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はじめに
 茂呂和世
 大阪大学大学院医学系研究科感染症・免疫学講座生体防御学
 1型自然リンパ球(ILC1),2型自然リンパ球(ILC2),3型自然リンパ球(ILC3)の3つのサブセットがそれぞれ独自に同定・研究され,最終的に自然リンパ球(innate lymphoid cell:ILC)という分野が創出されてから10余年が経過した.シングルセルRNAシークエンス解析が普及したことで,新規細胞の同定は極めて容易になり,知識さえあればパブリックデータをダウンロードするだけで,いつでもだれでも新規細胞をみつけられるようになった.そういった意味で,各ILCの同定は多くの免疫学者の違和感と情熱から時をかけて生み出された,最後の免疫細胞サブセットとなるであろう.ILCは抗原を直接認識しない細胞と定義される.ナチュラルキラー(NK)T細胞やMAIT(mucosal associated invariant T)細胞,γδ細胞を含めてILCと広義に分類されることもあるが,本特集では抗原をまったく認識しないILC1,ILC2,ILC3に焦点を当てることにした.
 ILC研究の面白さは,組織常在性,多様な細胞との相互作用,二面性の3つにある.ILCの組織常在性は広く認識されるようになり,着目するILCが存在する組織と微小環境ごとの解析が行われることで,ユニークな表現型や反応性を持つILCが次々と報告されている.抗原を認識しないILCの上流には,上皮細胞をはじめとする非免疫系細胞や常在菌,ILC以外の免疫細胞などがあげられる.下流にも免疫・非免疫細胞が存在するため,ILCが織りなす相互作用は多様性に満ちている.二面性はILCの最も面白い特徴である.通常ILCは組織の恒常性維持に寄与しているが,何らかのトリガーによって機能が過剰に亢進すると様々な疾患を発症させる.たとえば,ILC2が微量のIL-5を恒常的に産生することは好酸球の維持には重要であるが,これが上皮細胞の死というトリガーによって亢進されると好酸球性のアレルギーを誘発する.このような二面性は,抗原を認識できず生体内に存在する多様な因子によっていかようにも制御されてしまう.
 欧米に比較すると日本はILC研究者が少ないといわれてきたが,ILC研究に携わるオールジャパンの研究者がここに集い,ILCの基礎とユニークさを伝えるきっかけになれば幸いである.
はじめに
 (茂呂和世)
ILCの分化─その起源と運命決定制御
 (古賀 諭)
組織特異的なILCの多様性
 (小林哲郎)
1型自然リンパ球の多様性と生体内微小環境
 (旭 拓真・他)
ILC2と循環器疾患
 (生谷尚士・中江 進)
微小環境変化を敏感に感知するILC2─脂質メディエーター,ホルモン,神経伝達物質によるILC2の機能制御
 (八代拓也)
ILC2の抑制機構
 (栗原桃子・他)
ILC2と疲弊
 (海老原 敬・山田俊樹)
ILC2によるアレルギー性疾患の発症機構
 (山下博香・本村泰隆)
ILC2と寄生虫感染
 (濱野真二郎)
ILC2と肥満
 (三澤拓馬・小安重夫)
気管支喘息におけるILC2の役割
 (長野直子・他)
治療標的としてのILC2の可能性
 (中島裕史)
感染防御に働き恒常性維持に重要な自然リンパ球
 (佐藤尚子)
ILC3による腸管上皮細胞のフコシル化誘導
 (森 大地・後藤義幸)
ILC3と代謝性疾患
 (濱口真英)
消化管ILCと消化器疾患
 (三上洋平)

 次号の特集予告

 サイドメモ
  自然リンパ球(ILC)前駆細胞とそのマーカー
  Notchシグナル
  アラーミン(Alarmin)
  TIGIT
  生体におけるIL-33の役割
  Nippostrongylus brasiliensisとStrongyloides venezuelensis
  2型(T2)サイトカイン・2型(T2)炎症
  Citrobacter rodentium
  用語解説(腸管粘膜バリア,リーキーガット症候群,エンドトキシン血症,バクテリアルトランスロケーション,ディスバイオシス,慢性炎症とインスリン抵抗性)