やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 畠 清彦
 赤坂山王メディカルセンター予防医学センター
 がん領域でゲノム診療が導入されるようになり,血液腫瘍疾患でも導入されることになってきた.血液疾患におけるゲノム検査の指針やガイドラインも日本血液学会Webサイトに掲載されており,いよいよ,という感じである.
 がん対策基本法が制定される時には,施設において治療法がバラバラであり,患者が標準治療を受けることも困難な状況であったことを考えると,がん診療施設の指定なども含めて十分な体制が整備されているといえる.固形がんにおけるゲノム検査がどのように生かされ薬剤や治療法の選択に生かされるのか.そこにアナロジーはあるが,リンパ腫はひとつの疾患ではなく,60以上の疾患であり,病理診断が特に重視されており,病理医の努力以外にはこのような進歩はなく,ゲノム情報をはじめとする臨床情報が今後病理医を助けるものであり,互いの協力をさらに望むものである.
 WHOによる疾患分類が,形態学や病理学から免疫染色や遺伝子情報を基盤とする分類に移行してきて,さらに最近では異常遺伝子や遺伝子の融合など標的遺伝子の情報を基に分類が行われ,治療法の選択にそのまま生かせるものになってきていると考えられる.
 そこで今回,リンパ腫診断における診断の進歩から,病態研究,研究技術の進歩から得られる情報などを基に,検査法や治療法の選択にどのような変化が起きているのか,今後あるべき姿を第一線の病理医やゲノム研究者,リンパ腫専門医に執筆をお願いした.
 もともと“lymphomania”という言葉があるくらいで,他の血液領域からすれば偏った研究者の集まりと捉えられたり,自分でこう呼ぶことによって,いかに時間と精力をこの分野の研究に集中しているのかを讃える言葉でもある.本特集はまさにlymphomaniaという方々の執筆ではあるが,できるだけ今後普遍化をし,診療レベルの向上を目指したい.現在の知見をこの一冊で把握できれば幸いである.
 はじめに(畠 清彦)
診断の進歩
 リンパ腫診療における診断と病理診断まで(照井康仁)
 大規模ゲノム解析を通じたリンパ腫の遺伝要因の評価(碓井喜明)
 リンパ腫における病理診断の進歩(中村直哉)
 シングルセル解析からみえてくる悪性リンパ腫最新の知見(須摩桜子)
 リンパ腫におけるctDNAの有用性と限界(入山智沙子)
 造血器腫瘍ゲノム検査ガイドライン(鈴木達也)
 リンパ腫エキスパートパネルのあり方とシミュレーション(遠西大輔)
臨床の話題
 DLBCLに対する二重特異性抗体療法(牧野晴斐・蒔田真一)
 びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対するCAR-T細胞療法(加藤光次)
 濾胞性リンパ腫(FL)における新薬(後藤秀樹)
 マントル細胞リンパ腫(MCL)における新規治療(田代裕介)
 末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)の新規治療とその展望(稲垣裕一郎)
 サイトカイン放出症候群(CRS)と神経毒性(ICANS)のマネジメント(葉名尻 良)
 免疫不全および免疫調節異常関連リンパ増殖性疾患(杉江亨啓・他)
 リンパ腫領域における腫瘍循環器マネージメント(朝井洋晶)
 高齢者DLBCLに対する治療戦略─Geriatric assessmentを用いたフレイル評価を中心に(李 心・他)
 慢性GVHDにおける新薬(稲本賢弘)
 COVID-19下の悪性リンパ腫治療(田中裕子)
 リンパ腫治療における医療技術評価(HTA)(藤 重夫)

 次号の特集予告

 サイドメモ
  免疫形質を検索する理由
  免疫グロブリン重鎖(IGH)遺伝子の再構成,サザン法とPCR法の違い
  シングルセルデータ解析の実際─前処理
  シングルセルデータ解析の実際─クラスタリングと軌道解析
  心エコー図検査におけるGLS評価
  アントラサイクリン系抗がん薬の心保護薬としてのデクスラゾキサン
  化学療法における相対治療強度(RDI)
  NIHコンセンサス会議の意義
  悪性リンパ腫の分類,治療
  用語解説(HTA,ICER,QALY,WTP)