やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 住田隼一
 東京大学医学部附属病院強皮症センター,同大学院医学系研究科皮膚科学
 全身性強皮症(systemic sclerosis:SSc)は,皮膚のみならず内臓諸臓器の線維性変化を特徴とする慢性疾患であり,膠原病のなかで最も予後不良かつ病因不明の希少難病で,厚生労働省の指定難病にも認定されている.SScは免疫異常,線維化,血管障害を特徴としており,これらが複雑に関連することで多彩な臨床像を呈するため,多くの診療科領域にまたがる疾患であるが,その病態については未解明な点が多い.疾患特異的にみられる自己抗体も複数知られているが,それぞれに応じた合併症の頻度や臨床的特徴が大きく異なることから,本疾患は単一ではなく,さまざまな病態が存在することが想定されている.この疾患多様性が病態解明を難しくしている要因とも考えられるが,実臨床においては,個々の症状や合併症に応じた治療が組み合わされている.予後に影響を与える主要な合併症としては間質性肺疾患や肺高血圧症があるが,それぞれ重症度や進行度は患者ごとに大きく異なり,既存の治療法に抵抗性を示す症例も多く,十分な治療法が確立されているとはいえない.
 筆者が医師になったころは病態理解が進んでおらず,治療薬も限られていたが,近年の分子生物学領域での著しい科学的・技術的進歩,それに伴う生物学的製剤や分子標的薬の開発・登場により,SScにおいても病態理解の著しい進歩と,それに基づいた新規治療法へむけた取り組みが盛んに行われ,その結果,症状・合併症に応じた治療薬が多彩となった.そこで,SScの診療においては,できるだけ早期に診断を行い,合併症の有無やその程度を評価したうえで,症状に応じた治療法を取捨選択し,いわば患者に応じた治療法のカスタマイズを行うことが大切となる.このことは,SScの診療に携わる者は,診療科横断的な観点から治療に取り組む必要があることはもちろんのこと,そのための各専門領域の知識や連携が求められ,常に知識のupdateが必要であることを意味する.
 本特集では,このような観点から多彩な診療科領域のエキスパートの先生方に,各分野の最新の知見についてご執筆いただいた.ご多忙のなか,ご快諾をいただきました先生方にこの場をお借りして御礼を申し上げる.本企画が,診療科の枠組みを越えて,SScの診療や研究に携わる多くの方々のお役に立つことができれば,編者としてこれ以上の喜びはない.
特集 全身性強皮症─病態解明と診断・治療UPDATE
 はじめに(住田隼一)
 全身性強皮症における自己抗体とその意義(濱口儒人)
 エピジェネティクスから紐解く全身性強皮症の病態(浅野善英)
 全身性強皮症の間質性肺疾患─病態と治療の最新知見(桑名正隆)
 全身性強皮症に伴う肺高血圧症─病態・診断・治療(波多野 将)
 強皮症腎クリーゼ─病態と治療の進歩(遠藤平仁)
 全身性強皮症の消化管病変─病態と治療戦略(樋口智昭・川口鎮司)
 皮膚硬化と末梢循環障害に対する新規治療戦略(茂木精一郎)

連載
医療DX─進展するデジタル医療に関する最新動向と関連知識(16)
 救急医療の情報分断を解決する医療DX(園生智弘)

救急で出会ったこんな症例─マイナーエマージェンシー対応のススメ(6)
 動物に咬まれた! 犬,猫,ヒト,ハムスター─よくある咬傷からまれな合併症まで(田中保平)

TOPICS
 神経内科学 神経核内封入体病の新規封入体構成タンパク質,ホルネリンの同定(朴 洪宣・貫名信行)
 循環器内科学 心房細動アブレーション:ビッグデータの解析からみる日本の最新状況(山根禎一)

FORUM
 日本型セルフケアへのあゆみ(20) よくわかるがんゲノム医療(3):進行がんのセルフケア(児玉龍彦)

 次号の特集予告