やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 西條政幸
 札幌市保健福祉局保健所医療政策担当部長,国立感染症研究所名誉所員
 重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS)という病気は2011年に中国の研究者らにより報告されたダニ媒介性ウイルス感染症であり,ウイルス性出血熱に分類されるべきものである.SFTS患者が日本ではじめて確認されたのが2012年12月,正式に公表されたのは2013年1月のことである.その患者は山口県立総合医療センター血液内科の高橋徹先生のチームが診ておられた患者であった.その患者の血液からSFTSウイルス(SFTSV)を分離したのが前田健教授(当時・山口大学獣医学部,現・国立感染症研究所)であり,分離されたウイルスが遺伝子解析によりSFTSVであることを解明したのが水谷哲也教授(東京農工大学)であった.
 筆者は日本で初めてSFTS流行が確認されてからこれまでSFTS研究に関わってきた.仮定の話をすることは適切ではないかもしれないが,2012年に日本ではじめてSFTSを診断された患者の発見がなければ,現時点でも日本でSFTSが流行していることに,私たちはその存在に気がついていない可能性がある.なぜなら,SFTSは日本で以前から流行していたはずであるが,それまで私たちはSFTSの存在に気がついていなかったという事実があるからである.新規ウイルス感染症を発見することには,患者の病因や病気の原因を追求しようとする高い志のある医師と,病原体を明らかにするための高い技術を有する研究者の連携が不可欠である.
 今年(2022年)は,SFTS患者が確認されてから10年の節目の年になる.日本国内外のSFTSの疫学,マダニに咬まれて感染する事例以外に,ネコやイヌもSFTSVに感染するとSFTS様症状を呈し,かつその感染ペットから飼い主や獣医師などが感染することがあること,病態・病理と抗ウイルス薬(ファビピラビル)による抗ウイルス療法や開発されたワクチンの有効性,SFTSVの自然界における存在様式が解明されつつある.すべては2012年に日本でSFTS患者の存在が明らかになったことに遡る.改めて日本ではじめてSFTSと診断された患者の経緯に関わった方々に敬意を表したい.
 本特集では,SFTSに関する研究に業績のある諸博士に各テーマについて執筆していただいた.本特集がこの10年間のSFTS研究のまとめになるだけでなく,今後の研究のあり方や指針となることを期待している.
特集 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)研究における最新知見─感染経路,病態,予防,治療
 はじめに(西條政幸)
 SFTSの臨床的特徴(山中篤志)
 SFTSの疫学研究における最新知見(加藤博史)
 B細胞感染によるSFTSウイルスの発病機構(宮本 翔・鈴木忠樹)
 ペットのネコ・イヌにおけるSFTSとヒトへのリスク(松鵜 彩・他)
 自然界におけるSFTSウイルス伝播様式(岡林環樹)
 抗ウイルス薬ファビピラビルとSFTS(末盛浩一郎・他)
 高度弱毒化痘そうワクチン株LC16m8をベースとしたSFTSワクチン開発(吉河智城)
 ダニ媒介性ウイルス感染症とSFTS(松野啓太)
 SFTS重症化と自然免疫応答(山田辰太郎・藤田尚志)

連載
人工臓器の最前線(17)
 人工臓器開発におけるレギュラトリーサイエンス(岩ア清隆)

医療DX─進展するデジタル医療に関する最新動向と関連知識(6)
 SaMD(国内/米国)動向調査(袴田和巳・百武裕昭)

TOPICS
 免疫学 RNA分解酵素Regnase-1を標的とした炎症制御法の開発(吉永正憲・竹内 理)
 神経精神医学 Xenophobia(外国人恐怖症)(桂川修一)

FORUM
 グローバルヘルスの現場力(14) ガーナ─「生きる力」を育む母子手帳(萩原明子)

 次号の特集予告