やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 樋口 進
 国立病院機構久里浜医療センター
 2022年1月に発効した「国際疾病分類第11回改訂版」(ICD-11)の“依存/嗜癖”のセクション(正式には“物質使用症群または嗜癖行動症群”)にギャンブル行動症(gambling disorder)とゲーム行動症(gaming disorder)が正式に収載された.現行のICD-10では,ギャンブル行動症は病的賭博という名前で,習慣および衝動の障害に分類されている.一方,ゲーム行動症は今回はじめて疾病と認定され,収載されるに至った.これらの変化は疫学,脳科学,臨床症状,合併症,疾病経過などの知見から支持されている.
 さて,わが国におけるギャンブル行動症の有病率は欧米に比べて決して低くない.しかし長い間,ギャンブル問題は重要視されてこなかった.2016年にわが国でもカジノが合法化され,この動きに伴ってギャンブル行動症がにわかに注目を集めるようになった.カジノ開業に伴う最大の懸念がギャンブル行動症の悪化だからである.国はこの点を踏まえて,ギャンブル等依存症対策基本法を制定して,現在,第二期のギャンブル等依存症対策推進基本計画が施行されている.
 ゲーム行動症は若者,特に男性に有病率が最も高い.特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による行動制限などで,世界中でインターネットやゲーム過剰使用に関係する問題が深刻化している.まだ歴史の浅い疾病なため,知見のさらなる蓄積が必要であるが,特に神経発達症など合併症との関係,有効な予防対策や治療方法などに関するエビデンスが強く求められる.
 本特集では,いまだに馴染みの薄い行動嗜癖にターゲットを当てて,わが国を代表する専門家に最新の知見をまとめていただいた.既述のギャンブル・ゲームに加えて,いまだ行動嗜癖として疾病化されていないが,将来的にその可能性が大きいセックス嗜癖,食べ物嗜癖,買い物嗜癖や衝動制御症と行動嗜癖の関係についても取り上げた.本特集は本格的な論文集であり,行動嗜癖に関する読者の理解を深め,今後の臨床や研究におおいに役立つと期待される.
 はじめに(樋口 進)
総論
 行動嗜癖の疾患概念と病態機序(曽良一郎)
 行動嗜癖の脳科学(橋英彦)
ギャンブル行動症
 ギャンブル行動の実態(尾ア米厚)
 ギャンブル障害─症状,診断・スクリーニング(松下幸生)
 ギャンブル行動─リスク要因・合併症(宮田久嗣)
 ギャンブル障害の治療─行動という視点を中心に(蒲生裕司)
 ギャンブル障害は誰が“治す”のか─社会資源を知り連携する必要性(阿部かおり・佐久間寛之)
 ギャンブル行動症の予防と対策(小原圭司)
トピックス
 多重債務とギャンブル障害(安藤宣行)
 COVID-19による行動嗜癖への社会的影響(白坂知彦・常田深雪)
 ギャンブル・ゲームの融合(松ア尊信)
ゲーム行動症
 ゲーム・インターネット行動の実態─2019年ゲーム使用状況等に関する全国調査から(金城 文・他)
 ゲーム障害の診断プロセス,評価ツール,症状(井上 建)
 ゲーム行動症のリスク要因・併存症(館農 勝)
 ゲーム行動症の治療(樋口 進)
 相談機関におけるゲーム依存への相談と支援(原田 豊)
トピックス
 スマートフォンの脳・学習への影響(松ア 泰・川島隆太)
 インターネットにおける課金・投げ銭問題の現状(西村光太郎)
 e-スポーツ(松ア尊信)
他の行動嗜癖
 性的嗜癖行動(原田隆之)
 食べ物嗜癖と買い物嗜癖(橋本 望)
 衝動制御障害と行動嗜癖は同じか違うか(村松太郎)

 次号の特集予告

 サイドメモ
  薬物依存の三段階の形成過程
  ADHDのゲーム形式の治療アプリ
  依存とアディクション(嗜癖)
  オンラインギャンブル
  スクリーニングテストの感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率
  部分強化効果とギャンブル
  CRAFT
  中央競馬における電話投票,インターネット投票の法的位置づけ
  自己破産
  信用情報機関
  ガチャ
  逆境的小児期体験(ACE)
  現代型うつ病
  ビデオゲーム
  わが国の性犯罪の現状
  食べ物の嗜癖性は均等ではない