やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 津金昌一郎
 医薬基盤・健康・栄養研究所国立健康・栄養研究所
 栄養・食生活と健康との関係については,がん,循環器疾患,糖尿病など特定の疾病や肥満,血圧,脂質,血糖値,腎機能,肝機能などの中間マーカーなどの関連について,観察型あるいは介入型の疫学研究からのエビデンスが蓄積されている.そして,それらエビデンスに基づいた指針などが関連学会・機関などから提言されている.主要な疾患や中間マーカー個々に対するものとしてはそれでよいかもしれないが,すべてを網羅しようとすると実行するのは困難であろうし,相反する場合もありうるので,モグラ叩きにもなりかねない.

 2020年の人口動態統計によると,総死亡者数137万人のうち,最大の死因はがんで28%を占め,心疾患15%,老衰9.6%,脳卒中7.5%,肺炎5.7%と続く.年齢階級別にみると,40〜89歳においてがんが死因の第1位を占め,50〜74歳では4割を超えており,平均寿命前の働き盛り世代の最大の死因になる.しかし,さらに高齢になるとがんの死亡率そのものは増加し続けるが,死因となる相対的割合は低下し,100歳以上では5%にすぎない.また2019年の国民生活基礎調査によると,要介護になった原因は認知症24%,脳血管疾患19%,骨折・転倒12%,高齢による衰弱11%が主となり,最大の死因であるがんは3%にすぎない.年齢階級別の第1位は,40〜79歳は脳血管疾患,80〜89歳は認知症,90歳以上はフレイルである.したがって,健康寿命延伸のためには特定疾患の予防に偏ることなく,疾患横断的な取り組みが必須であり,かつライフステージごとに対応も異なることは自明である.そのような死亡と障害などによる疾病負荷に年齢の要素を加味した総合的指標として,DALYs(disability-adjusted life-years;障害調整生存年.死亡による損失年数と健康でない状態ですごすことにより失われる年数の合計を意味する指標)がある.

 本特集では,これまでのアプローチによる主要な疾患の予防や重症化予防の観点から,栄養・食生活との関係についてレビューをしていただくとともに,疾患横断的に多くの疾病を予防し,健康寿命延伸に帰結する栄養・食生活などを明らかにする6つの国立高度医療研究センターによる試みや疾病負担における不健康な食事の寄与などについても紹介していただいた.さらに,ライフステージごとの栄養・食生活のあり方,健康的な食事とされている和食や食糧の持続可能性を考慮にいれた人と地球の双方にとって健康的な食事についてもレビューしていただいた.

 日本が長寿になった背景には,日本の食事が健康的であったことは推測できるが,たとえば,地中海食などに比べてその証拠を示すエビデンスが不足している.本特集を契機として,栄養・食生活と健康との関連についてのさらなる日本人のエビデンスが蓄積され,定量的な側面を含めた,かつ,日本の環境面や社会文化面を加味した“持続可能で健康的な食事”の規範を世界に発信できることを願っている.
 はじめに 津金昌一郎
総論
 栄養・食生活と健康寿命延伸 井上真奈美
疾患発症予防に関わる栄養・食生活
 不健康な食事に伴う疾病負荷─世界の疾病負荷研究から 野村周平
 がん 岩崎 基
 国内コホート研究の知見に基づく循環器疾患予防のための栄養・食生活 丸山広達・山岸良匡
 食生活習慣とうつ病リスク 功刀 浩
 認知症を防ぐ食生活とは 野崎昭子・三村 將
 日本人成人の栄養と骨粗鬆症・骨折予防に関するエビデンス 中村和利
 食事・栄養摂取と眼疾患 羽入田明子
疾患重症化予防にも関わる栄養・食生活
 2型糖尿病の予防とコントロールのための食事と食事療法 曽根博仁
 慢性腎臓病 今田恒夫
 高血圧・脂質異常症の生活習慣改善 鹿島レナ・小久保喜弘
栄養・食生活と健康─ライフコースの観点から
 妊娠期の栄養・食生活─「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」を踏まえて 瀧本秀美
 成育期の栄養・食生活 石塚一枝
 高齢期の栄養・食生活 大塚 礼
持続可能で健康的な食事
 和食(日本の食事)と疾病予防・健康寿命延伸 八谷 寛・福田知里
 持続可能な食事と健康寿命延伸─持続可能で健康的な食事に関するガイドラインへ向けて 片桐諒子

 次号の特集予告

 サイドメモ
  健康日本21
  慢性腎臓病(CKD)とサルコペニア
  DASH食
  吹田研究
  食物繊維
  グルテン