やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 中村能章
 国立がん研究センター東病院国際研究推進室,同トランスレーショナルリサーチ支援室,同消化管内科
 ヒト血液中に遊離核酸が存在することが1948年にMandelとMetaisによってはじめて報告され,これが“リキッドバイオプシー”研究への大きな第一歩になった 1).それから三四半世紀の時を経て,リキッドバイオプシーはがん領域において今や単なる研究の1ツールではなく,診断や治療に欠かすことのできない重要な検査となりつつある.
 1990年代末のトラスツズマブやリツキシマブといった分子標的薬の誕生と,2000年代の次世代シークエンサーの本格的導入が相乗効果を生み出す形で,2010年代よりがんprecisionmedicineの開発が加速する.この潮流に乗り,まずは血中循環腫瘍DNA(circulatingtumor DNA:ctDNA)解析技術をベースとしたがんゲノムプロファイリングがリキッドバイオプシーとして実臨床に導入された.2021年にはFoundationOne(R) Liquid CDxがんゲノムプロファイルが,2022年にはGuardant360(R) CDxがん遺伝子パネルが,それぞれ日本でも薬事承認され,2023年現在,包括的ゲノムプロファイリングとして保険診療下で使用されている.ここ数年の研究・臨床での使用経験を通じて,ctDNAゲノムプロファイリングを各がん種の診療においてどのように活用していくべきか,展望や課題がみえてきている.
 本特集では,がんゲノム医療およびリキッドバイオプシーに精通した各臓器のスペシャリストを迎えて,各がん種におけるリキッドバイオプシーの現状と未来展望を解説いただいた.さらに,リキッドバイオプシーは進行がんのがんゲノムプロファイリングのみならず,切除可能ながんの再発リスクを予測する微小残存病変(molecular residual disease:MRD)検出や,がん検診におけるがんの早期発見といった活用の可能性も世界中で期待されている.このような先進的な取り組みについても,世界最先端の研究に携わっている専門家に紹介いただいた.
 リキッドバイオプシーが近い将来,がんの克服に貢献する不可欠なテクノロジーとなることは疑いのない自明のことであり,いまわれわれ研究者に必要なことは,この技術をいち早く患者の元に届けられるよう日夜エビデンスを積み重ねていくことである.本特集は,これらリキッドバイオプシーの発展に役立つ珠玉の逸品となるものと信じている.最後に,この場を借りて執筆いただいた先生方に御礼を申し上げたい.
 文献
 1)Mandel P,Metais P.C R Seances Soc Biol Fil 1948;142(3-4):241-3.
特集 リキッドバイオプシーを用いたがん診療の未来図─早期発見から個別化治療まで
 はじめに(中村能章)
 消化器がん治療におけるctDNAの現状と展望(武田弘幸・砂川 優)
 肺がんにおけるリキッドバイオプシーの現在と未来(関川元基・釼持広知)
 乳がんリキッドバイオプシーの現在と未来(服部正也)
 泌尿器がんリキッドバイオプシーの現状と未来(赤松秀輔)
 婦人科がんリキッドバイオプシーの現在と未来(千代田達幸・山上 亘)
 頭頸部がん領域におけるリキッドバイオプシーの現在と将来の展望(生駒龍興・朴 将源)
 リキッドバイオプシー(MRD)によるOnco-surgeryの到来(沖 英次)
 リキッドバイオプシーによるがん検診の未来図(今井光穂)

特報
 第60回(2023年度)ベルツ賞受賞論文1等賞 肺線維症に対する抗線維化薬開発:がんと線維化肺の接点を捉えたトランスレーショナルリサーチ(西岡安彦)
 第60回(2023年度)ベルツ賞受賞論文2等賞 間質性肺疾患の病態解明を目指した臨床・基礎研究(平井豊博・半田知宏・後藤慎平)

 次号の特集予告