やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

巻頭言
 痙縮は脳卒中,頭部外傷,脊髄損傷等の疾患によって大脳から脊髄に至る中枢神経系内に生じる上位運動ニューロン障害による伸張反射の亢進である.日常生活動作にさまざまな影響を及ぼすため,リハビリテーション診療において適切な評価と治療が求められる.
 先人たちにより多くの痙縮に対する治療が開発され,行われてきたが,近年わが国の痙縮治療を取り巻く環境に変化がみられている.本来リハビリテーション医学・医療ではさまざまな手段を駆使した総合的なアプローチで障害を治す.そこで改めて各種の痙縮治療を振り返り,発現部位や重症度を考慮した痙縮治療方法の選択と併用療法の戦略を考えることで,より効果を発揮できると考える.磁気刺激療法や体外衝撃波治療といった技術も発展しており,ボツリヌス療法も高用量で使用されるようになってきている.これらの治療法を装具療法や通常のリハビリテーション治療に加えることでよりよい効果を生む.また,痙縮治療においてはリハビリテーション治療にかかわる医療者が連携し,チーム医療で対応することが重要である.痙縮に悩んでいたとしても治療を受けられなくては意味がないため,治療へのアクセスとしても多職種連携は不可欠である.
 本号の第1章では,痙縮の病態生理に関する基礎的な知識,臨床的な評価,歩行障害の評価について,痙縮に関する臨床と研究に長年携わられた先生方に細かくおまとめいただいた.第2章では「併用療法」をテーマとして,物理療法,装具療法,薬物療法・神経ブロック療法,ボツリヌス療法,髄腔内バクロフェン療法,手術療法について,また巻頭で反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)についてそれぞれのエキスパートの先生方に最新の知見を含めた痙縮治療を解説いただいた.理学療法,作業療法についてもご執筆いただいた.第3章では「多職種連携」をテーマに,病院や地域での診療上の立場が異なる先生方にお願いした.それぞれ,痙縮治療の開始期あるいは継続期にどのような医療連携をとるか,どのようにチーム医療で対応するか,そして痙縮治療へのアクセスとしてどのような多職種連携をとるか,といった視点で痙縮治療に携わっているポイントをご執筆いただいた.さらに,コラムとして,多職種連携の補足となるような取り組みについて,地域で活躍されている先生方にご執筆をお願いした.
 本臨時増刊号がリハビリテーション医学・医療に携わる皆様の痙縮治療のリハビリテーション診療に役立ち,痙縮治療を必要とする患者が容易に治療へアクセスできるような多職種連携の発展に少しでも寄与できれば幸いである.
 (編者:幸田 剣)
 巻頭言(幸田 剣)
巻頭カラー 反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)を用いた痙縮治療の戦略
 (佐々木信幸)
第1章 「痙縮に関する基礎的な知識」
 痙縮の病態生理(正門由久)
 痙縮の臨床的な評価(大田哲生 田中伸吾・他)
 痙縮による歩行障害の評価(竹田信彦 長谷公隆)
第2章 「併用療法」
 物理療法との併用療法(菊地尚久)
 装具療法との併用療法(勝谷将史)
 下肢痙縮に対する理学療法(大畑光司)
 薬物療法,神経ブロック療法との併用療法(伊藤英明 松嶋康之・他)
 ボツリヌス療法を用いた痙縮治療の戦略と併用療法(原 貴敏)
 上肢痙縮のコントロール(中馬孝容)
 上肢痙縮に対する作業療法(竹川 徹 鈴木翔太・他)
 痙縮に対するITB療法と併用療法(内山卓也)
 下肢痙縮に対する手術療法との併用療法(幸田 剣)
第3章 「多職種連携」
 ボツリヌス療法と医療連携―大学病院の立場から(川上途行)
 回復期リハビリテーション病棟における痙縮のチーム医療(岡本隆嗣 渡邊 匠・他)
 過疎地域リハビリテーション中核病院における痙縮治療の普及(山田祐歌)
 訪問診療等,地域での痙縮治療について(神山一行)

 Column
  多職種連携について―リハビリテーション科専門医の立場で(吉岡和泉)
  チーム医療としての多職種連携―痙縮治療の評価について(藤澤大介 武田 明・他)
  治療へのアクセスとしての多職種連携について(田津原佑介 幸田 剣)