予告














